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plumeria

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18年前の梅雨時に起きた事件・・・その時の岩代、宝生、西門の爺さん達の行動と会話を紫は話し始めた。

本人の口からだから青田喜子の日記よりも詳しく、恐ろしい光景が語られた。
俺はその説明の補足として、紫も知らないうちの先代と明日香堂の息子、香川真一の話、岩代の爺さんと香川の話を聞かせた。

親父もお袋も言葉すら出ない。
何かを聞きたいのかもしれないが瞬きばかりが繰り返され口は堅く閉じられていた。


「・・・これが遠い昔に宝生で起きた事なのです。これを穢れたと受け止められるのは悲しいことですけれど、私は決してその香川という男に何かの行為をされたのではありません。今更、と思われるでしょうが信じて下さいませ」

「そ、それは・・・だってまだ7歳か8歳かでしょう?まさかそんな事が・・・」
「それでその犯人はどうなったのだ?香川という京都の骨董品屋・・・確か明日香堂という名前は私も聞き覚えがある。先代がご贔屓にしていた店だと思うが・・・」

「その男はその時にこの世から消えちまったんだ。だけど致命傷がどの怪我なのかは判らない。恐らく1番初めに自分で転んだ時の庭石・・・こいつじゃないかとは思うがその後も紫に襲いかかってるからな。
そして庭を逃げ回って岩代の爺さんの車に跳ねられた、多分この時には意識はなかったのかもしれない。もし遺体が発見されたとしてもそれを鑑定することも出来ねぇし、追求したところでどうにも出来ないけどな」

「そんな事に先代が関わったのか・・・そんな、馬鹿な!」
「でも確かにお義父様は京都に移られてから少し経った頃に様子がおかしいことがありましたわ。私たちにも何も言わずに東京に来て、本邸に寄らずに帰られることが度々・・・それは宝生家に出向いていたのかしら」

「・・・判らん。私にはさっぱり判らん!!」


そしてその後の3人の爺さんの隠蔽工作と、紫の動きについての話も聞かせた。
殴打した茶碗が西門に隠されたこと、その中に紫が大事なものを落としたと思い込んで探していたこと・・・そして今日、俺の誘導に引っ掛かって蔵に無断で入り、先代の遺品から茶碗の箱を見付け持ち出したこと。

その話の最中にお袋が入って来て立ち聞きしてしまったのだと。

ここで、何故俺がそんな事を知っているかについては当然親父から質問された。


「総二郎・・・お前はいつ頃からこのような調べ物をしていたのだ?宝生家の事もどうやって探った?京都の店に調査を入れれば西門にその話が回ってきてもおかしくないが、私には何の報告もなかった。一体どうやってこのような事をお前が知る事が出来たのだ!」

「それは俺が調べたんじゃない。あきらが美作の人間を使って極秘で調べてくれたことだ」

「あきら君が?どうしてあきら君がそんな事を?」

「紫が俺に対して憎しみの念を抱いてると感じたから調査を依頼したんだ。紫も牧野の存在を知ってるから言うが、牧野は司だけじゃなく、類やあきらにとっても特別な存在だ。俺だけじゃなくて牧野も絡んだら彼奴らは必死になって動いてくれる。
だから日本に戻ってきたあきらに協力を頼んだら宝生に美作の人間を忍び込ませてくれた。それで出てきた情報だ」


まだつくしと再会した事も、子供達の事も口には出さない方が良いと判断した。
そっちは紫と俺の事が全部終わってから・・・その時、改めて両親に頭を下げよう、そう考えていた。


「総二郎さんを憎んだり西門に恨みって、その時にお義父様が関わったから?」

「・・・確かに私を襲った人を宝生に連れて来たのは西門の先代ですが、その人の関心を私に向けさせたのは岩代のお爺様です。私が西門を恨んだのは私に将来の約束をしてくれた総二郎様が裏切ったからです。いえ、そう思い込んでいただけですけど・・・」

「その約束も先代の出鱈目だったって訳だ。小さいからって軽い気持ちで騙すような真似をするから・・・紫はそれに今まで振り回されたんだ」


次に話したのはこの結婚が実は紫の脅しによって決まったこと。
それにも両親は驚いてワナワナと身体を震わせた。

凶器かもしれない茶碗を西門が隠したこと、行方不明の男の情報、それらを暴露されたくなかったら西門家に嫁がせろ・・・僅か12歳の紫が爺さん達を相手に脅した結果、俺の婚約者として4年前に現れたのだと。


「それで急に先代が宝生家の娘を、と言いだしたのか!元々厳しい言い方の先代だったが、この縁談は今まで以上に強硬な態度を示された。私がどれだけ理由を聞いても宝生の先代には恩義があるからとしか・・・それ以上の説明をしていただけなかったが・・・」

「確かに宝生家でしたら問題はないと言って私たちも承諾したのですわ」

「兎に角先代の強引な言い方が腑に落ちなかったが、恩義があるを繰り返されたら・・・私も悪い話では無いと思ったからなのだが、ご存命のうちに何度も何度も確かめるから不思議ではあった。余程の理由があるのだろうと・・・」


「申し訳ございません。そうしてでも総二郎様のお側に居たかったのです。あの事件で何もかもが嫌になった私には、それしか・・・総二郎様との約束しか縋るものがなかったのですわ・・・」


その後、親父が質問する事に紫は総て答えていった。

岩代の爺さんが行ったあの油滴天目茶碗の野点・・・あの茶碗を手配したのは紫だったようだ。

「あの油滴天目茶碗はお爺様の遺品なのです。本物かどうかは私には判りませんが、お爺様が大事にしておられたものを持ち出しました。そして岩代のお爺様が懇意にしていた中国の業者を突き止めて、偶然の発見を装って渡すように仕向けたのです。
岩代のお爺様、大変喜ばれたみたいでしたから絶対に見せびらかすために茶会を申し出られると思っていました。
そうしたら案の定・・・しかも総二郎様をご指名になったので驚きましたわ」

「それじゃ最初から爺さんが喜んで手に入れたものを、態と目の前で割ったってのか?」

「そうです。私に取っては茶碗は忌まわしいもの・・・それに岩代様はあの日以来宝生を遠ざけておいででした。なかなか会う機会もなかったのですが、私が西門に住むようになって、茶会でなら会えると思っていましたの。
お爺様が辛いお顔をされるのを見たかったのです。私の辛い顔は見て見ぬフリをしたのですから」

「その後に宝生から持ち出した樂茶碗は・・・」

「あれもお爺様の遺品ですが、所謂良く出来た偽物です。お爺様が大事にしていた本物だと言うのは私の作り話・・・でも岩代様は宝生から本物だと言われれば信じるでしょうから、見破られない自信はありました。父が使えと言ったとお話したのも、私がそのようにしてくれと頼んだのです。
そうすれば西門に多少なりとも恩を売ることになるでしょう?その方が私を受け入れて下さると思ったものですから」

「最近岩代様のお見舞いに行きましたわよね?あれはどう言う感情からなの?」

「あれは呆けて何もお判りにならない岩代のお爺様の哀れな姿を、もう1度だけ見たかったのです。薫を連れて行きましたがあの子には別室で待機させ、呆けたお爺様に恨み言を申しました。
その間中、お爺様は訳の判らない事を話されていましたけど、最後には小さな子供みたいに泣き出しましたわ・・・」



最後に家元夫人になった後は好き放題して本当に西門流を潰すつもりだったと話した。
ただ、その時は態と親父とお袋を怒らせるような話し方をしていると・・・そんな風に俺には見えた。


「もう1度聞くが、本当に西門に対して今でも憎しみの情を持っているのか?」

「憎いという気持ちはあります。西門にも、岩代にも・・・自分のお爺様にもですわ」

「確かに可哀想な出来事だったとは思う・・・思うが、だからといってその後にした自分の行動を反省はしないのか?」

「しませんわ。私を”穢れた子供”にしたのはあの人達です。これはある意味で復讐ですから」


自分が親になったから思うんだろうか。

18年前・・・誰か1人でもこいつを抱き締めて、こいつの為に泣いてやったら、紫はここまで鬼にならなくても済んだんじゃねぇのか。
誰もが保身に走ったために、小さな紫が取り残された・・・そんな気がした。


その時、俺のスマホが鳴った。
それはあきらから・・・こんな時にどうしたのかと、その画面を見て嫌な予感がした。




*******************


<sideあきら>

美作から執務室に直接電話があったのは夕方、その内容に驚いて社を飛び出した。
牧野が花音を庇って階段から落ち、頭を強打して意識不明・・・まさかそんな事が起きるなんて思ってもいなかったから、美作の系列病院に運んだと聞き、そこに向かった。

そして車の中で総二郎に電話を掛けた。
この時間にあいつが何をしているのか判らないが牧野にもしも、って事もある。今回は後回しには出来ないと思った。


『・・・どうした?あきら・・・今はちょっと・・・』
「すまん、仕事中だとは思ったが牧野が病院に運ばれた!俺も今向かってる途中だ!」

『はっ?どうしたんだ?何が起きた?!』
「よく判らないが頭を強打して意識がないらしい。総二郎、判断はお前に任せる!うちの病院だから来られるならすぐに来い!」



病院に着いたら特別室に向かい、そこで見たのは真っ青な顔で寝ている牧野と泣き疲れて寝ている紫音と花音、それに付き添って来た小夜だった。


「牧野の様子は?医者は何だって?一体何が起きたんだ!」
「あきら様、申し訳ありません・・・私が傍に居たのに」

「いや、小夜を責めてるんじゃない。説明してくれ、牧野は大丈夫なのか?」

「はい・・・検査では脳に損傷はないとのことですが、まだ意識が戻ってなくて・・・」


小夜は今日、子供達と牧野の間に起きた小さなトラブルを教えてくれた。
花音が淋しさから起こした悪戯を反省しないから、牧野がカッとなって手をあげた・・・ただ、叩いたりはしていないらしい。
でもそんな事が今まで1度もなかった花音にはショックで、牧野の事をキライだと言ったようだ。

そして花音は離れを飛び出し屋敷に逃げ込んだ。
牧野はそれを追いかけて来たが花音が逃げて階段を駆け上がり、足を踏み外した花音を牧野が抱きかかえたまま階段途中のスキップフロアに転落、転げ落ちた時にそこで頭を強く打ち付けた、と。


「スキップフロアにですから落ちたのは数段なんです。出血も何もなくて、初めは意識があったんですけどすぐに目を閉じて反応しなくなりました。急いでここに運んで検査してもらって・・・脳に損傷はなかったけど、何が起こるか判らないから24時間は絶対安静だと言う事です」


一時的な意識障害やめまいで短期間で回復し、後遺症を残さない脳震盪だろうとの医師からの説明だったらしいが、牧野が目を覚まさない事には何とも言えない。
頭部強打で生じる頭蓋内血腫もないようだったが、大事を取って今日はこのまま入院・・・明日の夕方ぐらいまではこの部屋で様子を見るらしい。
時間が経ってから頭痛、嘔吐、麻痺などが出てくる場合もあるからと付け加えられた。


総二郎にした電話は早過ぎたか?と思った時には廊下から凄い勢いで走ってくる足音が聞こえていた。




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