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知美さんの結婚式は華やかだった。
いつもより数倍綺麗な知美さんは新郎さんの腕を掴んでずっと笑ってて幸せそう・・・私も手が痛くなるほど拍手を送った。
いいなぁって思いながら「おめでとう!」って声を張り上げた。


『新郎の達也君は学生時代ラグビーの・・・』

新郎さんの紹介の時、これが花沢類だったらどう説明するんだろうって考えた。
でも花沢家の結婚式でこんなスピーチなんてある訳がない・・・友人代表に誰がなるの?道明寺・・・それはないか。
西門さんか美作さんが言うの?『類君は学生時代・・・』、そんな想像は出来なかった。

彼の本当の姿を知らない何処かの企業家が、花沢物産の後継者として優秀な成績を紹介する・・・意地悪く言えばそんな感じ?


『新婦の知美さんは幼い頃から・・・』

知美さんの紹介を聞くときにはこれが自分だったらどうなるのかと身震いがした。
だって何にも人に話すことがないんだもの・・・輝かしい成績も自慢できる特技も何もない。私が持っていたのは根性と体力と笑顔・・・最近はそれさえ怪しいけど。

根性と体力と笑顔なんて花沢家には必要ない・・・そんな事言われたらどうしよう。


「ダメダメ!結婚式で何でこんなに暗いこと考えてんの!もうっ、馬鹿!!・・・はっ!」
「あっ、ごめんなさい・・・!」

変な事を考えてたから独り言で「馬鹿!」って言った瞬間、私の横にビールを持った男の人が居た!それに驚いて慌てて姿勢を正し、ペコンと頭を下げ「こちらこそごめんなさい!」そう言うと、クスクス笑われた。
恐る恐る顔をあげたら、全然知らない男性・・・私より少し年上だと思う新郎さんのお友達だった。


「やだっ、本当にすみません・・・恥ずかしい所を聞かれてしまったわ・・・」
「あはは!いえ、気にしてないですよ。でもどうしたんですか?結婚式の最中に暗いこと考えたんですか?」

「あっ、やっぱり聞こえたんですね?はは・・・」
「えぇ、聞いちゃいました。それに拍手してたけど何処か違う所見てたでしょ?」

「えっ!そ、そんな事はないんだけど・・・」
「だって拍手が鳴り終わっても1人で5回ぐらい多く叩いてましたよ?」

「・・・うそっ!!」
「本当。俺、見てたんです・・・あなたのこと」


この人は長谷川弘海さん・・・小豆島から来たって言われた。
新郎さんとは大学時代の友人でラグビー仲間。だからなのかがっしりした体格の逞しい人だった。色も黒くて指も太くて・・・花沢類と色んな所が正反対。
人懐っこい笑顔は不思議と安心感を与えてくれた。

だからつい、聞かれるままに自分の事も話して、披露宴が終わりに近づいた頃にはすっかり打ち解けていた。


「あはは!判る判る!そう言うのがおやつになるんだよね~、ケーキとか滅多に食べないしさ」
「そうなんです~、初めはパンの耳だなんて思わなくて。それにね、カボチャの皮でかりんとうも作ってくれたんですよ」

「へぇ!そうなんだ?それは初耳だなぁ」
「あはは!しかももらったカボチャです。ほんと、貧乏だったから・・・」

「牧野さんは大学出てるの?」
「ううん、高卒です・・・大学は行かなかったんです」

「俺は大学が東京だったから少しは判るけど、なんて高校?」
「・・・・・・はは、英徳なんです、これが・・・」


長谷川さんの吃驚した顔・・・ここまで貧乏な話したクセに英徳だなんて、東京を知っていたら驚いて当たり前だよね。
だから「親の見栄なんです!失敗でした!」なんて戯けて言ったら「そうなんだ!」って笑ってくれたけど。

失敗でした・・・でも行かなかったら花沢類の傍には居られなかった。
そう思うのにどうしてそんな言葉を出したのか自分でも判らない・・・目の前のシャンパングラスの小さな泡が消えて行くのを見ながら、また私の顔は元に戻ってしまった。

長谷川さん、きっとおかしく思っただろうな・・・。



「牧野さん、二次会行くんでしょ?一緒に行かない?」
「え?あぁ・・・どうしよう・・・帰ろうかなって思ってたんですけど」

「帰るの?あっ・・・もしかして誰か待ってるの?」
「・・・えぇ、まぁ。でも・・・いいや、行きます!」


披露宴が終わった後、スマホを見ても何の連絡もない。
私は二次会があるってちゃんと話してるし、いいよね?たまには私だって違う人達と飲んだって。

花沢類はお仕事で出掛けてるのにそんな風に思って、私は長谷川さんのタクシーに一緒に乗って二次会の会場に向かった。



**



今度はカウンターのあるバーで若い連中だけの二次会。
私は長谷川さんに言われて参加したけど、やっぱり何処かで花沢類を気にして楽しめなかった。

もう仕事は終わってマンションに居るのかしら。
仕事は上手くいったのかしら・・・連絡はいつ頃しようかな。
スマホを持ったまま賑やかな店内でカウンターに座り、ザワザワする後ろのみんなを眺めていた。

知美さんは真っ赤なワンピースに着替えてて、新郎さんも普段着に戻ってる。そして周りから冷やかされてフロアの真ん中でキスなんてして・・・みんなが笑ったら釣られて笑うけど、すぐにスマホで時間を確かめてる自分が居た。


「そんなに気になるなら迎えに来てもらえば?くすっ・・・牧野さん、素直なんだね。全部顔に出てるよ?」
「・・・えっ?!ホント?あ、あの・・・いや、そんな!」

「会いたいって思ってるでしょ?またこの店の外に意識が向いてる・・・いいなぁ、その男!」
「・・・やだ、長谷川さんったら。まだ、そんな話にもなってない人なので・・・」

「そうなの?でも恋人・・・でしょ?」
「・・・えぇ、とても・・・大事な人です」


恋人・・・そう言われたら我慢出来なくなってメッセージを送った。それも「迎えに来て」じゃない・・・どうしてそんな風に打ったのか判らないけど、夢中で文字を打って送信した。
そしてドキドキしながら返信を待っていたら、数分でスマホが鳴った。


急いで画面を見たら・・・『今すぐ行くから20分後に店の外に出てて』


でも20分も待てなくて、私は10分したら二次会のお店を出て、雨の降る中で花沢類を待っていた。
土砂降りまではいかないけど酷い雨・・・せっかくのハイヒールが雨で汚れてしまっても、ミントカラーのドレスが色を変えても、頑張って巻いた髪の毛が崩れてしまってもいい・・・そんなの、どうでも良かった。

私は彼の車が来る方に身体を向けて、暗くなった道に落ちる雨の向こうを見つめていた。


暫くしたら凄いスピードで走って来た花沢類の車・・・それが店の前で停まった。
それを見るなり傘を放り投げて駆け出した!


彼も運転席から雨の中飛び出してきて、慌てたように両手を出して私を抱き留めてくれる・・・私達はあっという間にずぶ濡れだった。
それでも抱き締められた腕の中から動きたくなくて、必死に花沢類にしがみついた。


「どうしたの?牧野・・・何があったの?」
「・・・何もないよ・・・帰りたかったの。それだけだよ・・・」

「だってあんなメッセージ・・・吃驚するだろ?」
「・・・だって本当だったんだもん」


私が彼に送った言葉は・・・『類に会いたい』だったから。

迎えに来て、じゃなくて「会いたい」って送ってしまった。マンションに戻れば会えるのに、どうしてそんな言葉にしたのかは判らない・・・ただ、私は花沢類に会いたかったんだ。
会ってこうやって抱き締めて欲しかった・・・本当に正直な気持ちだったから。


「牧野、帰ろうか?」
「うん・・・帰ろう」


こんなに濡れたら車が汚れるのに、こんなに濡れたら風邪引くかもしれないのに・・・。
放り投げた傘も何処に行ったか判らない。私達は打ち付ける雨の中、抱き合うようにして車に乗った。


そしてマンションに戻ったらそのまま一緒にベッドに転がり込んだ。

夢中になって彼を求めた。
彼も狂おしいほどに私を愛してくれた。


この瞬間が続くのなら他には何も要らないと思えた。

この人だけが欲しい・・・そう思う度に消えない不安に涙が溢れた。





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Comments 4

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2019/07/06 (Sat) 11:18 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/06 (Sat) 12:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

つくしちゃん、不安MAXなんでしょうね。
ふふふ、こんなに鈍感な類君、どうか怒らないでくださいね💦

つくしちゃんが後回しな訳じゃないんですけど、言葉足らずな類君・・・。

さて、長谷川さんはどんな人なんでしょう?
スパイス・・・だといいけれど(笑)

2019/07/06 (Sat) 17:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは。

・・・(笑)弘海君のことかな?
眼中になかったけど、ある意味笹本みたいなヤツですよ(笑)

なーんか、こう言う焦れったい恋って大昔にしませんでした?
若いって素敵よねぇ・・・(そんなロマンティックな人間じゃなかったけど)

自分の時にはこんな恋に憧れたりしたけど、娘が同じ目になったら相手の男を張り倒すわ!
(類君だったら娘に我慢させるww)

2019/07/06 (Sat) 17:46 | EDIT | REPLY |   

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