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「・・・長谷川さん・・・私、何にも持って無い女ですよ?」

一目惚れだなんて照れ臭い言葉。
天使の力を借りてでも恋がしたい・・・そんな風に想ってくれる人が居ることは素直に嬉しかった。

この人と手を繋いであの道を歩く・・・本当に天使が来るだなんてこの歳では考えないけど、それがこの先の約束になるのならそれでも良いのかもしれない。
やっぱり一生独りは淋しい・・・何処かでそう思ってる。


誰かも言ってたじゃない?
自分が好きな人と一緒になるより、自分を大好きだと言ってくれる人と一緒になった方が幸せになれるって。

今・・・それが目の前で起きている、そう言う事だよね?



「何も持って無くていいんだって。そこに居てくれるだけで元気になるんだから」
「・・・役に立たないですよ?私、ご飯ぐらいしか作れないし」

「ご飯だけで充分じゃない?役に立たないなんて思わないでよ、役に立つかどうかは牧野さんが決めることじゃなくて俺が感じる事、じゃないかな。家に帰ったらそこに大事な人が居る・・・それが1番だよ」

「帰ったら家に居る?それだけで?」
「そう!男は単純だからね。守りたいものが出来たら必死になれるんだ」


役に立ってるかどうかは私が決めない・・・花沢類が感じなかったらそれで良かったの?私がそこに居るだけで、仕事も手伝えないし理解もしてあげられなくても良かったの?
彼が帰るのを部屋で待って、お疲れ様って珈琲作って、頑張ってねってご飯作って・・・そんな事で良かったの?


・・・・・・馬鹿じゃないの、私。

花沢と道明寺を同じだと思い込んでいた。勝手に見えない壁を作って、それを崩せないって決めつけてた?



「は~!緊張したぁ!ね、鐘鳴らしてみる?」
「えっ・・・」

「あっ、唐突過ぎるよね、ごめんごめん!いいんだ、こんなのいつだって!じゃ下に行って島に渡ろうか?」
「・・・はい」


長谷川さんに差し出された手は取れなかった。
それを私の戸惑いだと感じた彼はサッと手を引っ込めて、照れ笑いなんてしながら先に階段を降りて行く。

振り向いたところにある「幸せの鐘」、それを鳴らしたいのは・・・・・その先の名前を出しちゃいけない気がして、私も急いで階段を降りた。



降りた先に広がる白い砂の道、そこを沢山の恋人や家族連れが手を繋いで渡って行くのが見えた。

横に立ってる長谷川さんはニコニコして楽しそう・・・それを見て私も頑張って笑顔を作ったけど、心の中は悲鳴をあげていた。2つの感情が入れ替わり私を責めていて、渡れと言う声と渡るなって声が交差する。

渡ったら幸せになれるよって1つが言うと、渡ったら自分に嘘をつくよってもう1つが言う。
これ以上独りでいなくてもいいよって1つが言うと、一緒に居たいのは誰なの?ってもう1つが言う・・・・・・一緒に居たいのは?


一緒に居たいのは・・・・・・彼しか居ない。


「行ってみよう?一番奥にある島には入れないんだけど、その手前までなら・・・・・・牧野さん?」
「・・・・・・・・・」

「手を繋いでくれるんだよね?」
「・・・長谷川さん、私・・・あの・・・」

「忘れたんだよね?」

「ごめんなさい。忘れてないんです・・・私の心が忘れようとしないんです。全然住む世界が違う人で、なんでも完璧に出来て家だってすごく大きくて・・・世界で働く人だから私なんて似合わないんです。
それでも彼は選んでくれて、私はそれが怖くて・・・勝手に怖がって手を離したんです。それでもやっぱりこの手、彼しか求めてないみたい・・・ごめんなさい。私、あなたとは渡れません・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・怒っていいですよ。さっき、あなたに思わせ振りな言い方しました。私・・・楽な方に逃げようとしたんです」


長谷川さんの顔が見られない。
彼の足元だけ見つめて頭を下げて、5年前から口に出せなかった言葉を出した。
『この手、彼しか求めてないみたい』・・・それが報われないって判ってても正直な気持ち。わざわざ苦しい片恋を続ける宣言みたいなものだ。


「ははっ・・・まいったな。でもさ、まだそんなにお互いを知らないからその気持ちも判るよ。うん・・・恋人だったんだもんね。その人と比べられても困るけど、もっと判り会えるまで時間を掛けてもいいんじゃないかな。結論はそれからでも・・・」

「ううん・・・何年待ってもらっても無理だと思います。私、意外と諦め悪いみたいで・・・」

「忘れたって言ったクセに忘れてないって・・・忘れられないって事?」


「本気で忘れようとした事なんてないみたい・・・彼の事を思い出すと涙が止まらないから」



長谷川さんが私に差し出していた手は彼のズボンのポケットに入った。
そして私と反対側を向いて・・・「今日は天使の休日かもね」って呟いた。

そのままクルッと向きを変えて1人で駐車場に向かって行った。


「牧野さん、悪いけど俺は先に帰るよ。フェリーは坂手港から15時15分と17時45分だから・・・ごめんね、タクシーで行ってくれる?その方が君も落ち着くだろう?」

「・・・・・・長谷川さん」

「あぁ、でも来月も大阪に行くんだよね。その時は普通にしといてよ。お土産ならあのチョコ、持って行くからさ」

「長谷川さん、ごめんなさい!」


「謝らないでよ・・・何となく判ってたから。いつかその彼と会えるといいね、なんて言葉は言わない。でも牧野さんの笑顔は誰よりも素敵だと思うから・・・だから元気でね」

最後は全然顔を見せてくれなくて、私は彼の背中に向かって頭を下げるしかなかった。
長谷川さんが人混みの中で小さくなって見えなくなるまで、私はその場で見送った。


そして1人でエンジェルロードの手前に立ち、空を見上げた。


東京に帰ろう・・・帰ってもう1度あの場所からやり直そう。

エンジェルロードの記念として残す貝殻の絵馬に彼の幸せだけ願って、私はタクシーでフェリー乗り場に向かい大阪に戻った。



**



「ほんまに辞めてしまうんか?何があったんや?」
「困るわぁ、牧野さんに辞められたら次の人を探すのに苦労やわ。誰も来てくれんのよ、こんな安月給な会社になんて」

「本当にごめんなさい。どうしても東京に戻らないといけなくなったんです。急な事でご迷惑かけます」

「せやかて今日までってのは・・・なぁ?」
「せめて今週末まで・・・ダメなん?」

「・・・今日、仕事を全部片付けて、明日には東京に行きます。こんなにお世話になったのにごめんなさい」


小豆島から戻った次の日、私は5年間もお世話になった会社に退職願を出した。
30前にもなってこんな辞め方して社会人としてどうなのって思うけど、身体中が「急げ」って言ってるみたい・・・あれだけ戻れないと思った東京に気持ちだけが飛んでいた。



夜、アパートに戻ったら数日分の着替えを準備した。

流石に5年も住んだら荷物は増えてる。
東京のアパートが決まったらそこに送れるようにと一晩中掛かって荷物を整理して、引っ越し屋さんが決まったらすぐに運び出せるようにした。


花沢類が今、どうしてるかなんて知らない。
東京に居るのかフランスにいるのか、全然違う国にいるのか・・・あのマンションの部屋が今でもあるのかさえ知らない。
でも中途半端に終わらせた恋は・・・自分から逃げてしまった恋はあの場所に行かなきゃやり直せない、そう思うから。


夜が明ける頃少しだけ寝たけれど、火曜日の朝早くに大家さんを訪ねて退居の申し出をして、お昼前には大阪を出て東京に向かった。


新幹線の中で降り始めた雨・・・何故か今日は優しく感じられた。





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2019/08/09 (Fri) 11:12 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/09 (Fri) 11:29 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/09 (Fri) 11:52 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様 こんにちは。

いつもコメントありがとうございます。

イライラさせて申し訳ありません。
でも私には書きたいラストがあるのでお待ち頂くしかありません。

ご不快な思いをさせてごめんなさい。
私も暑い中書いてるのでご理解いただきますようお願い申し上げます。

2019/08/09 (Fri) 13:23 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

あはは!そうなんですよね💦
いきなり動くんかいっ!って思いますよね~!

私の中でのラストシーンは大阪ではなかったのですよ。
でもここまで来たら追いかけっこはどっちが勝つか・・・ふふふ、ミエミエですよね!

つくしちゃんは今は逃げてるつもりがないので簡単に捕獲されるはず・・・(笑)
その場所を想像してもう少しだけお待ち下さい。

2019/08/09 (Fri) 13:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは!

いやいや、当たりよ(笑)
そして確かに専門店があります。あれ?珍しいのかな・・・すごく普通に食べてるけど。
その専門店にも近くまで行けば寄ります。

家でも結構作りますが・・・この辺だけの料理だったのかしら(笑)
それすら思わなかったわ💦


で、お話し・・・まぁ、すぐに捕獲されるから(笑)
思い立ったら動くのが早いのよ💦5年もウジウジしてたクセにね(笑)

2019/08/09 (Fri) 13:33 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/09 (Fri) 17:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様、わざわざのお返事ありがとうございます。

来週には終わらせますのでどうぞ宜しくお願い致します。
麦猫様もお身体には気を付けて、暑い夏を乗り切って下さいませ。

2019/08/09 (Fri) 18:32 | EDIT | REPLY |   

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