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後援会長さんの所に行った後の総の稽古は細かく厳しいものになって、この時は紫音も部屋には入れなかった。
茶室に入ってお客様を見送りするまでの一連の動きを何度も繰り返しては「全然出来てない!もう1度初めから」と言われ、手が痛くなるほど湯を汲みお茶を点てたけどなかなか「よし」とは言う言葉は出ない。


「・・・・・・あっ」
「何度言えば判る?そこで声を漏らすな。癖になるぞ」

「すみません、やり直します」
「茶会でやり直しを客に申し入れるつもりか?救いを求めるような表情もやめろ。自分の茶席だと思えば自然と誰も頼らない。まだ考えが甘い証拠だ」

「・・・申し訳ありません」
「難しい表情を浮かべる時があるな。それはこの場には不要だ」

「・・・はい」


情けなさから何度も手が止まるけど、こういう時の総はそれを見ても優しい言葉なんてなかった。
それは私が西門に通っていた頃と同じだけど、今はその時以上に本気だ。だからその厳しい表情を紫音や花音にはまだ見せられなかった。


「よし、今日はここまで。つくし、この前話した茶会は7月の1番初めの土曜日になったから」
「・・・はい。判りました」

「親父には鷹司会長からの呼び出しって事になってる。まぁサプライズ的にお前が登場するって感じだけど、会長が居る前で騒いだりはしないから気にすんな」
「いや、気になるでしょ・・・はぁ、胃が痛い」

「厳しく言ってるが良い茶を点てられるようになってるから自信を持てって。いくら所作が完璧で手順を間違わなくても気持ちの入ってない茶を点てれば親父には見抜かれる。そこだけ頭に入れとけ」


その時に着ていく着物は家元夫人のお下がりの着物。
子供達は当日は美作さんに預かってもらう事にした。流石にお茶会してる横で花音が大騒ぎしたら不味い・・・そのひと言には頷いてしまった。

家元も家元夫人もあの日以来・・・私はその人を目の前にして平常心でお茶を点てられるだろうか。
この不安は俯いたり後ろを振り返れば大きくなる。前だけを見て強くならないと・・・これまでの辛い日々と闘っていたことを無駄にしちゃいけない。

総がいつか子供達に言ってた『一期一会』・・・たった1度の時間を大事にしよう。きっとそうすれば私の想いは家元に伝わる、そう信じようと繰り返し自分に言い聞かせた。


「それじゃ俺は屋敷に帰るけどイメージトレーニングもしとけよ」
「・・・ん、判った」

「紫音、花音、ママを頼んだぞ」
「「はーい!!」」


帰り際には子供達の前でも優しいキスをくれる。
お稽古を頑張ったご褒美だって・・・茶室とは全然違う笑顔で抱き締めてくれる。それがないと毎日が不安で押し潰されそうだった。




そして土曜の朝、美作さんに双子を預けて総と一緒に出掛けたのは朝の7時。
夏の茶会は暑さを避けるために時間を早めて行われる事が多いから、この日も10時からといつもより少しだけ早かった。

昨日の晩は緊張して寝られなかった・・・だから目の下に出来たクマを総に一発で見破られ「馬鹿か!」って怒鳴られた。


「そりゃ気持ちは判るけどよ・・・頭が働かないとミスるぞ?」
「言わないで・・・既に順番忘れかけてるから」

「は?あのなぁ!あと3時間後には始まってるぞ?それに今から行って花と掛け物の準備だろ?そりゃ俺も手伝うけど茶を点てるのはお前だから、親父がもし質問したら答えるのはお前だ。だからちゃんと自分でやらないと」
「・・・・・・はぁ」

「おいおい・・・」




***************************




今日の茶席会場に着いたのは8時前、鷹司会長に挨拶をしたらすぐに控えの間に入り茶室に掛け物を掛けた。
『日日是好日』・・・茶席になよく使われるもので、万が一説明を求められてもつくしが答えやすいようにと俺が選んだものだ。

色んな意味がある言葉だがその解釈は似たようなもの。
過ぎてしまった日々や事柄に拘り続けず、まだ来ていない未来に大きな期待をしない。目前の現実が喜びであろうと悲しみであろうと今日この一瞬を精一杯に生きる。それが積み重なって素晴らしい1日が生まれる。

今から辛い再会があるが、それもこの一瞬・・・過去に囚われず心を込めて茶を点てられれば、親父に伝わるのではないかと考えた。そして親父もこの掛け物を見てつくしと言うより俺の気持ちが判るはず。


絶対に許せないと言い続けた俺がこれを選んだことで、決意を判ってもらえたらいいんだが・・・。


その後はこの屋敷の裏庭で季節の花を摘ませてもらった。
選んだのは節黒せんのうに鳴子百合、鷹の葉芒に紫露草。涼しげな宗全籠 にそれを生けて床の間に飾った。


「・・・・・・・・・大丈夫かな」
「大丈夫だ。信じろ」

「うん・・・集中だね」
「集中も大事だが真心を込めろ。相手は茶道家元だ、お前が敵う相手じゃない。だが茶道は闘いじゃない・・・総ては相手を想う心から始まるんだからな」

「・・・くすっ、総が言っても説得力がないよ?家元と喧嘩ばかりしたくせに」
「くくっ、確かにな」


部屋の準備は終わった。
今度はつくしに着物を着せてやらないといけないから控え室に戻り、そこでお袋の着物を着せた。薄い水色の絽の着物を選んで、帯には涼感を漂わせる流水柄の帯。
俺も同じく着物に着替え、水屋で最後のチェックをした。


「若宗匠、西門のお家元がお見えになりました。今は当家主人とお話し中ですので間もなくこちらにご案内いたしますね」

「判りました。ありがとう・・・」

鷹司家の使用人がそう告げてきて、つくしの緊張はピークになった。
さっきまで落ち着こうとしていた手が再び震え、唇を噛み締めてる・・・。

その恐怖心はこいつにしか判らないだろう。
頭の中には4年半前に自分を苦しめた2人の姿が浮かぶはず・・・そしてその時の言葉が浮かぶはずだ。俺も後から聞いただけだが、あまりにも勝手な言葉だった。


『君は本気で総二郎と一緒になれるだなんて思ってないだろう?あれも火遊びの酷い子だからその気にさせるような事を言ったかもしれないがね。
もう総二郎には会わないでもらいたい。会っても辛い思いをするのは君で、総二郎は家の命令には背けないからこの話を受けるだろう。 傷が深くなる前に自分から身を引くことだ。
総二郎の荷を半分持つことなど君の力では無理だ。身の程を弁えなさい』


『あの子は西門流を背負っているの。それもわかってやって?どうにも出来ないこともあるのよ。
もう明日にはあの子に別の女性が来るんだし、年明けからの同居も決まっています。そういう仲になるのも時間の問題でしょうから・・・』



思い出すなとは言えない。
考えるなって言っても無理だろう・・・だが、今からの茶席の間だけは忘れろ、と言おうかと思ったらつくしの方が大きく息を吸い、薄暗い水屋の天井を見上げた。
そしてブツブツ何かを唱えたかと思うと、自分の頬をパンパン!と叩き「よし・・・!」と言った。


「・・・は?何したんだ?」

「何かで聞いたことを思いだしたの。悪い記憶は良い記憶に書き換えることで脳にご褒美をあげるんだって。
佐賀に行ったから女将さんに出会えた。そこを選んだから美作さんに助けてもらって無事に子供を産めた。病気になったけど子供達は苦労せずに育った。そしてちゃんと総と出会って今がある・・・だから大丈夫、無駄な時間は過ごさなかったんだって思うことにする」

「・・・強いな、お前」

「うん、お母さんだからね!」


そう言いながら目元は潤んでいたが、俺はすげぇこいつを誇らしく思った。
やっぱり雑草だ・・・弱そうに見えて実は強い。


茶会が始まる寸前まで、俺はつくしを抱き締めていた。




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2019/08/16 (Fri) 14:37 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/16 (Fri) 15:39 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様 こんばんは。

ははは!緊張しないでください💦
ここまで来て事件は起こしませんから!

お話の中のつくしちゃんはすっごい緊張の時間ですけどね(笑)
どんなお茶席になるのか見届けてくださいませ。

これが終われば今度は双子ちゃんと家元達です。
どんどん総ちゃんファミリーの生活に変化が出てきます。
これまでと違って明るい感じになると思うので、そこはホッコリしていただけると嬉しいな♡

それに忘れていませんよ?あきら君にも色々と変化があります♡
ラストまであと少し・・・どうぞ宜しくお願い致します。

2019/08/16 (Fri) 21:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様 こんばんは。

厳しい総ちゃん♡これはこれで素敵なのよね~♡
厳しくした後の甘々ってのが個人的には大好物!!

まぁ、今日は甘く出来なかったけど本当ならご褒美をあげたいぐらいだったわ(笑)
はっ!いかんいかん、もうないんだった(笑)期待させちゃいけなかった💦


で、誰がそんなお坊さんですのん!!(爆)
私もね、お茶の話を書くに辺り、禅語の本を買ったのよ。
そこにあったんだけど、初めて意味を知りました。なかなか奥が深いわよね・・・。

私なんてすぐに明日や明後日を期待してしまうけど・・・。
過去だって、何十年前の兄から受けた仕打ちを今でも忘れていません。

ダメだわ、こりゃ(笑)

あぁ、浜栄丸は今度の日曜日も海だそうです。馬鹿だよね・・・釣れないのに。

2019/08/16 (Fri) 21:52 | EDIT | REPLY |   

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