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plumeria

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エレベーターで最上階に上がった。
このマンションの最上階は彼だけの専用フロア・・・他の人が立ち入る事はない。

懐かしいホール・・・そのドアのある方にゆっくり進んで行った。
以前は綺麗に飾られていた観葉植物がなくて少し淋しかった。それに変わったと言えば空気だろうか・・・誰も住んでいないから、湿っぽく澱んだ空気が漂っていた。

そして玄関手前にあるインターホンまで来ると、居ないと判ってているのにその呼び出しボタンを押した。
・・・勿論何の反応もない。


でも私にとって、この場所まで来られたことはすごい進歩だった。
一生来ないと思っていたし、逃げ出した場所・・・すごく幸せだったはずなのに自分が壊してしまった花沢類との暮らし。総てを忘れてしまおうと下を向いて出ていった5年前。


忘れる事も出来ないクセに大阪に逃げて、毎日密かに調べていた東京の天気。あぁ、今日は傘が要るなって、東京の天気を見て思っていた。
真夏の温度も真冬の温度も、台風の通過も大きな事故も、桜の開花も梅雨明けも初雪も・・・私の頭に残るのは全部東京だった。
身体は大阪にあったけど、心はいつもこの街を彷徨って彼を探してた。


花沢類・・・あなたの傍に居たかった。



涙を流すことさえ許されないような気がしたから、溢れ落ちそうなものは天井を見上げて堪えた。
そこの天窓から見える雨雲・・・それが私の代わりに泣いてくれてるみたい。


これからはちゃんと自分らしく前を向いて歩いて行こう。
そしていつの日か花沢類に会ったら、あの日の事を謝ろう・・・もう1度その手を掴めるのなら今度は・・・・・・

「ふふっ、そんなに都合よく行かないわよ。馬鹿だね、つくし・・・」


今度は大きく深呼吸してドアに背中を向けた。


エレベーターで1階まで降りたら広いエントランスを薄暗い外に向かって歩く・・・これはあの日と同じだけど、あの日は逃げる気分で俯いて歩いたのを覚えてる。
やっぱり今日みたいな雨で、私の心も土砂降りで、2度と会わないってメモまで残したから悲しくて悲しくて・・・この街の空気を自分の中に入れたくないぐらい嫌だった。


だけど今日はちょっとだけ違う・・・私は彼への恋心を忘れずに生きていこうと決めたから。

真っ赤な傘を差して、階段を降りたら昔と同じように左に曲がった。


「あれ・・・?雨が上がるのかしら。少し明るくなってきたみたい・・・」




**********************




「あぁ、少し小振りになりましたねぇ・・・雨が止むのかな?」

交差点で停まってる時に運転手が暢気にそんな事を言ったけど、俺は早くその信号が変わらないかとフロントガラスの向こうを睨みつけていた。
早く行かなきゃまた逃がしてしまう、そんな気がしてイライラする。

信号が青に変わって再び雨が窓に銀色の線を描き、その向こうに見え隠れする自分のマンションを見つめていた。確かに薄暗い雨雲の間から僅かな光が差してるのが判り、雨上がりを予感させた。


「あのマンションですね?何処に停めましょう?」
「・・・もうこの辺りでいい。すぐそこだから」

マンションまでもう少しという場所でさっさとタクシーを降りて、傘を差したまま通りを走った。


どうしてこんなに気持ちが逸るのかなんて判らない。

牧野があの部屋に行ったって入ることは出来ないし、それなら行ったとしてもすぐに何処かに消えてしまうだろう。だから会える確率なんてすごく低いのに・・・それでも足は止まらなかった。
バシャバシャと道路の水たまりの水を跳ね、自分のズボンなんてずぶ濡れで、それでもお構いなしにマンションの部屋を見上げながら走った。



その時に目に入ったもの・・・マンションの前の道を遠離って行く赤い傘。


それを見た瞬間、足が止まった。
ハァハァと肩で息をしながら、バクバクと鳴り続ける心臓を抱えて・・・俺の目は小雨の中を行く赤い傘に釘付けになった。


あの日と同じだ・・・あの雨の日の夜と同じ。
赤い傘が暗い雑踏の中に消えて行ったあの時の・・・顔を見ずに別れた後ろ姿だ。


急いで追い掛けなきゃいけないのに足が動かない。
あれだけ追い求めた姿が目に映ってるのに・・・それがどんどん離れていくのに身体が固まってる。


掴まえなきゃ・・・この腕の中に閉じ込めなきゃ!
近づいたら逃げてしまう蝶のような感覚で雨の中の赤い傘を見ていたけど、それが曲がり角に差し掛かった時・・・・・・


「牧野ーーー!!行くなーー!」


動かない足の代わりに俺は声を張り上げて叫んだ。
自分でもこんな声が出るだなんて思わなかったけど、大声を出したら逃げてしまう小鳥のような気もしたけれど、情けないほど身体が動かないから叫ぶしか出来なかった。


その傘は止まった。
曲がり角を曲がる寸前で、ピタッと動かなくなった。でも、振り向かない。

あの日のように赤い傘は俺に背中を向けたままだった。



「牧野、戻って来い!・・・俺を置いて行くな!!」


もう1度叫んだ時・・・・・・牧野が振り向いてくれた。
ここからじゃ見えないけどきっと驚いた顔してるよね・・・そして泣きそうになってるよね?

それを受け止めるのは俺しか居ない・・・そう思ったら足が動き始めた。
ぎこちなく動き出した足はすぐにスピードを上げて、手に持っていた傘なんて放り投げて、俺は真っ直ぐ牧野に向かって走り出した。

止みそうだった雨が顔に当たり、今までの雨で出来た水たまりをここでも跳ね上げ、だんだんその姿が鮮明になってくると回りの景色なんて全然見えなかった。


俺の目には牧野しか映らない・・・そしてもうすぐ掴まえるってところまで来たら牧野も赤い傘を放り投げた。


その腕が広げられて俺を待ってる。
そして、目の前まで行ったら思いっきり抱き締めた!


「牧野・・・!会いたかった・・・あんた、逃げすぎだよ・・・!」
「・・・花沢類、夢じゃないよね?」


「・・・・・・夢じゃない証拠・・・あげる」



5年ぶりのキスは雨の中・・・もうすぐ日差しが戻りそうな優しい雨の中だった。





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次回、最終話です。
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2019/08/15 (Thu) 11:24 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/15 (Thu) 11:30 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/15 (Thu) 11:44 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: 泣きそう

aya様、こんばんは。

コメントありがとうございます。
おぉっ!気に入っていただけましたか?(笑)ってか、焦れったい思いをされたのでしょうね💦
申し訳ありませんでしたねぇ~💦

このラストを書きたくてここまで延ばしちゃいました(笑)

最後まで応援、宜しくお願い致します♡

2019/08/15 (Thu) 22:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

麦猫様 こんばんは。

お待たせ致しました(笑)この場所での再会を書きたかったのですよ💦
途中中断したせいでこんなに暑くなってからの「梅雨のお話し」で、違和感満載でしたが、漸くラストを迎えられそうです。

もうここまで来たらHappyに終わるのでご安心下さいませ。

うんうん、雪も似合いますよね~。
夏よりは冬のイメージですものね!

雪のお話も浮かんだら書きますね~(先の長い話💦)

2019/08/15 (Thu) 22:56 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

はい、やっと再会できました♡
お話的には23話と短いのですが、年数は結構掛かってますよね💦
私は割と若い設定のお話しが多いので、30前ってのは珍しいかも(笑)

これからは同じ方向を歩いて行くと思います。
次回の最終話もどうぞ宜しく♡

2019/08/15 (Thu) 23:00 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/16 (Fri) 01:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、おはようございます!

あっ!そうかなぁ・・・珍しかった?(笑)
類君が叫ぶことがあんまりないから?

そういや最近コメディ類しか書いてないからなぁ(笑)
余計に感動的な気がするのかも?
(コンビニに行くと、ここで100万円置いた類君を思い出す私)
(お酒飲むシーンを書く度に瑠那と颯太を思い出す私)


え?そんな最終話だったっけ?

だからね?「雪の結晶」の過ちはもうしたくない訳よ(笑)
ラストは爽やかに、爽やかに・・・爽やかに、よ♡

2019/08/16 (Fri) 09:40 | EDIT | REPLY |   

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