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plumeria

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本邸に戻ったのは午前0時半・・・もう屋敷中が静まり返っていて、俺が戻っても当然誰の出迎えもない。
勿論その方が助かるし、俺はさっさと自分の部屋に向かった。

頭の中ではあきらと読んだ日記の内容が、繰り返し想像上の映像として浮かんでくる。
ただ、それをどうやって俺の離婚に持って行けるのか・・・あんなことがあった紫が何故西門に嫁ぐ事を使命のように考えたのか、それが全然判らなかった。

もう少し何かが判れば紫を追求出来そうなのに・・・と廊下を歩いていたら、丁度中庭の向こう側にある事務所の中でキラッと何かが光ったのを見掛けた。


まさか泥棒・・・いや、築数百年という屋敷だが最新式の防犯設備が備わってる西門に簡単に侵入は出来ないはず。
そうじゃないのなら泊まり込んでいる弟子の誰かが忍び込んだのか・・・?

もしそうなら事を大きくする前に捕まえて追い出してやろう、そう考えて事務所近くの壁際に隠れて様子を窺っていた。


その光は懐中電灯のようだ。
そこまで眩しいわけでもなく、不規則な動き方・・・誰かの手によって動かされてるのはすぐに判った。そしてそいつが消えた時、ゆっくりと扉が開いた。

そしてパタンと閉める音・・・ここまでやってきたら捕まえてやろうと潜んでいたら、俺に気がつかず通り過ぎたのは紫・・・?!


「・・・なんで紫がこんな時間に事務所なんかに?」

その姿は寝間着に着替えていて厚めのカーディガンを羽織り、髪も後ろに束ねている。
懐中電灯と思われる物をその寝間着の袖に隠しているのか、両手を胸元にあてたまま足音を立てないように離れに消えて行った。


紫が見えなくなってから事務所に近づいてみると鍵は掛かっている。
・・・と言う事は、紫が鍵を開けて中に入り、何かを探ってまた鍵を掛けて出てきたって事か?だが、俺が知る限り紫に事務所の鍵は持たせていない。それなのにどうして・・・。

すげぇ不思議に思ったがこんな時間に事務長に聞くことも出来ない。
暫く廊下で今の出来事を考えながら、時間を見計らって俺も離れに戻った。


離れに戻ると紫はさっき見た寝間着姿でリビングに座っていた。
そして俺が入ると立ち上がり「お帰りなさいませ」とひと言・・・別段変わった様子も無く落ち着いているように見える。
それにカーディガンは着てないし懐中電灯なんて何処にもない・・・まるで今までずっとここに居ましたと言わんばかりに、自室で寛ぐ雰囲気を醸し出していた。


「起きていたのか」
「はい。でも、もう先に休もうかとも思っていましたわ。また美作様のお屋敷でお泊まりになるのかと・・・」

「向こうにも嫁さんがいる。そんなに毎回邪魔は出来ない」
「そうですね・・・あちらは仲が宜しいのでしょうし・・・」

「・・・嫌味か?」
「事実を申し上げただけです。でも、それも時間の問題ですわ。やはり跡取りは必要ですもの」

「・・・・・・もう休む。お前も早く寝ろ」


紫の口からその先を言われる前にさっさとゲストルームに入った。
そうして服を着替えベッドに倒れ込んだ時、寝室の扉が閉まった音が聞こえた。


色々知ってしまったから紫に対する嫌悪感というものは多少薄らいだような気もする。
それでも俺はつくししか愛せないし、紫音と花音を2人で育てたい・・・その想いは事件の真相を知っても揺らぐことはない。

どうにかして紫の口から本心を言わせることは出来ないものか・・・目を閉じてそればかりを考えていた。




次の日の朝、事務所に行って事務長にさり気なく「この部屋の鍵の保有者は誰か」と聞いてみた。
その問いに少しだけ不思議そうな顔をしたが、「警備システムの見直しを考えようかと思う」なんて適当な事を言うと答えてくれた。

「ここの鍵は総二郎様もお持ちですよね?後はお家元と家元夫人、私と志乃さん、古弟子の太田さん・・・だけですね。予備の鍵もありますがそれは確か家元夫人が保管されていると思いますよ」

「紫は持ってねぇよな?」

「紫様には・・・あぁ、そうですね。お渡ししていないのでこの前鍵を貸してくれって来られましたよ。私が外出する時には必ず鍵を掛けるんですが、丁度何かの書類を確認したいから事務所に入りたいって言われましたからね。
でも、その日の夕方お会いした時にはキチンと戻していただきましたよ?」

「1度貸したのか?それはいつ頃だ?」
「えーと・・・確か正月明けの初釜の後ぐらいですかねぇ?最近ですよ」

「・・・判った、ありがとう」


・・・って事は紫には合鍵を作るチャンスがあったって事だ。
薫を使えば誰にも咎められずに作りに行ける。昨日の夜はその合鍵を使って侵入したって訳だ。

でも事務長の様子からしてもこの部屋に変わった様子なんて無かったんだろう。紫はあんな深夜にコソコソと、一体何を探していたんだ?


コソコソ・・・?そう言えば随分前、紫はうちの蔵の周りを彷徨いてなかったか?
先祖代々の骨董品が納められた蔵・・・それに京都の先代の持ち物を納めた蔵の周りを歩き回って眺めているのを何度も志乃さんが目撃している。
俺も尋ねた事がある・・・そうしたら「茶碗には興味がない」と苛立って答えた。


まさか・・・自分が襲われた時の茶碗を探してるのか・・・?!
香月真一の血がついた偽物の天目茶碗・・・絶対に人目につかない場所で保管されるからとうちの先代が持ち帰った茶碗を見付けたいのか?

もしそうなら紫はその事を知ってるのか?
青田喜子の日記にはそんな事は書かれていなかった・・・でも、何かの事情で知ったのならそれも有り得るのか?


何故その茶碗を探すのか・・・理由は判らなかったが、もしかしたらこれで紫を誘導出来るかもしれない。




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「つくしママ、絵本よんでぇ!」
「はーい、ちょっと待ってね!」

花音に言われてリビングに行くと紫音と並んで本棚の前に立ち、並んでる絵本をいくつか持ってきた。
私はその中のどれがいいのか聞いたけど「なんでもいい!」と言われたから『人魚姫』を手に持った。


「はい、じゃあこれ読んであげるね!えっと・・・深い深い海の中にお城があって王様とそのお母様と、6人の美しいお姫様が暮らしていました。中でも一番末のお姫様は特別に美しく、薔薇の花のようにきめ細やかな肌に・・・」

「それ、ひとみママによんでもらった!」
「・・・うん、きいたことある・・・」

「え?あっ、そうなんだ!ごめんね、じゃあ別のものにしようか?えーと・・・」


別に花音が怒った訳でもないのに「ごめんね」って謝った自分に驚いた。
ただ一瞬、仁美さんと被らないように違うものにしなくちゃと思い、焦って本を変えた。そして今後は『青い鳥』・・・その表紙を見せたら首を傾げたから知らないんだと思って、その1ページ目を読み始めた。

「昔々、あるところに貧しい2人の子どもがいました。お兄さんの名前はチルチル、妹の名前はミチルと言いました・・・」

「それも知ってる~!鳥さんのおはなし!」
「お兄ちゃんと妹が出るからってひとみママがよんでくれたよ」

「・・・そうなんだ。ね、どれが読んでない本かな?判る?」
「「わかんな~い」」

「そっかぁ・・・」


結局その後もいくつか本を読んだけど、仁美さんが殆ど読み聞かせていたから双子は全部知っていた。
それならって考えている間に興味が薄れたのか今度は全然違うことをして遊び出す、その変わり身の早さについて行けなくて私だけが本を選び続けていた。

「あ!これはどうかな・・・え?」

もう後ろに双子は居ない。
自分達の部屋に行って、お気に入りのおもちゃで遊んでるようだった。


「はぁ・・・読んでない本なんて私には判らないからなぁ。こういう事がこれからもあるのかな・・・」


お昼ご飯の時も同じだった。

「ひとみママが好きなのはこれだよ」
「ひとみママ、すっごく上手におさかな食べるよ」
「ひとみママはいつもお茶をいれてくれたよ」
「ひとみママがいつもお肉切ってくれたよ」

その度に「そうなんだ?」って笑うけど、だんだん胸が苦しくなった。
子供達は比べてるんじゃない・・・ただ覚えている事を喋ってるだけ。それは判ってるつもりだけど彼女の名前を聞く度に自分にバツを付けられてる気分になる。

そんな事じゃこの子達に嫌われる、そう思って紫音と花音に頑張って笑顔を向けた。


頑張って・・・?

それが既に不自然だと判っているけど、今の私には頑張ることしか出来なかった。




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