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東京に着いた時、雨は本降りになっていた。
傘がないと歩けないぐらい・・・私は鞄の中に折りたたみ傘を持っていたけど、わざわざ駅の構内で赤い傘を買った。

大きめの・・・私がすっぽり入る傘。
あの日、何処かに消えて行った赤い傘・・・それとよく似たものだ。

そしてここから電話を掛けてみた。
花沢類の携帯番号は前のスマホの時に消してしまったから判らないけど、ここに掛ければあの人の居場所が判る・・・そう思ったから。


『お電話ありがとうございます。花沢物産株式会社、総務課伊藤でございます』
「突然のお電話で申し訳ありません。牧野と申しますが・・・花沢類さんはそちらにいらっしゃいますか?」

『牧野様・・・いつもお世話になっております。失礼ですが、どちらの会社の牧野様でしょう?』
「え?あっ・・・あの、会社のと言うか、学生の時の後輩・・・ですが」

『・・・大変申し訳ございません、社用で無い方への情報開示は出来なくなっておりますが』


流石、やっぱり教えてくれないんだ。
それなら日本に居るかどうかだけでもいいと聞けば答えは・・・『現在は日本本社勤務ではございません』だった。


そうかぁ・・・やっぱり花沢類、日本に居ないんだ。
と言う事はフランスなのかな?でもフランスまで電話することは出来ない・・・半分予測していたから驚いた訳じゃない。
むしろここで花沢類に電話を繋がれたら、何を喋ったらいいのか判らなかった。


会いたい・・・ただ、それだけなんだけど。

でも会えない・・・私は逃げたんだもの、きっと彼は許してくれない。あの時、彼の話を聞こうとしなかったのは私・・・5年も経ってから都合よく会いたいなんて言えない。


この後は駅の構内で今日泊まるホテルを予約して、幾つか不動産屋さんを調べた。
明日になったら新しいアパート探して、またこの街で暮らすから・・・そして今度こそ自分に正直に生きよう、そう呟きながら雨雲を見上げた。


バスに揺られて向かったのは花沢類と住んでいたマンションがある街。
そこに行く途中、結露で曇った窓硝子を指で拭くと、その向こうには懐かしいオフィスビル街が見えた。道を歩く人達が傘を差して行き交うのを見て、あの日の自分の姿を想い描いていた。


花沢類・・・あんなに遅れたのにちゃんと来てくれて、居なくなった私を探して走り回ってくれたのに。
その時の私は自分の事しか考えられなくて謝る彼の顔も見なかった。なんて酷い別れ方をしたんだろう・・・卑怯な置き手紙も残したりして。


今はもう・・・あの部屋に彼も居ないんだね。


考え事をしている間に目的地に着いて、私は赤い傘を差してマンションに向かった。
彼が居なくてもいい・・・自分の再出発の為にもう1度あの場所に戻りたかった。




**********************




東京に着いてすぐに向かったのは牧野と再会した喫茶店だった。
あの日も今日みたいな雨で、偶然にも同じ場所で雨宿りした・・・そこに居るような気がしてタクシーを飛ばした。

「随分酷くなりましたねぇ。傘はお持ちですか?」
「・・・いや、持ってない」

「じゃあ濡れないところで停めましょうね」


運転手が気を利かせて降ろしてくれたのは、あの時俺が走った道だった。
そこで降りて近くにあったコンビニで黒い傘を買い、急いでその店に向かった。

あの日に飛び込んだ店の軒下には今日は別の人間が雨宿りしてる・・・その姿を5年前と重ねて見ていた。そしてカランとドアベルを鳴らして入ってみたけど、店内に牧野の姿はなかった。
あの時の店長はもう居ないのか、見覚えのない男性が声を掛けてきた。

「お1人様ですか?」・・・それには小さく首を振って店を出た。


次に向かったのは牧野が「1人」になってしまったリストランテ。

でもそこにも居なかった。
午後の中途半端な時間だったから食事と言うよりティータイムを過ごしている人が数人居るだけ・・・あの日、牧野が座っていたと聞いた席には全然違う女性が座って居た。

ここでも「待ち合わせておいでですか?」と聞かれ、やはり首を振って出ていった。



その後はあの日と同じ道を辿った。
降り続ける雨の中のタクシー乗り場、バス停・・・そして牧野を見付けて、最後に彼女の後ろ姿を見た通り。

その同じ場所に立って同じように牧野が消えて行った道の向こうを見つめていた。



『ちゃんと判ってる・・・花沢類の立場も家も会社も将来も。日本だけじゃなくて世界を相手に仕事する人だって知ってる』

それ、誰と比べてたの?司・・・?
たとえ世界を相手に仕事したって、大事なのはそんな大きな物じゃなくて・・・目の前の1人だったんだ。


『私は花沢類の邪魔になるだけで、こうやって仕事が大変な時にデートになんて誘って逆に嫌な思いさせてるのよね?
自分の欲だけで花沢類の仕事を中断させちゃいけないのに空気も読めなくてごめん・・・ホント、馬鹿だよね!』



牧野が初めて吐き捨てるように言った言葉・・・俺はこの5年間忘れたことはなかった。
あんたの不安から生まれた声は叩き付ける雨よりも鋭く俺に突き刺さった。


『怒ってよ・・・もうお前なんか居なくていいって怒ってよ!もういい・・・もういいの!さようなら・・・あの日、出会わなきゃ良かった・・・』


どうしてこの時に抱き締めてやらなかったんだろう。
牧野は絶対に泣いていたのに・・・この言葉は全部反対だったはずなのに。



『笑ってよ、花沢類。傍に居てくれてありがとうって笑ってよ。これからも一緒にここで暮らそうって言ってよ・・・その為にあの日、私たちは再会したんだよ?』



「まさか・・・あそこか?!」


その時に思い付いた場所・・・今度こそ掴まえられる、そう思って再びタクシーに乗り込んだ。





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2019/08/13 (Tue) 11:46 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/13 (Tue) 12:56 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/13 (Tue) 13:25 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

爆笑!!

「よーーーうい」
「てーーーーー!」(笑)

何回呼んでも笑える!

てか、これシリアスな話のはずなのに💦
こんな再会、ある?!

ごめん、笑いすぎでこれしか返事が出来ない(爆)

2019/08/13 (Tue) 22:24 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

ははは!このつくしちゃんは語学堪能ではないのでこれから覚えるんじゃないですか?

確かに逃げる気がないのでどんどん類君が迫ってますね!
もう同じ時間帯に同じ場所に居ますよ~。

あらら、再会の日は台風(笑)💦
雨どころじゃなくて暴風雨・・・私の住んでる所ですけどね(笑)

実は外壁塗装の2週間の間、庭に殆ど出てなかったんですけどね。
どうもその間に毒性の強い毛虫が植木に発生していたみたいで、退治したんですが・・・やられました。
両腕真っ赤に腫れて痒くて痛くて💦

暑さだけじゃなく、害虫によりパソコンを打てない私です💦

2019/08/13 (Tue) 22:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様 こんばんは。

はい♥もう何も起きませんよ~!
ラストまであと少しです。どうぞ安心してて下さいませ。

そしてご苦労様でした。気疲れしましたね(笑)
でもゆっくり寝られて良かったです。

うちもね、私には何も言わずに姉たちと旅行に行きますよ(笑)
気が付いたら誘われないのは私だけ。旦那は私が疲れるだろうから声を掛けないそうです。
初めは「ひと言言ってよ💢」って思いましたが、今ではそれでいいと思っています。

そのうちもっと歳を取ったら笑い話になるかもしれないし。

今は距離が会った方がお互い楽ならそれでいいって思う事にしています。

もしかしたら旦那が板挟みで辛いのかも(笑)

2019/08/13 (Tue) 22:37 | EDIT | REPLY |   

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