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plumeria

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どことなく覚えがある、ひんやりとした空気の中で目を覚ました。
それは懐かしい・・・私の部屋。有栖川家の私の部屋だった。

少しだけ窓に目を向けると少し明るくなってるのが判る。
閉めた窓の外では鳥が鳴いてる・・・雨はやんだみたいだ。
反対側に目を向けると、薄暗い部屋の中に昔使ってた机やハンガーや本棚・・・それが空っぽのままあった。位置すら変わらずにそのまま・・・時が巻き戻ったんじゃないかと思うほど、何も変わっていない。


どうしてここで寝てるんだろうって思ったのは一瞬で、すぐに昨日の事を思い出し、身体を起こそうとしたら・・・!

「痛っ・・・!!」

身体中に痛みが走り、腰を浮かすことも出来ない!
何処かに縛り付けられてるのかと錯覚するほど自分の身体がベッドから離れなくて、同時に頭にも激痛が・・・!

それに熱があるのかもしれない・・・凄い汗。
喉が痛くて身体の痛みとは別にあちこちが火照ってる。

風邪を・・・引いたのかしら。


でもそれどころじゃない。
早く類に連絡をしなければ・・・と、ベットの軋む音にビクビクしながら痛む身体を少しずつ起こした。

部屋の何処を見ても私の鞄がない・・・と、いうことは私のスマホはここには無い?
じゃあ一般電話があるところまで行くしかない。


ゆっくり移動してベッドの端に座る体勢をとり、1度呼吸を整えて立ち上がろうとした。その時に目に入った自分の足は包帯から出ている部分だけでも恐ろしいほど赤黒くなっていた。
こんなので歩けるのかと思ったけど、少し力を入れれば立ち上がる事は出来た。ただ1歩足を出すだけで凄い痛み・・・!壁に寄り掛からないと進むことは出来ない。


「はぁはぁ・・・待ってて、類・・・痛っ・・・!」

汗が額から頬を伝って顎まで流れてくる。
それを拭おうにも腕が痛い・・・だから肩で汗を拭きながら荒い息を吐き出した。

それでも早く電話を・・・それだけを考えて数メートル進んだところでドアが開いた。それに驚いて壁に縋り付いていた手がピクッとして、俯いていたから入って来た人の足だけが目に入った。


「やれやれ、動くなって言ったのに・・・昔からジッとしていなかったよね、つくしちゃん」
「・・・・・・・・・!」


顔をあげたら、そこに立っていたのは鈴音・・・じゃなくて彼女のお兄さんの柊祐。

せっかくここまで歩いて来たのに、と唇を噛んだら膝が緩んでその場にガクッと倒れそうになり、慌てて壁に身体を寄せた。それを見ても彼は驚いた様子も心配する言葉もなく、逆に小さな溜息を漏らし、ドアを閉めて私の方に近寄ってきた


「よく眠れた?おいで・・・ベッドまで運んであげる」
「触らないで!!」

「何もしないよ。また歩いて戻るのが大変だろ?」
「私の事は放っておいて!それより荷物はないんですか?類に電話したいの・・・鞄が見当たらないわ」

「君をここまで運ぶのが精一杯だったから何も持って来てないよ」
「私を運ぶって・・・そうよ、なんで一緒に運んでくれなかったの?!どうして私がここで彼が東京の病院なの?!誰が通報したの?!」

「・・・それはまた後で教えてあげる。荷物だけは彼の元に戻ったと思うけど?」
「じゃあ電話を掛けさせて!」

「悪いけどここにはもう一般電話なんて無いよ。残念だったね」
「・・・酷い・・・どうしてそこまでするの?!」


私が抵抗しても柊祐はお構いなしに私を抱き上げてベッドに戻した。そして「少し熱っぽいね」なんて、この時は眉を顰めて看護師を呼ぶと言った。
確かにクラクラする・・・少ししか動いてないのに身体の痛み以外にも心臓がバクバクする。


柊祐がこの部屋からスマホで何処かに電話をしたら、すぐに看護師さんがやってきた。そして傷の手当てをした後で、軽い脱水症状があるからと言われ点滴の準備をされた。

「それじゃ、処置が終わったらお爺様を連れて来るね。お爺様ももう車椅子だから、少し衰えちゃったけど驚かないで」
「・・・・・・具合悪いの?」

「・・・君が出会った頃から数えたら17年経ってるんだよ?もう80歳も超えてしまったしね」


柊祐が出ていったら看護師さんと私だけになった。
彼女は特に何も喋らずに包帯の交換や傷口の処置をしてくれて、手際も良く、看護師としての腕はいいのだろうと思えた。
年は30歳ぐらいだろうか、落ち着いた女性でキリッとした表情は隙を感じさせない。

そんな雰囲気の人だったから話し掛けにくかったけど、私の方から怪我した時の事を聞いてみた。これだけの傷ならお医者様が来たはず・・・その人が不審に思わなかったのか、どうしても知りたかった。


「・・・え?あなたが運ばれた時の事ですか?」

「はい。何か不思議な事とか、変わった事はなかったですか?私、何も覚えてないのにここに連れて来られて困ってるんです。東京に自宅がありますからそこに帰りたいの。手当てして下さったお医者様にお願いして私を東京の病院に転院させていただけませんか?あなたはここに住んでる人なの?」

「・・・1つずつお答えしますね」
「あっ、ごめんなさい!何にも判らないから質問ばかりで・・・」


「いいえ」と笑ったけれどそれは表情だけ。本当に感情を出さない人だった。
彼女の説明だと、私は事故の時に柊祐に抱きかかえられてこの人の勤める、お爺様の掛り付けの病院に運ばれたらしい。
すぐにレントゲン等の検査が行われたけど骨折も無かったし内臓も脳も異常なし。ただ打ち身が酷くて内出血が多く、多少の擦り傷はあったからその処置をしたそうだ。
縫った箇所は3箇所あったけど、いずれもそこまで大きな傷じゃないから痕が残っても目立たないだろうと・・・。


「どうしてそこで入院しなかったの?ここまで運んだのも柊祐?」
「そうですね。捻挫もしてるみたいだし打ち身はあるけど、入院じゃないとダメだと言う程の怪我でもなかったからでしょうね。それと健康保険証なんかがなくて手続きが取れなかったって言うのもあるのかしら。それは私ではわかりませんけどね。
だから特定看護師の私がこうして処置の為に来ています。事故の状況は知りませんが、大きな怪我がなくて良かったです」

「何処で事故したかは?」
「私は何も知りません。看護に必要な情報以外は聞かないようにしています。さぁ、点滴をしますから腕を出して下さい。あなたがどうしたいのかは判りませんが身体を治すのが先でしょう?そして私はあなたの今後については何のお手伝いも出来ないの・・・ごめんなさいね」


口止めされてるのか本当に知らないのか・・・彼女には何も聞くことは出来なかった。




***********************




痛みが酷くて寝ることも出来ず、無理矢理薬で眠らされたのは深夜だった。
だから朝起きた時は朦朧として、また痛み止めのせいで吐き気が酷い。朝食なんて食べることも出来ないからまた点滴が追加された。


「花沢さん、ご気分は如何ですか?」
「・・・警察は何も言って来ない?」

「・・・私達には警察からの情報なんて来ませんよ。それより何処か痛みますか?」
「いや、大丈夫・・・」

「それじゃあ何かあったらナースコールを指が届く所につけて置きますから呼んで下さい。気になるかもしれませんが動けるようになるまではご家族の要望でモニター監視させていただいてます。ご理解くださいね」


看護師が指さした監視モニター・・・また母さんの過干渉かとウンザリしたが、そんな事はどうでもいい。
部屋を出て行こうとする看護師に俺のスマホとつくしの荷物のことを聞いた。
そうしたら俺のスマホについては知らないと言い、奥のゲストルームから少し型崩れした鞄を持ってきて「荷物はこれでしょうか?」・・・と。

警察から戻ってきていたんだ・・・その持ち主はここには居ないのに。


「ごめん、その中にスマホある?」
「あぁ、お待ち下さいね・・・あっ、ありましたよ?これですか?」

「悪いけどそれを枕元に置いといて」
「お電話したりはいけませんよ?まだ上半身も起こせませんし、左腕は動かせません。首だって・・・」

「そんな事は判ってる。画像を見たいだけだ」


少し睨みつけたら看護師はビクッとして俺の頭の右側につくしのスマホを置いてくれた。「くれぐれも見過ぎないように」なんて言ってたけど、そんな言葉は頭には残らなかった。
必死に右腕を動かしてスマホを手に持ち、電源を入れたら・・・もうあと僅かしか電池がなかったけど辛うじて画面が出てきた。


「・・・・・・つくし・・・」

待ち受け画面はエッフェル塔。
アルバムを開いたら、あの日パリで撮った写真が沢山出てきた。

その中には笑ってる俺が沢山・・・・・それを見て虚しくなった。
つくしのスマホじゃつくしが見られない、そう思ったら涙が溢れて止まらなくなった。


笑ってる俺を見たい訳じゃ無い。
笑ってるつくしが見たいんだ。冷たい画面の中じゃなくて、温かいつくしの頬に触れたい・・・。


馬鹿みたいに笑う俺を何枚撮ったの?
俺、こんな顔して笑ってたの?


俺はあの時つくしの写真なんて撮ってない。だって・・・ずっと傍にいるって信じていたから。





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