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plumeria

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「じゃあ今日泊まる所に行こうか。大きなホテルは嫌だろうからゲストハウスを予約したんだ。凄く人気の所で眺めもいいから気に入ってくれると思うんだけど」
「私は何処でも大丈夫です。そうね、豪華なのよりは民宿みたいなのが好きだから」

「基本自炊だけど作らないでしょ?夕飯は軽く食べて行こう。朝は作ってもらえるよ」
「はい、お任せします」

長谷川さんが連れて行ってくれたのは、フェリーを下りた場所に近いゲストハウス。
窓から見る夕焼けの景色が素晴らしいと評判で、ホストさんも凄く親切で優しいらしい。近くまで行ったら適当に見付けたレストランで少し早めの夕食を一緒に食べた。

その時間、長谷川さんは自分の子供の頃の話を沢山聞かせてくれた。
始めたばかりのオリーブ農園で悪戯して叱られたとか、あまり知られてない綺麗な海水浴場があるとか、友達と釣りをしていて溺れそうになったとか。

それを聞く度に彼の生活と掛け離れてるなって・・・どうしても比べてしまう自分が居る。


「ふふふ、ガキ大将だったのね?長谷川さん」
「え?そんな事ないよ?こんな田舎で育ったらみんなそうなるんだって!他に遊ぶものがないんだからさ」

「でも楽しそう。田舎暮らしっていいですよね。私も子供はこう言う場所で育てたいなって・・・やだ、変な事言ってごめんなさい」

「・・・いや、俺もそう思うよ」


ばか、つくし・・・。
途中で止めるから可笑しな空気になるのよ。普通にサラッと話せばなんて事ない会話だったのに。

この後は話題を変えてまた盛り上がり、食べ終わったらすぐに移動してゲストハウスの入り口で降ろしてもらった。


「この先に普通の家みたいなのがあるからそこね。すぐ下にはプライベートビーチもあるから行ってみるといいよ。それに静かだし、ぐっすり休めると思う」

「色々ありがとうございます。何だかワクワクしますね!いつも騒々しい街に居るから」
「あはは!だろ?そう思ってここにしたんだ。じゃあ、また明日!」

「・・・おやすみなさい」


予約してもらったゲストハウスは大自然の中にポツンとある感じで緑に囲まれた素敵な場所だった。

泊まる部屋は綺麗だけど、少し小さめ・・・それが私にはちょうど良かった。それに長谷川さんの話し通り、テラスから見える夕日は本当に綺麗だった。
見ていたら涙が出るぐらい・・・1人で見るのは逆に辛いような気さえする夕日だ。



それでも沈んでいく夕日が見えなくなるまで私はずっと眺めていた。

一緒に見たかったな・・・

素晴らしい景色を見た時にはいつもそう思う。なかなか抜けない癖・・・。



次の日の朝はホストさんお手製の焼きたてパンと香り高い珈琲で始まった。
それに朝の海を眺めながらの朝食はまるで映画の中みたい。小鳥の囀りと波の音、風に乗ってくる潮の香り・・・何処かで船の音がする。久しぶりにのんびりとした贅沢な朝。

約束の時間になったらホストさんに挨拶して、昨日降ろしてもらった場所に行った。
そうしたら車が路肩でエンジン掛けてる・・・もう長谷川さんが待ってることに驚いて、急いで駆け寄った。


「おはようございます!ごめんなさい、随分待たせました?」
「おはよう。いや、来たばっかりだよ。どうだった?夕日、綺麗だったでしょ?」

「はい!とても綺麗でした。静かだし、ぐっすり寝ました」
「ははっ、それは良かった!じゃあオリーブ園の見学に行こうか」

「・・・はい」


長谷川さんのご両親のオリーブ園・・・そこに私が行くことにこの時点でも多少の戸惑いはあった。
恋人関係じゃないとしても男性の両親に会うという行為そのものに恐怖心があって、それはこんなに月日が経っても変わらない・・・私の尤も苦手なシチュエーションだ。

車は私の知らない道を走り、暫くすると大きな農園に着いた。
そこが目的地・・・車を停めると長谷川さんは何故かすごくハイテンションで私を畑に案内してくれた。



「うわーーー!!これが全部オリーブですか?」
「こっちがオリーブであの向こうには青りんご、この奥にはすももと蜜柑農園。蜜柑の木には今、小さな実がなってるよ」

「蜜柑畑はテレビで観たことあるけどすももは初めてかも・・・」
「残念!すももは収穫が終わったばかりだから何にもないんだ。青リンゴはまだ研究段階かな?なかなか条件に五月蠅いヤツだから」

「そうなんですね・・・でも何かを育てるって夢がありますね」


蜜柑の木は緑色が濃かったけど、オリーブ畑は銀色が入ったような緑色。その木が斜面いっぱいに植えられていて、日曜なのに作業をしている人が数人見えた。
すると木の陰からひょいっと愛想のいいおじさんが顔を出して「いらっしゃい!」のひと言・・・それに釣られて「こんにちは~!」と大声で返事したら、その人が長谷川さんのお父さんだった。
すぐに出てきたのは日除けの帽子を被ったお母さん。2人並ぶと如何にも田舎の気の良いご夫婦って感じで、長谷川さんの人懐っこさが判る気がした。


「まぁまぁ、こんな山の中によう来てくれましたねぇ!」
「暑かろうから日陰に案内せんか、弘海」

「あぁ、そうする。少し畑の風景を見せようと思ったんだよ。彼女、ずっと都会暮らしだからさ」
「お構いなく!少し見学しても良いですか?作業のお邪魔はしませんので」


確かにこんな雰囲気は味わうことがないから新鮮・・・梅雨の晴れ間だし、空気は美味しいし、大きく背伸びしたくなる感じ。太陽を仰ぐなんて久しぶり・・・本当は歳を考えたら日差しなんて大敵なのに、私は両手で目を覆いながら空に目を向けた。


青いなぁ・・・・・・・・・すごく青いよ、花沢類・・・・・・。


気が付いたら呼びかける彼の名前。それにハッとして目を地面に戻した。


オリーブは5月の終わりから6月の中頃に掛けて金木犀に似た花を咲かせるらしい。
風媒花だから自家受粉はしないって事で違う品種を2種類植えるんだと教えてくれた。それでも組み合わせが悪かったら受精しないという気難しい木らしい。「我儘だなぁ」と、そこにある木に向かって呟いてしまった。

「ははは!確かに我儘言われればそうかもなぁ!」
「あっ、ごめんなさい・・・」

「色んな条件がある木やけど、ちゃーんと花が咲いて実った時の歓びは一入や。なんたって日当たりは絶対やし、土だって好みがきちんとあるし肥料はようけ(沢山)要るしなぁ。それに剪定の仕方も樹齢によって違うしな」
「大変なんですね・・・」

「大変だから可愛いんかもな。今から摘果と言って余分な実を取る作業や」
「実を取るの?」

「ひと枝に3~4個残す感じでなぁ」


摘果とは隔年結果を防ぐ為の作業だそうだ。

余分なもの・・・枝に残された実ではなくて、摘み取られた実の方に目が行った。




*********************




総二郎から連絡があったのは少し遅めのランチタイムだった。
外に出掛けたくもないから社員食堂で簡単に済ませ、食べ終わって執務室に戻り珈琲を飲んでいた時にその知らせが飛び込んで来た。


「総二郎・・・何かあった?そっち夜だよね?」

日本からの電話だから当然話すのは日本語。その聞き慣れない言葉にチラッと俺を見たゾフィーに背を向けて、総二郎の返事を待った。


『類、仕事中に悪い!あいつの・・・牧野の居場所が判ったぞ!』

「・・・えっ・・・・・・牧野?!」


牧野の居る場所が判った、そのひと言で俺の心臓がバクン!と音を立て、瞬間苦しさを覚えたほど・・・!
突然耳に入ったその名前に、喜びと言うより恐怖に似た感情が湧いた。あの時のままの彼女だったのか・・・それを聞くのが少し怖かった。


「ホントに?あいつ、何処に居た?!」

『居場所が判ったって言うか、あいつの姿がテレビ中継の端に映ったんだ。場所は小豆島、旅番組のインタビュー受けてる奴等の後ろを歩いてた。テレビ局に知り合いがいたからそいつに無理言って収録のデータをもらったんだ、今からそっちに転送する!』

「小豆島・・・?瀬戸内海の、あの小豆島?」

『あぁ、そうだ。でも見てから驚くなよ?牧野1人じゃねぇから。連れが居る・・・しかも男だ』

「・・・・・・男?」


牧野が俺の知らない男と居る?
その男と小豆島に・・・牧野がもう俺じゃない男を選んでるって言うのか・・・?


総二郎がすぐに送ってくれた映像を見ると、確かに画面中央のインタビューを受けている女性達の後ろを通過する2人組がいる。そこを拡大したら・・・・・・牧野の横顔が映った。
その顔はやがてゆっくりとカメラに向かい、正面が映し出された。

そこで映像を止めた。
5年ぶりに見る牧野の表情・・・少しぼやけてるけどあの頃と少しも変わってないように見えた。


ちょっとだけ悲しそうな笑顔・・・あんた、今でもそんな顔して暮らしてるの?


そして総二郎の言ったとおり、横には知らない男が嬉しそうな笑顔で映っていた。
大きな体つきの日焼けしたヤツ・・・牧野に向けたその笑顔は何だ?



嬉しさと同時に湧き上がるジェラシー・・・暫くその画面を見つめた後、俺は日本行きのチケットを手配した。





rain-2422642__340.jpg

豊作と不作を繰り返す性質が隔年結果です。
オリーブの品種によってはこの性質が強いものがあるんだそうですよ。
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2019/08/01 (Thu) 11:59 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/01 (Thu) 12:13 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/01 (Thu) 14:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

そうですね~!ご両親はいい感じですね(笑)
弘海君は・・・どうでしょう?このままバイバイ!とはいきそうに無いですけど。

またやっちゃいましたね・・・日本とフランスの時差!
毎回時差計算で確かめながら書いてますが、今回も間違って無いといいけど・・・💦

確かにどれだけ急いでも間に合いませんけど、それでも捜すのですよ(もうここは無理矢理です!)
追い掛ける類君、追い付くのはいつかな?

2019/08/01 (Thu) 21:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様、こんばんは!

あはは!プライベートジェットの手配に時間が掛かりそうですね💦

まぁ、類君にしてみれば、つくしちゃんが観光なのか住んでるのか知りませんからね。
取り敢えずすぐに向かっていただきましょう!
今度はそこで追いかけっこです。

でもつくしちゃんかくれんぼは得意でも、類君相手の鬼ごっこは勝ち目がありません(笑)
捕獲されるのを待ちましょう。

問題は何処で捕獲されるのか・・・ですね!予想しながらお待ち下さい♥

2019/08/01 (Thu) 21:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは!

そうそう!キウイみたいなもんですよ。
でも以外とそういうのあるんですよ。林檎にもそういう品種がありますし。

オリーブも超俺様で我儘なヤツから、冷めてて好きにしたら?みたいな品種もあるみたい。
でも難しい部類ですよね。
我が家には蜜柑しかありませんが、何にも世話してやらないので美味しくありません(笑)


あぁ、こっちの類君の心臓は止まってないみたい(笑)
良かったね~!

2019/08/01 (Thu) 21:17 | EDIT | REPLY |   

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