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<side仁美>

紫音と花音を連れて部屋に戻ったら、すぐにお風呂に入った。
美作のバスルームとは全然広さが違うから2人の子供を連れて入ったら狭くてすぐに身体が触れてしまう。

それでもこれが最後・・・そう思って一緒に入った。


「ひとみママ、見て!こうやってタオルを広げてね、下から手でまーるくして沈めたら・・・ほら!ぶくぶくするんだよ?」
「うふふ、本当ね。いつ覚えたの?」

「この前つくしママに教えてもらった!」
「・・・そうなの」

「ひとみママ、せなか、かゆい~!」
「あら、見せてご覧なさい・・・少し赤いわね?どうしたのかしら・・・後でお薬塗ってあげるわ」

「うん!」


こうしてみると大きくなった・・・初めて抱っこしたのは産まれて2週間ぐらいだった。
この子達の母親になんてなれるのかと怖かったのが嘘みたい。

バスタブの中で双子の身体を見ていたら、昔の事ばかりが思い出されて涙が出そうだった。こんなに愛おしい存在をどうして私はあの日、見知らぬ人に渡せたんだろう。
この問いを私は一生自分自身にするんだろうと思うと胸が詰まった。

魔が差した・・・そんな言葉は通用しない。
もしもこの子達が吉本に傷付けられていたら私はその場で自分の命も絶っただろう・・・それは間違いないと思う。


「あーっ!!またひとみママ、泣きそうな目になってるぅ!」
「ダメだよ?泣いたら病気がなおらないよ?パパがいつもそう言ってるよ?」

「あ、ごめん・・・うふ、泣いてないわ。少し昔を思い出したの・・・あなた達が赤ちゃんの時の事をね」

「・・・つくしママからもらったとき?」

「もらったんじゃないわ、預かったの・・・つくしママが病気で誰とも会えなかったからあきらパパがうちで育てたいって言ったの。私は少し怖かったけど、あなた達を見たら大好きになったの」

「かのん、かわいかった?」
「ぼくは?」

「・・・すっごく可愛かった。1日中、あなた達を見てたわ」


身体を洗ってあげるのもこれが最後。
髪を洗ってあげるものこれが最後・・・でも、この時間をもらえたことに凄く感謝していた。


お風呂から出たら髪を乾かして1つのベッドに入った。
右に紫音、左に花音・・・私は2人を両手で抱き締めて布団に潜り込んだ。

子供達は面白がって布団の中で大暴れして、私を挟んで喧嘩したり笑ったり・・・久しぶりに可笑しくて大きな声を出して笑った。

絵本も読んであげた。
紫音のリクエストの「手袋を買いに」、花音のリクエストの「人魚姫」。

「ぼく、この子ギツネみたいに1人でおかいものに行けるかな・・・」
「かのん、ついて行ってあげるよ?」
「うふふ、行けるようになるわよ。でも、子ギツネさんみたいに間違えちゃダメよ?」

「でも、このお店の人やさしいね・・・キツネにてぶくろ売るんだよ?」
「キツネさんの手、見たことないよ?」
「そうね・・・優しいわね。とても温かい気持ちになるお話しね」

「ひとみママもあったかーい!」
「ひとみママだったらてぶくろ売る?かのんだったら売る!」
「・・・えぇ、ちゃんと寒くないように手袋売るわ」


人魚姫の話では船の上にいた王子様はあきらさんか西門さん、どっちがいい?なんて話して可笑しかった。
「いつかかのんにも王子さま、くる?」・・・その質問に答えようとしたら「かのんの王子さまはぼくがえらぶんだよ、お兄ちゃんだから!」って。
急にお兄ちゃんになった紫音に噴き出してしまった。


次に会う時が来るとしたらこの子達は何歳になってるんだろう。
私の事は覚えているだろうか・・・美作の家は楽しかったと言ってくれるだろうか。
幸せな子供時代だったと、ほんの少しでも記憶に残してくれるかしら・・・そこに私は「素敵なママ」として生き続けるだろか。

我慢出来なくなって双子を抱き締めて声を殺して泣いた。
「どうしたの?」「泣かないで」って言われても涙を止めることなんて出来なかった。


私はこの子達の事をこんなにも愛してる・・・いつの間にかこんなにも愛してたんだって思い知った。




*********************




朝になって、仁美さんが双子を連れて部屋から降りてきた。

目が腫れてる・・・多分美作さんも気がついただろうけど、それには触れる事はなかった。
普通に「おはよう」って挨拶をして、朝食をテーブルに並べた。珈琲の担当は美作さん・・・いい香りがダイニングに広がって、柔らかい冬の朝日が差し込んでいた。


「もう少ししたら美作から使用人が2人来る。昼食をここで食べたら俺達は東京に戻る・・・仁美、それでいいか?」

「・・・えぇ、ありがとう、あきらさん。そうしてあげて?早く帰った方がこの子達も落ち着くわ」

「ひとみママ。本当にここにのこるの?」
「かのん、もう言わないって言ったじゃん・・・」

「だってぇ・・・」


紫音も花音も判ってるようで判ってない。
だからきっと東京に戻っても暫くは仁美さんを探すんだろうって思った。その時に私は怒らずに話を聞いてやって双子の淋しさを受け止めなきゃいけない。
自分の事を本当の母親だと理解してもらえるまで何があっても向き合わなきゃ・・・それが生易しいことじゃないって、私も判ってるようで判って無いのかもしれないけど。

それでも何も伝えなかった時に比べたら幸せ・・・たった1人で生きていくと思っていた頃に比べたら幸せだ。


双子はご飯を食べ始めたらもう気分は変わって楽しそうに昨日の夜の話を聞かせてくれた。
私はそれを笑って頷いて「良かったねぇ!」を繰り返す・・・仁美さんは黙って双子のお喋りに耳を傾けていた。


10時頃には美作から使用人の女性が2人やってきた。
仁美さんより少しだけ年上の人と50歳くらいのベテランさん・・・2人ともこの辺りが実家だという事で土地勘があるんだそうだ。だから逆に嬉しそうな表情をしていた。

そうして昼ご飯までは子供達と美作さんが庭に少しだけ積もった雪で遊び、私と仁美さんはお茶を飲んでいた。


交わす言葉なんて何もない。
ただ黙って窓の外の寒そうな・・・だけど楽しそうな3人を眺めていた。


お昼は温かいビーフシチューで子供達は大喜び。
真っ赤になったほっぺたを膨らませて頬張っていた。そしていつものように口の周りに付いたソースを仁美さんが拭いてやって、双子は嬉しそうに「ママ、ありがと!」って目を細めてお礼を言ってた。

でもこれはお別れのカウントダウン・・・この食事が済んだら私達は仁美さんを残してこの別荘を出るんだ。

胸が押し潰されそうな思いでその瞬間を待つ。
私も美作さんも自然と表情は強張っていった。




食事が終わって午後2時・・・1泊分だけの小さな荷物を持って私達は別荘の玄関に居た。
美作さん、私、紫音と花音は靴を履いて玄関の外。仁美さんはスリッパのまま玄関の内側に立っていた。お互いに向き合ったまま・・・暫く誰も言葉を出せなかった。

そして始めに話し掛けたのは仁美さん・・・しゃがんで双子を呼び寄せた。
両手で同時に双子を抱き締めて、優しい笑顔を向けていた。


「紫音・・・あなたはお兄ちゃんだから花音の事を守るのよ?そして西門さんの言う事もちゃんと聞いて、あちらのお屋敷に行ける日が来たらママ達が教えたお作法できちんとご挨拶しなさい。判ったわね?」

「・・・はい、ひとみママ」

「花音、あなたは時々人のお話を聞かずに逃げちゃうことがあるけど、もうそんな事をしてはだめよ?自分勝手な行動はしちゃダメ・・・周りの人達を困らせないのよ?そして怪我だけはしないで・・・判った?」

「・・・うん、ひとみママ。かのん、おやくそくする・・・」

「・・・大好きよ2人とも。あなた達は私の希望なの・・・会えなくてもずっとあなた達の幸せを祈ってるからね」

「ひとみママ、いつか会えるよね?」
「おりこうさんしてたら会えるよね?」


泣いちゃダメ・・・全員がそう思って我慢して、この場では誰も泣かなかった。
これが最後のはずはない、そう信じてるから泣いちゃいけない・・・喉の真ん中が張り裂けそうだったけど、私は必死に堪えた。

美作さんが車のエンジンを掛けて私達はそれに乗り込んだ。
今度は助手席に誰も乗らずに後部座席に私達3人・・・そして窓を開けたけど、仁美さんは玄関の外には出ずに中から手を振っていた。


「ひとみママ!またねぇ!!」
「ひとみママ、早くよくなってね!!」

「紫音、花音・・・元気でね!」

「ひとみママ、ひとみママ!!また遊ぼうね!」
「ひとみママ、ごはん、ちゃんとたべてね!」


その時、急に美作さんが車を降りて玄関に走って戻った。
そして驚いた仁美さんを抱き締めて・・・多分、彼は泣いてたんだろうと思う。暫くの間2人は抱き合ったまま、何かの話をしていたのかもしれない・・・仁美さんが頷く姿がチラッと見えた。
そして抱き締めていた両手が仁美さんから離れた時、美作さんは彼女にキスをした。

納得して住む場所を別けたとしても、触れられない淋しさはどうしようもなく辛い・・・それは誰よりも判るから、私は何も言えなかった。



やっと走り出した車・・・気になって振り返ったら、道の真ん中まで出てきて踞って泣く仁美さんが遠くに見えた。
それを子供達に見せないように、私は紫音と花音を抱き締めるしかなかった。






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