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「・・・志乃さん、牧野って何処で飯食ってんの?」
「秘書控え室ですわ。堤さんと一緒に・・・気になりますか?」

「いや、別に・・・」


俺が急に午後の予定を変えたもんだからお袋が慌てて支度して飛び出て行った。

だから俺と親父の2人だけのすげぇ味気ない昼飯だった。いや、お袋が目の前に居ても釣書片手に五月蠅いだけで、華やかにもにこやかにもならねぇんだけど。
親父は黙々と食ってるし、俺は「あの部屋」がすげぇ気になってる・・・まさか和気藹々と楽しそうに食ってるとかねぇよな?


そもそも俺は堤のプライベートを知らねぇが、恋人って・・・居るのか?


「親父・・・堤って独身だよな?結婚しねぇのかな・・・」

「なんだ、急にそのような話・・・堤がどうかしたのか?」
「いや、あんまりあいつの事を知らねぇからさ」

「確かに独身だが堤には恋人が居る雰囲気はないな。地方に同行させた時も特別な買い物をするところを見た事がないし、そんな会話もしたことがない。訪れた先の女性を見ても顔色1つ変えないし、家庭を匂わせる事もないが」
「へぇ・・・モテそうなのにな」

「ははは、まぁ、好青年だとは思うがな。ただ歳の離れた妹さんを溺愛しているそうだぞ?」

「・・・・・・歳の離れた妹?」


親父の話によると、堤には10歳以上離れた妹が居て、その妹と2人暮らしらしい。
両親は2人とも医者で弟も開業医。
それぞれが別々の病院経営をしているが、妹は医者にも看護師にもなりたくないと言って堤のマンションに転がり込んでいるとか。薬剤師を辞めて両親に責められた堤が匿ってる、そんな感じらしい。

10歳ぐらい下って言えば牧野に近くね?
だからあんな風に手を貸せるのか・・・妹を見るような目で見てんのかな。それとも30過ぎた大人の女よりあのぐらいの幼い女が好みとか?

それにしても妹を溺愛って・・・?
妹を溺愛ってどんな風になるんだ?まさか・・・兄妹を通り越した関係とか?いや、不味いだろ、それ。



「なんだ、総二郎。堤と牧野さんを交代とか言うんじゃないだろうな?」
「は?馬鹿言うなよ!茶道の『さ』の字も知らねぇ奴に家元秘書が務まるかよ」

「お前だって次期家元だ。秘書を付けるなら教育はきちんとしなくてはいかん。秘書の恥はお前の恥だぞ?それで言えば、実に堤はよくやってくれている。私は地方に行くのにも困った事は1度もないしな」

「・・・・・・・・・(俺は困った事しか起きねぇかも)」



**



食事が終わってから秘書控え室に向かった。
中から物音がする・・・ここに2人で居るんだと思うと少しムカついたが、表情には出さずにノックしてドアを開けた。

そうしたら正面に座っている堤は無表情で俺を見たが、入り口に背中を向けて座っていた牧野が振り向いたら・・・すげぇ嫌そうな顔をしやがった。


「お疲れ様です、総二郎様。どうかされましたか?牧野さんなら資料を読んでもらっていますが」
「いや、午後は本邸で仕事をする事にしたから牧野に手伝わせようと思って」

「判りました。牧野さん、今日お渡しした資料は空いた時間にでもよく読んでおくように。なるべく早いうちに覚えて自分の業務に役立ててくださいね」

「・・・はい」


なんだ、その悲しそうな返事・・・まるでこの部屋にこいつと居たかったって言ってるみたいじゃね?
それに反して堤はホッとしたような顔に見えるが、本当のところはどう思ってんだ?

牧野は堤と俺を交互に見ていたけど「総二郎様がお待ちですよ」と堤に言われ、がっくり肩を落とした・・・って、そこまで露骨に態度に出すのか!


「・・・西門さん、本当に本邸に居るんですか?」
「なんだ、その言い方。西門家の人間が本邸に居て悪いかよ。これからエッセイの準備をするからお前も手伝え」


エッセイなんて所謂個人が自由に書く散文・・・そんなものに準備なんて本当は無いんだけど。

牧野は口を尖らせて席を立ち、包帯が目立つ足を引き摺って入り口まで来た。「ほら、掴まれ」って言えばやっぱり顰めっ面のまま俺の肩に手を置いた。
「そこだと歩きにくいだろう」、そう言っても「大丈夫です!」なんて可愛くない言葉を出して、堤の時みたいに背中には手を回さない。つまり、すげぇ警戒心丸出しで俺の横を歩いていた。


あの時のキスが不味かったか・・・それともホテルでの抱き方か?その両方か・・・。



書斎に入ると締め切りがまだ当分先のエッセイを仕上げることにして、牧野にはパソコンを1台渡した。そいつを目の前にしてキョトン・・・そして本に囲まれた俺の書斎を見て口をポカンと開けていた。

くくっ、やっぱり面白い・・・俺の前でそんな素顔を晒すのはこいつぐらいだ。


「これで虫が詠まれている俳句とか和歌を探しといてくれ。それと代表的な虫の鳴き声の音源と、今でも虫の声を聞く祭りがあるかどうか、それを調べてくれ」

「は?虫・・・何の虫ですか?」

「俳句に詠まれる虫なら想像つくだろう。それに今は秋なんだから秋の虫だ」

「・・・・・・そんなもの調べてどうするんですか?」
「今回のエッセイの題材だ」

「虫の話を書くんですか?」

「悪いか?」




*************************




せっかく午後も堤さんと2人かと思ったのに、急に現れて「仕事を手伝え」・・・確かに西門さんの秘書だから当たり前かもしれないけど、つい「本邸に居るんですか?」なんて聞いてしまった。

そして差し出された手・・・昨日散々抱っこされたから、またそんな事をするんじゃないかと焦って取ることが出来なかった。
だから肩だけ借りて、顔も見ないようにして出来るだけ身体を離して歩いた。

それなのに心臓が煩い・・・肩に置いた手を通して自分の鼓動が聞かれたらどうしようかと思ったぐらい。


少し歩いたら「ここだ」って言われて入った西門さんの書斎・・・いくつもある本棚に数え切れないほどの本が並んでて、中央には机とパソコン。何故か応接セットがあって、そこに座るように言われた。
私の前にも置かれたノートパソコン、それで調べろと言われたのは・・・「虫」?!


「・・・・・・そんなもの調べてどうするんですか?」
「今回のエッセイの題材だ」

「虫の話を書くんですか?」
「悪いか?」

「悪いかって・・・カブトムシとかチョウチョとか?」
「俺の話を聞いていたのか?カブトムシが秋の虫か?蝶がどうやって鳴くんだよ!」

「あぁ、鈴虫とかコオロギとか?」
「そうだ、出来るだけ詳しく調べろよ。俺はこっちで日本人の言語脳についての文章を纏めてるから」

「ゲンゴロウ・・・?」
「言語脳だ。お前、俺をおちょくってんのか?」

「・・・申し訳ありません」


綺麗な顔していきなり「虫」とか言うからこんがらがったのよ!


実は虫の声を聞いて、それで季節を感じたり心地よいと思ったりするのは日本人とポリネシア語を話す人種だけだとか。
それが今回のエッセイの題材・・・?

西門さんの説明だと、他の国の人達は虫の声を雑音としか捉えないんだそうだ。ここで問題なのが「日本語を使う人の脳」と「他言語を使う人の脳」の違い。
日本語は母音で言葉を形成する部分が多いために虫や動物の声に近いらしい。それで言語脳である左脳で虫の声を聞くんだけど、他言語は子音が重要で、母音は音楽脳である右脳で聞くから虫の声を意味のある音として捉えていない・・・。

ちんぷんかんぷん・・・だ。


「つまり左脳で聞く日本語の脳ってのは虫の声だけじゃなくて自然音・・・風や波や川の流れる音にも意味を感じてるんだ。だから俳句や和歌に音の情景描写が多いって訳。それが日本人の感受性に繋がってるってことだな」

「・・・はぁ、そんなものですか」

「だから虫の声を聞きながら茶会をするってのが昔はあったんだ。今は殆どねぇけどな・・・」



変な人・・・こんな事をエッセイに書いたりするクセに外では遊び放題だなんて。
変な人・・・真面目に話すときは素敵なのに外では巫山戯てばかりで。

良く判らないけど変な人・・・その頭の中には何が詰まってんのかしら。



「・・・おい、ボケッとしてないで調べたのか?俳句は?和歌は?」

「はっ!はいはい、えっと・・・『秋の夜のあくるも知らずなく虫は わがごと物やかなしかるらむ』、古今和歌集の秋の句ですって。『きりぎりすなくや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む』、これは百人一首の91番目の句です!」

「そこで喋ってどうする。見付かったら保存しとけ」

「・・・・・・はい💢」




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Comments 8

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2019/09/20 (Fri) 15:15 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/20 (Fri) 16:08 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

うふふ!このお話のつくしちゃんもかなり鈍感みたいです(笑)
早く本当の恋に気が付いて欲しいと思いますが、それは総ちゃんも同じですね~。

今度の勘違いは堤さん♡
でも、この人にもいろいろ裏がありそうです(笑)

まだまだ始まったばかりですので色んな人が出てきます。
勿論あの3人も♡のんびりお付き合い下さいませ。

いつもコメントありがとうございます~!

2019/09/20 (Fri) 16:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

ゆかぽ様、こんばんは。

ははは!それはどうでしょう💦
まだお話は始まったばかりなので、いきなりは……(笑)

あんまりいじめないでくださいませ💦
めっちゃメンタル弱いんですから~💦

彼はそんなキャラではないと思います(笑)
いや、どうだろう………まだまだ先かもしれませんよ?

ふふふ、待っててくださいね~♥️いずれは………ありますから(笑)

コメント、ありがとうございました🎵

2019/09/20 (Fri) 21:45 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/20 (Fri) 22:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。
ふふふ、小難しい話で申し訳ありません(笑)

1回読んだだけでは判りにくいでしょう?
この言語脳って言うのはちゃんと研究されてて、日本語を話せる人の脳がある意味特殊であることが判ってるみたいです。

でもここで問題・・・何カ国語も話せる人は?って疑問が湧いて調べていくと・・・専門的すぎて理解不能でした💦
ははは!ダメじゃん💦


おおっ!蛍ですか!
蛍と言えば日本の蛍は幼虫の時に蓄えた養分だけで生きるんですよね。
成虫は口が退化してるから捕食することはなくて僅かな水分しか取らないそうです。

それなのに必死に子孫を残すために光るんでしょう?なーんか・・・ちょっと物悲しく感じる昆虫ですよね~。
だからあの光りは美しいのでしょうかね。

今年は蛍見なかったなぁ・・・。来年は見に行こうかなって思ったプルでした(笑)

2019/09/21 (Sat) 00:43 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/21 (Sat) 17:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

そうそう、そうなんです~。
これはね、去年の類総イベントでお題に「蛍」ってあったでしょう?
その時に(書けたら書こうと思って)調べたんです。書いてないけど💦

花沢城でも色んな事を調べるので面白い発見がありますよ(笑)

そう言う私は現在お部屋でアゲハのサナギを観察中♡
今朝、幼虫からサナギに変わったので羽化を楽しみにしています。
勿論青虫の時は庭のみかんの木ですからね?💦サナギへの変態途中のものを偶然見付けたので持ち帰ったんです。

アゲハになったら自然に返してやりますが、それまで観察しておきます♡

2019/09/21 (Sat) 23:15 | EDIT | REPLY |   

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