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「・・・あと5秒か?」
「ふふっ、どうだろ・・・すごい足音だね」


つくしと並んで病室の椅子に座っていた。これまで寝過ぎたつくしはもう横になりたくないと言ってあれからはずっとベッドから離れている。
そしてたった今病院に着いた双子の到着を、ドアを見つめながら待っていた。
バタバタと聞こえる足音・・・きっと看護師の注意なんて無視して走ってるんだろう、その音がこの部屋にまで聞こえてきた。

そしてバーン!と遠慮なしに開かれたドアから紫音がはぁはぁ言いながら顔を出した。そしてすぐに紫音の腕を潜って入って来たのは花音。
躊躇うこと無くつくしに向かって飛び付いて来た。


「つくしママーーー!つくしママが起きてるーー!!」
「ずるい、かのん、ぼくも、ぼくもーっ!!」

「あはは!いらっしゃい、紫音、花音!お見舞いありがとうーっ!」
「いらっしゃいって・・・くくっ、なんだそりゃ!」

少しは俺の話を理解してくれたのか、花音はすぐにつくしに謝っていた。
そして「本当は好きだよ」なんて言われてつくしは大泣き・・・その頃になって漸く小夜が顔を出した。もう病院から連絡があったのか、その手にはつくしの着替えがある。
そして事務的な手続きがあるからとすぐに出ていった。


「つくしママ、今日はおうちにかえられる?」
「あのね、かのんね、おなべが食べたい!」

「うん、多分帰られると思うわ。お鍋かぁ・・・ふふっ、温まるもんね!」
「大丈夫か?まだ安静にしなきゃいけないんじゃ・・・飯なら何処か外で食えば?」

「やだ!おうちがいいんだもん。ぼく、おてつだいする!」
「かのんも~!かのん、おはし、ならべる!」

そう言いながら双子はつくしの膝の取り合いを始めた。
でも全身打ち身のつくしは双子が少し動く度に眉を顰める。だからひょいっと子供達を抱えてつくしから離したら、今度は俺に向かってブーブー言ってる。
俺のガキの頃と同じ顔した花音が睨んだらなかなかの迫力だった。


「あのな!ママはまだ調子が悪いんだって判んないか?色んな所をぶつけたから痣だらけだって小夜から聞かなかったか?ほら、まだ手にも包帯してるんだから」

「あっ・・・ごめんね、つくしママ」
「かのん、もうどこも痛くないよ?」

「それはママが庇ってくれたからだろ?いいから大人しくしろって。ママが家に帰れなくなるぞ!」
「「は~~い・・・」」


「大丈夫なのに・・・」って今度はつくしの方が子供を引き離されて膨れっ面を見せて、まるで俺1人が悪者みたいに3人から睨まれることにムカッとした。


紫音は自分のコートのポケットから小さな包みを取り出してつくしに手渡し、中を開けて見ると夢子おばさんが焼いてくれたって言う『チーズケーキサンド』が入っていた。
そいつはチーズケーキをビスケットで挟んで焼く、ひと口サイズのケーキらしい。つくしの好物って事で、おばさんが昨日の夜に作ってくれたんだと花音が一生懸命身振り手振りで説明していた。

「ぼくね、チーズまぜるのてつだったんだよ?」
「かのんはね、ビスケットならべた!」

「花音、並べるのは好きなんだな?」
「うん!ならべるの、好き~!」

「うふふ、嬉しいなぁ~。おば様のこれ、美味しいのよね~」
「かのんがね、ゆめ子おばあちゃまにたのんだんだよ」
「あっ!しおん、ないしょって言ったのに~!」

「・・・ありがとう、花音」


自分のせいで怪我をさせたもんだからおばさんに強請ったのか?
それを聞いたつくしは嬉しそうに花音の髪を撫でてやって、花音は「おいしいでしょ?」なんて言いながら自分の口に入れていた。



暫くして戻って来た小夜は医者と話したらしく、夕方の診察を受けた後に問題なければ退院の許可が出ると再確認してきた。

そしてこっそり教えてくれた昨晩の話・・・双子はケーキを作った後で夢子おばさんからも説教され、あきらの背中に隠れてそれを聞いていたらしい。
怒ると怖い夢子おばさんの言葉で、花音じゃなくて紫音が泣き出して大騒ぎだったようだ。「泣いちゃだめだよ~」って紫音を慰める花音にあきらが呆れて溜息ついてたと聞いた時はつくしと大笑いした。

風呂は小夜が一緒に入り、寝るのはあきらの部屋で・・・あいつはまた寝ることが出来なかったって、朝起きた時には目の下にクマを作っていたと今度は小夜が笑っていた。


「でもあれだけ勢いよく落ちたのに花音様にお怪我が無かったなんて・・・つくしちゃん、背中大丈夫?もしかして痣だらけじゃないの?」

「判んない・・・背中なんて見えないし。でも痛いから痣ぐらいあるかもね。あの時は夢中だったから自分がどんな体勢で落ちたのかさっぱり覚えてないわ」
「やだ!思い出したら震えちゃう!兎に角2人とも無事で良かった~!もう私は寿命が縮んだわよ・・・」

「ごめんね、小夜さん。原因は私だから」
「ううん、仕方ないって」


俺はこの会話を聞いた後で西門に1度戻ると言って病室を出た。



**



裏口から戻ると屋敷内はシーンとしていた。
今まで何かと騒々しかったのに誰もウロウロしていない。親父達も客も居ないのかと事務所に向かったら硝子窓越しに事務長の背中が見えた。
そのドアを開けて中に入ると事務長が驚いたように俺を見て、椅子を蹴飛ばし慌てて駆け寄って来た。


「総二郎様!一体何があったんですか?」
「・・・親父が何か言ったのか?今、屋敷に居るのか?すげぇ静かだけど」

「家元ご夫妻はお部屋にいらっしゃいますよ。使用人達は総二郎様と若奥様の事を聞いてそりゃ驚きましてね、奥の間に並べられていたお祝いの品を片付けているところです。通常の業務をするどころじゃないんですよ」

「・・・そういう事か。すげぇ数あったもんな・・・」

「今月末の披露宴を見合わせるかもしれないからキャンセル出来るかどうかの確認をするようにとね。もう突然の事で大変なんですよ?そりゃホテルや食事なんかはいいんですが、特注で作ってる引き出物は止められるかどうか・・・どうしたんですか?総二郎様」

「詳しい事は親父から全員に通達があるだろうと思う。世話掛けてすまない・・・悪いけど宜しくお願いします」


謝意を表す最敬礼・・・こんな言葉と態度で詫びる俺なんて事務長は初めてだろう。
だから俺の腕を掴んでいた手を離し、呆然とそこに立っていた。
その時に鳴り出した電話に慌てて出ると、何処かの支部からの問い合わせだったようだ。電話対応をしながら頭を下げる事務長にもう1度俺も頭を下げた後、親父のところに向かった。



「失礼します、総二郎ですが」

そう言葉を掛けたけど返事が無い。
でも中からスッと障子を開けたのはお袋で、小さな声で「お入りなさい」と言葉を掛けられた。

親父は難しい顔のまま座椅子に座り、俺の顔など見もしない。
あまり寝られなかったのか顔色は悪かった。そしてお袋の口から西門流・家元としての予定は本日全部キャンセル、正門も閉めていると聞いた。
紫は薫と共に以前の部屋に籠もり、食事にも顔を出していないという・・・今現在どうしているのか判らないと言われた。

この時間は親子としての会話にすると前置きをして、今後についての話をした。


「それで親父、今後はどうするつもりなんだ?披露宴は見合わせると事務長から聞いた。それは中止と受け止めていいんだな?」

「・・・・・・仕方あるまい。あのような言葉を聞いてしまっては・・・西門を潰すだなどと・・・」
「それで昨日の話だけど京都の行方不明の方・・・本当に先代達が?」

「それはあきらが調べている。宝生家も先代以外は関わってないようだから、紫の両親も香川真一の行方なんて知らないと思う。あいつからの連絡待ちだ」


複雑に絡み合ってるこの事件を一晩で理解は出来ないだろう。
それに親父にしてみれば自分の父親・・・人を殺めた訳ではないが、道に外れた行いに変わりはない。しかも西門にそんな茶碗が隠されていたことに大きなショックを受けていた。

厳格で真っ直ぐだった先代・・・あの人が家元だった時に西門流は支部を広げ門下生を増やし、各界に知れ渡るようになった。親父はそんな自分の父親の成し遂げた業績には尊敬の念を抱いていたのだから。
だから先代からの命令は絶対だった。その理由は正しいものだと信じて疑わなかったんだ。


「・・・今更聞くが・・・お前達はどう言う夫婦仲なのだ?」

急に聞いてきたこの質問。
これまで勘づいていただろうに触れなかった部分・・・そして西門流にとって「尤も重要な課題」。


「悪いが紫には指1本触れてない。離れなんて用意して貰ったが部屋は別々にしている。紫は初めから恋愛感情なんて持たなくていいと言い切って婚約者になったんだ。
だから言っただろう・・・この結婚に期待はするなと。跡取りなんて望めない状況だ」

「それは今後も・・・全てが判っても変わることは無いのだな?」

「・・・俺の気持ちは変わらない。紫は愛人を持つことも構わないなんてその時に言ってたが、俺にはそのつもりはない」

「・・・・・・・・・」


どうやらお袋はつくしの事をまだ親父には伝えていないようだった。
仮にも妻が居る俺が他の女の所に出向いていたことを追求されないようにそうしてるんだろう。だから紫音と花音の事もまだ親父は知らない。

今はこの婚姻関係が無意味だと親父に判ってもらう事の方が先だった。


「・・・仕方ないのだろうな。だが、この西門でこのような事・・・前代未聞なのだがな・・・」


「親父・・・いや、家元。僭越ながら次期家元として申し上げます。
人の心も世の中も少しずつ変わって行くもの。それに合わせることが悪い事ばかりではないと思います。不自然なまま苦しい生活を続けていくことが、初めての事例を作ることに勝るとは思えません。
何より茶を点てる時の心が変わりさえしなければ、西門流はこれからもその時代に合わせた形で育って行くものと信じます。それを私が証明したい、そう考えております」



このあと親父は俺達の離婚を承諾した。




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2019/07/29 (Mon) 13:02 | EDIT | REPLY |   
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2019/07/29 (Mon) 15:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは(笑)

明日最終回なのかと思いました(笑)
困ったな・・・もう少し続くんだけど💦纏めないといけないから・・・💦

そうなんですよね、向日葵超えちゃったのですよね。
自分でもよくここまで延ばしたなって思っています。

うんうん・・・馬鹿だよね(笑)

ややこしすぎるのよって判ってるんだけど、何故かこんがらがった話が好きで(そして自己嫌悪&支離滅裂になる)


そして終わってもいないのに番外編(笑)
マジかっ!!

・・・・・・・・・(ちょっと考えてしまうな。ふむふむ・・・)

でもあの時の花沢類のようにはなりませんよね(笑)仁美さんが居るから。

・・・・・・・・・(でもやっぱり考える・・・ふむふむ)


よし!向日葵の番外編、類の想いを読んでみよう!(完全に忘れている)

2019/07/29 (Mon) 22:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

ふふふ、少しずつ距離を縮めていく感じですね♡
私、この双子ちゃんは好きなんですよ(笑)子供を書くのは難しくて苦手ですけどね。

ある意味理想の子供・・・かな?
本当に3歳児がこんなにお利口さんかって言われるとねぇ(笑)
まだまだ理解も出来ないし、話し方もおかしいし、大人の言う事なんて聞きませんものね。

設定は3歳ですが、5歳ぐらいの感じに書いてるなぁっていつも思ってます(笑)


おっ!それはこれからのお話しで出てきます。
どうなるんでしょうか・・・想像しながらお待ち下さいませ♡

2019/07/29 (Mon) 22:42 | EDIT | REPLY |   

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