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plumeria

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「私が家元夫人になった時、西門流を潰すことですわ・・・西門家への復讐として。でもそれも勘違い・・・」

紫がそこまで話した時、ガタンと物音がして俺達はハッと後ろを振り返った。
そこに居たのはお袋・・・今の言葉に驚いて壁に身体をぶつけたようだった。

その顔は硬直して唇もワナワナと震わせている。
紫はそれを見ても、もう動じなかった・・・これで何かが吹っ切れたかのように桐箱を隅に寄せてお袋の方に向き直り、両手をついて頭を下げた。


「お義母様、お聞きになったのですね。申し訳ありません・・・私はこの家には相応しくない嫁です。処遇についてはお義父様とお義母様のご判断にお任せします」


「紫さん・・・あなた、西門を自分のものにってどう言う意味なの?!」

「お袋、何処から聞いてたんだ?!」

「わ・・・私はたった今来たばかりよ。用があって書斎に行ったら総二郎さんが居なかったから・・・それで・・・それで・・・」


興奮して呂律が回らないお袋は震える手で自分の口元を覆った。
そして手に持っていた冊子が床に落ち、バラバラと紙が舞った。それは披露宴に関する書類・・・華やかな写真入りの紙が薄暗い離れの床にばらまかれた。
紫が立ち上がってそれを拾い、そして披露宴の席次表を見ながら悲しそうに笑った。


「さぞや驚かれたことでしょうね。総てをお話します・・・お義父様にもお時間を作って頂かねばなりません。お義母様、宜しくお願いいたします」

「総てを?一体何があったの?ねぇ、総二郎さん!どういう事なの?!」


お袋が聞いたのは紫の1つ前の言葉からだった。
披露宴の事で確認があったから書斎に行けば俺の姿がない。
急ぎだったから離れにいるのかと思って来たらヒソヒソと話し声が聞こえたのでそっと入って来たと・・・それ以前の話も、紫が蔵に侵入した事も知っていた訳じゃなかった。

先代の話や紫の事件の話を聞いたら・・・この結婚が、遠い日の紫の脅しによるものだと知ったら2人はどうするんだろう。
そして紫は処遇を西門に任せると言ったが、もしも親父がこのままで・・・なんて判断をしたら?


そして何も知らない薫まで不安そうな顔をして戻って来た。

薫は離れに俺が居る事に驚き、お袋が壁に縋って放心状態なのにもっと驚いていた。動揺を隠しきれず、お袋の前を無言のまま一礼して紫の元に行くと、悲しそうに立っている彼女の腕を支えた。


「紫様・・・どうしたんですか?何があったんですか?どうして総二郎様は・・・薫はお役に立てなかったのですか?」
「・・・薫は何も悪くないのよ。役に立たないなんてないわ・・・あなたが居てくれて本当に嬉しかったわ」

「・・・え?なんでそんな言い方なんですか?紫様、どうして泣きそうなんですか?元気を出して下さい、薫はいつでもお側に居ますから」
「えぇ、そうね。でも少しだけ宗家の方達とお話しがあるの。あなたは自分のお部屋に戻っていなさい。寒かったでしょう?」

「紫様・・・?」

「大丈夫・・・私は大丈夫よ」



これからこの離れに親父も呼んで、紫の話をもう1度聞くことになった。

随分前にもこうして親父の正面に紫が座ったことがある。
岩代の爺さんと紫が遠縁で、西門にひと言も言わずに樂茶碗を差し出した時だ。その時と同じように親父とお袋が並び、向かい側に紫。そして俺はそれを横から見る位置に座った。


「紫さん・・・少しだけ家内から聞いたが、どういう事だね?西門を自分のものにとか、潰すとか・・・事と次第によっては許すわけにはいかないが?」

「・・・少し長い話になります。それに西門家にも少しは問題が生じるかもしれません」

「うちに問題が?!」
「総二郎さん、あなたは知ってるの?」

「俺も全部聞いたのはさっきだ。確かに問題はあるかもしれない・・・ただスキャンダルって事にはならないと思う。もう本人もこの世に居ないし証拠はないから」

「本人が居ない?どういう事だ?」
「誰の話なの?」


紫の説明が始まった。
思い出したくもないその時の光景を、彼女は今日、何度頭に描いたのだろう。




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泣いて飛び出した花音を追って紫音まで出ていって、私はほんの少しの間自己嫌悪に陥っていた。

想像していたことなのに・・・
子供達の気持ちに寄り添うって決めていたのに・・・
仁美さんと美作さんも一緒になって2人を守ろうって決めていたのに、どうしてこの手は上がってしまったんだろう。

総にも「頼んだぞ」って言われていたのに、それが情けなくて情けなくて・・・


でも、ここで諦めちゃいけない、もう2度とあの子達を手放さないって決めたんだもの。小さいとは言え、ちゃんと向き合って話し合わなきゃ・・・そう自分に言い聞かせて私も離れを出て行った。


行く所なんてお屋敷の中しかない事は判ってる。
いつものテラスから覗いたら、紫音が花音の背中を摩っているのが見えた。

リビング中央のいつものソファー、そこで花音が泣いていた。傍には小夜さんが居て、私の姿を見ると「おいで」って手招きされたからテラスの窓を開けて中に入った。
啜り泣く声・・・それを聞くと心臓が鷲掴みされたように痛かった。

紫音も私に気が付いて、花音に「つくしママが来たよ」って言ってくれた。
でも花音はまだ私とは会いたくなかったんだろう、急に飛び起きて勢いよくソファーから降り、自分達が使っていた2階の部屋に向かって走りだした!

「あっ!花音様、待ってください!」
「花音、そんなに走ったら危ないわ!」

「かのん、まってぇ!!」

「やだぁ!!みんなキライ!!つくしママなんかだいっキライ!!」

走り出した花音がもう1回その言葉を出した時、部屋の隅にあった花台に身体をぶつけて、その上にあった薔薇の生けてある花瓶が落ちて割れてしまった!
その大きな音に紫音は悲鳴をあげて私に抱きつき、花音は振り向きもせずに階段を上がって行く・・・!

「うわぁ~ん!!」
「紫音、ちょっと待ってて!小夜さん、紫音をお願い!!」

「わ、判った!!」


リビングの隅には割れた花瓶と薔薇の花が散らばって、私はそれを跨いで花音を追った。
花音の無茶な走り方に凄く嫌な予感がした。ろくに顔もあげないで階段なんて駆け上がったら・・・!私も急いで階段を上がり、もうすぐ花音に手が届きそうな所まで来た。

その時・・・


「待って、花音!危ないから止まって!」

「やだぁーーーっ!!あっ・・・!」
「きゃっ!!」

花音が2階に上がりきった時、物音に驚いて様子を見に来たお手伝いさんとぶつかって、花音の身体がそのままフワッと後ろ側に跳ね返された。

危ない・・・!花音が転げ落ちてしまう・・・!


私は跳ね飛んだ花音の身体を抱き留めたけど、今度はその勢いで私の身体が背中から階段を滑り落ちてしまった!

「きゃああああぁーっ!花音様、牧野様!!」

ぶつかったお手伝いさんの声が響いた!
でも私も花音も声なんて出ない・・・この子だけは離すまいと必死に花音の身体を胸に抱きかかえた!

ダダダダダ・・・ドンッ!!「うっ・・・!!」


何処かに頭を打ち付けて身体は止まった。
私の腕の中にはまだ温かさがある・・・それがモゾモゾ動いてフッと軽くなった。
微かに伝わる振動は花音の足音だろうか・・・・・・よく、判らない。頭が・・・頭が痛い・・・!


「きゃああああーーっ!!つくしちゃん!!」
「つくしママ!!かのん!」

「・・・・・・うわあああぁーーーん!!」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?牧野様!」


花音の泣き声が聞こえた・・・って言うことは花音は無事だったんだね?
紫音の大声も聞こえた・・・きっと紫音が花音を守ってくれるよね?


「誰か!誰か、救急車を!!あきら様にご連絡を!!誰かぁーーっ!!」


小夜さん・・・そんなに大騒ぎしなくても大丈夫だよ・・・花音は大丈夫だったんだから心配ないよ。

「つくしママ!つくしママ!!」
「うわあああああぁん!!いやだぁああーっ!!」


紫音、花音、泣かなくても大丈夫・・・大丈夫・・・・・・大丈夫だよ。


花音が無事で良かった・・・。





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