FC2ブログ

plumeria

plumeria

坂手港からの最終便は20時30分、そのギリギリにフェリー乗り場に着いて、レンタカー会社に連絡して車をそこに置いた。

急いで搭乗手続きをした後ですぐに大阪のホテルに部屋を予約し、真っ暗な海を眺めながら神戸に向かった。


潮の香りと波の音・・・牧野もこれを感じながら小豆島に向かったんだろうか。

向かう時には何を考えていたんだろう。
もしかしたら長谷川との新しいスタートを少しは想い描いたのか・・・。

それでもこの貝殻を残してくれた。あんたの気持ちは昔と変わらないって考えてもいいんだよね?
忘れたって言ったクセに忘れてないって・・・その答えは何だったの?それは俺の答えと同じだと思ってもいいんだよね?

誰が答えてくれる訳でも無いのに、船の灯りで白く光る波を見ながら呟いていた。


神戸に着いたのは24時、そこからタクシーでホテルに向かい、眠りにつくことが出来たのは午前3時だった。


**


次の日の朝、午前9時にはタクシーを手配してホテルを出た。

長谷川が教えてくれた「森川工業」という会社は大阪に2社あった。
でも1つはかなり大きな会社で、牧野が東京から逃げた後で働くとは考えにくい。もう1つ、俺が行こうとしているのは小さな部品工場だった。
牧野ならこの規模を選ぶ・・・すぐにそう感じたから。


そこは大阪の中心地から少しだけ離れた場所で、回りにも同じような小さな会社が建ち並んでいた。調べた住所はすぐ近くだと運転手に言われ、俺は窓からその光景を見ていた。
あれから牧野はこの辺りで暮らしていたんだろうか・・・それは凄く不思議な感覚だった。

遠くフランスに居た俺がここまで来ることが出来たなんて。


「あぁ、ありました。あの会社ですね」、その言葉で前を見ると縦長の古びた看板に『森川工業』と言う文字が見えた。

そこでタクシーを降り、門すら無い入り口に立った。
ブロック塀で囲まれていて手前に古い事務所のような建物があり、続いている工場のような所はシャッターが開け放たれて数人の工員が見える。
駐車場の車の台数を見ても働いているのは5~6人か?本当に小さな下請け工場だった。

牧野はここに居るはず・・・そう思うと心臓が途端に五月蠅くなった。

それなのに・・・



「えっ?!昨日で辞めた?牧野が辞めたんですか?」

会社は予想通り・・・でも事務所に入って経営者に聞くと、牧野は昨日突然退職すると言って、ここにある荷物も全部片付け仕事を引き継いだらしい。
やっとここまで来たのに会えない状況に愕然とした。


「いやぁ、儂らも困るからって言うたんですけどねぇ、本人がどうしても辞めさせてくれって言うもんですから・・・」
「辞めてどうするって言ってましたか?何故急に・・・何かあったんでしょうか?」

「なんでも東京に戻らないといけないって言ってねぇ・・・何かあったって聞かれても全然判らんのですわ。いや、よう仕事してくれる人やったからホンマ困ってるんですけどねぇ・・・で、あなたはどう言う関係の?」

「・・・東京で一緒に暮らしていた者です。彼女をずっと探していたんですがここに居ると聞いたばかりでして・・・」
「はぁ、そうでしたんか。あぁ、東京のねぇ・・・そう言えばここに現れた時はえらい元気がなくて、毎日しょんぼりしてるような子でしたねぇ・・・。相当辛い事があったんやろうと思ったけど、聞くのもなぁ思うて聞かんかったですけど」

毎日しょんぼりしながらここで働いた・・・そう言われて事務所を見るとホワイトボードの1番下に「牧野」って名前を見付け、無造作にそこら辺に置かれている配達伝票の受け取り印が「牧野」。
昨日までここに居たのに・・・そう思うと悔しかった。


「東京の何処に行くかは聞いていませんか?」
「ん~、聞いてないなぁ。でも今日東京に行くって言うてましたよ?今ならまだアパートに居るかもしれんけど」

「今日?そのアパート、教えてもらえますか?」


東京に戻らないといけない・・・日曜日は長谷川と小豆島に居てあんな絵馬書いて、その次の日には東京に・・・?

牧野が俺の元を去って行った時とよく似ている気がした。
普段はのんびりしているように見えるのに、何かを決心したら突然行動に移す・・・5年経ってもそんなところは全然変わらない彼女にホッとするような・・・逆にすごく焦る気持ちもあった。

そして牧野の住所を書いたメモを受け取ると、経営者に頭を下げてこの会社を後にした。



大通りまで走って行きタクシーを停め、そのメモを見せて「急いでくれ!」と頼んだ。
聞けば車で15分くらいだと言うから10時ぐらいには着く。それなら間に合うんじゃないかと思ったのに、急にタクシーが急ブレーキを踏んだ!

「どうした?!」
「すんません、たった今、前の方で事故ったみたいですわ。迂回したいけど・・・あちゃー、混んでるなぁ。お客さん、ちょっとこの道を抜けるのに時間が掛かるかもしれんけど」

「急いでるんだ、どうにも出来ない?」
「1車線ですからねぇ、それに後ろにこれだけ車がついて来てたらUターンも少し時間が・・・」

「・・・待ってられない。ここで降りる!」
「あっ!お客さん!」

運転手にいくらか渡して急いでタクシーを降り、別の通りまで走って再びタクシーを拾った。
少しの時間ロスだったけどこのぐらいなら、そう思って運転手を急かした。


「お客さん、ここですよ」、そう言われて降りたのは小さなアパートの前。
如何にも牧野が選びそうな2階建てのアパート・・・そこの205号室だと聞いていたから急いで階段を駆け上がり、その部屋のドアの前に立った。

そっとドアに手を置いて呼吸を整える・・・5年ぶりに牧野を抱き締められると思い、逸る気持ちを抑えてインターホンを押した。


でも返事がない・・・まさかと思ってドアを叩いたけど何の反応もなかった。
「牧野?居ないの?」と声も掛けてみたが、中から物音は全然しなかった。


「・・・あの、喧しいんやけどな・・・」

牧野の部屋の隣から若い女性が目を擦りながらドアを開けた。
服装や髪型から如何にもホステスと言った感じで、俺がドアを叩く音や牧野を呼ぶ声が我慢出来なかったんだろう。迷惑そうに眉を寄せる彼女だったけど、この部屋の事を何か知らないかと尋ねた。


「私がここに戻るのは朝の4時ぐらいや。それでも電気がついててガタガタ音がしてたなぁ・・・全く、非常識やって腹が立ったわ。下の階の人も寝られなかったんちゃう?」

「一晩中音がしてたの?姿は見てない?」

「見てへんよ。その部屋に女の人が居るってのは判ってたけど、生活時間が違うから全然顔なんて見たことないなぁ・・・。
私が知る限りあんたが初めて訪ねて来た人やない?話し声だって殆ど聞いたことないもん。こんな安いアパートだから筒抜けなんやけどね~」

「寝てるとこ邪魔して悪いんだけど教えてくれる?」


この女性に大家の電話番号を聞き、急いで問い合わせてみた。反ってきた答えは・・・


「先ほど訪ねて来て退居するって申し出られましたよ?今から東京に行くんやけど、向こうの住所が決まったら荷物の引き上げの為にもう1度戻って来るとは言うてはりましたけど?」

「今から東京に?・・・判った、ありがとう!」


相変わらずこういう時だけ逃げ足が速いんだから!
でももうすぐ追い付く・・・あんたの行き先ぐらい絶対に突止めてみせる。
移動手段を調べた結果、伊丹から飛行機よりは新幹線の方が早い・・・この後急いで新大阪に向かった。


そこで雨が降り出した。

思い出すのは顔も見ることが出来なかった赤い傘の牧野・・・今度は必ず振り向かせてみせると拳を握り締め、すぐにやってきた新幹線に飛び乗った。





kenka.jpg
関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/08/11 (Sun) 11:24 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/08/11 (Sun) 14:12 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/08/11 (Sun) 15:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは!

あっはは!そんな感じですよね~!
でもあれはジェリーの方がかなり頭はいいんじゃなかったっけ?

類君に着ぐるみ着せて足をフル回転ね!想像して爆笑してしまったわ~💦

類君のフル回転(笑)ごめん、マジでツボった!!

2019/08/11 (Sun) 21:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様、こんばんは!

ふふふ、逃げ足だけは速いでしょ?(笑)
やはりここは東京で・・・ってどうしても思うんですよね。

あら!いい所にお住まいですね~!羨ましいっ!
美味しいものが沢山あるイメージです(笑)
私は子供が京都に居るので、そこは通過しちゃうんだけど(笑)

お盆には台風が来そうじゃないですか?気を付けて下さいね~💦


そして私も同じですよ(笑)
大変なんですよね・・・お盆にお正月・・・憂鬱です(笑)
義姉たちに色々とね~・・・特に今年は初盆なのです。去年旦那のお父さんが亡くなったので。

私の場合、そこに行っても1人になってしまうので妄想に浸ります(笑)
故人には申し訳ないが、頭の中では類君と総ちゃんが遊んでいます。

ふふふ、お互いに頑張りましょうね!!

2019/08/11 (Sun) 22:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは!

うわぉ!類君に厳しいですねぇ~(笑)
うんうん、これからダッシュで捕獲に行きます!!見ててくださいねっ!

まぁ、よーく考えたら1日で会社を辞められるのか?って感じですけどね💦

実は私・・・このお話で初めて伊丹空港の場所を知りました!(爆)
大阪には随分昔、花博でしたっけ?その時に母に連れられて行ったっきりなんです(笑)

ほんと、都会に行かないのでお話しには苦労します💦

2019/08/11 (Sun) 22:13 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply