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『花沢類が幸せでありますように』


その文字を見た瞬間、心臓が止まるかと思うぐらい驚いた。
牧野が書いた・・・それは間違いない。俺は急いでその絵馬を外してポケットにしまった。

そして観光案内所に走って行き、そこの従業員にオリーブ園を歩く牧野の映像を見せた。


「すみません、この女性、覚えていませんか?昨日、ここで絵馬を買ったはずなんだけど」
「えっ?そんなの覚えられませんよ、1日に何人も来られるんですから」

「ごめん、それは判るんだけどよく見てくれない?この端っこの女性・・・もしかしたらこの男と一緒だったかもしれないけど」
「どうかしら・・・凄く特徴ある人じゃないと覚えないけど・・・・・・あら、この人?」

「・・・覚えてるの?」
「あぁ、この人なら覚えていますよ。随分長い時間ここで迷っていらっしゃったから」

「迷ってた・・・2人で?」
「いえ、お1人でしたよ」


1人?牧野はここには長谷川と来なかったのか?

この後従業員にその時の牧野の様子を聞いた。


「気が付いたらそこの前に立っていて貝殻を眺めていたんですよ。でも何処か淋しそうでねぇ・・・ここに来て貝殻の絵馬を選ぶ人は大抵楽しそうなので気になったんです。でも日曜日は忙しいから声なんて掛けられなくて。
それでも何分経っても全然動かずに絵馬を見つめてるから、お客さんが少なくなった時に話し掛けてみたら『これに書くのは2人の願いじゃなくても良いんですかね?』って」

「2人の願いじゃない?」

「どう言う意味かは判りませんけどね。ご家族連れの人だって家内安全を願うから何でもいいんですよって言うとやっぱり淋しそうに笑ってました。言葉がこっちの方言じゃなかったから東京の人かなぁ?なんて勝手に思いましたけど。
その後そこのテーブルでまた何かを考え込んでましたよ。余程思い詰めてるのかと心配になったので覚えてます」


牧野が考え込んだって言うテーブルに目をやった。
ここに昨日牧野が立って、俺の幸せを願って絵馬を書いたの?


馬鹿だよね・・・そんなのこれに書かなくても、あんたが傍に居てくれたら叶うのに・・・。


ここを出る時にもう1度牧野が1人だったかと聞けば「そうでしたよ」の返事で、彼女は貝殻を括り付けて暫く眺めた後、1人でタクシー乗り場に向かったらしい。
その間、長谷川は牧野の傍には居なかった。それならここで別れたって事なのか・・・?


2人が何を話したかなんて判らない。
でも「恋人の聖地」で1人になったって事は・・・それでこの絵馬を書き残したのなら、俺は信じてもいいって事だよね・・・?



暫くしたら干潮時になり俺の前にはエンジェルロードが姿を現し始めた。
待ち構えていた沢山の人が楽しそうに渡って行くのを見ながら俺は足を踏み入れない。
・・・牧野も渡らなかったと確信してる。

その道が現れて目の前の光景が変わって行き、やがて静かに海に飲み込まれるまで・・・俺は1人で海岸の岩場に座り込み、貝殻の絵馬を見つめながら時間を潰した。



日が暮れて辺りが薄暗くなったら、店長が教えてくれた長谷川のオリーブ農園に向かった。
ナビ通りに進んだつもりが山の中で道を間違えたり、目印がなくて判らなかったりで、辿り着いたのは自分が思っていたより随分遅い50分後・・・その入り口は当然閉められていて何処から自宅に入るのかも判らない。

その付近に車を停めて1度降りて辺りを確認、少し離れた所に見えた灯りをたよりに訪ねて行こうとしたら1台の車が近づいて来た。


「・・・うちに何か用ですか?」

暗くてよく見えない運転席から若い男の声でそう言われた。
もしかしたらこの男だろうか・・・瞬間思ったけど確信が持てない。面識のない長谷川の顔は、あの映像だけだと特徴も掴めなかったから。


「遅くに申し訳ありません。長谷川さんの家に行きたいんだけど、ここでいいんでしょうか?」
「あぁ、長谷川はここだけど、あなたは?父に用事かな、オリーブ農園の事で?」

「いえ、長谷川弘海さんに会いたくて来たんです。花沢・・・と言います」

「・・・花沢さん・・・・・・もしかして花沢物産の?」
「えぇ、そうです。あなたが長谷川弘海さんですか?」


男はそこで急に車を発進させたから、このまま逃げるのかと驚いた。
でもそうじゃなくて車を少し先の路肩に寄せてライトを消し、運転席から降りてきた。そしてゆっくり俺が立っているところに近づいてきた。

辺りは薄暗かったけど目の前まで来たら表情は判る。
長谷川は少し強張ったような、怒りを感じさせる目をしていた。背は俺と変わらないぐらい・・・でもがっしりとした体格で、如何にもかつてはスポーツマンだったと主張している・・・そう感じた。


「・・・なんの用ですかね?俺には花沢物産の人に関わるような出来事は何も無いけど?」
「牧野・・・牧野つくしを知ってるよね?彼女の居場所を教えてくれないか?」

「知ってどうするんだ?あんた、彼女より仕事をとったんだろ?今更会う必要なんてないだろう。もう忘れたって言ってたけど?」
「俺は忘れてないし、仕事を優先させた訳じゃない。確かに言葉足らずで不安にさせたのは認める・・・でも、その話をしたいのは牧野であってあんたじゃない」

「勝手だな・・・彼女はあんたに会いたくなくて東京を捨てたんだろう?もう大人しく消えてやれよ!邪魔をするな!」

「邪魔?あんたの邪魔って意味?」
「五月蠅い!あんたの世界に彼女を引き摺り込むな!」


長谷川は暗がりの中でも判るほど顔を真っ赤にして、その太い腕で俺の襟を掴みあげた!
その勢いでレンタカーに体当たりしたけど、首を絞めている手の力を緩める気なんて無さそうだ。だから俺もこいつの肩を掴んで少しだけ身体を離し、長谷川が驚いた隙に鳩尾目掛けて下から膝蹴りを喰らわせた!

俺がそんな事をすると思わなかったのか、油断していた長谷川は俺から手を離して鳩尾を押さえこんだけど、流石に身体を鍛えているだけあってすぐに体勢を戻された。

だが俺にも武道の心得があると判ったのかもしれない・・・それ以上は手を出して来なかった。



俺の世界・・・?

俺は俺だけの世界に牧野を引き摺り込む気なんて無い。
牧野と2人で作る自分達の世界の中で生きていきたかった・・・その為に少しばかり周りが見えなくなっていたんだ。それをちゃんと伝えたい・・・そして再び迷子になった牧野の心を俺が包んでやる、そう決心して帰国したんだ。


「牧野は何処にいる?大阪に帰ったの?」
「・・・・・・知らないな。それよりどうして俺に辿り着いた?」

「偶然テレビの撮影に映り込んだあんたと牧野を見付けたって知らせが入ったから。それで調べたらあんたが判った」
「あぁ・・・あれか。じゃあ、あのレストランの・・・って事か」

「2人で向かったエンジェルロード、そこで牧野に何を言った?」
「・・・・・・・・・」


長谷川は俺から目を逸らせた。
俺には言いたくない、そう言う意思表示だと思った。

だからポケットからあの絵馬を出し、長谷川に見えるように文字を向けた。
それをチラッと横目で見たこいつは下唇を噛み締めて・・・そのあと大きな息を吐いた。


「大阪に帰ったよ。支えるのは俺じゃダメだってさ・・・。そんなにお互いを知らないから判り会えるまで時間を掛けてもいいって言ったけど、何年待たれても無理だってあっさり言われた。
忘れたって言ったクセに忘れてないじゃないかって言ったら・・・・・・まぁ、いいや。その答えは本人から聞きなよ。会うことが出来たならね」

「・・・判った。そうする」

「・・・坂手港に行けば夜行便で20時30分に神戸行きがある。島に泊まるんなら自分でホテルを探すんだな」

「ありがとう・・・」


ふん!と鼻を鳴らした長谷川だけど、車に乗り込む時に小声で「森川工業」と呟いた。
他には何も言わなかったけどそれが牧野の働く会社なんだろう・・・そして車はここよりもう少し奥に見える灯りの方に向かって走り出した。


確かに店長の言う通り「良いヤツ」・・・俺は車を坂手港に向けて走らせた。




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2019/08/07 (Wed) 13:28 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/07 (Wed) 15:13 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/07 (Wed) 16:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

あっはは!そんなに移動は沢山出来ません💦
短編で、もうすぐ終わるんですもの(笑)

ふふふ、長谷川さんは良い人でしたね~。ある意味笹本さんみたいでしょ?
大阪で追いかけっこなのか、将又何処かに行くのか・・・。

なんかバレンタインストーリーみたいになってきましたね💦
(あれもヤバかったわ・・・時差計算が)

2019/08/07 (Wed) 21:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

いや(笑)プル的にはこのぐらいじゃ格闘に入らない(笑)
本気で書こうと思ったらオリーブの木、5本ぐらい折ってると思う。
うん、流血も絶対だしね(笑)

唇切って、血を手で拭うとか好きなのよ~♡

ん?そんなの要らない?・・・・・・・・・反省します。


爆笑!!花沢助三郎(笑)いいじゃん、格好いい♡
いつか2人の子供に付けてやろうかしら♪

2019/08/07 (Wed) 21:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

はい!もう少しで追いかけっこも終わりそうです♡

と、言いながらここは意地悪プルちゃんの出番です♡
出会う場所は・・・さて、何処でしょう?

でもラストは近いので事件は起きませんよ?
私にとって再会場所はいつも特別なのです♡その場所に辿りつくまで、もう少しお付き合い下さいね。

2019/08/07 (Wed) 21:43 | EDIT | REPLY |   

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