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「あーーーっ!花音様、お待ち下さいませ!廊下を走ってはなりません!」
「きゃはははは!しのさん、おそーい!」

「紫音様、その奥はお家元が大事にしている盆栽がございます、入ってはなりません!」
「・・・・・・でもね?このおくに虫がいるの。かわいい声で鳴いてるんだよ?」


つくしに稽古をつけていると聞こえてくる賑やかな声。
それに2人で噴き出しそうになるのを堪えながら茶を点てた。

つくしは西門に引っ越した次の日から茶室で稽古を始め、使用人に混ざって庭掃除や台所の仕事も手伝っていた。かつてお袋がそんな事をしたかと言えばしてはいない。
ただ、つくしはこの屋敷で働く人総ての業務を知りたいとの事で俺が許可したものだった。


初めのうちは使用人もつくしに遠慮して会話も少なかったが、あいつの人懐っこさはこういう時には役に立つ。すぐに仲良くなって笑いながら作業するようになった。
後々の家元夫人になるかと思えば気も遣うだろうに、つくしにそんな気位がないからだろう。紫の時には使用人と笑顔ですれ違うなんて考えられなかったが、つくしには色んな連中が声を掛けていた。

特に用事もないはずなのに後援会の訪問も増えた。
噂に聞くつくしの事を見たくて来ているのだろうが、その人たちも帰る時には何故か笑顔だった。


そして双子・・・紫音と花音は俺達が考えているより西門に慣れるのが早かった。

教育係は志乃さんだったが体力的についていけず、それぞれに若い使用人が側に付くようになったがそれでも振り回されてる。これを親父たちが怒鳴るんじゃないかってのがつくしの心配だったが、それもなかった。
ただヒヤヒヤはしているようで、廊下の端から双子の様子を窺っている姿は何度も見掛けて笑った。


1度、花音がまだ入ってはいけないと言っている本邸の茶室に入り、今から客が来るというのに掛け物に悪戯したことがあった。その時には流石に花音を座らせて怒っていたが、花音が泣き出したら速効負けたのは親父。
これじゃあ甘やかしになると言ってつくしが説教したら、今度はつくしがお袋から「酷すぎませんか?」と注意される始末。

その隙にそそくさと逃げ出す花音を掴まえるのが俺の仕事だった。



双子はひと月に1回、美作に1泊して食事会をする。これはあきらが渡米して絵夢たち双子も海外に居る夢子おばさんのためで、あいつが戻ってくるまで続ける約束をした。

初めて西門から美作に泊まりに行く支度をする双子はすげぇ楽しそうで、それを見るつくしが泣きそうになっていた。


「なんでお前が泣くんだよ!」
「だって・・・淋しいじゃん。毎日一緒に居るのに・・・」

「・・・俺が居るんだけど」
「それと子供は違うの!」


せっかく2人でのんびり出来ると思わねぇのか・・・つくしもこの時ばかりは子供みたいだった。




炉開きの11月、大量な新茶が届き毎日冬支度に追われるが、つくしは初めてこの作業を弟子たちに混じって手伝った。

もうすぐ来る新年の準備もお袋と一緒にやっていた。
ただし公表前だから表だって姿を見せず、屋敷の奥で毎日ドタバタしていた。


「つくしさん、ちょっといらっしゃい」

お袋がそう言った時には俺の方がビクッとする。
つくしは極普通に「はい」と言ってお袋のところに向かうのに、俺まで無言でついて行こうとするから呆れられていた。「総二郎さんはいいのに・・・」って言われても無視。
つくしも嫌そうに俺を見るけど構わずに後をつけた。


「これなんだけどね、会見の時に使用するお写真にどうかしら」

「・・・凄い!綺麗ですねぇ・・・」
「俺に何も言わずに作ったのか?」

「着物に関して取り仕切るのは女です。総二郎さんの意見は結構です!」

「・・・くすっ!」
「なんだよ、その言い方!」


つくしの為の大振袖は鮮やかな赤色の地の総絞りの辻が花。部分的に金駒刺繍が施されている最高級品だった。
公表してしまえば振袖なんて着る機会もなくなるが、それは後々花音が引き継げるって事で一際豪華な着物にしたんだろう。お袋は満足そうに着物を見て微笑み、つくしは深々と頭を下げて「ありがとうございます」と礼を言っていた。


12月の俺の誕生日には親父とお袋が双子の面倒を見ると言って俺達は久しぶりにホテルディナーを楽しんだ。
勿論レストランなんて利用せず、エグゼクティブスィートから出たりしない。
その部屋で夜景を見ながら食事をして、その後には最高級のワインで楽しみ・・・当然ながら朝までつくしを離せなかった。

つくしからのプレゼントは俺の好きなブランドのバイカーズウォレット。
その中に何故か「安全運転」のお守りが入っていて「2度と事故しないでくれ」と泣きそうな目で言われた。


クリスマス・・・西門ではこれまでそんなもの無縁だったからクリスマスツリーなんて飾ったことはない。
だが、今年は双子のためにそいつが登場した。
しかも本邸から見えると不味いからって離れの庭にある大きな犬柘植(イヌツゲ)がもみの木の代わり。そいつに色とりどりの電飾が付けられて和風なクリスマスツリーが出来上がった。

それには子供達も大喜びで、つくしと一緒に夕方になったら点灯していた。


「きれい~!パパ、見て?あの枝はぼくがつけたの!」
「かのんね、こっちの小さい木にもつけた!」

「は?椿にも付けたのか?」
「だって言う事聞かないんだもの~!」


部屋にはちゃんとしたクリスマスツリーがあるのに・・・って思うが、これまであきらの家の豪華絢爛な電飾を見てるんだ。このぐらいじゃ物足りないんだろうなってつくしと2人で笑った。

24日にはサンタの格好をした紫音と花音が、使用人や弟子たちにプレゼントを配っていった。
それはつくしが今月になってから毎日夜になったら自分で包んでいたもの。中にはカシミアのマフラーを入れて「これから宜しくお願いします」と直筆で丁寧に書かれていた。

それはこの屋敷で初めてのこと。
使用人も弟子たちも驚きまくって、俺はすれ違う度に礼を言われた。


「小さなサンタのすることだ。気にせず受け取ってやってくれ」、そう言うと全員が笑顔になっていった。



28日・・・つくしの誕生日は離れでのホームパーティー。
つくしに内緒で用意していたのは手紙で、俺が教えてやって紫音と花音が書いたものだ。


『ママへ

ぼくたちを産んでくれてありがとう。いつもまもってくれてありがとう。
これからもずっといっしょにいようね!
たくさんあそんで、たくさんわらって、いろんなところに行こうね。
ママのお手伝い、がんばります。

おたんじょうび、おめでとう!  しおん・かのんより』



つくしの泣きっぷりはこの時も激しかった。
そして双子の歌声が部屋中に響き、俺は・・・やっぱり恥ずかしくて歌えなかったから、つくしを抱き締める役に回った。



数日後の大晦日。
西門では年越しの行事が行われる。

床に「先今年無事 芽出度千秋楽」の掛物を掛け、稽古仕舞いを行う。
家元の茶室では除夜釜を掛け、ここの炉に埋(うず)み火が置かれる。来年に繋げる大切な火守りの儀式。

最後には家元の点てる大福茶をいただいて除夜の鐘の音を聞く・・・今年はここにつくしが居た。
来年はもしかしたら紫音がいるかもしれない。


新しい年を迎えたら俺達は正式に家族となる。




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2019/08/26 (Mon) 14:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは!

多分総ちゃんの片腕で荷物みたいに抱えられて足をバタバタさせるのよ(笑)

「ぎゃあー!パパのばかぁ!」
「五月蠅い!暫く蔵に入れてやろうか!」

「やだぁ!かのん、悪くないもん、ちょっとお絵かきしただけだもん!」
「掛け軸はスケッチブックじゃねぇ!」


うん、こんな感じで連れて行かれたと思います(笑)

2019/08/26 (Mon) 23:30 | EDIT | REPLY |   

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