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「2人で飲まない?」・・・そう言われて私はすぐに返事が出来なかった。
2人で飲みに行く、その意味はなに?と聞きそうになった。

こんな歳になってまで子供染みてる私・・・別に深く考えずに楽しい時間を過ごせばいいのに。
この人と飲みに行ったって誰からも咎められないし、私にはそれを怒る人なんていない・・・勝手に「悪い事」みたいに思ってるけど、全然そうじゃない。


こんなの普通だよ・・・もう1人の私が心の中で呟いた。


「ダメ・・・かな?やっぱり帰りたい?」
「あっ、いえ・・・何処に行きます?私はあんまり飲みに行かないから判らないんですよ」

「えっ?!いいの?じゃあさ、俺の知ってる店でもいい?」
「ふふっ、お任せします。お洒落なお店なんですか?美味しいの?」

「うん!なかなか旨いんだよ。ちょっと待って?席が空いてるか電話するから!」
「・・・はい!」


長谷川さんはすごく賑やかな通りで大声出しながら何処かに電話していた。

焦りすぎて何言ってるのか判んない。
しかも何処を見て話してるんだろう。どうしてそんなに手が動くんだろう。その必死なところが何だか可愛い・・・そう思えて込み上げてくる笑いを抑えていた。

身体は大きくて彼とは全然違う。
あの人達はこんな人混みで大声出さないし、予約なんてバッチリだから慌てたりしない。私の方がいつも釣り合わなきゃって思って背伸びして急ぎ足になる・・・そんな感じだったな。


「あっ、じゃあ今から行きますんで!ほな、宜しく~!」

どうやら予約が出来たみたい。
長谷川さんはハンカチで汗を拭きながら私の方に向き直り、ニコッと人懐っこい笑顔を見せた。


「今、丁度席が空いたらしいからどうぞって言われたんだ。場所はね、梅田阪急ビルのオフィスタワー。ロマンチックな店内だから牧野さん、喜んでくれるといいんだけど」
「そうなんですか?楽しみ~!」


そこまでは電車で僅か10分足らず。
私達はそこに行くまでに今日の居酒屋の話や大阪の美味しいお店の話、関東との食材の違いとかって言う話題で盛り上がっていた。
いい感じで酔ってる人も沢山居たから電車の中も賑やかだ。私はここに逃げてきて5年にもなるけど、夜間にあんまり出掛けないから今でも慣れない。
そう言うと長谷川さんは少しだけ悲しそうな顔になった。



「ここですか?」

案内されて入った店は、さっきまで居た居酒屋とはガラッと変わって高級感があった。しかも予約されてたのは隣り合って座るカップルシート・・・何故か向かい合うよりドキドキする座り方だ。
それに今までビールに焼き鳥とか串カツとかって居酒屋メニューだったのにカクテルに綺麗に盛り付けられおつまみ・・・薄暗くて静かな店内にすごく緊張した。


「・・・なかなかいい雰囲気でしょ?意外だった?」
「え?えぇ・・・あはは、ちょっと驚いた。長谷川さんのイメージじゃ・・・あっ!ごめんなさい!」

「あはは、いいよ、判ってるから。いつもここには男としか来ないから・・・実は俺も慣れないんだけどね!」
「・・・くすっ、だと思った!」


今度は会話がゆっくり・・・話してることは電車の中と同じなのに、場所が変わっただけで声のトーンも話し方も変わる。
少しだけ背伸びして大人の女みたいな口調になる自分が可笑しかった。


「・・・牧野さん、今は本当に1人なの?」
「えっ?あぁ・・・あはは、また言わせるんですか?いやだな・・・1人ですよ」

「でもあの時の彼の事・・・すごく好きだったでしょ?ごめん、こんな事言って・・・フラれたの?」
「・・・いいえ、私が飛び出てきたんです。もう・・・限界でしたから」

「牧野さんから?本当に?」
「もういいじゃないですか。忘れました・・・5年も経ってますから」


そうやって忘れようとしてるのに思い出させないで・・・その言葉はカクテルで喉の奥に流し込んだ。
私が限界でしたから・・・本当にそうなのか、今でも本当は考える。


怖くて逃げただけじゃないの?花沢類に自分から何も聞こうとしなかったクセに・・・。
逃げて楽になりたかったんじゃないの?花沢家を勝手に恐ろしい場所だと決めつけたんじゃないの?

彼から出される答えに怯えた・・・弱い自分に嫌気がさして東京から逃げたんじゃないの?


「あのさ・・・もし良かったら小豆島に来てみない?」

「・・・は?」

「うちの実家、オリーブ農園なんだ。青りんごとすももと蜜柑もあるんだけど、基本はオリーブを育ててるんだ。
結構山奥で田舎だし、驚くかもしれないけど穏やかでのんびりした良い所だよ。牧野さんに見せたいな、なんて思ったんだけど・・・だめかな?」


私が長谷川さんの実家に行く?
それって・・・どう言う意味?

私達、今日再会したばかりなのに・・・?





****************************





フランスを代表する企業家達が集まる船上パーティーがフランス南部の海上で行われる。それに出席するのが俺とゾフィーだと聞かされた時、その場で父さんに断りを入れた。
だが当然受け入れられる訳もなく、出席は業務だと言われた。


「別に深く考えることでもないだろう。彼女は秘書として同行する、そう思えば問題なかろう?」

「そうでしょうか?急にアランから変更になった理由ですら聞かされませんでしたからね。そこに他意があると思うのは当然でしょう?」

「それも気が乗ればの話だ。いつまでもあの娘に気持ちを囚われたままでは花沢物産が困るのだよ。
類、私はあの娘がダメだと言ってる訳ではない。お前が身を固めないことが困ると言ってるだけだからな?どちらでも構わないがあまり延ばすな。それでなくても社内でそういう声があがって来ているのだ。後継者はどうなるのか・・・とな」

「・・・フランスに居たのでは探すことも出来ませんけど」


そうは言ってみたものの、牧野の行方については今回もさっぱり情報はなかった。
以前は知っていた友人も今回は何も聞いていないと言われ、当然実家は何も知らなかった。勤務していた時の同僚にも新しい住所なんて言ってないし、可能な限り追跡したけど判らなかった。

今は日本に残っている総二郎に情報があれば連絡をくれるようにと頼んでいるだけ・・・それもこれまで1度もなかった。


「それなら本気でゾフィーのことを考えてみないか?彼女はお前が苦手とする、ある意味積極的な女性ではないと言う話だ。そこまで甘い生活ではなくても文句が出ないと思うが?」

「そんなご心配は無用です。今回は業務・・・そう言う事で出席しますが、それ以上の期待はしないで下さい」




その時の父さんの話は何だったんだ?

パーティー当日、ゾフィーはこれまでの印象とはまるで違う、魅惑的で挑発的なドレスで現れた。
腰近くまで大胆に開いた背中、深くカットされた胸元のデザイン、男性の視線を釘付けにしそうな谷間・・・身体にフィットしたドレスには太股が見える程のスリットまで入っていてアクセサリーも化粧もゴージャスだった。

そんな彼女をパートナーにして会場内を回る・・・当然そこに居る連中にはゾフィーが秘書だとは思わないだろう。


いつになく大袈裟な笑顔に近すぎる距離。
俺はそれを払い除けることも出来ずに、冷めた表情で海を見つめていた。






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2019/07/26 (Fri) 11:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

長谷川さん、流石ラガーマン!押せ押せですね!
押したら崩せると思ってるんですかね💦でも悪い人の設定ではないんですよ(笑)

つくしちゃんの事が忘れられなかったんでしょうね。
ここで逃してなるものか!って感じかな?


類君は・・・ふふふ、パパに追い詰められているようですね。
だんだん正体を現してくる魔性の女、ゾフィー・・・だったら怖いですが。

いやいや、短編だから💦そんな事件は起きないって思っててください!

2019/07/26 (Fri) 11:44 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/26 (Fri) 12:39 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/26 (Fri) 17:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは!

いや、そんな馬鹿な(笑)
肉の食べ過ぎだと思います・・・肉よ、肉!

そうそう、癒やしを求めてほろっとね(笑)
つくし、一発で落ちそうだなぁ💦

次の日から麦わら帽し被って作業してるのかも・・・うん、似合いそうだ♥


いやいや、ゾフィーちゃんも頑張ってるのよ(笑)
靡かない男を落とすのは谷間とスリットよ!!

私なら生きたタコ入れます(笑)

2019/07/26 (Fri) 22:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様、こんばんは。

ははは、いやいや、まぁまぁ・・・申し訳ないとしか💦

確かにそんな武器は類君には通用しませんよね!うんうん、そりゃそうだ!(笑)
色気なら類君の方にありそうですもんね!(ノーマルな意味です)

えーっと・・・(笑)
それはもう少し待って下さいませ♥ゆっくり進んで行きますから💦

でもちゃんと・・・ね♥

2019/07/26 (Fri) 22:32 | EDIT | REPLY |   

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