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plumeria

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婿養子を取らずに宝生から出された紫・・・その理由は何だったのか。
紫が1度言葉を止めたから俺から問い質した。

「どうして婿養子にならなかったんだ?お前、昔から西門に嫁ぐ事だけを言われていたと言ったよな?まさか、その時に俺に一目惚れしたからって言うのか?」

「・・・ふふ、そんな理由で将来を変えてくれるのでしたら喜んで言いましたけどね。親の言う事に逆らえるほど甘い家じゃありませんでしたわ。その頃はお父様もお母様も厳しかった・・・あの事件があるまでは」

「・・・じゃあなんで・・・」

「やっぱり忘れてるんですね・・・」


忘れてる?俺が何かを忘れていると言うのか?
紫が悲しそうに俺を責めること自体、何のことだか全然判らない・・・俺は紫の事を袋と親父から聞くまで何も知らない。

その事についてはまだ話そうとはしなかったが、思い出したくもないあの事件の事を紫は自分の口で語り始めた。




**********************


<side紫>

あれは前日に雨が降った、少し蒸し暑い日だった。
薫と2人でいつものように部屋で遊んでいたら使用人が木箱を持ってやってきた。

『紫お嬢様、これは岩代のご隠居様からですわ。遊び道具にでもどうぞ、と言う事らしいですが』

『・・・なぁに?これ・・・』
『なんだろうね?ゆかりちゃん、開けてもいい?』

『うん、いいよ』

使用人はそれを置くと部屋を出ていってしまったけど、薫が紐を解いて蓋を開けると中から綺麗な柄のお茶碗が出てきた。それは茶色の中に白っぽい半纏が沢山入ったもので、私はあまり好きじゃなかった。
こんなもの欲しくないし、遊ばないのに・・・と、面白そうに茶碗を眺めている薫を放ってお人形で遊んでいた。

薫もすぐにそれを手放して私と一緒に遊び始めたけど、後ろで足音がしたから振り向いたら知らない男が立っていた。


お父様と同じくらいの歳の人・・・?でもだらしない格好で気持ち悪い、ひと目見てゾクッとしたのを覚えてる。
そして薫も私の後ろに隠れて服の袖を握った。

ここは私の方が年上で宝生家の人間だ。幼いながらにそう思って薫を庇ってその人を睨んだ。


『あなたは誰?ここは私のお部屋よ。出ていって!』
『・・・はぁ~ん、確かにガキのクセに綺麗な顔してるな。このまま大人になったら・・・いや、ガキの顔だからいいのか?くくっ・・・』

『なに言ってるの?変な人・・・私たちにいじわるしたらお父様達が許さないんだから!』
『ゆかりちゃん・・・怖い』

『別に意地悪なんてしないって。しないからさ、お兄ちゃんにあんたの裸、見せてくれない?それだけでいいから大きな声は出すなよ?』
『えっ?!やだ、なに・・・?』

『お前みたいな子供に変な事はしないって。ちょっと見たいだけだから。触るぐらいいいだろ?お兄ちゃん、騙されてここに来たからさ、何か良い事がないと帰れないんだよ』

『やだぁ!なに、この人・・・いやあぁっ!』


男は私が大声をあげたから急に襲いかかって来て力任せに服を引き千切られた。梅雨時はもう薄着だったから呆気なく裸に近い感じにまで剥ぎ取られ、薫はそれを見て震えあがり声も出さなかった。
私も何が起きたのか判らなかったけど、兎に角怖くてそのまま庭に飛び出したら男は騒ぎになるのを恐れたのか追いかけて来た。

『いやああぁーっ!誰か、たすけてぇ!』
『黙れって!こいつっ・・・!』

庭師が綺麗にしている植木の中を夢中で走り回った。
足元が滑って何度か手をついたし、身体に泥がついたけど男は恐ろしい顔をしたまま私に手を伸ばしてくる!だから狭い隙間を縫うようにして逃げ回り、誰かが助けに来てくれる事を願った。
でも今日はお客様が来てるから使用人も忙しくて奥の部屋にまで来ない・・・私は声を出す事も忘れてひたすら男から逃げていた。

薫がいるから部屋からは遠ざからなきゃ・・・!それだけは考えていた。


『はぁはぁ・・・っ、来ないで!!』
『それ以上騒ぐな!大人しくしたら痛いことなんかしないから!』

『いやだぁ!いやぁーっ!!』
『大声出すなって・・・!わっ・・・うわあぁっ!!』


ゴン!と大きな音がして吃驚して振り返ったら、その男が足を滑らせた時、庭石に頭をぶつけたみたいで地面に寝転んで頭を抑えていた。ハッとして石を見たら少しだけど血がついてる・・・それを見たら怖くなって急いで部屋に戻った。
泥だらけだったけど薫を抱き締めて震えていたら、今度は薫が驚いた顔して庭を見た。


『どうしたの?かおる・・・』
『ゆかりちゃん、う・・・うしろ!!』

そう言われて振り向いたら、頭から血を流している男がフラフラしながら部屋の中に戻って来て、薫から引き離して私の首を絞めた!
驚きすぎて抵抗も出来ず、私は男の手を解こうと必死に爪を立てたけど、男の力は強くなるばかり・・・!
でもバタバタして足で蹴ったら力を緩められ、私は急いで男から離れて頭を抱えて踞った。その時、薫が『来るなぁ!!』と大声で叫んで、そこにあった茶碗で男の頭を殴った・・・!


『ぐわああぁっ・・・!!』

『かおる!!』
『・・・・・・・・・』


男は頭を抱え込んでヨロヨロしながらまた縁側に向かい、その状態で庭から何処かに消えて行った。
そして薫は放心状態でその場に立っていたけど、私が傍に行って腕を掴んだ瞬間に気を失って倒れてしまった。


その後駆け付けた屋敷の人間が何を言ってたのか私には全然聞こえなかった。
ただ、そこに散らばっている茶碗を必死に掻き集めた。

薫が犯人になってしまう・・・それだけは嫌だと小さいながらに思った。
私を助けるために薫は殴ったんだ・・・だから薫は悪くない!それだけを考えながら血のついた茶碗の欠片を拾い集め、薫が出しっぱなしにしていた保護材に包んで自分の両手の中に抱え込んだ。

その時の光景は今でも忘れる事は出来ない。
恐ろしかった・・・真っ赤な血を流しながら向かってくる男の顔が、何年経っても私を苦しめる・・・。


悪いのは私たちじゃないのに・・・!




***************************




紫の話は青田喜子の日記に書かれている事と一致した。

問題はその後だ。
確かにこの事件は紫と薫にとっては悲劇・・・だからといって西門だけを恨むのか?岩代の爺さんの嘘には気が付いていないのか、それを紫に聞いた。


「その男は香川って言う京都の骨董品屋の息子だ。うちの先代が勘違いして、香川がこの屋敷の雛人形を見たいと思い込んだのと、宝生の先代に茶碗を勧めようとして連れて来た男だ。その勘違いを説明したのも紫の存在を教えたのも岩代の爺さんだ。もう1度聞くが、それは知ってるのか?」

「・・・えぇ、知っています。あの後偶然聞いてしまったんです。岩代のお爺様とその時の使用人・・・名前は忘れましたけど使用人の女性がコソコソと話してるのを聞きました。
驚きました・・・私が香川というその男を殴った事になっていたのですね。だからお父様達は私に対してすごく気を遣うようになったんだと、その時に知りました」

「・・・紫のせいにすれば宝生が事を荒立てずに、自分のした事を隠し通せると思ったんだろうな。初めから面白がって紫の部屋を教えなきゃ良かったんだ」

「・・・岩代のお爺様は使用人に自分の話に総て合わせるようにと何度も話していました。私はお爺様をとても信用していましたから、言葉では言えないほどショックでした。そして、その時に私が集めたこの茶碗の行方が西門だと知ったのです。
事件の時は誰にも渡すまいと必死だったけど、お父様に取り上げられて処分されたと思っていました・・・だから、それにもすごく驚きました」


「香川がどうなったのかは聞いたのか?」

「・・・いえ、聞いていません。でも何となく察しています。亡くなった・・・そう言う事でしょう?」

「・・・多分な。青田喜子の日記にはそう書いてあったから」


紫は小さくため息を漏らし、桐箱を抱えている手の力も緩んできた。
ドアに凭れ掛かった髪は乱れ、化粧はしているが真っ青な顔・・・そこに浮かぶ赤い唇が怖いほどだ。

蔵の中で探し回ったのだから着物の裾も汚れたまま・・・そんな彼女に質問を繰り返す俺はなんて酷い男だろうとは思うが、ここで止めるわけにはいかなかった。


「それで、どうして紫は蔵に忍び込んでまで割れた茶碗に拘ったんだ?薫の罪を表沙汰にしないためか?それなら責任能力はないし、大体襲ったのは・・・」
「この箱の中に紛れ込んだはずだから・・・それをどうしても取り戻したかったんです。あなたが・・・くれたものだから」

「・・・は?俺がお前にやった・・・何をだ?」


「ほらね・・・もう忘れてる。桜の茶会の思い出です・・・」


微かに微笑んだ紫・・・俺には何のことだか全く判らなかった。




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