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夏の暑さが落ち着いてきた頃、離れの改修工事が終わった。
それと同時に新しい家具が揃えられ、紫音と花音の部屋も別々に作られた。

純和風な西門に不釣り合いな洋間の子供部屋だが本邸からは見えないからいいだろうと、それぞれの部屋にはカーテン付きの出窓がある。
築数百年でこれも初めての事だろうと事務長が笑っていた。


「このお屋敷でこんな光景を見ることが出来るとはねぇ・・・」
「そのうち親父に飛び付く姿も見られるかもしれないけどな。誰に似たんだか暴れん坊なんだよ、女の子の方が!」

「へぇ!家元に・・・そりゃ恐ろしいですね」
「くくっ!だろ?今から楽しみだ」


勿論双子が部屋を別けたくなったら使えばいいってだけの事で、それ自体がここに居住いを移すのだと感じさせて嬉しかった。もう仮住まいじゃない・・・ここがあの子達の家になる、その証しだと思えた。

俺達の部屋も作り直され家具も新調されると、それまでの雰囲気とはガラリと変わった。それ以外にも部屋があるって事は、まだ家族が増えると考えてんな?と可笑しかった。


それに植木を動かして離れ専用の庭が作られていた。
いくら西門の裏庭が広いといっても殆どが茶花の畑と花木で埋め尽くされている。だから美作の庭ほどは無理だが、それでも子供が遊べるようにと考えたんだろう。
事務長に聞けば、お袋が遊具の手配もしているとか・・・孫馬鹿になったな、と苦笑いだった。



この時期にやっと双子を美作の戸籍から外す事になった。
特別養子縁組は原則として離縁は出来ない制度だが、一定の条件を満たせば手続きは可能。そしてこれは養親からの離縁はできないからつくしからの申し立てになってしまう。

その条件とは、
「養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること」
「実父母が相当の監護をすることができること」
「養子の利益のために特に必要があると認めるとき」・・・実はどれも該当はしなかった。

ここで仁美さんの誘拐事件関与を出せばすんなりいくんだがそういう訳にもいかない。事件は吉本単独犯で解決済みだからわざわざ蒸返すようなことは出来ない。

でもそこは西門と美作の弁護士に任せた。
多少の作り話を盛り込んだ理由をつけて、数日後、紫音と花音は「牧野」の姓に戻った。


「・・・・・・・・・」
「どうした?つくし」

弁護士がその書類を持って来て、子供達の名前が「牧野紫音」「牧野花音」となっているのを確認したつくしは、その紙を黙ってジッと見つめていた。
自分の籍に戻ったことが嬉しいのかと思ったがそんな表情でもない。
むしろ怖いぐらい真剣な目付きで子供達の名前を見つめていた。


「・・・つくし?」

「・・・私、産んだ後すぐにこの子達を美作さんに頼んだけど、こんなにも責任を感じることだったんだなって思って。
しかも私は自分で産んだんだから当たり前だけど、仁美さんはそうじゃなかったのにこうやって戸籍に名前が増えるんだよ?責任重大って思っただろうなって・・・今更だけど申し訳ない事したなって考えちゃったの」

「・・・でも彼女にとってもあきらにとってもマイナスにはならなかったんだ。子供達から多くのものを貰ったって思ってんじゃねぇかな・・・現に俺もそうだし親父たちもそうだ。紙面上の名前なんて気にすんな。これからも子供達と美作の関係は変わらず『もうひとつの我が家』になると思うぞ?」

「・・・・・・うん、そうだね」


紫音と花音にも「牧野」になったぞ、なんて言わない。
そんな大人の事情は双子には関係ない。

美作の離れに戻ったら「パパだぁ!」と声が聞こえて双子が走ってくる・・・飛び付いてくれる温かさだけで嬉しいと思えた。




それからまた数日が経って、漸く来た引っ越しの日。
準備を手伝ってるのか邪魔してるのか判らない紫音と花音は、今日も元気よく離れを走り回っていた。


「つくし、後は何処だ?」
「えっとね、子供部屋があと少しでしょ・・・でも、殆どは美作さんの家のものだから掃除するだけでいいと思うの。おば様達から貰ったおもちゃは持って行ってもいいのかな?」

「ここに置いとかなくていいぞ?逆に持って行ってくれよ、どーすんだよ、こんなに沢山!」

「もうここには泊まりに来ないのかしら・・・」
「おい、そんな根性でどうする!」

「牧野、その時は今度からちゃんと屋敷のゲストルームを使えよ。で、たまには来てやってくれ。お袋が昨日から泣いてるから」


そう言ってあきら自身がすげぇ淋しそうに見えるのは気のせいか?
紫音と花音の小さな服を段ボールに詰めながら、たまに手を止めてそいつを眺めてる。双子との思い出はこいつの中にもぎっしりあるだろうから無理はない。

でも双子にとってあきらは尊敬する父親だ・・・それは一生変わらないだろう。


「パパのくるまにのせてもいいの?」
「どれがかるい?かのん、重たいのもてない~!」

「あぁ、ここにあるものはみんな重たいから触らなくていいよ。それよりも夢子おば様と小夜さん達に挨拶してきてね。もうすぐ出発するから」

「「は~い!!」」


双子は手を繋いでテラスの方に走っていった。
それをあきらは振り返って見てる・・・そして「話があるんだ」って俺達の手を止めた。




*************************




美作さんが「話がある」って言った時、私はすぐにその内容が判った。
那須の別荘で聞いていたから・・・その話が決まったんだと思った。

でも何も知らない総は少しだけ不安そうな顔を見せて、作業の手を休めてソファーに座った。同時に美作さんと私が目を合わせたから余計にご機嫌斜めになって「なんだよ、お前ら!」って苛立ちを見せたりして。


「そう尖るなよ!お前達の事じゃない。俺と仁美の事なんだから」
「仁美さんの?どうした、ここに戻って来るのか?つくしたちが出ていくから?」

「いや、そうじゃない。双子が西門に戻るって決まってから1度那須に行ってきた。仁美とある話を決めてきたんだ」
「ある話?なんだよ・・・仁美さん、ホントに病気ってんじゃないんだろ?」


美作さんの表情が優しいからきっと話合いは上手くいったんだろうと思ったけど、総は「早く言えよ!」って催促してばかり。私がお茶を入れてリビングに戻ってから続きを話してくれた。


「実は牧野には話していたんだけどな。暫く2人でアメリカに行くことにしたんだ。仕事もアメリカ支部に異動して、向こうで暮らすんだ」

「は?アメリカ・・・ってマジで?どうして急に・・・さっき美作に遊びに来いって言ってたクセにか?」

「あれはお袋が居るからさ。それに俺達がアメリカに滞在するのがどのくらいの期間かまだ判らないんだ」

「・・・悪い、意味が判んねぇ。はっきり言えよ」


「・・・代理出産する事にしたんだ、俺達」

「・・・・・・・・・え?」


代理母出産は日本国内では原則として実施されていない。
でも代理母出産そのものを規制する法制度は現在まで未整備・・・だから海外で行う人は居る。美作さんはそれを強く望んでいたけど、仁美さんの心の傷を考えたらなかなか切り出せなかったらしい。

だから落ち着いたら話し合って、自分達の子供を持ちたいって言っていた。
でもこれを公言して行えば出生届をすんなり受け入れてくれないのが日本の現状らしく、それが目的ではない渡米をして向こうで医療機関と相談しながら極秘に進めるのだと。


「向こうの医師に聞いたら仁美の年齢が今より上がらないうちがいいそうなんだ。あまりのんびりして歳が上がると染色体異常をもつ卵子の割合が増加するからって。それなら少しでも早く向こうに行ってチャレンジしないとな・・・1回で成功するとは限らないし、絶対に上手くいくって保証はない。もう向こうでは代理母になってくれるって人を見付けてるんだ」

「・・・そうか。そんな事考えてたんだ」

「そりゃ考えるさ。紫音と花音が居る時にはこのままでもいいかって思ってた。ただでさえ病気で苦しんだ仁美にストレス与えるのも気になったし、挑戦してダメだった時にはまた自分を責めるかもしれないし。
でも双子はお前達の元に返したし、俺達は2人に戻った・・・それならやっぱり挑戦してもいいって思ったんだ」

「仁美さんはどうだったの?すぐに受け入れてくれた?」

「いや、すごく抵抗してた。もしも健康じゃない子供だったらとか、成功しなかったらとか不安ばっかり口にするのは変わってなかったけど、5年、10年先を一緒に夢みようって話して説得した。
チャレンジは1回じゃなくても何回でも出来るだろ?でもスタートが遅れたらリスクが高まるから・・・だから来月には渡米する」

「来月・・・そっか」
「淋しくなるね・・・」


そんな私たちを余所に「戻って来る時にはチビが居るかもしれないぞ?」って、美作さんは希望に満ちた目で笑っていた。
「ついでにお前たちにも3人目が居るんじゃないか?」って言いだして総が「当たり前だ!」って笑い返してた。


その夢が叶ったら紫音たちにも弟か妹になる・・・それは家族の枠を超えた繋がりになるのかもしれない。

いつの日か、ここの庭で楽しそうに遊ぶ子供達を見られるかもしれない。
紫音と花音だけじゃなく、もっと沢山の・・・その日が来る事を願わずにはいられなかった。





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2019/08/23 (Fri) 16:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

meimei様、こんばんは🎵

いつもお気遣いいただきありがとうございます。
はい、なんとかここまで来ました。

私もこの夏は倒れませんでしたから(笑)ご心配なく。
ただ運動不足ですからね(笑)秋になったら何かしようかなぁ~なんて、考えております。


ふふふ、ラスト目前です。
どうぞ宜しくお願い致します♥️

2019/08/23 (Fri) 23:25 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/24 (Sat) 15:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

実はこの代理母出産を書くことについては悩んだんです。
悩んでおられる方が多いと思うのでお話しの中に組み込んでいいものかどうか。
私自身も実は1人娘ですが、その前に2度、悲しい事があったんで・・・。

あきら君と仁美さんについては本当にラスト悩みましたね・・・。
でもここまで書いたらどうしても幸せにしてあげたかったんですよ。

まりぽん様のようにお考えいただくと本当に助かります。
いつもありがとうございます。


あっはは!色んな所で思い出してもらえる「花沢城」♡
嬉しいなぁ~!!

でもライオンは「飼えないシリーズ」ですね💦1番始めに餌食にされるのは間違いなく・・・ハルだわ(笑)


2019/08/24 (Sat) 22:51 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/26 (Mon) 14:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは!

うんうん、番外編で書けるといいなって思って構想中です。
ホント、こんなに長く辛い役を引き受けてくれてありがとう~って感じです(笑)

そしてあきら君の話は増えないってね💦
なんか書いてあげたいんだが・・・💦

2019/08/26 (Mon) 23:23 | EDIT | REPLY |   

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