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plumeria

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美作さんと会ったことを正直に言わなかったことで、あれからずっと気が重たかった。

いくら美作さんに言われたからって、もう隠し事はするなって言われた事を守らなかったから・・・。
綾乃さんのことなら話したかもしれないけど、相手は美作さんだ・・・
もし、後でわかったとしてもそこまで問題にはならないと思ってたけど、やっぱり隠し事には変わりない。
でも、まさか話の内容を言うわけにもいかないし・・・。


「やっぱり初めから食事を断れば良かったんだよね!つい、食事と言われると・・・」

会社でもそんな事ばかり考えて失敗ばかり・・・ため息をつきながら帰り支度をした。


会社を出てから今日も1人で帰る。最近はここに西門さんの姿はなくて同僚からは変な噂もされている。
やっぱり振られたんだろうって・・・。そんな話しはどうでもいいけど落ち込む材料にはなるのよね。
西門さんも忙しいらしくてメールや電話でしかやりとりをしていない・・・少しだけ距離を感じているのは私だけ?

気が晴れないまま歩いていたら、目の前に着物姿の男性が現われた。
見たことはない人だけど・・・こんな場所に着物の人?もしかしたら、この人って・・・


「牧野さんでいらっしゃいますか?急に声をかけてすみません。私は西門のものです」

やっぱり西門さんの所の人だ。その立ち居振る舞いはさすがとしか言いようがない。
この家の人たちはお手伝いさんからお弟子さん、そこにいるみんながとても綺麗な所作をしている。
40歳くらいのその人もとても上品で、丁寧に頭を下げられた。・・・私も慌てて頭を下げる。


「はい・・・牧野ですけど。あの・・・私に何か?」

「大変申し訳ありません。すぐに終わりますから、少し車でお話しさせていただけませんか?」

この男性からはあまり怖いという印象は受けなかったから言われたとおりに車に乗った。
西門さんがいつも乗っているような黒塗りの車ではなく普通の車・・・。
この車の中でこの男性から1通の招待状のようなものを受け取った。


「これは・・・何ですか?」

「これは家元夫人からのお預かりものです。京都で総二郎様が亭主を務められる茶会がございますので
その招待状です。どうぞお受け取りを・・・」

私が京都まで?でも、私はそんなお茶会の作法なんて何も知らないのに・・・。
それに着ていく着物も持っていない。
すべてにおいて何も準備出来ない状態でこのお話を受けるわけにはいかなかった。

「とてもありがたいお話しですが、私はまだこのようなお茶会に出席できるほどの知識もお作法も
わかってはおりませんので・・・お断りいたします。ごめんなさい・・・。
それか、西門さんに相談してから決めたいのですが・・・」

「このお話は総二郎様にはまだお話ししていないそうです。いや、後できちんと話すおつもりですが・・・。
あなたは総二郎様とは真剣にお付き合いされていらっしゃると聞いています。
それなら一度、総二郎様のお仕事をきちんと見て欲しいと家元夫人はおっしゃられているのです。
そして亭主というものは非常に気を遣うもの・・・ましてや西門以外で行いますので余計にです。
あなたが初めて来るのであれば総二郎様が集中できなかったら困るのですよ。ご理解いただけますか?」

まるで断れる状況ではなくなった。
あの家元夫人からの申し出なら行くしかないんじゃないの?・・・それにしても京都にまで行く必要があるの?
それに、そんな事であの西門さんが緊張したり集中できないとか考えられない。
むしろ、俺を見とけ・・・って言いそうだけど?
私の疑問を見透かすようにその男性は正面から私の顔を見ている。まるで断るなと言わんばかりに・・・。


「私は本当に何も知らないのです・・・それでも、大丈夫ですか?」

「私が側につくように言われていますし、末席になるでしょうから心配はいりません」


渡された招待状に書かれた私の名前は丁寧に小筆で書かれていた。
そうなんだ・・・お茶会って招待状も手で書くんだって西門さんが言ってたっけ・・・

だから、西門さんってすごく字が綺麗なんだ・・・私は本当に何も知らないのね・・・。


その人は次の日曜日、京都行きの新幹線の切符まで用意してくれていた。
招待状とその切符を手渡されて、私はその車から降ろされた。


これも西門さんに秘密なの・・・?

どうしたらいいんだろう・・・今度は家元夫人のことで彼に隠し事をしてしまった。
話したいのに話せなくて・・・会いたいのにどんどん会いにくくなっていく。

カバンからスマホを取りだして西門さんの名前を表示させたけど・・・すぐにまたカバンに戻した。
今日、何回目かの大きなため息をついてバス停に向かった。


*******


京都の藤崎の家に行くことは牧野には黙っていた。
綾乃が絡んでいるだけにあいつに余計な心配をかけたくなかった。

あきらの事があってから、あまり牧野と話しをしていない・・・あいつも気にしているだろうか。
ベッドに寝転んでそんな事を考えながら天井を見つめた。そういや最近牧野に触れたのはいつだろう。

「情けねぇ・・・こんくらいで何にも手に付かなくなるくらい落ち込むなんて俺らしくねぇな・・・」

牧野の声が聞きたくてスマホを手に取った・・・時間は9時過ぎだ。牧野はアパートにいるだろう。
会いたい!・・・そう思ったらもう車を出していた。


アパートの下で牧野の部屋を見上げた・・・カーテン越しに部屋の明かりが見える。
そしてわざわざ下から電話をかけた。


『もしもし・・・西門さん?』

「あぁ、牧野・・・最近電話もしなくてすまなかったな。元気だよな?」

『ふふっ・・・元気だよ?それだけが取り柄だもん。西門さんは?忙しいからってちゃんと食べないとまた倒れるよ?
今はどこなの?また、遠くに行ってるの?』


やっぱりダメか・・・声を聞くだけじゃもう押さえられなかった。
この前のことなんかもうどうでもいい・・・あきらの名前なんか口に出したくもなかった。
ゆっくりとアパートの階段を上がっていく・・・足音をわざと消しながら・・・


「なぁ、牧野。・・・ドア、開けてくれないか?」

『え?・・・ドア?うちのドア?』

「そう・・・。お前にプレゼント送ったからさ・・・今頃届いてるぞ?」

そう言ったら牧野の足音が聞こえた・・・そしてゆっくりとドアが開いた。
耳にスマホを当てたままの牧野は俺を見て固まってしまっている。



「ほら・・・プレゼント届いただろ?・・・久しぶりだったな、牧野・・・」

その固まったままの細い身体を俺は思いっきり抱き締めた。

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