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plumeria

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総二郎の言葉に全身の血が凍ったような気がした。

つくしが・・・車の中には居なかった?
そんな馬鹿な・・・・・・あの後、彼女だけ車から出ていったのか?

でも俺も衝突してからの記憶はない。つくしに伏せろって叫んだような気がするけど、車は倒れていた木にぶつかって・・・それからどうなったかなんて知らない。
一瞬運転手が正気に戻ってブレーキを踏んで、ぶつかる寸前で減速はした・・・それだけ覚えているけど。



「・・・・・・・・・」

「類、あのな・・・」
「見付からないの?総二郎・・・行方不明ってそういう事?」

「あぁ、見付かってない。何処に行ったのか、怪我してるのか無事なのか・・・それがどうしてなのか判っていないんだ。そして今はお前の事は報道されてるけど牧野の事は伏せてる。お前が目を覚ましたら聞こうと思って報道規制してんだ」

「・・・・・・探しに行かなきゃ・・・つっ!!」


つくしが見付かってないのに俺だけが病院で手当を受ける訳にはいかない。

腕に刺さっていた点滴を抜き取ろうと腕と上半身を動かしたら、また激痛ですぐにベッドに沈んだ。
今度は総二郎が「落ち着けって言ったろうが!」って横から怒鳴って押さえ込んできたけど、それを払い除けたら今度は首に痛みが走った!

「馬鹿野郎!!肋骨何本折ってると思ってんだ!左腕は骨折、首はムチウチなんだって!それに全身打撲で暫くは動けねぇよ!これだけ重傷でも奇跡に近いって医者に言われたほどだ。まだ動くな・・・類」

「でもつくしは手当も受けてないんだろう!そんなのダメだ・・・事故現場に連れて行ってくれ!」
「そんな身体で行ったって何も出来ねぇし、これまでに捜索隊が付近を探しても手掛かりが何も出ねぇんだ!お前は待つしかねぇんだよ!」

「そんな事出来ない!つくしは妻なんだ・・・俺が助けないでどうする!」
「無傷なら行かせるが、お前は怪我人だ!捜索の邪魔だ!」

「離せ、総二郎!!」
「類!お前はその時の事を思い出せ!!それが先だ!」


激痛だろうがなんだろうが起き上がろうとした俺を、総二郎が覆い被さるようにしてベッドに押し付けた!そして「思い出せ!」と・・・それでも頭は真っ白で指先だけが震える。
母さんは横で狼狽えてるし、俺の声を聞いて看護師まで駆けつけて来た。


「これ以上興奮させるのも・・・精神安定剤でもう暫く寝ていただきましょうか?」

「・・・・・・・・・」

「類、そうしましょう?つくしさんの事は警察に任せて・・・」
「いや、俺が暴れさせないからこのままで。出来たら2人にしてもらえないかな。その方が類も話すと思うし」

「よろしいのですか?何かあったら呼んでいただければすぐに処置しますから。とにかく身体を起こさないようにお願い致します」

「・・・・・・・・・」

「総二郎君・・・私もダメなの?」
「おばさんも少し休んで下さい。ずっと付き添ってたから疲れたでしょう?」


総二郎の言う通り・・・今の俺は何も出来ない。

あの場所に行きたくても身体がここまで動かなかったらどうしようもない。
それは判ったけど、今度は何も出来ない無力感でいっぱい・・・今、この瞬間にもつくしが俺を呼んでるだろうと思うと、自分だけベッドに寝ている事に罪悪感さえあった。

そして看護師は総二郎と少し話したら出ていき、母さんは憔悴しきった顔で奥のゲストルームに向かった。
あの人も俺の事故を聞いて急遽フランスから帰国・・・1度も自宅に戻ってないと聞いた。



「さて、まずは何があったのか、からだ。俺達と別れてからどうしたんだ?」
「・・・俺達は次の日にパリに泊まって・・・次の日遅くにフランスを発つ便に乗ったんだ。それまでは普通に買い物して飯食って・・・変わった事なんて何もなかった」

「東京に着いてからは?」
「東京に着いてから・・・」


総二郎に言われて考えたら、空港で見た運転手の事を思い出した。
運転手がいつもと様子が違って俺達の言葉に反応が薄かったこと、それに車に乗ったら何故か2人とも急に眠たくなったこと、それと話すと総二郎は困ったような顔をした。


「運転手かぁ・・・そいつは何かあるのかもしれないけど・・・」
「・・・そいつは?何か言ってないの?」

「・・・何も話せねぇよ。お前より重傷で意識が戻ってねぇし、戻っても話せるかどうかってぐらい頭を強打してるって聞いたから。まだ運転手は事故った先の新潟の病院だ」

「新潟?新潟の山だったのか・・・」
「あぁ、そうだ。御神楽岳の近くの山道だ」

「・・・くっ、俺が行って聞き出して・・・!」
「だから起き上がるなって!今度動いたらお前も強制的に眠らされるぞ!」


総二郎に肩口を押さえられたけど、ここでも左腕に激痛・・・!
俺の表情に慌てて手を離し、総二郎も椅子に座り直した。


「車に乗ってすぐに眠気・・・何か匂ったのか?」
「いや、そんな記憶はない。確かに強行移動だったし結婚式のドタバタで疲れていたから、飛行機で長いこと寝たんだけど眠たかったのは事実だ。でも眠いって言うより意識が朦朧とするって言うか・・・つくしは俺より早くに寝てしまったから」

「屋敷に向かう途中のどの辺まで覚えてんだ?」
「それがすぐに眠ってしまったみたいで何処まで走ったのかなんて見てない。気が付いたら夕方で山の中だったんだ」

「は?そこまで気がつかなかったのか?」
「・・・・・・・・・ん」


総二郎にその時の車内のやり取りを教え、完全に運転手の様子がおかしいと思ったから助手席に移動した事を話した。そして何度呼びかけてもそいつは無反応で返事もない。
山道で危険だったけど、斜面にぶつけてでも車を停めようとハンドルを奪おうとした・・・その時に目の前に倒木があることに気が付いてつくしに「伏せろ!」と叫んだ。

・・・そこまでを説明したけど、総二郎も「意味判んねぇ」しか言わない。


「そもそも運転手の状態って・・・それ、異常だろ?」
「総二郎・・・心理学専攻してたんだっけ?」

「あぁ、少しだけな・・・それ、一種のトランス状態ってヤツじゃねぇかな・・・」
「ん、俺も今考えたらそんな気がする。その時はそんな事考える余裕も無かったし、こうやって言葉にしなかったから」


トランス状態というのは「変性意識状態」の一部であり通常とは異なった意識状態のことを言う。
脱魂状態や恍惚状態という言い方で、わざとその状態に持って行き自己を高めようとする人も居る。スポーツ選手なんかにはよくある話だそうだ。

変性意識状態とは通常覚醒時、いわゆる日常生活の脳波であるベータ波意識とは異なる一時的な意識状態。
それは精神や肉体が極限まで追い込まれた状態や、瞑想や薬物の使用などによってもたらされると言われている。
また催眠によるリラックスした状態・・・つまり脳波がシータ波やアルファ波へと移行した状態を心理学でこういうこともある。総二郎の話はあの時の運転手の様子と重なるようで恐ろしかった。


「トランス状態だったってのは想像だけど、どうして運転手がその状態になるわけ?あれって自分でもコントロール出来るらしいけど訓練がいるだろ・・・」

「自分でトランス状態に入る方法にはいくつかある。危険な場合だと薬物やハーブの使用だけどこいつは幻聴や幻覚を引き出すだけで良い意味でのトランス状態じゃない。瞑想で変性意識状態に入るればいいんだけど、そんなの素人がすぐに手に入れられるもんじゃない」

「瞑想・・・そんなことしてそうなヤツじゃなかったけど・・・」

「1回2回の訓練じゃ無理だ。しかも運転手だろ?運転中に意識散漫になったら困るから普通は考えねぇだろうし、それ以前にそいつが考えつくか?自分の暮らしが何かに追い詰められて現実回避したかったり、何かにトライしてて目的達成したかったり・・・そう言うヤツじゃねぇと手を出さねぇだろ?」


運転手の生活状況なんて知らないけど、これまでは明るくて少し暢気なぐらいの男だった。
そこまでストレス抱えてるなんて思わなかったけど、それは本人じゃないと判らない・・・ただ、やっぱり何度考えても彼が自分でそんな自己操作をするとは思われなかった。


判りやすく言えば「取り憑かれている」・・・そんな感じだった。


「総二郎、トランス状態って見た目で判るもの?」

「見た目に判る場合とまるで判らないものとあるらしいぞ。催眠で表向きの意識が消えて自分の心の中の感情が現れたり、ヒステリー起こして意識を喪失したり。
宗教的な洗脳・・・まぁ修行って言ってるけど外界を切り離して法悦状態になってるとか。 そう言うのを判断するのに瞑想習熟者や催眠療法士ってのがいるけどな」


総二郎が言う、あくまで表面意識が失われた状態であり、意識を失った状態ではないということ。周囲の状況は認識出来ているけど、思考や判断はしてない状態。

これはあの時の運転手に言えるんじゃないのか?決して意識が飛んでいた訳じゃない。
あの山道を事故らずに走り、ちゃんとカーブではハンドルを切っていた。

そして倒木を目の前にした瞬間、危険を察してブレーキを踏んだ。


まるでそこに減速してぶつかれと誰かに言われていたかのように・・・。





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