FC2ブログ

plumeria

plumeria

お袋は総てを聞いた後、取り敢えず屋敷に戻ると立ち上がった。
そして病室に向かい、まだ意識が回復しないつくしの顔を覗き込んだ。

何かを詫びてるのか・・・そんな表情だったがはっきりとした言葉なんて出さなかった。青白い顔を触ろうとしたのか手を伸ばしたけど途中で止め、双子が置いていったと思われる枕元の小さな飴を見つめていた。
包帯の巻かれた左腕と内出血が見える右腕を見て「こんな細い腕で・・・」と呟いたのが聞こえた。


「今日はここで過ごすの?」

「勿論。この事を親父に話すかどうかはお袋に任せる。言いたければ言えばいい」

「でも総二郎さん、あなたは妻が居る身ですよ?・・・どうなるか判らないけれど・・・」

「紫はどうした?あれから何か話したか?」


そう聞けば目を閉じて深い溜息を漏らした。
あんな話を何時間も掛けて聞いた後で今度はつくしと子供の話だ。
この人の動揺は当たり前・・・しかもつくしの方は無関係とは言えない。自分の孫を西門から追い出したんだから。


「いいえ、あれからは何も・・・。総二郎さんが出ていったし、家元は頭痛がすると言われて奥に引き籠もられたし、紫さんは総てを家元の判断に任せると言って、離れではなく元の自分の部屋で過ごすと言ってたわ。一体どうしたらいいのやら・・・披露宴まで20日しかないと言うのに・・・」

「この状態で出来ると思うのか?大人数集めて披露宴なんてした後、諸事情により離婚だなんて言えるのか?その方がマスコミに叩かれる。探られたくない事を探られて、先代の事を嗅ぎ付けられたらどうする?それこそ西門流に傷がつくぞ」

「まだそうなると決まっていませんよ・・・それに離婚だなんて家元がお許しになるかしら」


この上世間体を気にするのか?
そんな事よりも大事なものがあるって判んねぇのか・・・それともそんな感覚も麻痺してんのか。

この人も長いこと「西門」に囚われているから・・・そこから抜け出すことは出来ないと思い込んでるんだ。


「これ以上紫を西門に縛り付けるのも罪だとは思わないのか?それに真実を知ったからって俺の気持ちは変わらない。冷たい言い方だと思うけど、紫に対して同情は出来るが愛情は持てない。それでも夫婦を続ける意味ってあんのか?」

「・・・それは・・・でもそうなったら総二郎さんの・・・」

「西門に後継者が必要だと言うのなら紫音に稽古をつけてもいいと思っている。だが紫音の気持ちを最優先するのと、つくしと子供達は絶対に引き離さない。紫音が西門に入る時、その傍には必ずつくしが居る・・・そう思ってくれ。
そうじゃないなら花音も紫音も西門には入れない。逆に俺が西門を捨て、3人の所に行く・・・そう決めてるから」


お袋は俺の言葉をつくしの顔を見ながら聞いていた。
そして向きを変えると黙って俺の前を通り過ぎ、ドアに向かって歩き出した。俺の横を通り過ぎる時にチラッと見たお袋の涙・・・それは誰に対してだ?

つくしか、子供達か・・・それとも自分の過去に対しての懺悔か?

俺はお袋の涙なんて初めて見た。嬉しい時も悲しい時も、決してその目を濡らさなかった人なのに・・・。



お袋が出て行くとこの部屋には俺とつくしだけ。
ベッド横の椅子に座って、つくしの手を握ってやった。

「・・・おーい、まだ起きねぇのか?寝過ぎじゃね?・・・つくし、目を開けろ・・・?」


そう言ってもピクリともしない身体・・・まるで現実逃避してるかのようにつくしは眠り続けた。
余りにも静かに寝てるから恐怖さえ感じるぐらいだ。その頬を撫でて、髪を撫でて、無防備にそこにある唇にキスもした。

それでもつくしは夢の中に入ったまま・・・1人取り残された気分がしてすげぇ焦る。


「つくし・・・早く戻って来い。花音が謝ってたぞ?紫音が泣いてたぞ?1人の世界に逃げるなよ・・・」




************************




・・・・・・・・・・・・誰だろう。私を呼んでる人が居る・・・。

「・・・おーい、まだ起きねぇのか?寝過ぎじゃね?」


寝過ぎ・・・?ううん、寝てないって・・・。助けなきゃいけなかったの・・・私の命よりも大事なもの・・・・・・それを抱き締めてたら夢の中に入ったの・・・それだけ。
でも・・・もうこのままでもいいかも。だって・・・私、お母さんになれないんだもの・・・認めてもらえないの。

それにもうすぐ総は・・・あの人と・・・・・・


「・・・つくし、目を開けろ・・・?」

いやだ・・・起きたくない。起きたっていい事なんかないもん・・・もう、このままにして?
私を起こさないで・・・静かに寝かせて欲しいの。お願い・・・お願い・・・もう苦しいのは嫌なの・・・。

もう・・・いや・・・。


「つくし・・・早く戻って来い。花音が謝ってたぞ?紫音が泣いてたぞ?1人の世界に逃げるなよ」

え?花音が・・・謝ってた?紫音が泣いたの?
逃げるな・・・・・・逃げちゃダメなの?でも、もう疲れたよ・・・・・・


「・・・俺を置いて行くな。もう2度とごめんだ・・・お前が居なくなるのは許さねぇからな」

その声を聞いたらトクン、と小さく私の中で音がした。
心臓の音・・・今まですごく静かだったのに、急に踊り始めたみたいに音がする・・・トクン、トクン、トクン・・・って。

右手が熱い・・・誰かが握ってる。凄く強い力で痛いぐらいに握ってる。
それを握り返したいけど力が入らないの・・・だから待って・・・もう少し待って・・・・・・。


「つくし・・・俺、待ってんだけど?早くしろよ・・・俺、あんまり気長じゃねぇんだわ。つくし・・・まだか?」

まだかって・・・くすっ、子供みたいな事言って。
馬鹿だなぁ、そんなに情けない声出しちゃって。あなた・・・父親でしょう?・・・子供に笑われるよ?

仕方ないなぁ・・・・・・



***********************




何度か話し掛けたが反応がない・・・マジでホントにこのまま起きねぇつもりか?なんて事を考えていたら、ピクッと指が動いた!
それに吃驚して強く手を握ったら、ほんの少しだけその指が俺を掴んだ。
顔を覗き込んだら眉がピクッと動き、唇が微かに動いてる。


「つくし・・・?おい、目が覚めたのか?つくし!」
「・・・・・・・・・・・」

「何だって?何か言ったか?つくし・・・つくし、俺だ!」
「・・・・・・・・・ん・・・」

頭を少しだけ動かして、その目が微かに開いた。でもすぐに閉じて眉だけが動いてる。その動き方がさっきよりも大きくなって、握ってない方の手を動かした。
そんな動きを繰り返しながら、つくしの目が俺を見たのは数分後・・・ゆっくりと瞬きを繰り返しながら唇が「総・・・」と動いた。


「つくし!目が覚めたんだな?・・・判るか?俺が判るか?!」
「・・・ん、総・・・わか・・・るよ」

「つくし・・・!馬鹿野郎、マジ心配したぞ!良かった・・・つくし、良かった!」
「・・・・・・ごめんね・・・」

「・・・戻って来なかったんなら許さねぇ。でももういい・・・帰ってきたから」


この後ナースコールでつくしの意識が戻ったことを伝えると、医者と看護師が病室に駆け付け簡単な検査をされた。
記憶の確認、視力や聴力、手足の痺れなんかを質問しているようだったがつくしの声は小さくて聞き取りにくい。それでも医者の反応で問題ないことは確信出来た。

時間はもうすぐ0時、電話はヤバいと思ったからあきらにはメッセージで意識回復を報告するとその返事はすぐに来た。
『紫音と花音はぐっすり寝てるから安心しろ。明日病院に連れて行く』、そんな素っ気ない文字だった。


「今のところ異常は無さそうですね。念の為、明日もう1度検査をして、歩行にも問題がなければ夕方にはお帰りになっても大丈夫だと思いますよ」

医者の言葉にホッとして、全員がいなくなったら再びつくしの横に座った。
さっきよりも頬に赤味があって目もしっかり開けてるが、まだ言葉を出すのは辛いのか小さな声で俺の名前を呼ぶだけ・・・そんなつくしに紫音と花音の事を伝えてやった。


「あいつら、お前が倒れた後に大泣きしてここまでついて来て、泣き疲れて寝てたんだ。花音・・・ちゃんと反省してた。お前に嫌われたんじゃないかって心配してたぞ」
「・・・私が?・・・ふふ、そうなんだ・・・」

「今はぐっすり寝てるから安心しろってあきらからのメッセージだ。明日ここに連れて来るらしい・・・その時は抱き締めてやれ」
「うん・・・そうする」

「つくし、今回も子供達を守ってくれてありがとう。でもお前も無茶すんな。電話もらった時、マジで心臓が止まるかと思ったんだからな!」
「・・・ん、でも、花音じゃなくて良かった・・・ホントに良かった」


やっとここで笑ったつくしは本当に綺麗だった。
窶れて傷だらけで化粧すらしてねぇのに、女神のように見えた・・・母親の顔、まさにそれだった。






c8730618029c0830b02e663eccdecd61_t.jpg

コメント欄、再開します。
長い間CLOSEして申し訳ありませんでした。
関連記事
Posted by

Comments 8

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/27 (Sat) 12:31 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/27 (Sat) 12:40 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/27 (Sat) 14:23 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/27 (Sat) 15:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。
そうなんですよ~!辛い部分はほぼほぼ終わったので再開しました。

この部分で「また記憶喪失かい?」って思う読者さんが居ると思ったので(笑)
ここまで延ばしました。
本当はこの4章からはオープンしようと思ったんですけどね。

メンタル激弱ですから(笑)

この先もこれまでの纏め的な感じでエンドに向かうので、ややこしい部分もあるんですが、最後まで応援頂けると嬉しいです。
紫さんも仁美さんもあきら君も、類君も司君も旅館の女将さんも・・・ラストまでてんこ盛りで♥


総ちゃんとつくし、紫音と花音が幸せになりますように・・・。
(いや、あんたが言うなよ!)

2019/07/27 (Sat) 20:19 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

こちらにもコメント、ありがとうございます。
ほほほ、そうなんです~!辛い部分は終わった・・・と思うんです。

勿論解決してない部分もあるのでこれからバンバン片付けていくのですが(笑)
ふふふ、類君も出てきますのでお楽しみに♥

紫さん、家元夫妻、仁美さん・・・色々やらかした人達がどうするのか・・・う~ん💦

読者さんから「甘い!」って言われそう(笑)
こんな事件ばっかり書いて、悪者書いてるけど、真の悪者ってそんなに居ないんですよ(笑)
私の中では「10月の向日葵」の上野明日香ちゃんと「雪の結晶」の真莉愛(だったっけ?)ぐらいです。
あっ、「隣の部屋の彼」の由依ちゃんもかな?「嘘つき」の五十嵐浩司もか?!

・・・結構悪者がいましたね・・・。

・・・・・・・・・。


えーと(笑)ほんわかラストを目指します!

2019/07/27 (Sat) 20:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは!

コメントありがとうございます。

ってか、爆笑!!それってあの時の話ですか?!やだっ!忘れたいのに💦
もうーーーっ!何の事かと思ったじゃないですか!(笑)

いやいやいや・・・悟空ね(笑)
もう絶対に読み返したくないですね💦


この話の家元夫人、完全に嫌われてますよね(笑)
当たり前だけど~!

そう簡単には皆さん、許せないのね💦うんうん・・・(だよね~)

確かにラストは近いのですが、何と言ってもこれだけ長く書いたので纏めも結構日数掛かります(笑)
その間に1つずつ解決していくので、もう暫くお付き合い下さいませ。

だから、もうRとかないですから。以上!

2019/07/27 (Sat) 20:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。
長いこと閉じておりましたが、もうここまで来れば事件が起きない(と思う)ので再開しました。

漸く終わりが見えてきましたのでホッとしております。
よくもまぁ、こんな話を書くよね・・・💦と自分でも反省しかありません(笑)

もう暫くややこしい部分もあるのですが、この先は穏やかにラストに向かいます(多分)。
どうぞ宜しくお願いいたします。


最後の雨💦

梅雨明け前に終わらせるつもりが忙しくなってしまったのでとうとう8月も続いちゃうと言う💦

弱気なつくしちゃんは読者さん的には嫌だとは思うのですが(笑)
私が好きなものですからつい・・ね!

こちらもイライラしながらお付き合い下さいませ♥

2019/07/27 (Sat) 21:34 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply