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plumeria

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総の茶会が終わって、結局花音は抹茶を飲まずに逃げて終わった。
それを仁美さんは随分気にしていたけど総は笑ってるだけ・・・気にはしていなかった。

むしろ無理矢理飲ませてトラウマになってはいけないと、もう少し大きくなってからでも問題ないと逆に仁美さんを励ましていた。


「申し訳ありません、こんな雰囲気は初めてなので驚いたんだと思いますが・・・」

「いや、何となくだけど花音がああなる事は想像していたから気にしてないって。つくしに似て暴れん坊みたいだしな。
それに紫音は最後まで付き合ってくれたから嬉しかった。茶道は今でも最終免状は男しか取れねぇんだ。もしも俺の後を継ぐとなったら紫音になるから・・・」

「そうなんですね。それはそれで大変ですね。あ、ごめんなさい・・・」

「ははっ、確かに大変だ!一気に変化が起きない世界だから少しずつ改革していけたらいいんだけどなぁ。
俺は偏屈な男だと思われてるから後援会から睨まれてるけど、紫音なら穏やかだから爺さん達も協力してくれるかもな!」

「可愛がっていただけるでしょうか?」
「あぁ、あれだけ人当たりがいいと大丈夫だろう。それに俺に似ていい男だし!」

わざと明るく話して仁美さんの気持ちをやわらげようとしてる。
少しは大人になったんだな、とそんな総を美作さんと笑った。



この時、もうみんなは着物から着替えていた。
花音は逃げたことを気にしているのか紫音の後ろに隠れて顔だけ出してる。総はそんな双子のところに行って、その目の前にしゃがみ込んだ。
紫音は自分の後ろに隠れてる花音の手を引っ張って前に連れだし「あやまらなきゃ、かのん」って。流石、お兄ちゃんだ。


「・・・・・・ごめんなさい、そうちゃんパパ・・・」
「・・・あぁ、今日は許してやる。いつかちゃんと飲んでくれ、花音」

「・・・でも、怖い・・・みんな、わかんないお話しかしないから・・・」
「ははっ!茶会はあんな感じだ。確かに普通の話はしないし、もっと長い茶事ってのになったら何にも喋らないんだ。心で感じる時間なんだぞ?みんな何にも考えてない訳じゃないんだ」

「そうちゃんパパは何を考えてたの?」

そう聞いたのは紫音・・・多分、私だけじゃなくてここにいる全員が紫音の僅かな変化を感じたんだと思う。漠然と茶道を自分の将来の中に組み入れた、そんな気がした。


「俺はみんなにこの茶を飲んで温かい気持ちになってもらおうと思って点てた。そしてこの季節じゃないと味わえない空気を感じてもらいたかった。嫌なこともあるだろうし、面白くないこともあるだろうけど、そういうのを全部忘れて茶を飲んでる間は優しい気持ちになれたらなって・・・やっぱり難しいか?」

「・・・いちごいちえ?」
「はは!そうだ、一期一会だ。俺が今、紫音と会ってるのも一期一会・・・次に会えた時も同じだ。その時間を楽しく過ごしたいって思ってる」

「・・・かのんもこんどはがんばる・・・」
「そうか。花音と次に会う時を楽しみにしてるぞ?今日の事は失敗じゃないんだから気にするな」


怪我をしていない総の左手が紫音と花音の髪を撫でる・・・その時の彼の顔は私の方が少しムッとするぐらい優しかった。


「それじゃああきら君、運転気を付けてね」
「あぁ、明日の夜には戻るから」

「紫音、花音、あきらの言う事聞いて勝手な行動はするなよ?寒いところだから風邪引かないようにあったかくするんだぞ?!」
「うん!そうちゃんパパ、行ってきま~す」
「そうちゃんパパも、ケガ、はやく治してね」

「総も運転気を付けて。無事に帰ったらメッセージ頂戴ね」
「あぁ、子供達の事を頼んだぞ」


みんながそれぞれに言葉を交わす中、仁美さんだけが夢子おば様の後ろに静かに回った。
おば様もそれに気がついて私達から離れて2人で何か話してる。そのうち仁美さんが顔を手で覆って泣きだしたから、それを子供達が見ないようにと車に乗せた。

総も美作さんも気が付いてる・・・だけど、何も言わずに話が終わるのを待っていた。


夢子おば様が仁美さんを抱き締めた。
許せない行動があったとしてもこの人達もまた親子・・・一緒に暮らした年月は短くても、もう家族の一員だったんだ。
きっとまたいつかおば様と仁美さんも笑って話せる日が来る、そう信じたい。


「それではお義母様、お世話になりました」
「馬鹿ね、あなたはまだ美作家の人間よ。一生の別れの様に言わないで頂戴。これから先のあなたの生き方をしっかり見させていただくわ。消えない罪もあるだろうけどそれを振り返ってばかりじゃ前に進めない・・・強くなりなさい」

「・・・判りました。ありがとうございます・・・お義母様」

「・・・身体には気を付けるのよ」


多分、これは辛い場面なんだろうと思う。
でも私には羨ましかった。

嫁ぎ先のお義母様にこんなにも愛されて・・・その握られた手の温かさを、私もいつか感じることが出来るのだろうかと。


こうして総とおば様と別れて、私達は仁美さんが住む別荘に向かった。



**



日光を出て1時間半、那須の別荘に着いた時には私も子供達も後部座席で爆睡していた。
「おい、起きろ!」と美作さんに肩を揺すられて目を擦ると、そこは雪が少しだけ積もってる長閑な田舎の風景だった。別荘の後ろには小さな山・・・隣の家なんて遠くにしか見えなかった。

「うわっ・・・凄い、雪が積もってる!」
「ここはそこまで積雪はないから物足りないだろう?でも雪が多かったら大変だからな」

「これでも充分だよ~!あっ、紫音と花音は?」
「まだよく寝てる。管理人に頼んで暖房を入れてもらってる筈だから中は温かいと思う。牧野も先に行ってろ、双子は俺が運ぶから」

「うん、ありがとう・・・」


目を擦りながら車を降りたら、もう辺りは薄暗かった。
そして仁美さんは自分の荷物を持って別荘の玄関前まで行き、管理人さんと挨拶をしている。私も急いでそこまで行って別荘の中に入った。


鎌倉のお屋敷よりも少し広い感じの2階建ての洋館。
だけど中に入れば古民家風で、壁も床も天井も木目が見えるアンティーク調・・やっぱり夢子おば様の趣味で家具や調度品が揃えられていて、この風景にはアンマッチな可愛らしい造りだった。


「あっ、良い匂いがする!晩ご飯、作っていただいたんですね?」
「はい、東京の奥様から連絡があって、今日はお手伝いさんが誰も居ないから作っておいてくれって。私じゃなくて街から料理人を連れて来たんですけどね、腕の良い職人さんだから美味しいと思いますよ」

「・・・ありがとうございます」と、仁美さんは小さな声で言うと、お屋敷の窓から外の景色を眺めていた。


そうしてるうちに美作さんは紫音を抱きかかえたまま入って来て、リビングのソファーに寝かせるとすぐに車に向かった。次に抱きかかえられた花音も全然起きる気配がない。
双子はきっと慣れない着物と茶会、それに車に疲れたんだろう、ソファーの不安定な場所にも関わらず大の字で寝ていた。


「くすっ、これはベッドで寝かせた方が良いかしら」
「そうね・・・夕食まで少し時間があるし。お部屋を見てみましょうか?」

2階の部屋を見て回ったら幾つかベッドルームがあった。
そう言えば今日はどんな風に部屋を別けるのか聞いてない・・・急に私1人がお邪魔みたいな気分になって顔が赤くなった!


「つくしさん、どうしたんですか?」
「はっ!いえ、あの・・・子供達は何処で寝かせましょうかね!で、私は・・・今日、何処で?」

「まぁ、イヤだわ、つくしさん・・・ふふっ、変な事考えたんでしょ?」
「いやっ!そうじゃなくて!!だって美作さんと仁美さんは同室でしょうけど、こ、子供達は?って思っただけで!」


「・・・今日はね、私と子供達が同じ部屋にさせてもらうんです。これが本当に最後だから・・・あきらさんとつくしさんには悪いけど、それぞれお部屋があると思うわ。ごめんなさい・・・最後の我儘です。許してくれますか?」

仁美さんはそう言うと私に頭を下げて「お願いします」って言った。
最後の我儘・・・もう本当に子供達に会わないつもりなのかと、胸が苦しくなるほど仁美さんの言い方は淋しかった。


顔を上げた時の表情は強張っていて、日光でおば様に向けていたのと同じ。
この人はこれから先も自分の罪を思い返しては苦しんで、前を向こうとしては立ち止まり、双子と過ごした日々を懐かしんでは後悔して過ごしていくんだろう。
その歩みは凄くゆっくりで、時には動けなくなるかもしれない。それでもずっと先にある光を見付けて1歩ずつ進んで欲しい・・・。

年上の仁美さんにそんなお説教みたいな事は言えないから、私に出来る事はこの人の前で笑顔を見せること・・・それしかないって思った。


だから俯いてる仁美さんに笑って答えた。

「はい!気の済むまでベタベタしてお話して抱き締めてやって下さい。そしてこれが最後だなんて思わないで下さい。私の方こそ仁美さんに助けて!って言うかもしれませんから、その時は絶対に私を助けて下さいね?
私が双子を叱った時にあの子達が逃げたしたくなったら、仁美さんがその隠れ家になってください。私に言い辛い恋の相談なんかも抱えるようになったら聞いてやって欲しいと思っています。仁美さん、あの子達から離れないで下さいね?」

「つくしさん・・・そんなこと・・・」

「だからそれが出来るようになるまでここでゆっくり休んで下さい。自然がきっと仁美さんを癒やしてくれると思うの・・・私の呼子がそうだったように」


無理矢理笑うのは辛い。でも、そうしてるうちに自然と笑えるようになる。
降り止まない雨はないとか、明けない夜はないとかって言葉も信じられないほど自分を追い込んでしまうこともあるけど、差し伸べてくれる手があればそれはいつかきっと来る。
夢の屋の女将さんがそうだったように、美作家の人達がそうだったように・・・。

だから今度は私が仁美さんに手を差し出そう。


「おーい!!もう子供達が起きたぞ~!何処に居るんだ?」

「ひとみママ~!!どこぉ?!」
「つくしママ~!おなかすいたぁ!」


その時下から聞こえた3人の声に2人で笑って、私は彼女に手を差し出した。

「降りましょうか!仁美さん」
「はい、つくしさん」





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