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滅多に開かないバイオリンの楽譜、それを引っ張り出して眺めていた。

毎年何を弾いていたかなんて覚えてない。
面倒だからアベ=マリアとかトロイメライにロマンス・・・誕生日だからって取り敢えず差し障りのない軽やかな曲を選んでたと思う。

でも牧野がゆっくりした曲がいいって言ったっけ・・・って事は逆をついてモンティの「チャルダッシュ」?
これ良くない?あいつが言う「耳が痛い」って曲だ。くすっ、驚くかも・・・。

チャルダッシュとは、ハンガリーのジプシー風民族舞曲。
ゆったりとした「ラッセン」と、急速な「フリスカ」という2つの部分から構成されている。日本ではヴィットリオ・モンティが作曲したものが特に有名だから牧野も聞いたことはある・・・と思う。
前半のスローテンポから急に軽快なリズムに移行する所が個人的には好き・・・実にストレス発散出来る曲だ。

そしてもう1曲は・・・


楽譜を開いたところでノック音がして、返事を待たずに入って来たのは母さんだった。
この人が俺の部屋に来るのは珍しい・・・相変わらず派手に着飾って、完璧な化粧とドレスで目の前まで近づいてきた。


「あら、そんなに嫌そうな目で見ないでちょうだい。まだ何も言ってないわよ?」
「・・・何か用?」

「もう、無愛想な子ねぇ!牧野さんから聞いたと思うけど、あなた今年のバースデーパーティーでは何を演奏するの?」
「・・・どうして?」

「判ってるでしょう?言わせたいの?」

「・・・・・・いや」


この演奏が何故そんなに乗り気じゃないのか・・・それは毎年俺のバイオリンのピアノ伴奏を何処かの令嬢に依頼するから。その為に事前に曲名を教えて練習してもらうって訳だ。
だからといって一緒に合わせるなんて練習はしない。プロじゃないし、演奏が目的のパーティーじゃないからそこは即興で合わせられたら拍手、ってぐらいの軽いものだった。


ただ、母さん達は考えている。そう言う出会いの中で俺がその女性に恋をしないかと・・・。
でも残念・・・去年の伴奏者の顔も名前も覚えてない。


「・・・今年は母さんが伴奏してくれない?もう気を遣うの面倒だし」
「類が気を遣った事なんてないじゃないの。毎年私達が気を揉んでるのよ?あなた、演奏が終わった後にエスコートもしないんですもの」

「・・・そんなのしたくないし。知らない人間とはいきなり話せないから」
「そんな事言って!世の中の人とは全部初対面って時があるのよ?その時間さえ放棄する癖に・・・!」

「・・・判った。今年はこれ。モンティのチャルダッシュ」
「あら、随分変わったものを弾くのね!」


俺のイメージじゃないって思うんだろう。こんなに激しいのはこの人も聞いたことがないだろうから。
それともう1曲の楽譜を見せた。


「え・・・これ?」
「うん、いけない?こっちだけでもいいから母さんが弾いてくれないかな」

「特別な曲なの?」
「そういう訳じゃない・・・まだ聞かせたことがないから」

「誰に?」
「・・・別にいいだろ」


仕方がないって感じで母さんは納得してくれた。
そして部屋を出ていこうとした時・・・その視線が窓辺に向かった。何を見付けたのかと母さんの視線を辿ったら、牧野の子宝弁慶草に向けられていた。
そしてツカツカとそのキャビネットの前まで行くと、ジーッと子宝弁慶草を見てる。


「類、これなぁに?」
「子宝弁慶草。見たら判るだろうけど植物・・・ドンドン増えるらしい」

「・・・いつからこの部屋にあるの?」
「今月になってから。牧野が勝手に置いてったんだよ・・・それだけ」

「牧野さんが?」
「・・・欲しいならあげるけど?」


クスクス笑いながら「大事に育てなさい!」なんて言って母さんは出ていった。




**



夕方の5時になって、牧野はノック3回とほぼ同時にドアを開け「失礼しまーす!」と、大声出してやってきた。
今日も元気よく掃除用カートを押して、その中からモップを出して片手で持ち、他の使用人はしないのに腕まくりをする・・・そうしないと気合いが入らないんだそうだ。

俺は怒られる前にソファーに移動し、今日は久しぶりに出したから楽譜に夢中・・・いつも眺めている牧野の掃除風景を見ていなかった。
ただ音だけは聞いてる・・・ガタガタと今日も五月蠅く掃除してる。
決して歩く音が静かなわけじゃないから何処に居るかも判る。それを感じながら目は譜面に向かってて、頭の中ではバイオリンの音色が響いていた。


カタカタカタ・・・ゴソゴソゴソ・・・カチャカチャゴシゴシ・・・・・・・・・

その音が急にしなくなったけど、夢中になってるから気にもしないでソファーの上で胡座をかいていた。


「・・・ん?」
「・・・・・・・・・」

至近距離の空気があったかい感じがして、俺は左側にクルッと顔を向けた。そうしたら俺の顔の真横に牧野の顔が!!


「うわああああぁっ!!」
「きゃああぁーっ!ごめんなさいっ!!」



吃驚して飛び退いたら、牧野も驚いてモップを放り投げて走って逃げた!
そして部屋の奥、ミニキッチンの辺りから顔だけ出して「すみません~!」って謝ってる・・・。


「なんなの、あんた!突然真横にいたら驚くじゃん!」
「ご、ごめんなさいっ!ちょっと確認したくて・・・」

「なにを?」
「・・・いえ、何でもないです。お掃除終わったんでベッドに寝てもいいですよ?」

「・・・・・・あぁ、判った」


確かにベッドメイキングも終わってるみたいだったから、もう楽譜を閉じてそこに寝転んだ。
まだドキドキしてる・・・それを悟られないように目を閉じて牧野が出ていくのを待った。


ギシギシギシ・・・コトコトコト・・・カンカンカン・・・・・・一体何の音だか判らないけど、兎に角早く出て行けばいいのにと、それだけ思って目を瞑ってた。
そうしたらつい・・・本気で眠くなった。

気が付いたら牧野の掃除の音が遠くなって俺は逆に夢の中・・・・・・何処かの湖畔でバイオリン持って立ってる、そんな光景をウトウトと見ていた。

うわ・・・何だろう、凄く気持ちいい・・・風がこんなにも気持ちいいなんて感じたことがないかも・・・。



『・・・気持ちいいね、類』
『あぁ、本当に・・・爽やかな気分になるね』

『あっ、髪の毛が・・・類、髪の毛が乱れてるわ』
『ホント?何処・・・君が直してくれる?』

『うん・・・じゃあしゃがんで?』
『・・・くすっ、何だか照れるね』

『耳に髪が・・・』




なんなの、この夢・・・髪ぐらい自分でササッと直せばいいのに、なんで人にさせてんの、俺・・・しかも照れるってなに?
それに耳に髪の毛なんて掛けない・・・あきらじゃあるまいし。

あっ・・・誰?耳に触ってる・・・いいって、髪なんて直さなくて。
そんなの自分で・・・・・・自分で・・・



「・・・ん?」
「・・・・・・・・・」

再び至近距離の空気があったかい感じがして、俺はパチッと目を開けた。そうしたら俺の顔の真上に牧野の顔が!!


「うわああああぁっ!!」
「きゃああぁーっ!ホントにごめんなさいっ!!」



何なんだ!!こいつっ・・・!!💢💢




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2019/07/09 (Tue) 06:50 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/09 (Tue) 10:10 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/09 (Tue) 12:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

うふふ、この類君にピアスホールがあるのか無いのか(笑)
先ずはそこが問題ですね。えぇ、普通はあると思いますもんね(笑)

そこはすぐに判ります♥

こんな妖しいお手伝いさん・・・(笑)類君、よく我慢してますよね~💦
つくしちゃん、もっと恐ろしい事になるんでお楽しみに(笑)

マジで読者さんに怒られそう💦どうしよう~!!

2019/07/09 (Tue) 14:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ゆきたろう様、こんにちは。

ははは・・・だんだんツンデレじゃなくなって来ました💦
やっぱり私にはツンデレは無理なのかしら・・・。

ホントならつくしちゃんが覗き込んでも

「・・・なにやってんの?」

で、終わるはずですよね💦(ツンデレならもしかしたら無言かしら?)


どうしても可愛くなってしまう・・・う~ん、どうしたもんか(笑)

で、類君?大丈夫・・・じゃないと思います💦

2019/07/09 (Tue) 14:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは。

親子で演奏・・・確かに憧れますよね~!

私の娘は全然楽器に興味を示さなかったのでホント、残念!
リコーダーも鍵盤ハーモニカも雑音でしかありませんでした(笑)

聴かせたい曲(笑)
でも誕生日にこれかいっ!ってヤツです。私の趣味だから・・・でも、素敵なのよ♥
貼り付けて大丈夫そうなのがあったら貼り付けますね!


うふふ、夢は素敵だけどね・・・目が覚めたらとんでもないことばかりで💦
類君の悲劇、もうすこし続きます!

2019/07/09 (Tue) 18:41 | EDIT | REPLY |   

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