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plumeria

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つくしを拒否している訳じゃ無い。
会って間がない俺の事も受け入れてくれている・・・そこが問題じゃなくて仁美さんがここにいないことに不安を感じてる。

それを埋めるには彼女と同じか、それ以上に自分達を愛してくれている存在があるって判らないといけない。
そして自分達は幸せなんだって思えないと淋しさから抜け出せない・・・そう思った。


それは当然のこと・・・俺達がしてやれる事は、こうやって抱き締めて話を聞いてやることしかない。
そして俺達からも沢山話してやる事だろうと・・・子育てなんて素人の俺が言うのも小っ恥ずかしいけどそれしか頭に浮かんでこなかった。。

キッチンでつくしが飯の支度をしてくれてる間、俺は自分の両側に双子を座らせ、自分のガキの頃の話を聞かせてやった。



「紫音、花音・・・淋しいのは判る。でもお前達は幸せなんだぞ?こうやって心配してくれる人がいるだろう?1人で飯食わなくていいだろう?夜だって1人じゃない・・・誰かが一緒に居てくれるだろう?」

「そんなのふつうだよ・・・」

「でもな、花音。俺はそうじゃなかったんだ。もう花音の歳の時は親は親じゃなかった。
親は師匠って言ってな、先生みたいなもんになったんだ。だから遊んでくれないし抱き締めてもくれない。熱が出ても傍には居てくれなかった。飯も殆ど一緒じゃなかったし、家族旅行なんて行ったことないなぁ・・・こうやって淋しいからって話を聞いてくれたりもなかったんだぞ?」

「ししょう・・・?英語のせんせいみたいなの?」
「そうちゃんパパの家ってそうなの?」

「これまではそうだった。だから今はお前達を連れて帰らないんだ。もう少しお前達が住みやすい場所になったら一緒に住もうと思ってんだ。だから喧嘩なんてしないで、ここでつくしママと楽しく過ごしててくれねぇか?」


穏やかで明るいこの屋敷で育った双子・・・今までが余りにも平和で楽しかったからぽっかり空いた穴は大きい。
少しだけ2人とも顔が小さくなってしまったような気がするのは、食欲が落ちてるのかもしれない。

いつか会える・・・その「いつか」がまるで明日か明後日ぐらいの感覚でいるんだろう、だから毎日玄関から仁美さんが入ってくる夢を想い描くのかもしれない。
これがどのくらい続くのか・・・それはこの子達の心の中の母親が、仁美さんからつくしに変わるまでは無理なのかもしれない。


「そうちゃんパパのおうちってどんなの?ここと違うの?」
「お庭にブランコある?」

「ははっ!ブランコはねぇなぁ!そうだな、この前日光で茶を飲んだだろ?あんな感じ・・・だけど、迷子になるぐらい広いぞ?ここの屋敷は3階建てだけど、うちは平屋って言って1階しかないんだ。ずーっと長い廊下があって殆どが和室だな」

「お2階ないの?!」
「ブランコもないんだ・・・」

ブランコがないと知った時の花音の悲しそうな顔・・・それが余りにも可笑しくて噴き出してしまった。そして同時にこいつが西門の廊下を走り回って志乃さんに叱られるところを想像した。

石庭の模様を見て足を踏み入れるかもしれない。
親父の大事な盆栽の鉢を割るかもしれない。
お袋の育てている菊を摘んでしまうかもしれない。だが、その総てが微笑ましい光景として脳裏に浮かんだ。

今はまだそれは夢に過ぎない。
だけどこの子達が無邪気に遊び回る今の歳から西門が受け入れてくれれば、すげぇ変化が起きるんじゃないか・・・そんな気がした。


「そうちゃんパパはお兄ちゃんとか妹とかいるの?」
「そのおうち、子どもはいないの?」

「今は大人しかいない。で、俺には兄貴と弟がいるんだ。でもな、其奴らとも同じ部屋じゃなかったし、遊ぶって言うよりライバル・・・ん~、競争相手みたいになってたんだ。親に誰が好かれるか、3人の中で誰が1番傍に行けるか・・・傍に行っても話なんてそんなに出来ないのにな」

「パパとママはみんな好きなんじゃないの?」

「ははっ!そうだったのかもしれないけど笑ってくれないんだよ。だからいつも怖かった・・・親父とお袋が褒めてくれるにはどうしたらいいのかっていっつも考えてたなぁ・・・判んねぇだろ?」

「わかんない。だってひとみママもあきらパパもいつも笑ってたよ?」
「かのん、よく元気いいね!ってほめてもらった!」

「だろ?だからお前達は幸せなんだ。幸せなヤツは強いんだぞ?自分の周りに愛情ってもんが沢山あるからな。淋しい時には少し向きを変えたら、ちゃんとそこに守ってくれる人がいる・・・そうだろ?」


「・・・ひとみママはひとりだよ?それがかわいそうだよ」


不意に紫音がそんな言葉を出した。
自分達の淋しさよりも1人で暮らす仁美さんの淋しさを思いやる・・・3歳とは思えないと驚いた。
その言葉を聞いて紫音の頭を撫でてやり「そうだな」って言うしかなかった。


「確かに仁美ママはお前達と離れて病気と闘ってるから淋しいと思う・・・でもそれ、つくしも同じだったんだぞ?」

「・・・あっ、そうか!」
「つくしママも病気だったからかのんたちからはなれたんだっけ・・・」

「あぁ、そうだ。それもお前達を産んだすぐ後・・・つくしママもすっごく淋しかったんだ。その時は俺も傍に居る事が出来なくて、つくしはずっと1人で病気と闘ったんだ。そいつが治って帰ってきたけど、完全に治るまでにはまだまだ時間が掛かるって判ったからお前達には本当の事が言えなかったんだ。その話、覚えてるか?」

「うん!それが治ったんだよね?」
「だからママだっておしえてくれたんだよね?」

「つくしもお前達と離れていたけど、ちゃんと心の中で想い続けてたってさ。そうしたらな、紫音と花音が幸せに暮らしてるのかってのはちゃんと伝わるんだって。だから安心してたって言ってたぞ?」

「・・・じゃあひとみママも同じ?」
「ぼくたちのこと、ちゃんと判るの?」

「あぁ、絶対に判るさ。1人で住んでても不思議と大事な人の事は判るんだ。だから喧嘩なんてしてたらひとみママの病気が悪くなるぞ?仲良くして笑ってたらその分仁美ママも元気が出る・・・これ、本当だぞ?」

「「うん!!判った」」


そんな事を言いながらまたいつ泣き出すやら・・・だ。
その時にはまたこうやって同じように抱き締めてやる。これまで何にもしてこなかった俺に唯一出来る事だ。


何度でも話してやる。
何度でも向き合ってやる。

だから何度でもぶつかって来い、その度に俺はこの腕で抱き締めてやる。


この日はこれで何とか落ち着いて、双子は俺が飯を食う間もずっと傍で沢山の話を聞かせてくれた。
つくしは「ありがとう」って言いながら真横で涙を浮かべて、それを見た紫音が慌ててタオルを持って来たりして。そんなつくしに花音は背中から飛び付いて慰めていた。


この光景がいつかは西門で見られるだろうか。
そう思っていた時にあきらが帰宅してきた。



**



離れの中にある一室、そこに段ボールに詰められた日記が運ばれて来た。
双子には「仕事の話だから」と説明してあきらとその部屋に入り、つくしは何となく察しているようだったが何も言わなかった。

俺も今夜は泊まる訳にはいかない。
取り敢えずあの時期の日記があるかどうかをあきらと探すことにした。


「すげぇな・・・こんなにも日記付けてるヤツなんて初めてだ」
「どんな順番で詰められてるんだ?全部出すしかないか・・・」

「もうこれなんか変色してるじゃん・・・ってか、表紙に日付書けっての!」
「怒るな、人の日記に!」


大学ノートが数十冊、パラパラと捲って見ると1日分が1ページに書かれていて、びっしり埋まっている日もあれば3行程度で終わってる日もある。
だが余程几帳面だったのか、比較的新しいノートを見るとかなり筆跡は乱れていたが半年前ぐらいまでのものはあった。

故人には申し訳ないが処分されるものだったのならと、表紙にペンでいつの日記なのかを書き込んでいき、やがて古そうなノートになると10年前の日付のものが出てきた。


「総二郎、近づいてきたぞ」
「・・・あぁ、俺のは12年前のだ。もう少し古そうなのは・・・」

「15年前・・・これは16年前・・・・・・あった!これは17年前のじゃないか?」
「どれだ?・・・マジか、って事はこの前後を探さないとな!」

「・・・総二郎、あった・・・」


あきらが手に持った日記・・・今から18年前の6月の日記を見付けた。
俺が持っていたノートは放り投げて2人でそいつを覗き込み、パラパラと捲ると・・・丁寧に書いてあった通常の日記は9日で終わっている。そして11日以降何も書かれていなかった。

10日の日記の文字は・・・


『私は何も聞いていません。私は何も知りません
私は関係ない・・・私は何も見ていません』






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