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plumeria

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京都での茶事が行われる日・・・前日から行くように言われていたが少しでも滞在時間を少なくしたかった俺は
当日の早朝に京都入りした。

家元夫人も綾乃も前日から京都にいるからもう藤崎家にいるだろう。
迎えに来ていた藤崎の車に乗り、弟子達ももう1台に乗り込んで目的の家に向かった。

藤崎家は京都の嵐山に近いところにあり、ここらでもかなりの旧名家だった。
俺が着くとすぐに出迎えに現われたのは綾乃だった。今日もかなり上等な着物を着てその美しさを際立たせている。

しかも、藤崎の使用人達は綾乃に遠慮してか近くにも寄ってこない・・・。
まるで、俺と綾乃がいい仲みたいに見えるこの状況に朝っぱらから苛立ってしまう。


「総二郎お兄様、お待ちしていましたわ。今日はよろしくお願いいたしますね」

「あぁ。・・・準備したいから部屋に案内してくれ。その後にこちらのご当主に挨拶に伺うから・・・」

「わかりましたわ。どうぞ・・・こちらが総二郎お兄様の控え室です」

綾乃が案内しなくても、そんな事はここの使用人でいいのに・・・。
それに一斉に道をあけなくてもいいんじゃねぇのか?まるでここの当主が綾乃みたいじゃねぇか!
それだけ綾乃がこの家でチヤホヤされて育ったと言うことだな。


藤崎家も西門ほどはいかなくてもかなり大きな日本家屋・・・
庭の手入れはきちんとされていて気持ちがいいほど整っていた。
その庭がよく見える部屋に通されてそこで今日の支度をし、当主の政夫氏に挨拶に向かう。

今日は天気も良く出席者も多いようだから炉を拵えて釜をかけ、ある程度作法に従った形式の野点にする。
野点というのは室内と違い自由な部分があるが趣のあるものにしようと思えばむしろ難しくなる。
道具についてもそれなりに形は整えたい・・・簡素になるほどその道具には拘りがあった。

「それでは本日はこのように野点という事で茶事を進めて参ります。よろしくお願いいたします」

「総二郎くんはおいくつになられたのかな?随分会ってなかったから見間違えたよ」

「・・・今は25です。まだまだ未熟者ですが精進して参りますので・・・それでは」

大抵年を聞いてくるヤツはその裏に結婚させたいという願望があるってもんだ。
つまりこの爺さんで言えば綾乃になるんだろう。冗談じゃない!
とっとと話しを終わらせて控え室に入った。特にこの家の誰とも会う気なんてない。
早くこんな場所での茶事なんか終わらせたい・・・俺は時間までこの部屋から出なかった。


*******


京都に着いたら西門さんの家の人・・・この前招待状をくれた人が駅で待っていた。

「よく来て下さいましたね。もう皆様は会場の方に行かれてますので・・・さぁ、どうぞ」

「あの・・・本当に西門さんは知らないんですか?」

「はい。そうですよ。・・・もう総二郎様も藤崎家へお着きですから急ぎましょう。このことは終わってから
お話ししますから心配しなくても大丈夫です」


西門さんも京都にいる。・・・私は初めて西門さんのお仕事場に入るんだと思うと緊張した。
言われるままに大きなお屋敷に向かい、そこで出迎えてくれたのは・・・

「綾乃さん・・・?どうしてここに・・・」

「あら!ここは私の実家みたいなものですもの。ご存じなかったの?この家のことはお聞きにならなかったのね。
主催者は私のお爺さまよ。今日のお茶会も総二郎お兄様にどうしてもとお願いしましたの」

「そうだったんですか・・・私、何も知らなくて・・・」

家元夫人が一度見ておくようにって・・・それしか聞いてなかったから綾乃さんに会うなんて思わなかった。
もしかしたら、また何か嫌なことが起きるんじゃないかっていう心配と、綾乃さんが絡んでるなら
西門さんに連絡したかったけど、ピッタリと私に付いている綾乃さんの眼を盗むことは出来そうにない・・・。


「さあ、牧野さん、お着物お持ちじゃないんでしょ?私のを差し上げるわ。色々用意しているからご覧になって?
お似合いの物があれば今日の記念にしてね!」

「いえ!いただく事なんて出来ませんから・・・お借りするだけで十分です!」

「あら・・・あなたには頑張っても買えないようなものばかりよ?遠慮なんかしないでいいの。さ、どうぞ・・・」

綾乃さんは私の言うことなんてまるで聞かずに大きな部屋に連れて行った。
そこにはすでに沢山の着物が出してあって、その中からいくつか取って私の肩に当てていく・・・。
着物に詳しくもない私はどうしていいかわからなくて、適当に色の抑え気味のものを選んだ。

「そうね・・・牧野さんならこのくらいのものがお似合いかもね」


この家のお手伝いさんだろうか、何人かの人が来て私に着物を着せてくれる。
髪もそれらしく結い上げられて、もう人形のようにそこに立っているだけで支度はどんどん進んでいった。

そして着物を着て、その茶会というものに参加することになった。
隣には西門の男性がついてくれる・・・取り敢えず恥はかかせたくないということだろう。
話をされたとおり全く知らない人たちと共に・・・多分これが末席というのだろうか、端の方に座った。


しばらくして遠くに西門さんの姿が見えた。

何回かしか見たことのない和装の西門さんはすごく素敵で、見慣れているはずなのに眼が離せない・・・。
自分の恋人だなんてとても言い出せないほど・・・心臓がドキドキして着慣れない着物の帯のせいか息苦しい。
遠くからでも彼が光って見えるようで、ただその姿をずっと眼で追っていた。

何かを話しているようだけどよく聞こえない・・・それほど離れているんだ。
彼は私に気が付くかな・・・私も滅多に着ない着物を着てるんだよ?西門さん!

そんな事を心の中で思っていたら、西門さんのすぐ側にいる綾乃さんと家元夫人が見えた。

まるで主役は自分だと言わんばかりに綾乃さんは綺麗な着物を着て西門さんの横にいる・・・。
とても嬉しそうに周囲の人たちに笑顔で挨拶をしているように見えた。
家元夫人も同じだ・・・ご自分は一歩下がっていて、西門さんと綾乃さんをわざと近寄らせているように見える。


なんなの?この感じ・・・

家元夫人は本当に西門さんの仕事を見せるつもりだった?それとも綾乃さんとの姿を見せたかったの?
2人がお客様の前で並んでいるところを見せたかったの?


多分、このあとのお茶会は無事に終わったんだろうと思う。
遠かったのと、わからなかったのとで私には今の時間に起きたことすべてが理解出来なかった。

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