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「今日はつくしが茶を点てるなんて伝えてないし、躙り口があるような茶室じゃないから親父達は会長に連れられて普通に入って来るはずだ。客は親父とお袋、それに会長。俺は全員が揃った時にお前の後ろに控えてやる、いいな?」

「判りました。私は総の合図で入ったらいいの?」
「あぁ、親父には俺から説明する」

水屋で最後の打ち合わせをしていたら、茶室の廊下を数人が歩いて来る足音が聞こえた。
そして障子が開き、畳の上を静かに歩く音がする・・・もう1度つくしと額を合わせて「頑張れ」とだけ呟いた。



「本日は会長が点てて下さるので?はは、それも宜しいですなぁ」
「ほほ・・・いくら私が後援会長でも家元に茶など無理でございますよ。本日は特別な方をお呼びしておりましてな、お入りいただきましょうか」

「特別な方?」
「・・・お会いになれば判りますよ」


そんな会話が聞こえてから、俺は静かに茶道口の襖を開けて入り口で一礼した。
親父もお袋も俺の姿を見て驚き、声も出なかった。でも俺が顔をあげてお袋を見たら、この人には意味が判ったのかもしれない。親父の顔を見ながら酷く動揺していた。


「これは・・・?特別な方というのは総二郎ですか?総二郎、お前は昨日も何も言わなかったが、どうしてここに居るのだ?」
「・・・総二郎さん、あの・・・まさか?」

「・・・本日は若宗匠が特別な方をお連れしているのです。その方が点てられるお茶を是非、私たちがいただこうじゃありませんか。この日の為に随分とお稽古されたようですからねぇ」

「総二郎が連れて来た?一体これはなんなのだ?私は何も聞いてないが・・・会長、どうなっているのです?」


静かに笑みを浮かべる鷹司会長と狼狽えているお袋に訳の判ってない親父。
全く違う表情の3人を相手に俺が挨拶を始めた。


「本日は私の願いを鷹司会長がお聞き入れ下さったのです。これまで何もお話しせずに驚かせましたこと、まず始めにお詫び申し上げます」

「・・・総二郎、お前の願い?」


「本日茶を点てますのは牧野つくしさんです。ご存じの通り4年前、西門によって東京から姿を消した彼女ですが、実は半年前に偶然再会しておりました。そして昔と変わらない気持ちを確認したのです」


つくしの名前を聞いて親父が顔色を変えた。

同時にお袋を見たが、お袋は演技などしなかった。驚愕している親父に「そのようです・・・」と答え、親父はそれにも驚いていた。当然鷹司会長も知っている事になる。
この場で自分だけが何も知らなかった事に親父は唖然としていた。


「あの日から今日までの事は追々ご説明させていただきますが、本日このような席を持ちましたのは彼女を西門に迎え入れたいとの気持ちからです。数年前、本邸にて私が稽古をつけていたことはご存知だと思います。ですが4年間、茶道からは離れておりましたので再会してから再び稽古をつけております。
まだ家元に差し出せる茶を点てられる腕前でないのは承知しておりますが、今後も稽古を重ね、西門流の為に働いてくれると言う覚悟を見てやっていただきたいと思います」

「・・・・・・し、しかし、そのような・・・」


「最良だと思われた家との縁組みであっても壊れる事はある・・・大事なのは家柄ではなその人の心だと思いませんか?まだぎこちない作法ではありますが、温かい茶を点てる人です。
それは常日頃から我々が心掛けていることでございます。今、この時を楽しんで下さい」



ここまで話した後で「入りなさい」と声を掛けたら、静かに襖が開いてつくしが姿を現した。
そして茶室に入り3人に向かって一礼、その後姿勢を正して親父に目を向けた。

お袋もこうして対面するのは4年半ぶり。その時の事を思うと目を合わせにくいのか視線を外した。それは親父も同じだった。
凜としているつくしに反して、両親は2人共が俯いて唇を噛み締めていた。


「家元、家元夫人・・・この人はね、あなた方の仕打ちを過去のものとして、今後に引き摺らないように思っておるのです。それなのに人生の先輩でもあるお2人が顔を背けるとはいかがなものですかな。
何より若宗匠の選ばれた方で、彼の心を豊かに温かくした人です。この人に出会ったからこそ今の若宗匠の茶があるのです。今後の話はご家族でなされば宜しい・・・今からはつくしさんのお茶で良い時間を共に過ごしましょう?」

鷹司会長の言葉で親父とお袋は漸く姿勢を正し、頑張って表情を柔らかくしようとしているのが判った。俺はそれを見て噴き出しそうになったが必死に堪え、つくしと座を変わった。


ここからは薄茶点前の茶会・・・亭主はつくしとなる。
正客の親父は気を取り直して言葉を出した。


「本日はお点前を拝見できるとのこと・・・どうもありがとうございます」

「突然の事で驚かれたと思います。若宗匠同様、申し訳なく思います。そして会長様にはこの場をご用意下さいましてありがとうございました。お礼申し上げます。
お話しにあったように再びお稽古を始めましてからまだ少ししか経っておりません。それでも一碗に心を込め、今の私の有りの儘をお見せできたらと思います」

「ありがとう・・・楽しませていただきます」

教えてもいないのに落ち着いて挨拶をするつくし・・・流石だと感心した。
この後も力まずに自然体で茶席に向き合えたら大丈夫だろうと、少しはホッとした。


「家元夫人もお忙しいところをお越しいただきましてありがとうございます」

「・・・私も楽しませていただきますわ」
「本日の掛け物は誰が?貴女が選ばれたのかな?」

「・・・それは若宗匠が本日、1番相応しいだろうとお選び下さいました。この言葉の如く、良き日になればと思っております」

「この花は?」

「先ほど若宗匠にご指導いただき私が生けました。涼を感じていただき、この時期の暑さが少しはやわらげば幸いでございます」


いつも茶席を作る側の親父だからわざわざその意味は聞かなかった。
ただ質問したことを俺に頼るのではなく、自分でどう返事するか・・・恐らくそれを確かめたんだろう。つくしはそんな事にも気が付いてないだろうけど。


そしてこの会話の後、つくしは美しい所作で茶を点てた。
今まで苦手だった帛紗捌きも戸惑う事なく、震えがちだった茶杓の使い方も稽古のそれより数段良かった。
時々ピタッと止まる手に全員がハッとする場面も何度かあったが、そこで困った様子は見せずに堂々としていた。

俺から見れば茶道宗家家元を相手によく点てられるな、ってのが正直な感想。それだけで親父もお袋も驚いただろう。


これがつくしの強さ・・・この人達の知らないこいつの武器だ。


そして親父の前に茶碗を差し出すと「お点前頂戴致します」、とその茶碗を手に持った。


ほんの少し動きを止めてその茶と会話する・・・その瞬間もつくしは怯えた様子もなかった。
ゆっくりと口元に茶碗を運び、親父は作法に従い茶を飲み干した。

その後は小さく息を吐き、肩をフッと緩ませた。


「大変美味しゅうございました。よい稽古をされているようだ」

「・・・ありがとう・・・ご、ございます!」
「えっ?!つくし?」


それまで全然感じられなかったのに、つくしは親父のこの言葉で号泣・・・急に茶席に少しばかりの笑いが起きた。
決して動くまいと思って控えていた俺も思わず腰を上げてつくしに近寄り、その震える肩に手を掛けた。そうしたら「大丈夫です」と言うけれど、俺の手に重ねた手は震えまくり・・・。
ハッと親父たちを見たら眉を顰められたので慌てて元の位置に戻った。


「本当は身体が震えて心臓がバクバクして五月蠅くて、障子の向こうに見える景色ですら自分の中に取り込むことが出来なくて・・・。若宗匠に心を込めて、と言われましたのでそれだけは頑張ったつもりなのですが、本当はそれも頑張るものじゃなく自然に出なきゃいけないって教わりましたのに・・・やっぱりまだまだで・・・」

「・・・確かに作法の所々に不慣れな部分を感じたが、それと茶の味は別だったと思う。優しい良いお茶だったという言葉に嘘はないのだよ。これからも稽古は・・・」


そう言うと親父が一瞬言葉を止めた。
これからも・・・その続きが1番肝心なのに考え込んでしまった。その理由も1つしかないだろうけど。


「家元、お悩みなのは彼女の出自でしょうか?
それでしたら有りの儘でお願いしたいと思います。迎え入れるのは彼女であって彼女の家ではありません。どうかわざわざ飾り立てせずに、このままの彼女を受け入れていただけませんか?」

「・・・・・・しかし、他の方が何というか・・・」

「それなら私が皆を説得いたしましょう。牧野さんは鷹司の紹介・・・そのひと言で喧しく言う者は少なくなります。そしてこの方のお人柄が広まればそれこそ文句は出ますまい?
あのような形で前の奥様が出て行かれたのです。きっと仲の良い若夫婦を歓迎してくれると思いますがね・・・。
それよりも私たちもお茶をいただきたいが?ねぇ、家元夫人」

「え?あぁ、そうですわね。点てていただきましょうか」

「はっ!申し訳ありません!すぐに・・・」


やはりここでも会長の言葉に救われた。
親父もここまで言われたら意地を張るわけにもいかないと思ったのか、半分諦めたような納得したような妙な顔になったが、つくしがお袋と会長に茶を点てている時も真剣な目でつくしの所作を見ていた。

そして総てが終わった時「1度本邸に来なさい」、そう言葉をくれた。



「家元、実はそれについてもお願いがございます」
「なに?まだ何かあるのか?!」

「今度の七夕の日、茶会ではなく夕方にお時間をいただけないでしょうか。その日に西門に連れて行きたいと思います」



この申し出も親父は了解してくれて、つくしの茶会は終わった。
数日後・・・紫音と花音の誕生日に初めて西門に双子を連れて行く事になった。


なにも知らないのはやっぱり親父だけ・・・どう言う顔になるのか楽しみだ。





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2019/08/18 (Sun) 16:19 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは!

鷹司会長、なかなかいい働きをしてくれています(笑)
この人が居なかったら多分、家元は逃げてますね。

「儂は帰る!」・・・家元の帰る場所(きっと誰も読まない)

って事はこの状況を先読みした総ちゃんの勝利です♡


ふふふ、つくしちゃんの緊張MAX。
総ちゃんが支えてくれているので大丈夫でした。

でも次はもっと緊張しますよ?(笑)なんたって予測不可能な双子ちゃんですから。
本当はここが七夕ぐらいの予想で進めていたのにこんなに長くなっちゃって💦

可笑しいなぁ?(笑)

2019/08/18 (Sun) 22:36 | EDIT | REPLY |   

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