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お昼ご飯をみんなでいただいた後、今度は離れに戻って総が着物を広げていた。
それはお下がりと言っても一目で上等な着物だと判るもの・・・それを家元夫人が選んでくれたのかと思うと胸が熱くなった。

その中から季節に合う渋いピンクの梅の花模様の小紋に、松竹梅が描かれているクリーム色の帯。
そこに黄緑色の帯締めを付けてくれたから凄く華やかになった。
総も着物を用意していたからそれに着替えて先ずは師匠と向き合い、久しぶりにお稽古開始の挨拶・・・何故か凄く緊張した。


「つくし、点前の三要素はちゃんと覚えているか?」
「・・・・・・」

「黙るな、覚えているか?」
「・・・はっ!順番、位置、それから所作です」

「・・・完全に忘れてるな?」
「申し訳ありません・・・」


順番とは文字通りで位置とは茶道具の位置、そして何よりも難しいのが所作・・・かなりヤバい状態だった。
総には今のひと言で総て見破られたから、お茶を点てるよりも前に歩き方から始まってしまった。

畳の縁や敷居を踏まないようにするのは当たり前だけど、表千家は畳一畳をおよそ六足で歩き、半畳の場合は三足。両手は自然に前方へ垂れるようにして目の位置は真っ直ぐ前の少し下向き、部屋へは左足から入ると決められている。
それをしてみろと言われたけれど、1番初めは緊張とド忘れと普段洋間だからなのか全然出来ない・・・おまけに右手と右足が同時に出て総を笑わせた。


「・・・悪い、真面目にしたいけど・・・お前、マジ面白すぎ!」
「待って!ちょっと待って、思い出すから!いきなり今日こんな歩き方するとは思わなかったのよ!」

「どーすんだよ!そんなんじゃいつまで経っても親父の前で茶なんて点てられないぞ?」
「・・・・・・えっ!」

「あれ、言わなかったっけ?お前を認めてもらうために家元を客にしてお前が茶を点てるって」
「聞いてないわよ?!」

「そうか?でもまぁ、そう言う事だから。じゃ、気持ちを入れ替えて帛紗捌きから」
「・・・・・・・・・」


この私が西門流家元にお茶を?その言葉で今度は動揺して帛紗なんて全然捌けなかった・・・。


それでもやるしかない・・・これは私1人のためじゃなく紫音と花音の為でもある。
ここで私が投げ出したらこれまで頑張ってきた事も、苦しかった事も悲しかった事も報われない。だから暫くしたら気持ちを入れ替え真剣に稽古に取り組んだ。
何とか帛紗捌きを思い出したら今度は棗、茶杓を清める割り稽古。

そして初めはお盆の上で行う「盆略」と言う稽古を指導してもらった。
これは畳の上で行う平点前の前に初心者が行うもので、私も西門に入門した時には半年ほどこれで稽古をした。


「じゃあ釜でやろうか。その前に・・・紫音、そこで見るぐらいなら入るか?」
「・・・えっ?」

総が私の肩越しにそんな言葉を出したから振り向いて見たら、この部屋の開けていたドアの向こう側に紫音の顔があった。まるで覗き見みたいに顔の半分だけを出してて、総に言われたらゆっくり身体全体を現した。

やっぱり気になるんだろうか。
それより私の下手くそな作法を見ちゃったのかな?・・・と言っても紫音にはまだその優劣なんて判らないと思うけど。


「今から釜を使って茶を点てる稽古をする。見学したいなら入ってもいいが、声を出さない事と正座が条件だ。どうする?」

「・・・・・・紫音、無理しないで・・・」
「つくしに聞いてない。決めるのは紫音だ」


総の少し厳しい言葉はこれから先の生活の下準備。
これまで自由気儘に動き回っていた紫音に「西門はこうだ」とほんの少しでも感じさせないと、実際に移り住んだ時には耐えられないかもしれない。

初めが肝心・・・日光の時は穏やかだったけどいつもそうじゃないから。


でも紫音はゆっくり入って来た。
そして小さな声で「見たい・・・」そう言った。


「それならここに座りなさい。つくし、座布団あるか?足が少しでも痛くないようにしないと稽古を見ても集中出来ないから」
「あぁ、はい。確か美作さんが用意してくれていたわ」

「・・・・・・さぶとん?」

「畳の上に直に正座したらこの前みたいに痛くなるだろ?本格的に稽古するようになったら座布団なんてしないけど、今日は見学だから座布団の上に座っとけ」

「・・・はい!」


私が座布団を持って来て紫音に渡そうとしたら、今度は花音が覗いていた。
でも花音は凄い速さで逃げていき、このままだと独りぼっちになってしまう。だから総に断わってお稽古を中断、小夜さんを呼んでお屋敷のほうで面倒見てもらうことにした。

それには総も苦笑い・・・「いつか飲めんのかな?」ってぼやいていた。




*********************




小さな見学者が加わってつくしの稽古が再開された。
5年間やってはなかったがそこまで悪くはない。緊張さえ解れれば昔を思い出し、なかなか綺麗な所作で薄茶点前を進めていった。

ここには炉がないから季節は冬だが風炉を使って湯を沸かし、つくしは久しぶりの茶杓に手が震えてる。自分でも判っているからつい眉を顰めてしまうが茶席ではそんな表情はNG。
俺が咳払いで注意したら余計にビクッとして抹茶を溢していた。


「今のところ、少し呼吸を整えてから。手先が揺れては茶席が台無しだ」
「はい、判りました」

「もう少し茶筅の回しを丁寧に。でもやり過ぎるな?これは薄茶だからな」
「はい、気を付けます」

「全体的に少し時間が掛かりすぎる。途中で手を止めて考え込むな、客に不信感を与えるぞ」
「はい」


5年ぶりだから仕方がないが、半分以上は見ている紫音に雰囲気を伝えるためだった。つくしも判ってるようで俺の注意に対してもそこまで悩んでないようだ。
むしろだんだん思い出してきて動きも滑らかになってきた。

勿論これでは親父の前に出せないから、何度もこうやって教えなきゃいけない事は確かだけど。



「よし、今日はここまでにしよう。ここに道具を持って来たんだから自分で稽古しておくように」
「有難う御座いました」

「紫音も足を崩していいぞ。どうだった?やってみたいか?」
「・・・・・・むずかしそう」

「ははっ!そりゃ難しいだろうな。でも茶道は稽古に終わりがないから俺だって今も稽古中だ。人に教えていくようになっても完成じゃない。一生勉強ってことだな」

「・・・・・・うん、こんどやってみる!」


今度やってみる、そのひと言がすげぇ嬉しかった。

俺が紫音の歳の頃、西門の子に産まれたから絶対に茶道に進まなくてはいけないと宿命的に押し付けられたが、俺は紫音にそれと同じ言葉は出したくなかった。
身体に流れる「血」が自然と茶道に向かうのなら嬉しい、そう思っていたから。

そして投げ出した足が痛いと苦しそうに笑い、つくしがそれを横から抱き締めて「頑張ったね!」って目を潤ませる。


俺はそんなことは出来なかった。
どれだけ痛くても所作通りに部屋を退出し、どれだけ蹌踉けそうになっても誰にも気付かれないように歯を食いしばって廊下を歩いた。そして自分の部屋に戻ったら誰にぶつけるでもなく苛立った。

お袋に『頑張りましたね』と、ガキの頃の俺は言って欲しかったんだろうか。それさえも忘れてしまったけどな・・・。



紫音にも少し手伝わせて3人で道具を片付け、それが済んだら着物から服に着替えて花音を迎えに行く。
そして今日も俺の事なんて知ってそうにないスーパーに4人揃って買い物に行き、夕飯の材料を買った。

つくしがキッチンで料理してる時に俺は子供達と立体パズルで遊び、紫音と頑張って作ったメルセデスベンツを花音によって破壊され大喧嘩。
大泣きした紫音がつくしに泣き付いて、俺は花音を説教して泣かせた。
実に賑やかで騒々しくて、俺には無縁だった世界だ。


3ヶ月前には俺はたった1人で、今頃すげぇ仏頂面で紫を横に置き、大勢の前に居るんだと思っていた。それが3ヶ月経ったら俺には家族がいて、その中で泣いたり笑ったり、抱きついたり抱き締めたりしてる。

判んねぇもんだなって・・・俺と同じ顔して泣きべそかいてる花音の頭を撫でて思っていた。


「はいはい、もう喧嘩は終わり~!ご飯にするよ~!」
「「は~い!」」

「・・・おい!もう笑ってんのかよ!」





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2019/08/05 (Mon) 12:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

花音はうちの娘そのもの。紫音はこんな子だったらいいなって言う理想(笑)
実際は花音みたいな子の方が多いでしょ?紫音はお利口過ぎますよね~💦

でも、この双子ちゃんは好きです♥

向日葵の蒼もこんな感じですかね?
そう言えば類君のところには子供は産まれても赤ちゃんで終わってる?
こんなに出てきませんよね・・・(笑)今度書いてみようっと!

裏千家と歩き方が少し違うんですって。
私なんて畳一畳3歩ぐらいだし、縁は踏むし(笑)総ちゃんに怒られるわ~💦


うふふ、幸せそうだよね♥うんうん!
(今までが酷すぎるんだって)

2019/08/05 (Mon) 22:17 | EDIT | REPLY |   

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