FC2ブログ

plumeria

plumeria

「もうすぐ類様の演奏らしいわ!」
「きゃああぁーっ!今年もこっそり聴かなきゃね!」

先輩達が厨房でそんな事を言ってるのを聞いて、花沢類がバイオリンを弾く時間になったんだと判った。
でも私は仕事中・・・しかも1番新入りだし、サボるわけにはいかない。だから諦めなきゃって思ってトレイに仕上がったデザートを並べていった。


でも、あの時に涙が出たぐらい感動したから聴いてみたいな・・・って言うのが本音。
先輩達はどうやって聴くんだろう・・・振り向いたけどみんなまだ忙しそう。誰にも聞けないまま何度か厨房と会場控え室を往復していたら旦那様の挨拶が聞こえてきた。

『・・・今年は少しイメージを変えましてモンティのチャルダッシュを、ピアノ伴奏は仙道明奈さんにお願いしようと思います。
初めてこの場で合わせる2人ですので、どうぞ皆様、暖かい目で見守って下さい!』


モンティのチャルダッシュ?それはどんな曲かしら。それよりも誰がピアノだって?
何処かのお嬢様の名前を言われたけどよく聞き取れなかった。

花沢類だけが弾くんじゃないんだ。誰かと一緒なんだと思ったら、何故かすごく・・・・・・気になった!


「どうしよう・・・何処で聞いたらいいのかしら」

こんな時に限って先輩達は既に何処かに消えていた。勝手に会場に入るわけにもいかないし、って思ってたら向こうから歩いてきたのは道明寺さん?!
彼も私を見て「あっ・・・」って小さな声上げて、またさっきみたいな怖い顔になった!

「こんな所で何やってんだ、てめぇ!」
「何って・・・見たら判るでしょ?仕事です、仕事!道明寺さんこそ何してるんですか?類様の演奏なんだから聴きに行かなきゃダメじゃないですか!」

「なんで類の演奏を聴かなきゃいけねぇんだよ。そんなの俺はガキの頃からピアノ習ってるし、あいつのバイオリンも聴いてるから聴き飽きてるっての!」
「うわっ!そんな言い方します?聴きたくても聴けない人間が居るんだから贅沢言わないで会場に戻って下さい!」

「聴きたくても聴けないって・・・自分の事か?」
「はっ?・・・べ、別に類様だから聴きたいって訳じゃなくて、バイオリンを聴く機会がないからって意味ですよ」


こんな所でこの人と話してる場合じゃないのに~!!
もう始まるかもしれないのにどうしたらいいのか判らなくてソワソワソワソワ・・・道明寺さんがそんな私を呆れて見てるのなんか気にもしないで、見えるはずもない廊下の壁を睨んでいた。

そうしたら、またグイッと手首を掴まれて力任せに引っ張られた!
さっき少しだけ捻った足首をまたグギッ!と捻り「痛ぁっ!」って叫び声をあげたのに無視!ズンズン引き摺られて会場入り口の開いてるドアの前で手を離された。

そこは見習い執事さんがスーツ姿でガードしてて、私がそこに立つと「下がりなさい!」と怒られた。
でもそこで睨みを効かせたのは道明寺さん・・・若い見習い執事さんに「俺が許可したんだが文句あるのか?」と言えば、彼は震えあがって何処かに消えた。


「あ、あの・・・」
「俺がここに居れば誰も文句言わねぇから黙って聴いとけ」

「・・・私の為に?」
「べつにそんなんじゃねぇ。バイオリンなんて近くで聴いたら頭が痛くなるから、このぐらい離れていた方が良いだけだ!」

「・・・ありがとうございます」


あら・・・少し赤くなっちゃって。もしかしたら意外と良い人なのかも?
そんな道明寺さんの横に並んでドアの端に立って正面を見たら、大広間に作られたステージの上で花沢類がバイオリンを持って立っていた。
その横には素敵なドレスの綺麗なお嬢様・・・この人がピアノ伴奏をするんだ?

何処かから「お似合いですわねぇ」って聞こえた。
いや、恋人・・・じゃないと思うんだけど?

その人はすごく嬉しそうにピアノの前に座り彼を見上げてる。まさか花沢類・・・顔が赤くなってるんじゃないのかしら?って背伸びしてまで覗き込もうとしてる私。


「何やってんだ?」
「はっ!いや、なんでも・・・ないです。類様が失敗しなきゃいいなぁ~と」

「類は失敗しねぇよ。こいつだけはな・・・」

友達の事を褒めてるんだか怒ってるんだか、怖いままの道明寺さんがそう言った。



花沢類がピアノのお嬢様に何かを話し掛けて、お嬢様はそれに頷いた。
演奏が始まる・・・会場がシーンとなった。


先に音が響き始めたのはピアノ・・・少し淋しげな、バースデーパーティーに弾く曲として選ぶとは思えない感じ。
ゆっくりした低めのピアノの音だけが聞こえていたけど、しばらくしたら花沢類がバイオリンを構え、その時には何故か褄先で立ってしまった。
失敗なんかしないって聞いたばかりなのに、両手を組んで「頑張れ!」なんて心が呟いた。


そして彼の右手が動いたら、同じように緩やかで物憂げな音が会場に響いた。


会場のみんなが彼に視線を向けてる。
お嬢様達がみんなうっとりして彼を見つめる。
会場内で仕事中のパーティーコンパニオンでさえ手が止まる・・・その中で花沢類だけが輝いて見えた。

目を閉じてるのかな・・・今、何を考えてるんだろう。
いつも見てる綺麗な指、実は魔法でも使える指だったのかしら・・・胸が痛くなりそうな音を聴いてると、そんな変なことまで考えてしまった。

どうやったらあんな音が出るのか・・・悲しげな音楽に引き込まれそうになったその時、急に音が変わった!!


今度は凄く速くて激しい曲調!
その変化と同時にお客様達の表情も一気に変わって、みんな楽しそうな笑顔になった。
でも私は彼の動かす指の速さに驚いてポカンと口を開けたまま・・・隣の道明寺さんがそれを見て噴き出したのに、怒ることも出来なかった。

この人も流石お坊ちゃま、こういう演奏も聴いた事があるみたいで解説してくれた。

「チャルダッシュってのはハンガリー語で居酒屋を意味する”チャールダ”に由来してんだ。所謂クラシックって言うよりハンガリーの民族音楽だな。ああやってゆっくりした部分とすげぇ速い部分が交互に来るのが特徴。
類がこれを弾くのは珍しいが、こいつはあんまりアドリブを入れないから比較的譜面に忠実なんじゃね?そうじゃないとピアノもつけられねぇしな」

「・・・ふ~ん、そうなんだ・・・」


・・・って聞いても全然判らない。
判るのは花沢類のバイオリンが私に何かを話し掛けてるみたいに思えること・・・すごく胸が熱くなること。
音楽なんて素人だけど、彼の音はずっと聴いていたいと思った。


そしてこの曲が終わった時、会場中からすごい拍手が起こった。
勿論私も手が痛くなるほど拍手して、道明寺さんが叩かないから無理矢理拍手させた。

花沢類はこんなに拍手をもらってるのに無表情で無愛想。
拍手しながら「ニコッと出来ないのかなぁ!」って声に出したら「気持ち悪いだろ」って道明寺さんに言われた。
・・・確かにそうかもしれないけど。

そして1度ステージから降りようとしたのに向きを変えて中央に戻り、ピアノのお嬢様に手を差し出してる。
ははぁ、いつものように忘れたんだな?とは思ったけど、何事もなかったかのように彼女も彼の隣でお辞儀をしていた。


あれ・・・?何だかチクッとする。




***********************




チャルダッシュを弾きながら完全に目は1番後ろの2人に向いていた。
途中で司が何かを話し掛けてる・・・人の演奏中に何話してるんだ!って、いつもは何とも思わないのにイラッとした。

牧野もどうしてあんな恐ろしい男の横で聴けるかな・・・さっきあれだけ睨まれたクセに!

なんて考えていたら途中で3回ぐらい音をミスった。
それでも恐らく誰も気が付かないくらいの後半部分・・・こう言う時は表情が乏しいのが役に立つ。何事もなかったように弾き終わらせ、完璧に弾ききったかのように一礼した。

頭を上げたら牧野がすごい速さで拍手してるのが見えて噴き出しそうになったのに、その瞬間、隣の司を小突いて拍手させたのが見えて再びイラッとした。
あの司が牧野に負けて嫌々拍手してる・・・その時に牧野の方を見てるのが判ってめちゃくちゃイラッとした。

だからいいって・・・そんな余所見してる司の拍手は要らないから!


黙って帰ろうとしたら目の前に居た母さんが睨んだ。そして俺の後ろを指さしてる。
あぁ・・・ピアノ伴奏者の事をすっかり忘れてた。

だからクルッと向きを変えてピアノの横に行き、彼女の手をとって中央へ・・・そこで仙道明奈も客から拍手をもらって終了。やっと終わったと思ってステージを降りようとしたら・・・


「類、何処に行く気なの?あなたが私に頼んだのよね?弾かなくてもいいのかしら?!」
「・・・あぁ、忘れてた」


そうだった。母さんにも伴奏頼んでた曲があるんだった。

はぁ・・・疲れる。
今度は久しぶりのピアノに燃えてる母さんとステージ中央に戻った。





currants-3539264__340.jpg
モンティーのチャルダッシュです。後半は激しいですので音量にご注意を(笑)
(バイオリンソロではないのですが💦)

関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/21 (Sun) 06:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

ふふふ、このお話の司君は可愛い感じですね❤
本当に上手く書けないので出番がなくて申し訳ないのですが💦今回はいいスパイスになってくれそうです。

いやいや、ホントにそうなのか?(笑)

うちは昨日から洪水警報が出ています。
ずーっと雨が降らなかったのですが降ったらいきなりの豪雨💦
今日も朝からずーっと雨です。

風はおさまったかな?
昨日は風も凄かったので怖かったですが、衣装を運ばなくてはいけなかったので運転に神経使いました。

これで梅雨明けしたら大っ嫌いな夏・・・一昨年は2回も熱中症で病院に入ったのですが、今年はそこまで猛暑じゃないのかな?
体調崩さないように頑張りましょうね~💦

2019/07/21 (Sun) 14:30 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/22 (Mon) 10:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

初めてでした?前半と後半でこんなに違う曲も面白いですよね~。
「隣の部屋の彼」の時に散々クラシックを弾いたので、今回はちょっと違うものを(笑)

ホントに丁度いい動画がないのよね💦
ピアノとバイオリンだけがいいんだけどちょっとイメージが違ったり、オーケストラなら綺麗なのがあったり。

お姉さんの衣装💦うんうんそんな感じでしたね(笑)
職業柄ちょっと魅入ってしまいました。


爆笑!!お話しね💦ただのパーティーシーンだから気にしないで(笑)

2019/07/22 (Mon) 22:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply