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plumeria

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事件の事とその後の事を話してからも紫は虚ろな目は変わらない。
どのぐらいだったのだろう・・・時計を見たら午後3時、薫はどうして居るのかと気になった。

この寒い中、まだ廊下か何処かで俺を見張ってるのだろうか。


「薫は何処だ?ここに連れて来てあいつからも話を・・・」
「それは出来ません」

「・・・え?」
「薫にはこの話をしないで下さい、と言いましても薫とは何も話せませんよ」

「話せない?どういう事だ?」
「・・・薫はショックでその時の記憶を失ってるからです」


薫が記憶を失っている?・・・それを聞いて驚いた。

それなら紫は何故ここまで薫の事を気に掛けるんだ?主従の関係なんてもんじゃない・・・此奴らの結びつきは本物の姉妹のように見えたのに。
それは一緒に襲われたという悲劇がそうさせてると思ったが、違うのか・・・?


「薫は何も覚えていないのか?襲われた事も、実は自分が香月を殴り倒したって事もか?その後に何が起きたかも・・・」
「何も覚えていません。私は意識を失っていませんでしたから総てを覚えていますが、薫はその日から3日間意識が戻りませんでした。そして戻った時の第一声は、まるで普通の目覚めのように『ゆかりちゃん、おはよう!』・・・だったんです」

「・・・紫の事は覚えていたのか?」
「私の事や両親、宝生の人間の事は覚えていました。でも、自分の弟妹を失ったことは判っていませんでした」

「弟妹を失った?」


そう言えば青田喜子の日記にもあった・・・身重だった母親と言う文字。
まさかこの時のショックで流産したのか?だから・・・薫も独りっ子なのか?

紫に聞けば「そうです・・・」の返事だった。
薫の母親は流産して、その後は妊娠しなかった。そして薫は記憶を失うまでは自分の妹か弟の誕生を心待ちにしていたらしい。
生まれて来る弟妹は自分の宝物だと、そう言ってまだ腹の出ていない母親に縋り付いて楽しみにしていたと。


「・・・薫が何も覚えていなかった事は信じられなかったけど、逆に羨ましかったんですよ。私は今でも襲ってくる男の顔を忘れる事が出来ません。でも忘れたとは言え、私を助ける為に男を殴ってしまった薫の事を思うと不憫でならなかったんです。
もしかしたら将来不意に思い出すかもしれない・・・自分が人を殺めた事を思い出すかもしれません。その行動が元で自分の弟妹を失ったことを思い出したらどんなに悲しむでしょう・・・。
だから私はあの子を片時も離せなかったんです。常に傍にいて守ってやらないとって・・・」

「真実なら仕方ねぇだろう・・・無理に教えなくてもいいが、思い出したのなら・・・」

「でも私はそれを利用して西門に嫁ぎましたから。正直に言えば薫が総てを思い出して、万が一でも総二郎様に知られるのは嫌だったんですよ」


薫の為でもあるが最終的には自分の為・・・自虐的に薄く笑いながら紫の目から涙は溢れ続けた。


その後も薫の事については少しだけ聞いた。

赤い色が嫌いなのはあの時の男の血のせいだろうと言うこと。実際、意識が戻ってから薫は赤い色を嫌いだと言ってランドセルもピンク色にしたそうだ。


「もうここまでお話したから申し上げますけれど・・・」

そう切り出しだのは京都の夜の事。
あの時、実は紫の命令で一乗寺の屋敷に薫を忍び込ませたと言われて驚いた。

予め一乗寺の屋敷の住所を調べて薫には1人で向かわせ、俺達が爺さんの屋敷に入った後で「紫の付き人」と名乗り、俺達と時間をずらして侵入に成功。
その後は密かに隠れて紫が風呂に向かった時に庭陰で落ち合い、計画していたことを実行しようとした。


「総二郎様が薫を同行させないなんて仰るから、無理な計画になったのですわ」

「計画?お前が俺に薬を盛った時のだろう?あれもまさか薫が関わってたのか?」

「いいえ、お茶を入れたのは私だけです。薫には私たちの抱き合う場面を写真に撮るように頼んでいましたの。総二郎様には内緒で忍び込ませたから庭から撮るしかなくて、だから縁側のよく見える場所にしたかったのにあなたは私を抱きかかえて奥の間に移るし、その上正気を取り戻して途中でお止めになるし・・・。
私、必死でしたのに未遂に終わられて、それはそれで悔しかったわ」

「はぁ?!ちょっと待て、なんでそんな場面を写真に撮ろうなんて思ったんだ?!で、撮ってねぇって事か?」


俺の慌てようを紫は鼻で笑った。
そして「悔しかった」ってなんだ?あの時確かに瞬間紫に飛び付いたが、その時こいつはビビってたじゃねぇか!だから俺で遊んだとしか思えなかった。
それか本当に子供を作るための行為として実行したのか・・・それなら「悔しかった」は納得出来るのか?


「ふふっ・・・さっきから話してるのに、やっぱり判って下さらないのね」
「どういう事だ?」

「私はね・・・あなたの事が憎くて憎くて仕方なかったんです。でも憎さの裏側には幼い頃からの恋心がずっとありました。もう1度思い出して欲しかったけど、あなたがあの女性を諦めるどころか想いを強くし続ける・・・そう感じたから証拠を突きつけてやろうと思いました。もしも私たちの前に現れたら総二郎様が私を抱く姿を叩き付けてやろう、そしてあなたに近づけないようにしてやろうと思いましたの。本邸だとあなたは絶対に私の部屋には来ませんもの・・・だから京都で実行しようと思ったんです」

「・・・そんな馬鹿な事を」

「えぇ・・・そんな馬鹿な事を薫に言って協力させました。総二郎様に纏わり付く女を退ける材料だと・・・。でも、薫ったら肝心な時に庭の寒椿の紅色を目の前で見たそうなんです。それで怖くなって庭を走り回って逃げたんですって。
だから写真なんて撮っていません。計画は全部お流れでしたわ」


俺が見た庭を走る影・・・あれは薫だったのか。
志乃さんに聞いても薫は西門に居なかったし、あきらのとこの警護の人間が宝生で確かめても、あの期間中薫はどっちの屋敷にも居なかった。
まさかそんな事をしようと思っただなんて・・・。

先日鷹司会長との会話を盗み聞きさせたのも、俺が会長には何かと相談していることを知っていたから「纏わり付く女」についての情報だったら仕入れて来いと申しつけたそうだ。


「夢だったんです・・・あの事件が起きるまでは私は総二郎様の事ばかり考えていました。
それが一気に崩れたと思った時のショック・・・約束の髪飾りをなくしたこと、薫から記憶も弟妹も奪ってしまったこと、そして総二郎様が私を裏切ったこと・・・運命は私をどれだけ地獄へ突き落とせば気が済むのかと思った時、それならば西門を自分の物にしようと思いました。
あなたから愛されなくても私しか跡取りを産めない状況を作り、その子に西門を継がせる・・・それでも良かったけど、実はもう一つ考えていたこともあるんです」

「考えていたこと?なにを・・・」


「私が家元夫人になった時、西門流を潰すことですわ・・・西門家への復讐として」




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「花音、どうしてこんな事をしたの?自分で片付けなさい」
「・・・やだもん!」

今日は花音の様子がおかしかった。
朝から何故か機嫌が悪い・・・それは仁美さんの姿が見えなくなった事と関係していると思うけど、紫音が頑張って作ったジグソーパズルをひっくり返してぐしゃぐしゃにしてしまった。
紫音は初めだけ大泣きして私の所に言いに来たけど、今は落ち着いて自分でパズルを作り直している。でも花音は何故か拗ねたまま謝ろうとしない。

精神的に不安定・・・何かがこの子を不安にさせているのは判るけれど、毎日のように言い聞かせても判ってくれないことに少しだけイラッとしていた。

抑えなきゃいけない・・・それは判っているけど、私も存在を拒否されているような気がして大人気なく腹が立っていた。


「これは紫音が頑張って作ったんだよ?花音も見ていたよね?それなのにどうしてこんな意地悪するの?」
「かのん、知らない!かってに落ちたんだもん!」

「そうじゃないでしょう?そうだったら紫音が泣かないでしょう?ちゃんと謝ったらそれでいいの、判るよね?」
「わかんない・・・かのんのせいじゃないもん!」

「花音!どうしてそんな風に言うの?人が嫌がることはしちゃいけないって教えてもらったでしょう?」
「だって!!かのんがイヤなことはしたじゃん!」

「・・・え?花音が嫌なこと?どんな事なの?」
「・・・ひとみママ、いなくなったじゃん!」


そう言われた時、私はカッとしてしまった。
そうして打つ気なんてなかったけど右手が途中まであがった・・・!それを見て花音がビクッとして怯えた目を向け、次の瞬間には私を突き飛ばして部屋から出て行った!


「花音、待って・・・花音!!」
「つくしママなんてキライ!!しおんもキライ!!うわぁーーーんっ!!」

「かのん!」


紫音が花音の名前を呼びながらすぐに後を追って出て行き、私は自分の途中まであげた手を見て・・・涙が出そうだった。

つくしママなんてキライ・・・こんなに早く言われるとは思わなかった。






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