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後援会の連中が帰った後、4人で向かったのは親父の茶室。
そこで家元自らが茶を点ててくれた。

これは俺であってもなかなかいただけないもの・・・紫は多分初めてだと思う。


それをお袋でも俺でもなく、1番初めに紫に差し出した。
そして紫も「頂戴いたします」と挨拶してその茶碗を持った。

先ほどの話とは違い、美しく茶を飲む姿・・・お袋も悔しそうにその姿を見つめていた。ただし飲んだ後の言葉は通常のそれとは違い「有難う御座いました」・・・それだけだった。


「あのような事をするとは思わなかった。あれではあなたが悪いと言ってるようなもの・・・我々も訂正出来ずに申し訳なかったが、それで良かったのかな?」
「そうですよ・・・双方に問題ありでも良かったのです。あれではあなたのこれからが心配です」

「ご心配要りませんわ。宝生家にも住みませんし、日本を出るつもりですから何と言われても気に致しません。それよりも総二郎様に非があるように思われると西門流に揉め事が起きるかもしれませんから」


「あの言葉は作り話・・・そうであろう?」
「もしかしたら本当にそう思っていたとか・・・息苦しい家でしたか?」

「息苦しくはありませんでした。でも茶道に気持ちが入らなかったのは本当です。お話しした通り、私はお茶碗というものが嫌いです・・・どうしてもあの時の事を思い出しますから。
ですからこれで良かったのです。もうこれで私の前に茶碗は出てきませんでしょう?安心して暮らすことが出来ますわ」

「・・・紫さん」


思えば岩代の茶会であの爺さんの茶碗を割ったのは紫の復讐か・・・大切なものを壊されて嘆く姿を見たかったとでも言うのだろうか。
もうそれを聞く気もなかった。
茶道に関わる事を忘れさせてやる・・・それが紫にとって1番なのだろうと思うから。


この日も紫は自分の部屋で薫と過ごし、明日には西門を出ると言った。
その時に薫に総てを話すのか、と聞けば首を横に振った。後援会に説明したことと同じ理由にするらしい。


「あの子には忌まわしい過去など思い出させたく有りません。何も知らずに黙って私の言う事に従い、それを利用したのは私ですもの。こんな私の元からも解放されて素敵な恋をして・・・明るい家庭を持って欲しいのです」

「薫にももう会わない・・・そう言うのか?」

「えぇ、その方が良いんです。でも私は一生あの子の幸せを祈りながら暮らしますわ」


そう言って薄く笑い、西門での最後の夜を過ごした。



**



翌日、紫は着物ではなくスーツ姿で俺達の前に現れ最後の挨拶をした。
「お世話になりました」、その言葉を出した時はお袋が目頭を押さえた。
親父は黙って紫の挨拶を聞いていたが、最後に向き合った時に「これを持って行きなさい」と小さな箱を差し出した。

その中に入っていたのは西門が紫の為に作った念珠・・・西門の紋が入っていて、恐らく披露宴が終わった後で渡すつもりだったものだろう。

念珠は元々念仏を何回唱えたかを数える際、1玉づつ繰る為に使われていたもので珠の数は108個 が基本と言われている。
人間の心には108の「動き」「変わり」「乱れ」という煩悩があることを表していて、丸い輪になっているのは仏の心を俺達の心の中に通し、心が丸く素直になるようにとの意味がある。

これからは穏やかに暮らせるようにとの親父なりの気持ちなんだろう。
そして「一時期でも西門に居たことを忘れないで欲しい」と付け加えた。


「これは人前で使わなくても良いのだ。ただ何かで悩んだ時には手にしてご覧・・・こんなにも辛い出来事でも乗り越えて前に進んだと思えるだろうからな」

「有難う御座います。このようなものを受け取れる立場でも御座いませんが、心の戒めとさせていただきます」


紫は家元達の見送りを断わった。
正門からも出て行かず、タクシーを裏門に呼んだ。そしてその見送りは俺だけ・・・そう願い出てきた。

薫は紫の指示で先にタクシーに乗り込んだが、閉めたままの窓から不安そうな顔を覗かせていて、紫はタクシーの横に立って見送る俺と向かい合っていた。


「それでは総二郎様、お元気で・・・お世話になりました」
「俺が何にもしなかったの知ってるだろ?そんな事言わなくていいって」

「お別れの時はそういうものだと教えられましたから。でも癪ですからお幸せに、とは言いませんわ」
「くくっ、それでいいんじゃね?あんたらしいから」

「初めに愛人ならいくらでもって言いましたでしょう?・・・本当はずっと怖かったんですよ。あなたが夜中に出て行かれる度に、外泊される度に・・・」
「・・・・・・そうか」


「ふふっ・・・あぁ、それと・・・これをお渡ししますわ」


紫が荷物の中から出したのは茶封筒で、その中には土地に関する書類が入っていた。
その土地の所有者は「宝生紫」・・・1箇所ではなく数カ所の土地の権利証のコピーだった。今ではオンライン化されていて土地も権利証ではなく「登記識別情報」となっているが、これはそれ以前のものだった。

紫曰く、自分が成人した時に両親から持たされたものでその経緯は教えられていないらしい。


「どうしてこれを?」
「骨董品屋さん・・・行方が判らないのでしょう?私も詳しくないのですが、わざわざ特別代理人を立ててまでお爺様が私に相続した土地らしいのですよ。しかもあの事件があったすぐ後です。何を考えてそんな事をしたのか、これまで考えもしなかったのですけどね・・・」

「立ち入りを許す・・・探してみろって事か?」
「許せない人ですけれど本来帰るべき場所に・・・そう思うだけです」


これがあればあきらが調べてくれている情報をかなり絞る事が出来るかもしれない。
「助かる」、そう言って書類を受け取った。



「今でも思うんです。もう少し違う出会い方をしたかったですわ」
「・・・そうだな。恋になったかどうかは判らねぇけどな」

「最後に握手、してくださいます?抱き締めて・・・じゃなかったら良いでしょう?」

「・・・あぁ」


差し出された白い手を握ると、ほんの少しだけ紫の指が震えてるのが判る。
そして唇が言葉を出さずに動いた・・・でも、その唇の動きは俺には判ってしまった。


『大好きでした』・・・その聞こえない言葉を残して、紫の乗ったタクシーは西門を静かに出ていった。



**



それからはとんでもなく忙しかった。

マスコミ対応の前に披露宴中止の手続きと西門内部への連絡と説明、招待客への詫び状、祝辞を頼んでいたところには親父と出向いて頭を下げた。
文面の中には「やむなき事情により」と書かれていたが、後援会幹部に紫が話した内容は既に噂として広まっていて、直接西門に文句などはなかった。

「そんな事も有るのですね」「意外なことで・・・」「もう少し早くにご判断されたら良かったのに」などと口々に言われ、その都度俺達は「本人に負担を掛けてしまい・・・」と返すだけ。
それを何日も掛けて終わらせていった。

その後親父からマスコミに対して俺の離婚が伝えられたが、会見などは行わずに文書だけの発表となった。
丁度この時期に大物政治家のスキャンダルが報じられ、西門の話題は思ったより早くに終息・・・俺達はホッとした。


宝生家とは1度だけ、紫を除いて顔合わせをした。

離婚については双方納得。逆に紫の説明により宝生が色々なキャンセル料を払うと言いだし親父はそれを拒否した。
誰が悪いだなんて決めつけられない離婚ゆえに慰謝料等は無しとされ、過去の出来事は持ち出さず、これまでと変わらない付き合いを望むとして穏やかに話合いは終わった。



この騒動の最中に当然のように連絡があったのは司と類。
俺の心配は全くなくて「牧野はどうしてる?!」だけ。それにはムカッとしたが、此奴らにも真実を話さないといけない。
それを電話で済ませたくなくて、帰国出来ないかと聞いてみた。


結果、司と類の都合が一致したのは3月初め。
その時につくしと・・・子供達と会わせる事を決めた。


せめて子供達の前で俺が殴られなければいいけど・・・な。




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2019/08/03 (Sat) 13:58 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

1番初めに言うことじゃないけど浜栄丸、明日出航らしいです(笑)

★浜栄丸と母の会話★

「あんた!暑いからやめなさい!死ぬよ!」
「大丈夫やろ、パラソルあるし」

「・・・・・・パラソル?」

もう爆笑しました💦💦


紫さん、あれだけみんなに嫌われておりましたが、今となってはホロリとされている(笑)
きっと幸せになることでしょう。

因みに本人の登場は終了致しました。クランクアップの花束を差し上げたいと思います。


えーと、あの2人明日出るんだっけ?(笑)
ちょっと忘れたけど(どういう事?)近々出ます💦
楽しいと思いますよ♥

待っててね~!

2019/08/03 (Sat) 22:01 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/04 (Sun) 00:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

なんでも早朝に海に出て、午前中には陸に上がるらしいです。
そう聞いたら「お前はカメか!」と言いたくなった私。


そして結果として何も釣れなかったそうです。

真夏の釣りは無駄だって知ってるクセに行くのよね・・・。
海水温が高いから魚も来ないんだって!

それでも海に浪漫を求めるヤツ・・・アホですよね!

2019/08/04 (Sun) 20:19 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/04 (Sun) 22:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

あっはは!そうかなぁ・・・多分私は普通なのよ。
浜栄丸が変態だと思うのよ?

だってね、この前も実家に行ったら・・・

「今日ね、○○○(浜栄丸)が家に寄るらしいんよね~」
「何かあったん?」

「ネギが無くなったから切っといてってさ。小口切りにして冷凍したよ~」
「・・・・・・ネギ?」

うちは別にネギ農家じゃないのよ?母がネギ買わなきゃいけないのよ?
それなら自分で買って切ればいいのに。
そうしたら本当に取りに来たのよ(笑)

ピンポーン♪

「母さーん、ネギー!!」
「はーい!」

「・・・(お前はカモか!)」


ホント、変わってるよね・・・(身内だけど)

2019/08/04 (Sun) 22:27 | EDIT | REPLY |   

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