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「え?30日にバースデーパーティー?類様の・・・ですか?」

久しぶりに奥様に呼ばれて言われたのはこのお屋敷で行う毎年恒例のパーティーの話。
確かに3月30日が誕生日だとは聞いたけど、まさかあの歳でパーティーまで開くとは・・・って吃驚してしまった。

でもホームパーティーかと思いきやそうじゃない。
その日は懇意にしている取引先のご家族を招待して、花沢類は毎年そこでバイオリンを披露するらしい。その数200~300人・・・だから使用人総出で朝から晩まで大忙しだと言われた。


「あなたにお願いしたいのはただ1つ。類のヤル気を引き出して欲しいの」
「はい?ヤル気・・・なんのですか?」

「もう判ってきたでしょうけど、あの子、自分の事なのにこう言う時には全く気分が乗らないの。
これはそのうち企業の経営者一族として、同業者の方に顔を覚えて頂く大事な機会なのよ。毎年新しい方も招待してるし、外国からもお見えになるわ。単に誕生日だからやるって言うもんじゃないの。
それなのに支度するのも毎年ひと苦労・・・最近は加代の言う事も無視するんだから」

「顔を覚える機会・・・ですか」

「だからあの子の特技でもあるバイオリンの披露は欠かさないの。楽器の手入れはちゃんと出来てるのかしら?それも確認しておいて?」

「・・・・・・はぁ」


いや、誕生日はそう言う日じゃないでしょう・・・そう思ったけど言葉は飲み込んだ。
誕生日はその人が生まれて来たことをお祝いして一緒に喜ぶ日だよ?他の誰かに顔を覚えてもらう日じゃない・・・それをお母さんが言うのは流石に可哀想な気がした。

だから何となく返事に困った。
そう言われたら私だって支度するのが嫌になっちゃう・・・嬉しさ半分だよね、って。


「何か言いたいことがあるの?」
「あっ、いえ・・・何でもないです。そんなパーティーの経験がなかったので驚いただけです。30日は一日中お仕事って事ですね?」

「・・・そうね。悪いけどあの子のフォロー頼むわ。くすっ、意外と仲良くしてるらしいじゃないの?」
「は?!そんな事ないです!多分、類様には嫌われてると思うし、仲良くなんてしてないですよ?」

「そう?あの子が拒否したら会話はゼロよ?それに耐えられなくてみんな2~3日で辞めるんですもの」
「・・・・・・そうなんですか?」


奥様との話はそれだけで、私は臨時バイトの承諾をして部屋を出た。
そしてそのまま花沢類の部屋に向かった。丁度時間は夕方の5時・・・私のバイト時間になっていたから。


いつものようにトントントンとノックをして部屋に入ると、花沢類は私に言われると思ったのか、ベッドから移動してソファーの上で胡座をかいていた。
そして毎度のことで本を読んでる・・・でも、そのページが毎回捲られないのも実は気が付いてた。


「失礼します・・・お掃除しますね~」
「・・・・・・どうかした?」

「へ?何が?」
「・・・元気がないから。そんなテンション低いの初めてじゃない?もしかして・・・アノ日?」

「・・・・・・はっ?!」
「だって女性ってそうでしょ?」

「そっ、そんなの男が口にする事じゃないでしょ!!馬鹿じゃないの?!」
「・・・なんだ、元気じゃん。吃驚した」


・・・・・・・・・ムカつく💢
一瞬でもこの人の事を可哀想だと思った私が馬鹿だった!
そんな綺麗な顔して「アノ日?」なんて聞くから驚いたじゃないの!

馬鹿馬鹿しくなって今度は掃除道具を荒っぽくカートから出したら、その拍子にモップの柄を自分の脛に当てて悶絶!!
その場でしゃがみ込んで「痛ーーーい!!」って叫んだら、「五月蠅い・・・」って呟かれた。

それなら奥様に言われたようにするわよ!って、彼にパーティーの事を話した。


「奥様から30日の事を頼まれました!類様、バイオリンの手入れはしてますか?着るものも決めてます?その日は私も1日勤務らしいからヤル気を出してもらうまで傍で言い続けますからね?!」

「・・・30日・・・あぁ、そんな日があったね」

「30日は2月以外全部にあります!あのですね、ご自分の誕生日なんだからもう少し嬉しそうにしません?パーティー開いてもらえるんでしょ?!」


「・・・・・・花沢の為だろ?」
「・・・え?」




*********************




牧野に言われたくなかった俺のバースデーパーティー。

昔からこの日だけは日本だろうがフランスだろうが、両親が滞在しているところに出向いてまでパーティーをされた。
幼い頃はそれが両親に会える日だったから嬉しくて笑顔も作れたけど、だんだんそれが会社の行事なんだって判ったから一気に冷めた。
そして1年で一番つまらない日になってしまった。

会社の為に自分が産まれた・・・そうだと言われた訳じゃないけど、両親は会社の為に俺を作ったって気がしたから。
少なからずそれは有るだろうけど・・・。


それなのに牧野にまで『バイオリンの手入れはしてますか?着るものも決めてます?ヤル気を出してもらうまで傍で言い続けますから』・・・それにムッとしてソファーから立ち上がった。


「類様、どうしたんですか?あのっ・・・」
「着るものなんてタキシードがあればいいだろ?バイオリン、手入れしてるかどうかなんてあんたに言って判るの?」

「はっ?いえ、判んない・・・けど、だって奥様が言ったんだもん・・・手入れしてるなら良いと思うけど・・・」
「楽器の事も知らないなら黙っときなよ」

「ご・・・ごめんなさい」


少し冷たい言い方をしたら、牧野はモップを抱きかかえたままシュンとした。
それを横目で見たら何故か俺が悪いみたいでイヤだった・・・これまで使用人に暴言吐いたからって気にした事もないけど、この時は凄くイラついた。

イラついた先は牧野・・・いや、それとも母さん?よく判らなくて余計イライラした。


その苛立ちを何かにぶつけたい・・・そう思った時、足がクローゼットに向かった。そしてその奥にあるバイオリンの収納庫から愛用のストラディヴァリを出して牧野の前に戻った。
彼女はまだ困ったような顔して掃除なんてする様子もない。俺がバイオリンを持ってオーディオを触ってるのをオロオロしながら見ていた。


「もしかして弾いてくれる・・・んですか?」
「音を聞いてあんたに善し悪しが判るの?」

「バイオリンそのものを目の前で聞いたことがないもの・・・どんな感じか判んない・・・」
「じゃ、これ・・・本来は協奏曲だからトゥッティ(全奏部分)は音源頼るけど、ソロ部分を弾くから聞いてみな?」

「は、はい!」


モップを握り締めたまま緊張した顔で背筋を伸ばし、ド真剣な目を俺に向けてる・・・それを見たらさっきまでの苛立ちは既に消えていた。

そして流れてくるオーディオの小さな音・・・牧野はそれが聞き取りにくかったのか耳を傾けた。その動きが面白い・・・噴き出しそうになるのを堪えながらバイオリンを構えた。

選んだ曲はヴィヴァルディの「四季」から 「冬(L'Inverno)・第1楽章、アレグロ・ノン・モルト」
極寒の中、震えながら歩き回り、歯を鳴らすほどの辛さを表現した、冬の中でも1番寒さを感じさせる楽章。出始めの音は細かくて小さく、だんだんそれが大きくなってブリザードの中で耐えているような音を奏でる。

この曲は4回のトゥッティの間に3回のソロが挿入されている。
第1トゥッティは冷たく非情な雰囲気・・・その後で急に激しく下降する音型の第1ソロパートが入り、ここで牧野は驚いて耳を半分塞いだ。至近距離で弦楽器を聴いた事がない上にこの激しさ・・・驚くのは無理はない。
1番初めのソロのイメージは「恐ろしい風」。バイオリン独奏によってフォルテで演奏される。

次の第2トゥッティは人々が寒さの中で足踏みをしている様子。これも細かい音符の連続で、その後に出てくる第2ソロは第1と同じように激しく、聴くだけで背中がゾクッとする曲想だ。
これを繰り返しながら楽章は締めくくられる。この曲は僅か3分・・・すぐに演奏は終わった。



バイオリンを肩から降ろし、弦を降ろすと牧野は呆然・・・ただ、その後でスーッと涙を溢した。


「えっ!なに・・・どうした?」
「・・・判んない。でも、涙が出る・・・怖いぐらい凄かったから・・・何て言うか、その・・・よくわかんないけど・・・」

「・・・説明出来ないんだ?」
「うん、出来ない・・・でもまだドキドキしてる。はぁ、驚いた!バイオリンって凄いパワー・・・あっ、失礼しました!」

「・・・いや、別にいい。感動したならそれで・・・」


・・・今度は少し気分がいい。
泣くほど感動したのなら、そう言う感性は持ってるのかもしれない。それなら・・・また弾いてもいいけど、なんて。
俺がバイオリンをケースにしまっていたら、牧野は目をゴシゴシ擦りながら照れ笑い・・・それを視界の端で見ながら気が付かないフリをした。


「あっ、お掃除しなきゃ。類様、ありがとうございました。また今度聞かせて下さい!
今度はもっとゆっくりした曲がいいな♡耳が痛いんだもん!」


・・・耳が痛い?俺の演奏なのに・・・💢
そう言いかけた言葉はグッと飲み込んだ。たった今、この子の感性を信じようか思ったのに・・・!


「・・・30日にどうせ何か弾かなきゃいけないんだ。その時、また聴かせてやるよ」
「ホント?!私も聴けるのかな・・・今のじゃなくて?」

「今のはパーティーには不向き。客が凍っちゃうから」
「あはは!確かに。楽しみにしてます、類様!」


バイオリンを聴かせてやるなんて初めて誰かに言った。
絶対に叶わないと思った俺の夢・・・たった1人の観客の為に弾くバイオリニスト。


この時、そんな昔の夢を思い出した。





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よかったら聞いてみてください♥
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Comments 4

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2019/07/07 (Sun) 06:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

そうですねぇ・・・類君にはいつか楽しい誕生日を迎えさせてあげたいですね。
大勢じゃなくて好きな人と2人で♥

ふふふ、そんな日が来るのでしょうか?(笑)

はい!勿論来ますよ♥何かが起きるか・・・その前に類君に何かが起きるかも?(笑)
つくしちゃんのぶっ飛んだ行動をお楽しみに(笑)

2019/07/07 (Sun) 11:43 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/09 (Tue) 11:23 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは(爆)

あっはは!素敵なコメントありがとうございます。
以前お話されていたから貼り付けてみました♥

これは子供がコンテンポラリーバレエで踊った曲なんです。
飛ぶわ転ぶわ(回転ね)蹴り飛ばすわ(足上げるだけだけど)アクロバティックでしたわ~。

初めは情熱的で熱いイメージなのかと思ったら、まさかの真逆で「冬」!!

でも聞いたら確かに冬だった・・・。うんうん。


で、思い出せないことは多くて笑えた!!
「隣の部屋の彼」ね?白アスパラは何話目だったかしら・・・今度調べて置こう(笑)
カンツォーネ(爆)ラ・カンパネラかしら?(笑)

マジで横腹が痛かった💦笑わかすわ~💦

めっちゃ暇が出来たら読んで下さい(笑)

2019/07/09 (Tue) 14:20 | EDIT | REPLY |   

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