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飯が終わって駐車場に向かう途中、それまで普通に笑っていた牧野が通りの向こうを見て固まった。
からかったもんだから俺に向けて拳を振り上げていたのに、その手も顔の前で止まり力が緩んだ。怒っていた目は驚いたように見開き、何かを言いかけていたのに唇も止まった。

何だ?・・・何かあったのか、と俺も反対側の歩道を見たら・・・・・・若い女と一緒に歩いている堤がいた。


あの堤がすげぇ笑ってる。
あんな顔は俺も初めて見た・・・って言うか、誰だ?隣の女・・・。


俺達の方に顔を向けてるのは堤で、女は背中を向けてるから表情は判らない。
もしかしたら親父から聞いていた、あれが妹なのか・・・そう言えばあいつはこの辺りのマンションに住んでると聞いた事があるような・・・?
それならあれが溺愛してる妹・・・そうなんだろう。

牧野はそんな事は知らないから彼女だと思ったのかもしれない。いや、あれだけ嬉しそうな顔してれば誰だって恋人同士だと思うだろう・・・堤はそんな表情だった。
隣の女も堤の腕を持ってるように見える・・・妹ってのはそんな事をするのか?

あきらんところも双子の妹があんな事をしてたけど、あそこは特別・・・そう思ってたけど違うのか?


完全に牧野の足が止まり、顔の前の拳は解かれて下に落ちた。
驚いていた目は普通に戻ったが、それでも視線は向けたまま・・・だんだん遠離って行く堤の姿を追っていた。


「・・・帰るぞ。何処かに買い物連れてってやろうか」
「・・・・・・・・・・・・」

「牧野、ぼーっとすんな。歩道だぞ」
「・・・あっ、ごめんなさい、ははっ、やだ、私ったら・・・」

「・・・・・・・・・早く来い」
「うん!」


それまでに何を話してたっけ・・・あぁ、胸があるとかないとかセクハラだとかって話だ。
それも牧野は忘れたのか、引き攣ったような笑顔を道路に向けて俺の少し後ろをついてきた。チラッと見ても俺の視線には気が付かない。

歩きながらもう1度後ろを振り向いて、丁度堤が女と角を曲がって消えて行くのを見ていた。


「あいつはこの辺に住んでんだ。まぁ、いい歳なんだからそう言う事もあるだろ」
「・・・えっ?あっ、あはは!ヤだなぁ、別に気にしてないし。驚いただけだって・・・はは」

「でも、あんな風に笑うんだな。俺も意外だったわ」
「・・・か、彼女の隣だと笑えるんじゃない?ちゃんと仕事と切り離してるんだよ、堤さんらしいじゃん」

「まぁ、そうだな。プライベートを仕事に持って来られちゃ困るからな」
「そうそう!そうだよ・・・って、西門さんが人の事、言うかなぁ?」

「ははっ!言えねぇな!」
「くすっ、だよね~!」



どうして妹かもしれないって言わなかったんだ。

俺の想像だから?それでも言ってやれば牧野は少しぐらいホッとしたかもしれないのに。
いや、あの女を「堤の彼女」で信じ込ませればいい・・・心の何処かでそんな事を思ったからか。

別に牧野に嘘をついたわけでも騙したわけでもない。それなのになんでこの俺がモヤモヤしながら歩かなきゃならねぇんだ?


表面上はすっかり元通りになった牧野が、さっきと全然違う会話をしながら隣を歩いている。
今度はその話を俺がうわの空で聞きながら車まで戻った。




************************




怖かった運転教習も、美味しかったはずの夕食のことも全部頭から消えちゃって、西門さんの運転する車でアパートに向かっていた。
彼も何故か黙ったままだし、私も何を話していいのか判らない。ただ堤さんの笑顔が頭の中でリピートされていて、一緒に歩いていた女性の事を考えていた。


可愛い人なんだろうか。後ろ姿だけだったけど、何となく私とあまり変わらない歳のような気がした。
堤さんに近い歳ならもう少し大人っぽい服装で、落ち着いた動作だろう・・・って、勝手に想像している自分が居る。

私には全然・・・関係無いのに。


堤さん、昨日は家元のお仕事に同行したはずだから軽井沢に泊まったんだっけ。
きっとそこから帰って来るのが遅かったから、今日は夕食を一緒にって感じなのかしら・・・。そして今からマンションに2人で帰って・・・それから・・・それから・・・


「・・・だから関係無いって!」

「どうした?急に何言ってんだ?」
「えっ?!あ、ごめん!また独り言が大きかった?ははは・・・何でもないの、忘れてね!」

「・・・忘れるのはいいが、寄らなくていいのかよ」
「寄るって、何処に?何か話したっけ?」

「買い物!お前が冷蔵庫に何もないから朝メシが食えねぇっつったんだろ?明日もそれでいいのかよ」
「ああ、そうだよね~!じゃあスーパーに寄ってもらえる?アパートの近くに安いお店があるのよ」

「・・・道が判らねぇから案内しろ」
「了解っ!助かる~!!」


わざと元気よく出した声が裏返る。
それが恥ずかしくて咳払いしたら、西門さんがクスクス笑っていた。だから顔を思いっきり窓に向けてたら、赤信号で急停車されてゴツン!と頭をぶつけた!
「悪ぃ悪い!でも、俺も何回もぶつけたからな!」・・・そう言われると怒ることも出来ない。

ぶつかったおでこを摩りながら唇を尖らせて無言の抗議をするしかなかった。


「鼻は大丈夫か?」
「・・・何処見てんのよ!おでこ摩ってるでしょ?!」

「あっはは!悪い、俺は鼻をぶつけたからさ!」
「悪かったわね!鼻が低くて!息が出来たらそれでいいのよっ!」

「ぷっ!」



アパートの近くまで来たら道案内して、この豪華な車を安っぽい小さなスーパーの駐車場に入れてもらった。そこからはもう歩いて帰れるからって言ったけど、まだ足が本調子じゃないだろうからって西門さんも車から降りてきた。

こんな人と買い物なんてしたら目立つじゃん!って思うのにお構いなし。
こんなお店に入った事がないから物珍しいんだそうだ。何度も「1人で行ける!」って言ったのに、私より先に店内に入っていった。


「・・・へぇ!これがスーパーってヤツ?初めて入った」
「でしょうね。お金持ちのお坊ちゃまが来るところじゃないもん」

「そうだろうなぁ~、うわ、何だ?これ!」
「・・・・・・・・・💢」


そこは否定すればいいのに。
お金持ちってところだけ素直に聞き入れるんじゃないわよ!って腹を立てながら籠を片手に持って適当に食材を入れていった。

野菜に玉子にお豆腐・・・お肉もお魚も少しでいい。果物は欲しいけど高いからお給料日まで我慢・・・。
車だから重たい物を買おうかな、とサラダ油にお醤油・・・野菜ジュースも数本入れたら結構重たい。「よいしょ!」と籠を持ち直したら、次の瞬間フッとそれが軽くなった。

どうしたのかと思ったら、籠の取っ手を西門さんが持っていた。


「それ、貸せ」
「は?いいわよ。持てるから」

「いいから。もっと重くなるんだろ?足に負担が掛かるぞ」
「・・・ありがと」

綺麗な指が色褪せたプラスチックの籠を持つ・・・なんて似合わないんだろうと笑いが出た。



「・・・うわっ、あの人の旦那さん、イケメンねぇ~」
「お母さん、声が大きいよ!」

通り過ぎたおばさんと娘さんの会話・・・彼氏を通り越して「旦那さん」。
それが恥ずかしくて西門さんとは反対側を見ながら歩いた。


会計も済ませて車に戻り、今度こそアパートに送ってもらった。
時間はもう9時前・・・西門さんはもう車から降りなくて、私は買い物の荷物を階段下に置いてから運転席に近寄った。


「今日は運転教習、ありがとうございました」
「まだまだ練習しなきゃだけどな。時間がある時には本邸の回りでも走るか?道が狭いけど」

「くすっ、命知らずだよね。今日だって無事故で帰れたのが不思議でしょ?」
「確かにな。でも1回で出来るようになれとは言わねぇ。何回も練習して最終的に自分のものにしたらいいんだ」

「・・・・・・意外!何でも一発合格じゃないとダメな人かと思った」

「茶道がそうだからな。何年やっても稽古が終わることがねぇ。その日その時で出来が違うし満足する事は殆どない。まぁ、茶道に限らず何でもそうだ。なかなか思い通りにはいかねぇって事だ」


「・・・西門さん?」

「じゃ、月曜は朝9時でいい。遅れるなよ?」


なかなか思い通りにはいかない・・・その言葉がグサッと私に突き刺さった。
でも痛くはない・・・何故かその言葉も嬉しかった。





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Comments 2

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2019/10/03 (Thu) 12:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは・

コメントありがとうございます。

あっはは!堤さんね!うん、すぐに判りましたよ(あれは杉本さんです)

この真実を伝えようとしない総ちゃん(笑)
何気に笑えるでしょ?「言えよ!すぐに!」みたいな。

え~~~っ?
今までもなかったっけ?買い物する総ちゃん・・・。

だって向日葵の時、玉子買おうとして上野明日香に捕まったんだよ?(笑)
玉子1パックで見付かったんだよ?

この時、相当言われたの覚えてますよ『玉子ひとパックなら我慢せんかいっ!』って(笑)


スーパーと言えば・・・向日葵で類と総ちゃんにスーパーのバイトさせるって話でも盛り上がりましたよ。

懐かしいなぁ~!
総ちゃんと類君とスーパー・・・って事で、これは初めてではありません!キリッ!

2019/10/03 (Thu) 22:05 | EDIT | REPLY |   

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