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plumeria

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「・・・は?どういう事だ?!」
「何だ・・・この後は何もない?このノートはまだ残りのページがあるけど何も書かれてないぞ?」

「これだと何があったのか判らねぇ!それにこの文面は全部知ってるって事じゃね?」


『私は何も聞いていません。私は何も知りません。
私は関係ない・・・私は何も見ていません』 ・・・こんな事をわざわざ書くのは自分が関係しているという事に他ならない。
イラッとしながら他のノートを手に持ったが見る気もしなくなって床に投げ付けた。

それをあきらが拾って何冊かパラパラと捲って、いきなり手を止めた。


「あった・・・!これ、続きじゃないのか?」
「・・・どれだ?!」

あきらが広げたノートはいきなり日付が8月になっていた。
しかも広島に戻ってからのようだ・・・『実家の空き部屋に荷物を入れた』、そんな出だしで始まっていた。

青田喜子は事件のあった後に宝生を辞めて実家のある広島にわざわざ移り住んでいる。
その時、随分と落ち込んで誰にも挨拶せずに姿を消したと聞いたが、元々は元気のいい古株の使用人・・・その変化に仲間内は驚いた、川崎純子からはそう聞いていた。

しかもそのページだけ丁寧な字ですげぇ長文・・・俺とあきらはそのノートを真ん中に置いて2人で同時に読んでいった。




****************


<青田喜子の日記>

私はあの日、突然訪れてきた岩代様にあるものをお預かりしました。
それは中国から取り寄せたお茶碗・・・とても高価な物らしく桐箱に収められ赤い紐で綺麗に結ばれていました。

何故かそれを紫お嬢様にお渡しするように言われ、桐箱をお嬢様のお部屋に持って行ったのは岩代様が来てすぐの事でした。
お嬢様は薫ちゃんと遊んでいて、その桐箱をお持ちすると不思議そうな顔で見ておられました。

私は特に何も指示されていませんでしたから薫ちゃんが紐を解いて中を見ても、然程悪い事だと思わずにそのままにして部屋を出ていきました。


そうしているうちに西門のお家元が若い骨董品屋さんを連れて来たと使用人仲間から聞き、お茶の支度等で台所や客間をウロウロとしておりました。
ですが私は前の勤め先の関係で岩代様とは随分親しくしていたから「そちらのお相手を」と言われ、岩代様にお茶のお代わりとお茶菓子を持ってお部屋に向かいました。

そこで聞いてしまったのです。
西門様のお連れ様が岩代様とお話しているのを・・・


『いや、俺は雛人形なんて見に来てないけど・・・?そんなものは専門じゃ無いから店にも置いてないし』
『おや、そうなのかな?今日、京都から雛人形を見に来る予定があると言ってこんな季節なのに出しておられるが?さて・・・なんと勘違いしたんでしょうかな・・・あんたは何を見たかったのかな?』

『えっ・・・いや、俺が見たかったのは・・・いや、見たいって言うか・・・その』
『西門のご隠居に何を聞かれたのかな?儂が判るならご案内するが?』

『いや、俺は骨董品を見たいって言った訳じゃ無くて・・・東京にはいい女がいるだろうと思って・・・』
『は?西門のご隠居はそのような話はしないお人だろう?何かと間違うような言い方をしたんじゃないのかね?』

『いや、その・・・女の子の・・・なんて言うか子供っぽいヤツで・・・どっちかって言うと小さい方が好きで・・・人形みたいなさ・・・』
『お前さんが何を言うておるのかさっぱりわからんが?』


私も立ち聞きしていたけど、初めのうちはさっぱり意味が判りませんでした。
ただ骨董品屋さんが「女の子」「若い」「子供」「人形」と言う言葉をしどろもどろに言うので、どうやらそれを西門様は雛人形だと勘違いしたのだろうと言う結論になりました。
そんな馬鹿な、と思いましたが確かに旦那様から雛人形を見せるように指示が有り、川崎さんがそれを管理していました。

骨董品屋さんはそれを聞いて怒り出し、岩代様に落ち着くようにと声を掛けられていました。


『俺が見たかったのはメ、メイド服の・・・あ、あなたに言っても仕方が無いが・・・くそっ、話が違う!』
『ははっ、そのような女性が働く場所があるのは知ってるがここには居らんよ。もう少し小さくて・・・でも、極上な娘なら1人居るけどなぁ』

『極上の・・・娘?』
『でもまだほんの子供・・・大きくなったらさぞや美しい女性になると思うが?』

『そんなに可愛い・・・のか?』
『ここのご主人に似合わん綺麗な顔立ちでしてな・・・ご覧になるといい。この奥の部屋で遊んでおるだろうよ』


呆れたやり取りだと思いましたが元々岩代のご隠居は少し羽目を外すお方だし、そのような下世話な話もされる方でしたからなんとも思いませんでした。
まだお小さい紫お嬢様の事を見ず知らずの人にそんな言い方をして・・・と、逆に馬鹿馬鹿しいくらいに思って2人の会話が終わるのを待っていました。

そして気が付いたら廊下の2人は居なくなり、何処に行ったのかとお探ししたら、岩代様はお部屋に戻っていましたけど骨董品屋さんの姿はありませんでした。

私は岩代様にお茶を差し出し、立ち聞きしてしまった話をしました。
『あんな事言って旦那様にバレたら出入り禁止ですよ?』、そう言うと『あんな腰抜けみたいな男に何が出来るものか、東京にまで女を見に来なんて馬鹿としか言いようが無いわ!』と。

それもそうだと2人で笑って、そこで少しだけ昔話をしている時にあの事件は起きました。


『きゃあああああーっ!助けてぇ!』
『紫ちゃん!紫ちゃん!!いやぁっ!!』

私達の部屋は比較的お嬢様達のお部屋に近く、その声ははっきり聞こえました。
その時に岩代様は「まさか・・・?」と確かに呟かれました。私も同じです・・・まさかあの人が本当にお嬢様達を襲ったのかと、急いでお部屋に向かいました。


そこで見てしまったんです。

あの骨董品屋さんが紫お嬢様の服を剥ぎ取ろうと庭に出てまで追いかけ回しているのを、薫ちゃんが必死に背中にしがみついて止めようとしていました。
私はすぐに止めようと足を1歩出したら岩代様に止められたのです。

『何故止めるんです!お離し下さい!』
『馬鹿者!今飛び出て言ったら誰があの部屋を教えたのかがバレてしまうではないか!お前も聞いていたのだから同罪だ!』

『そんな・・・!』
『心配いらん、あんな臆病者、今の悲鳴で自分から逃げ出すに違いない。そして2度と現れんだろうからこのまま知らん顔するんだ!』

『でも、お嬢様が!』


確かに誰がお嬢様の部屋を教えたのかがバレたら大変です。こんな場所で襲うなんて思いもしなかったし、すぐに掴まるのは目に見えている。
早く諦めて逃げてくれないかと岩代様と隠れて見ていました。

そうしたら雨上がりで湿っていた土に足を滑らせ骨董品屋さんが庭石で頭を強打しました。
呻き声を上げて倒れ込み、その隙にお嬢様は真っ青な顔で部屋に戻られました。薫ちゃんも同じです・・・紫お嬢様の後を追って部屋に戻り2人で抱き合って倒れたあの男を見ていました。

でも、骨董品屋さんはふらっと立ち上がったのです。
そしてヨロヨロしながら縁側から部屋に上がり、またお嬢様の所に向かって行きました。その時、頭から真っ赤な血が流れていました。

『いやああぁーっ!』と、再びお嬢様が悲鳴をあげられ踞りました。その首辺りを骨董品屋さんが掴んだのか、私たちの場所からは何がどうなって入るのかよく見えなかったけど、このままでは危ないともう1度足が出ました。
でも、ここでも岩代様に引き戻され、私は壁に縋りついてその光景を見るしかなかった・・・。

その時、絡み合ってる2人の向こうから小さな手が・・・

『来るなぁっ!!』
『薫っ!!』

来るなと叫んだ薫ちゃんは傍にあった茶碗で骨董品屋さんの頭を殴りつけました。
そして飛び散った血を浴びて、薫ちゃんはそのまま倒れたんです。

骨董品屋さんはその衝撃で頭を押さえ込んで庭から逃げていきました。でも真面に歩くことも出来ない状態で、逃げても力尽きるとは思いました。


恐らく最初の悲鳴は遊びの中での言葉だと思われたのか誰も来ませんでしたが、2回目の悲鳴でやっと人が集まってきました。その時は紫お嬢様は服が乱れていて薫ちゃんは失神していました。
お茶碗は割れたのだと思いますが私からは見えませんでした。


川崎さんが来て大騒動になったけれど、私と岩代様は咄嗟に部屋の奥に籠もって知らん顔しました。


『・・・どうしましょう!まさか、こんな事になるなんて!』
『そうだな、儂も帰ろう・・・あの様子では男が見付かるのは時間の問題・・・だが証人はあんただけだ。何も聞かなかったことにしなさい。判ったな!さもないと・・・』

『お、脅すんですか?』

『あんたの息子は山川建設に入社してるんだろう?あそこの会長は儂の古い友人だ・・・意味が判るな?』
『・・・・・・』

『なに、あれだけ頭を強打すれば記憶が曖昧かもしれん・・・そうなれば儂だって知らぬで突き通す』

『私は何も聞いていません、何も見ていません・・・何にも知りません』
『それでいいのだ・・・総て忘れてしまえ』


旦那様や奥様、身重だった薫ちゃんのお母さんの泣き声が今でも耳から離れない・・・私の罪は一生消えません。




********************




ここまで読んで、1度日記から目を離した。

やっぱり襲った犯人は香月真一・・・どうやったらこんな勘違いが起きるのかは疑問だったが、メイド喫茶のゴスロリ服が始まった頃だったのか?
それを上手く説明出来なくて雛人形に辿り着く辺り、流石うちの先代・・・それには納得出来た。


「だが香月は見付かってないよな?」
「あぁ、そうだろう・・・逃げられたのか?この日記に寄ると相当出血してるけど、頭だろ?」

「そのままには出来ねぇよな・・・病院に行ってるなら判りそうなもんだけど」
「青田喜子はこれ以上知らないって事か?」


ページを捲るともう少し続きがある・・・俺とあきらは再びそれに目を向けた。





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