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「お忙しいところ、見学させていただいてありがとうございました。お土産まで頂いちゃってすみません」
「いやいや、お構いもせんでねぇ!牧野さん、やったかな?良かったらまた遊びにおいで」

「はい、ありがとうございます」

「弘海、ちゃんと港まで送るんよ?」
「判ってるって!」


長谷川さんの実家の農園でお昼ご飯をいただき、オリーブオイルのお土産まで貰ってしまった。それに自家製ジャムやお母さんの作ってくれたお惣菜まで。
その庶民的なやり取りは昔を思い出して懐かしかった。
お漬物なんて貰うの、何年ぶりだろう・・・如何にも自家製だと思われるビニール袋の中のお漬物を見ながら思わず頬が緩んだ。

「まぁ、ホントにこんな可愛らしい人をねぇ・・・」、そう聞こえたお母さんの声。
私がその声に反応して顔をあげると長谷川さんがお母さんを小突いていた。

照れるというより何故か気不味い・・・ここに来たことはやっぱり軽率だったかな、と私は俯き加減で笑うしかなかった。


沢山いただいたお土産は長谷川さんが持ってくれた。
何度も「足元に気を付けて」と長谷川さんの声が掛かり、蹌踉けながら降りる農園の斜面。そこから振り向いたら山の上ではまだご両親が手を振って見送ってくれていた。だからもう1度深く頭を下げてから山を下った。

なんだろう、この罪悪感・・・。



「じゃあ牧野さん、これから行きたい所があるから車に乗って?あんまり時間が無いからさ」
「あっ!はーい!」

そう言えば長谷川さんは農園の後、行きたい場所に付き合ってくれって言ったっけ。それが何処なのか聞いてはいなかったけど、私は急いで彼の車の助手席に乗り込んだ。


車が向かったのは30分ぐらい走ったところにある「エンジェルロード」という観光名所だった。1日2回の干潮の時にだけ海の中から現れるという砂の道のことをそう呼ぶらしい。
だからその干潮時間に行かないと渡れないという貴重な道なんだとか・・・でも長谷川さんが向かったのは今、現れている道の向こうじゃなくて入り口付近の丘を登った場所にある展望台だった。

展望台と言っても本当に小さくて誰も居ない・・・小さな鐘があってそこに書いてある文字がすぐに目に入った。


『約束の丘展望台・恋人の聖地』・・・漠然と彼がここに連れて来た意味が判った気がして戸惑った。


そこからは「エンジェルロード」がはっきりと見える。
態とらしくそこを歩く人達を見るように鐘から遠のき、長谷川さんに背中を向けたけど、真後ろに立たれた事が判ると心臓がバクバクした。
「お願い・・・何も言わないで」、そんな言葉を心が呟いたけど、それは意に反してすぐに聞こえてきた。


「ごめん、こんな文字見たら想像するよね。でもその通りなんだ・・・牧野さん」
「・・・え?」

「初めて会った5年前・・・あの時に一目惚れしたんだ。でも大事な人が居るって判ったから諦めるしかないって思ってた。その後も彼女なんて出来ないままだったんだけど、森川さんの会社で君に再会したら気持ちが戻って来たんだ。
一緒に飲んだ時も楽しかった。ずっと君と居たいと思った・・・。こんな場所で天使の力を借りようなんて柄じゃないけど、そいつを借りてでも君と恋がしたい・・・牧野さん、俺との事を考えられないかな」

「・・・天使の力?」

「あのエンジェルロードはね、大切な人と手を繋いで渡ると砂州の真ん中で天使が舞い降りてきて願いを叶えてくれると言われてるんだ。そんなロマンチストじゃないけどこの後君と手を繋いで渡りたいって・・・そう思ってる」


「・・・長谷川さん・・・私、何にも持ってない女ですよ?」




***********************




「類!どういう事だ?急に帰国するなど私は許可してないぞ!」
「申し訳ありません、でもどうしても日本に戻らないといけなくなったんです」

「何があったのだ?お前は今、オクレール社との新規事業の責任者だろう!」
「それについてはお任せしても宜しいですか?もう時間がないので出掛けます、話なら帰ってからで」

「馬鹿を言うな!それ以上に重要な何かがあるというなら説明してから行け!」


牧野を見付けたという知らせを聞いて、一番早く日本に帰れる飛行機の手配をした。
それに乗るにはすぐにでもここから出ないと・・・そういう時に社長である父さんに玄関前で引き止められ理由を問い詰められた。

それも当然の事だとは思うが今はそれどころじゃない。このチャンスを逃したら2度と牧野を掴まえられないという気がするから何があっても帰国するつもりだった。

たとえこれで花沢物産を追い出されても構わない、そこに甘えは一切なかった。


怒鳴り声を浴びせられても行こうとする俺に我慢出来なくなったのか、父さんは急に俺の肩を掴んで無理矢理自分の方に身体を向かせ、その後で胸ぐらを掴みあげられた。そして「答えろ!」と鋭い目を向けられた。

その手を振り解き、歪んだネクタイを逆に外しながら真っ直ぐに父さんの目を見た。


「彼女が見付かったんです。だから迎えに行く・・・それが帰国の理由です」

「なに?彼女・・・あの子が見付かった?・・・それだけなのか?!」

「それだけです。でも俺にとっては何よりも重要な事・・・たとえ総てのものを失っても彼女を取り戻したいと思っています」


「・・・・・・花沢を捨ててもか!」

「それでも構わない。どうしてももう1度彼女と会いたい・・・俺の総てなんです。あの時に手を離してしまった事、追い掛けなかった事をずっと後悔してきました。もうそんな思いはしたくないんです。
ごめん、父さん・・・処罰は後でいくらでも受けます。今は行かせてください」


そう言い残して家を飛び出し、タクシーを飛ばして空港に向かった。
そして予約した飛行機に乗り込み、総二郎から連絡があった時間から6時間後にはフランスを飛び立った。




羽田に着いたのは翌日の14時半、それから急いで小豆島に行くために国内線で高松空港に向かう飛行機に乗り換え、そこに着いたのはもう17時。
小豆島に渡るには高松港から出るフェリーに乗らないといけないからタクシーを飛ばして30分、17時50分の高速船で小豆島に足を入れたのは18時半だった。


そこでもタクシーを拾って、総二郎から送られたスマホの画像を見せた。

「この場所に行きたいんだけど、ここから近い?」
「え?あぁ、オリーブ園ですね。そうだなぁ、20分もあれば行くと思いますが、この時間はもう施設は終了してますが?」

「営業時間が終了してるって事?・・・じゃあその付近にホテルある?」
「小さめのリゾートホテルならすぐ近くに有りますが予約は?」


予約はしていないと言えばそこに電話してくれて、空室があったから泊まる事にした。


そのホテルの部屋の窓からは牧野が撮影に映り込んだと思われる公園が見える・・・そこをジッと眺めながらその場を想像した。

一緒に映っていた男・・・そいつは牧野の事を想っている。
でも牧野の表情にそれと同じ想いは感じられなかった・・・それなのにどうしてこんな場所を2人で歩いてたの?

あんたはこの島に住んでるの?
まさかその男と・・・・・・いや、そんな顔じゃなかったよね?


『今までありがとう。
私は総て忘れます・・・類も全部忘れて下さい。さようなら』



牧野・・・俺は忘れなかったよ。
そんな事は出来ない・・・忘れられるような想いじゃない。

あんたは忘れてしまったの?本気で全部忘れて、そいつと同じ道を歩もうとしてるの?


それならどうして笑っていなかったの?


久しぶりに過ごす日本の夜は見たこともない瀬戸内海の島の中。
すぐ近くに牧野の存在を感じながら動くことも出来ない・・・焦れったい想いを抱えて1人佇んでいた。





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2019/08/03 (Sat) 11:33 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/03 (Sat) 12:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは!

あっはは!時差計算に苦しんでますか?
土曜日の夜にフランスを出た類君が日本に着くのは日本時間の日曜日の午後です。
何度書いてもこんがらがります💦違う国に居る2人を書くのは難しいですね。

暑いので深く考えないようにしましょう(笑)


総ちゃんのお話、やっとゴールテープが見えてきました💦
いやいや、辛かった(笑)

ここからラストまではほんわか行こうと思います。もう事件はありません(当たり前)!!
どうぞ見届けてヤって下さい♥

真夜中の(笑)

ははは!巫山戯まくってるお話しですが、私の息抜きです。
まだ色が少ないようなのでもっと増やしていきますよ~♥

みわちゃん様もお身体に気を付けて下さいね。
我が家はこのクソ暑い中、外壁塗装中💦家の中が蒸し風呂です・・・。

2019/08/03 (Sat) 13:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは!

あらら💦時差計算でお悩み(笑)判りますよ、私も不安になります。
土曜日の夜にフランスを出ると日本時間の日曜日の午後に着くのです。と、言う事は・・・・・・

もし間違えていたらどうしよう、と思いながら書いてます(笑)

出会うのは何処だろう?(笑)追いかけっこは続いています。

2019/08/03 (Sat) 13:58 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/03 (Sat) 15:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

えぇ、めっちゃ動きの速い類君です(笑)
仕事はええんかーい!って思うけど。

いいよね~、飛行機に抵抗のない人って。
12時間ぐらい乗るんですよ?わたしゃ死にそうでした(笑)
東京の人はそこから家だけど、地方の人間はそこから国内線だもんね。ヨーロッパはキツいわ~💦
もう2度と行かないだろうけど。

せっかくだから小豆島に行こうかしら(笑)
ここなら車でもいけるかも?

エンジェルロードの真ん中で旦那と相撲でも取ろうかしら💦


何処で会うんでしょう・・・私の予想では大阪の「グリコ」の前。

2019/08/03 (Sat) 21:45 | EDIT | REPLY |   

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