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plumeria

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花音を肩車して病室に戻ったら、すっかり元に戻ったこいつに小夜もあきらもホッとしていた。
つくしはまだ目を覚ましていない。花音を下に降ろして、紫音にその手を渡した。

紫音は何も言わずに花音の片手を握って近くの椅子に連れて行き座らせた。そして自分もその横に座り、看護師からもらった菓子を半分に別けていた。
その顔は凄く真剣・・・「お兄ちゃんだから」、って言葉が聞こえてきそうだった。


「もうすぐ目を覚ますと思うんだけどな・・・」
「えぇ、そうですね。身体の疲れもあるのかも・・・兎に角気忙しい2ヶ月間でしたから・・・あっ、ごめんなさい!」

「いや、小夜の言う通りだから」


つくしのベッド脇にある椅子に座り、少し冷たい手を握った。
その手はまだ俺の手を握り返してはくれなかったが、顔は穏やかに見えた。
もしかしたら意識だけ屋上に飛ばしてて、俺と花音の話を聞いてたのか?って思うほど・・・それを早く伝えてやりたくて握ってる手の力を強めた。

看護師が様子を見に来て「完全看護ですから大丈夫ですよ」とは言ったが、あきらから俺が泊まり込むことが伝えられ、何かあったらすぐにナースコールを、と言って出ていった。


「あきら・・・今日は紫音と花音を頼むな。どうせ目を覚ましたってつくしは帰れねぇんだろ?」

「あぁ、そうだな。目が覚めたら簡単な検査をして、その後最低でも12時間の経過観察だそうだ。それ次第で明日は屋敷に戻れると思うけど」

「・・・判った。西門の事は気にしなくていいから、もう子供達を連れて帰ってくれ。あまり遅いとおばさんも心配するから。小夜もありがとう・・・明日の昼間、子供達の面倒頼むな」

「はい。畏まりました」


俺の言葉を聞いて紫音と花音が横に来た。
花音は俺の膝の上に登って、そこからつくしの顔を覗き込んで小さな手をつくしの頬に当てた。紫音は急いで俺の反対側に回って、空いてるもう片方の手を握った。

「つくしママ?」
「おめめ、あかない?つくしママ、ごめんね・・・」


双子が小さな声で呼ぶけど、それでも目は閉じられたまま・・・花音はまた泣きそうだった。


「花音、心配ねぇよ。目は開けてねぇけどちゃんと判ってるから。紫音、きっとお前の温かい手を喜んでるぞ。これからあきらと一緒に屋敷に戻るけど、花音の事を頼んだからな。つくしママが帰るまでお前が守れよ?」

「うん、わかった」
「よし、いい子だ」


美作からの迎えを呼んだのは、もうすっかり暗くなってからだった。
その車が来たと連絡が入った時は俺も病院の夜間入り口まで一緒に降りた。既に目を擦ってる花音をあきらが抱きかかえ、紫音は俺と手を繋いでいた。


「総二郎、遅くなってもいいから意識が戻ったら連絡をくれ」
「判った。夢子おばさんへ説明は頼む」

「そうちゃんパパ、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。紫音、ちょっと淋しいだろうが我慢しろよ?」

花音はあきらの肩越しに軽く手を振るだけ・・・誰のせいだ?って可笑しくなったが、それでもこいつがまたケラケラ笑って元気にしてりゃ、それだけでつくしも喜ぶだろう。
遠離って行く車のテールランプが見えなくなるまでそこに立っていたが、車が病院を出たのを確認したら病室に戻ろうと向きを変えた。



「・・・総二郎さん」

急に何処かから声を掛けられて振り向いたら誰も居ない。でも確かに俺の名前を呼んだヤツが居る、そう思ったら入り口横の暗がりから姿を現したのは・・・お袋だった。


「・・・お袋・・・どうして」

「・・・あなたが電話で慌てて出ていったから何かが起きたんだろうと思ってね。あきら君からだって判っていたから美作に確認したの。そうしたら、あきら君・・・病院に駆け付けたって聞いて・・・」

「それでここに?美作の系列病院だからか?」

「えぇ・・・それで美作家なら特別室だろうと思ってそこに行ってみたの。何も教えてはくれなかったけど、誰かが緊急で運ばれたって言う事だけは判ったわ。総二郎さんがそこまで慌てて出掛けるのなら、もしかしたら・・・あの子供達なのかと・・・」


「お袋・・・やっぱりあきらの家で見てたのか?」


お袋は小さく頷いた。
そして俺の側まで来ると「何処かで話を・・・」と呟いた。

それならもう総てを話すか・・・そう思ってお袋を特別室に連れて行った。
その途中のエレベーターでも何かを聞きたそうに俺の顔を見たり俯いたり・・・この人も自分の中で色々な仮説を立ててるんだろう。

それにつくしも気にしていた。
もしかしたらお袋にはバレたんじゃないかって・・・。

3人も産んだ人だ・・・勘付いても不思議じゃない。



特別室のある階でお袋とエレベーターを降り、病室に行く前にひと言だけ頼んだ。

「今から会わせてやるけどまだ意識が戻ってないんだ。声を荒げたり触ったりしないでくれ。頭を強打してるから」
「総二郎さん、その人って・・・」

「・・・会えば判るだろ」


いつもは堂々としているお袋が震えている。
さっきの紫の話の後だ・・・この状況は偶然とは言えこの人にとっては恐怖だろう。

土下座までして東京から追い出した人間が、こんな形で現れるなんて思ってもいなかったはずだから。


病室の前に立つと両手を固く握って唇を噛み締めた。
そしてカラッと扉を開けて中に招き入れ、奥のベッドに案内すると・・・そこで寝ているつくしを見て顔を強張らせた。
持っていた鞄を床に落とし、少し前屈みになって口元を覆い、真っ青なつくしの顔を凝視・・・この顔を忘れていなかっただけマシか?と冷めた気持ちでこの人を見ていた。


「思い出したか?親父とお袋が上手いこと騙して東京から追い出した牧野だ。今はあきらの家に居る・・・あの子達と一緒にな」

「・・・あの子達・・・あの子達は牧野さんの?父親は・・・」

「全部話してやる。向こうのゲストルームに行くぞ」

「・・・・・・・・・」


つくしが寝ている病室の隣にある小さなゲストルーム、そこの椅子にお袋を座らせ、俺はその部屋のベッドに座った。
そしてこれまでの事を話した。

つくしが西門から必死に逃げた佐賀の呼子、そこであきらと再会し美作が牧野を保護したこと。
その時は妊娠後期、つくしはギリギリの状態で旅館の仕事をしていたと言えばその目が赤くなり、ハンカチで目を覆った。産んだのもこの病院で、双子だったから初めから帝王切開を選択し、七夕が誕生日だと教えてやった。

その後子供達を西門から守るためと、俺の婚約でつくしが精神疾患に罹り育児出来なくなったために美作の養子になったこと。


そしてつくしが自分を取り戻したのは1年後・・・それでも子供達の幸せの為に美作での養育を希望し、引き取らなかったこと。鎌倉に1人で住み、美作の持つ施設で働いていたこと。

そして2ヶ月前、偶然美作邸で俺達が再会したこと。
双子がつくしのストーカーに誘拐された事なんかは言わなかった。そんな事はつくしを迎えるのに邪魔な情報だったから。

つくしが美作に匿われて居るとも知らずにあきらに宝生の調査依頼をしていたと伝え、俺達が再会した事をきっかけにその調査を急いだ結果、紫は俺の仕掛けた罠に引っ掛かった。

そう言うと「それであきら君が頻繁に連絡を・・・」と納得したようだった。



「あの日、紫さんからあきら君の奥様の病気の事を聞いたの。それなのに小さな子供が居たから驚いたわ。
執事さんはお身内の子供だって言うだけであきら君の子供だとは言わなかったけど、どう見てもあの屋敷に馴染んでいたから不思議だったのよ・・・」

「不自然な事は承知で美作のおじさん、おばさんの了解を貰い、極秘で育ててくれてたんだ。俺達の事を話さなかったら来年には公表する予定だったみたいだ」

「そうなの?美作の子供として?」
「学校が絡んできたらそうするしかねぇだろう」


その小さなため息はなんだ?
美作で公表する前に名乗りを上げて良かったと思ったのか・・・お袋が一瞬見せた安堵の表情は俺には忌々しく思えた。



「それで牧野さんの怪我は一体・・・」

「あきらの家にも色々あって嫁さんが今家を出てる。そして双子には本当の両親の話を聞かせたばかりだ。それで混乱した子供とつくしが小さな喧嘩になったらしい」

「それじゃあ総二郎さんが父親だってあの子達は知ってるの?西門の事は・・・」

「この前のあきらの依頼、実は子供達に茶を飲ませるための茶会だったんだ。まだ3歳半だから何も判らなかっただろうけど、西門は茶道の家だと教えてやった」

「そうなの?それでどうだったの?」

「だから判らねぇって!今まであの美作だ・・・まるで違う雰囲気なんだから理解なんて出来るわけないだろう。その後であきらの嫁さんと子供達は別れた。まだ日にちも浅いから悪気なく嫁さんとつくしを比べてしまうんだ。
それで暴れた子供が階段から落ちそうになって、つくしはそれを庇って自分が階段から落ちて頭を打ち付けたそうだ。
でも検査結果で異常は見られなかったそうだから、意識が戻ったら大丈夫だろうって話だ」

「子供を庇って・・・そうだったの。総二郎さんの子供を守ってくれたのね・・・」


俺の子供を守ってくれた?この人がその言葉を出すのか!と瞬間すげぇ腹が立った。
あんたが・・・親父が・・・「西門」がつくしを俺から遠ざけたんじゃねぇか!と・・・。


「お袋がつくしの所に出向いた時、丁度妊娠が判った時だったそうだ。俺にも教えてはくれなかった・・・ってか、そんな時間もなかったようだけどな」

「・・・あの時、やっぱりそうだったのね?それであの子達・・・名前は確か・・・」

「上が男で紫音、妹が花音・・・俺に似てるって思ったんだろ?で、少しはそう思ったって事だよな。どうしてすぐ俺に聞かなかったんだ?」


「・・・たとえ私の勘が当たっていたとしても、もう総二郎さんと紫さんは夫婦だったんですもの。それに先代と家元の決めた事に逆らうわけにはいかないって思ったのよ。紫さんが西門のお嫁さん・・・私の娘になったのだから、それ以外の人を考えることは出来ないでしょう?だから・・・何も見なかったことにしようと思ったの」


お袋はここからは見えないつくしのベッドの方に目をやり涙を浮かべたが、今はまだこの人達を許せない・・・それが正直な気持ちだった。
そしてこれを知った今、何を言い出すのか・・・その言葉を待った。





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