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「失礼致します、若宗匠。こちらにお夕食を運ぶように聞いたのですが宜しかったでしょうか?」

暫くしたらそんな声が聞こえてきて、ドアを開けたら調理長が立っていた。
その後ろには盆を抱えた調理人がズラリ・・・こりゃ凄い事になったな、と可笑しかった。また牧野の目がデカくなる・・・それを想像して肩が震えた。


「あぁ、この部屋でこいつにマナー教えるからな。ちゃんと指示通り懐石料理にしてくれた?」
「はい。志乃さんから聞きましたのでおもてなし用の膳を作りました」

「サンキュ!1度に全部置いてくれていいから。後は俺がやる」
「畏まりました」


牧野はこの会話をキョトンとして聞いてるが、部屋の中に一気に押し寄せた調理人がテーブルに山ほど皿を置いていくと唖然・・・顔面から目ん玉が落ちるんじゃねぇかと思うほどだった。
乗せきれないものはワゴンを持って来てそこに置き、俺の為の酒も出された。
牧野には食前酒・・・それを見ても前のことを思い出すのか嫌そうな顔をしやがった。


「これが晩ご飯・・・ですか?」
「言ったろ?飯の食い方の練習だって。お前はまだ勤務中だ。しっかり頭に入れろ」

「凄く美味しそうなんだけど・・・自由に食べちゃダメって事?」
「当たり前。ここが厨房から離れてるから1度に持って来させただけで、本当はフレンチみたいに順番があって少しずつ出てくるんだ。その前に懐石料理と会席料理の違いの説明から始める」

「えーーーっ?!こんなの目の前にして説明?!」
「五月蠅い。仕事中だ。1回しか言わねぇからな」


やっぱり面白い。俺の言葉にガッカリして目の前の刺身を睨み、汁椀の匂いを嗅いでいた。
初めて会った人間に悪態つかれて怪我までし、足が痛いだろうから食欲なんて湧かないかと思ったのに、そう言うのはねぇんだ?


懐石料理は実は茶道から生まれたもの。
茶事のメインは茶だが、それを頂く前にもてなされる食事の事を指す。
茶道の心である「侘び・寂び」を料理として表現していて「旬の食材」「素材の持ち味」「もてなしの心」が原則。一汁三菜を基本としているが飯と汁は食事の最初に提供される。

会席料理とは、所謂宴席料理のこと。
懐石料理と同じく一汁三菜を基本としているが、懐石料理と違うのは飯と汁は食事の最後に提供される。また懐石料理は茶を嗜むために頂くって考え方だが、会席料理は酒を嗜む為の食事。


「何故懐石って言葉が生まれたかって話をしておく。
禅宗と深い関わりを持つ茶道では、その厳しい修行の際に空腹や寒さを一時的にしのぐ為の『温石おんじゃく』ってのをを懐に入れたからだ。だから茶懐石っての茶の前の一時的な空腹を満たす少量の食事が基本・・・判ったか?」

「・・・・・・何となく?」

「別に試験がある訳じゃねぇから頭の隅に入れておけ」
「・・・はい」




***********************




せっかくのお料理が冷めちゃう・・・そう思うのに西門さんの話は終わらない。
懐石の話が終わったらいきなり「おしぼり」と「お箸」の話に移った。

「お前は一応女だからやらないだろうがおしぼりで顔やテーブルを拭くなよ?あくまでも手だけだからな。 拭いたらその面を内側にして置いて、それ以外の事に使うな。明日から必ず持ち物に懐紙を入れておけ」

「箸は右手で中央を持って持ち上げ、下から左手を添えるようにして持つ。右手を右横へ滑らせていき、そのまま右手を返して箸の下へ、左右ともに箸の上から3分の1あたりを指先で持つ。やってみろ」


そんなのこんがらがって出来る訳ないっつーの!
そんなの置かれてる箸を右手だけで持って1秒じゃないの!どうして左手まで添えて数秒掛けて持たなきゃいけないの?!
って固まってたら、西門さんはそれを凄く綺麗な動きでやって見せた。

ただ箸を持つだけなのに、どうしてそんなに綺麗な指の動きなの・・・?
しかも姿勢が凄く良い・・・だから余計に美しく見えるんだ。


「いいか?箸の先は汚さないのが原則だ。『箸先五分、長くて一寸』っていう言葉があるように、箸先の汚れは3cm程度に抑えろ」
「・・・・・・3㎝?」

そんなのご飯がつかめない・・・そう思うと食べる気がしなくなった・・・。


でもそれだけで終わらなかった。

「まずは1品目の先付から。今日は鴨と秋茄子の寄せ物と小丸南瓜煮。
平皿で出たものは置いたまま食べるが、小鉢や椀に入っているものは必ず持ち上げて食え。串物はひとつずつ箸でそっと引き抜き、串は皿の向こう側へ寄せる。串に刺さっているものをまとめて外すのはNGだからな」

「次は椀もので、箸洗い、口すすぎのためって意味がある。料理人の腕前がこれでわかると言われるほど重要な料理だ。最初にひとくち汁を飲んでから具を食えよ。
大事なのが椀もののふたは目上の者があけてからだ。先走って自分が1番にあけるな。終わった後の蓋を斜めにしたりひっくり返してかぶせないように。椀を痛めてしまうのでNGだ」

「・・・・・・・・・はい」


その後も向付(むこうづけ)・・・所謂お刺身は盛り付けを崩さないこと。そんなの食べられないじゃん!と嫌な顔を向けたら涼しい顔で反撃。左側から、または淡泊なものから綺麗に食べろと言われた。
どれが淡泊なのか判んないよ、とワサビをお醤油にといたらいきなり怒られた。お刺身にワサビを乗せてからお醤油をつける方が見た目にも美しい食べ方だとか。

焼き魚は丁寧に食べる。
小ぶりな魚の場合は身離れがよくなるようにお箸の側面を使って何か所かに圧をかけ、左手で魚の頭を持ちすっと身から骨を引き抜く・・・マジックショーじゃないんだからそんな技出来ないって・・・。

大型の魚の場合は頭が左になるように盛り付けられてるから、表面の上半分(奥側)を、左から右にかけて食べ、表面の下半分(手前側)を、左から右にかけて食べる・・・そうすると中骨が出てくる。
裏側の身と骨の間に箸を入れ、骨だけを引き上げて器の左奥へ置き、裏側の身も左奥から食べる・・・ひっくり返しちゃいけないの?


ずっと上品だと思ってやっていたのに箸を持たない左手を食べるものの下に添えて食べる「手皿」。
まさかこれもマナー違反だとは思わなかった。そう言う時に懐紙を出すんだそうだ。

箸を持ちながら何かをすることもダメ。
ひとつのものに集中して食べるのもダメ。
ご飯と汁物は交互に・・・そんなの考えて食べた事なんて1度も無いけど?


気が付いたら夕食は終わっていたけど食べた気が全然しない・・・あれだけ美味しそうだったのに、何が出ていたのかも覚えていなかった。
それに呆然としていたら「旨かったろ?」のひと言・・・・・・それにポロッと涙が出た。


「・・・は?なんで泣くんだよ!」
「だって・・・あんまり五月蠅いから味わえなかったんだもん。それが悲しくて・・・」

「それで涙が出んの?」
「夕食って1日の締めくくりじゃないですか・・・その日1日を頑張ったご褒美じゃないですか。それなのに真横でダメダメって・・・」

「・・・・・・・・・そりゃ悪かったな」
「いえ、仕事ですから・・・」


うん、勤務中だって判ってるけど・・・私が全然出来ないことを目の前の彼は極自然にやってしまう。
そんな「差」を感じてしまって情けなかった。


世の中にはこんな男性も居るんだなぁって・・・そう思ったら涙が止まらなくなった。
だからつい、そこに置いたおしぼりを取って目元に当てたら・・・


「1番はじめにおしぼりで顔を拭くなっつったろうが!!何を聞いてたんだ!」

「・・・・・・・・・・・・」



ムカつくわ・・・この男💢💢





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Comments 4

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2019/09/18 (Wed) 13:37 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/18 (Wed) 13:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

そうなんですよね~、フレンチとかのマナーもダメですが、意外と和食のマナーも知らないものですよね。
私も100%つくしちゃん派なので、お魚もひっくり返しちゃいますね(笑)

初めて知ったのは椀ものの蓋を目上の人からってヤツです。
今まで気にしたことなかったですね💦なんて失礼な人間だったんでしょうか💦

ふふふ、まりぽん様も私のお話からじゃなくて、総ちゃんから教えてもらいたいでしょ?
でもね、総二郎が目の前にいたら、言葉は頭に入らないと思います♡

私、絶対に顔しか見てないと思う~♡えへへ!

2019/09/18 (Wed) 23:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

そうですよね~!今回は詳しいメニューを書きませんでしたが、西門が作るんですから一流料亭の懐石料理ですもんね!
超が付く豪華さだったと思います。

それをここまで言われると(笑)
ご想像通り、ちょっと意地悪してるんでしょうね、総ちゃん。

そして困った顔のつくしちゃんを見て楽しんでるんですよ、きっと。


でもこんな和食のマナーって、大人になってからは面倒臭くて覚えたくないですね(笑)
私は無理だわ~💦手が震えそう(笑)

遠い昔にテーブルマナーで「魚の食べ方が下手くそすぎる」と講師の人に言われたのを思い出しました・・・。とほほ!

2019/09/18 (Wed) 23:08 | EDIT | REPLY |   

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