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西門さんが帰ってから1人で後片付けをしていた。

お茶碗を洗って丁寧に拭き、茶筅は西門さんしか使わなかったからひとつだけ。
お菓子のお皿と黒文字は使ったから洗って、それを茶巾で拭いてケースに仕舞った。茶匙も建水も使わなかった・・・って言うか、こんなに余分なお道具を運び入れてしまった。

だんだんそれが悲しくなって、残ったお土産の袋を片付けながら涙が溢れるのを抑えられなかった。


確認ってそう言う事だよね。
私は村崎商事でも毎回確認してきたのに、なんで今回はしなかったんだろう。
数字がおかしいなんて全然思わなかったけど、そう言えば西門さんも堤さんも42名には驚いていた。私だけがなんにも感じなかったんだ。
それは茶道に通じてないからなんだけど、何故かそれが悔しくて・・・悲しかった。

自分の確認漏れでお弟子さん達にも迷惑掛けて、貴重なお土産もこんなに無駄にして。
あのまま始まってたら西門さんもガッカリしたかもしれないし、もっとしっかりしてたら美作さんと小百合さんにも力仕事をさせずに済んだのに・・・。

こんなの秘書失格・・・逆に役立たずだ・・・。


「はぁ・・・ホントに馬鹿だ。48000円分の羊羹・・・弁償かなぁ」

「くすっ、何が48000円なの?」


着物を脱ごうと思って控え室のドアに手を掛けたら、横から聞こえてきた美作さんの声。
それは全然怒ってなくて、むしろ優しくて穏やかな・・・今の私にはヤバいくらいジンと来る声だった。


「美作さん、今日は本当にご迷惑かけました!申し訳ありませんでした!」
「え?そんなに謝る事じゃないよ。いいんじゃない?始まる前に気が付いたんだから」

「でもお仕事の邪魔して手伝いまでさせて、それにお借りしてる控え室に余分なお茶碗まで・・・私がちゃんと確かめれば良かったのに」
「もういいって。うちの秘書が始めに間違えたんだから。それに茶碗も万が一割れたら沢山予備があって安心だろ?良い方に考えたらいいんだよ。で、何が48000円?」

「あっ・・・今日の部員さんへのご挨拶用にって買った羊羹なんです。わざわざ予約して手配したのに・・・はぁ、どうしよう」
「あ~、そう言う事?ん~、そうだな・・・」

「・・・兎に角着替えてきます。本当にごめんなさい・・・」
「うん、俺は廊下で待ってるから」


流石紳士・・・ちゃんと廊下で待ってくれるんだ。
これが西門さんなら『脱がせてやろうか』・・・いやいや、そんな事を考えてる場合じゃないって。


目の前には綺麗に包装された栗蒸羊羹の包み・・・それを見ると、今度は本邸に戻って堤さんに怒られそうで怖かった。
いや、それも当然のことだ。あれだけ堤さんにも言われてたのに。

家元夫人からお借りした着物をたたんで畳紙にいれ、それも今日は持って帰られないからこの部屋で保管。それを美作さんに言うと鍵付きの戸棚に入れてくれて、帰り支度は完了した。
後はこの大量の羊羹と西門さんのお茶道具を手に持って・・・って時に、急に美作さんが「ちょっとおいで!」って私の手を引っ張った!

片手にある道具が一瞬落ちそうになって慌てて持ち直し、それでも美作さんの足は止まらない。ちょうどすぐにやってきたエレベーターに乗って⑮を押された。


「はっ?!どうしたんですか?」
「ん?ちょうど今会議中だから」

「なにがですか?あの、手を離してください!」
「いいから!もしかしたら良い結果になるかもしれないよ?」

「はぁ?!」

西門さんもだけど、どうしてこの人達は説明が足りないの?私にも判るように話して欲しいんだけどっ!

心の中でそんな事を叫んでいる間に15階にある営業部・営業開発部って所に連れて行かれた。
時間はもう7時半。それなのにそこはまだ沢山の人が残っていた。そしてなんだかピリピリした空気が・・・


「あっ!専務、お疲れ様です!」
「専務、まだいらっしゃったんですか?」
「お疲れ様です!」

「みんなお疲れ。少し休憩しないか?茶菓子持って来たから」
「・・・は?!美作さん?」


そこに居るのはザッと見て30名ほど。
その人達がわらわらと私達の回りにやってきて、美作さんと話し始めた。良く判らないけど新商品のアイディアが浮かばないとか、海外のお客様へのお土産の手配に失敗したとか・・・それを「まぁまぁ、落ち着け!」って美作さんが宥めて、この課の人達はどうやらこの羊羹で休憩するらしい。

・・・って、これ、西門のなんだけど。


「じゃ、俺が準備するから手を休めろ」
「「「はいっ!」」」

「・・・・・・・・・」
「って事で、つくしちゃん、お茶点ててくれる?」

「はっ?!」


今なんて言った?この私にお茶を点てろと?
それに驚いて美作さんを見たけど、彼はニコニコしててどうやら本気らしい。
いやいや、西門さんが居ても点てられないのに無理でしょ!って首をブンブン横に振ったら「手伝うから」ってやっぱりニコニコして、その笑顔が逆に怖くなった。一体何を考えてるの?!


この後お茶碗を取りに会議室に戻って、それからは美作さんの横で抹茶を点てた。
・・・と、言いたいけど点てたのは美作さんで、私はひたすら横で手伝った。

私が1人分の抹茶を量ってお茶碗に入れて、それを美作さんがポットのお湯を注いで茶筅を回す・・・その手つきがなかなか良くて、営業の人達が集まってきた。
嘘でしょ、マジで?その見た目で茶道が出来るとか反則でしょ!


でも、スーツ姿で超真面目にお茶を点てる姿は・・・すごく素敵だった。


「うおっ!専務、茶道出来るんですか?」
「親友が茶道家だからな・・・少し習っただけだ」

「こちらの女性は?」
「あぁ、その親友の秘書の牧野さん。西門流の人だ」

「おおーっ!あの西門流の?へぇ~~~!・・・で、専務が点ててるんですか?」

「申し訳ありません・・・私はまだ下手くそでして・・・」


まぁ、そう言われるよね。
だから西門さんも覚えろって言ったのよね・・・。有り得ない事が起きるってこの事だと思い知った。

そして羊羹も切ってお皿に入れて、美作さんが点てたお茶で休憩。
その時にはピリピリした空気も穏やかになって、みんなが笑顔だった。畳の上でもないし、正座でもないけど。



「この羊羹、美味いっすね。専務、何処のですか?」
「ん?それは・・・つくしちゃん、何処のだ?」

「あぁ、それは○○屋さんの季節限定の羊羹です。完全予約制なのでふらっと行っても買えないんですって」

「へぇ~~!なぁ、これ良くない?」
「あぁ、俺も思った!これなら季節感もあるし、食べやすいよな?」
「うんうん、干し柿は流石に外国人には難しかったのよ~!私、始めからそう言ったでしょ?」

・・・・・・何の会話?って思ったら、どうやらさっきから悩んでした急ぎの手土産の事みたい。
すぐに誰かがネットで調べて、それにしようって喜んでいた。


「いやぁ!助かりました!毎年同じお菓子で困ってたし、せっかくだから日本らしい味のものをと思って今年は1個8000円の高級干し柿にしたら、そこの営業担当のアメリカ出身の人に無理って言われちゃって!」

「はっ?1個8000円?!」
「ははは!そりゃ大変だったな。良かったじゃないか、経費も抑えられて」

「はい、本当ですよ~!1人5個入りの4万円でしたから、それが15個でしょう?60万円だったけどこの羊羹にしたら3万6千円です。1人2本にしようかなぁ・・・どっちにしても解決しました!早速明日注文しておきます、専務!」

「あぁ、頼むな」


1人羊羹2400円で驚いたのに、1人干し柿5個で4万円?!
干し柿なら自分でいくらでも作れるし、渋柿は近所でタダでもらってたから超ラッキーなおやつだったのに?!
どんな味なんだろう・・・8000円の干し柿って。


「ねぇ、これにチャレンジしてみない?」
「うんうん、良いかも!」

今度は別の机から聞こえて来た言葉。
何かと思ったら新商品開発チームのフレグランス担当のお姉さん達らしい。お抹茶を飲まずに全員で匂いを嗅いでる姿には少々ビビった。


「専務、どうでしょうか。桜シリーズは結構人気でしたし、この抹茶の香りも落ち着くし良いかと思うんですが」
「ん~、そうかもな。甘い香りが苦手な人もいるし」

「うちは夢子副社長の影響もあってフローラルなものばかりですから良いかもしれませんね!」
「ははっ!そうだな。1年中薔薇だからな」

「抹茶の香りはムスクが強めで残香性が強いフレグランスとは違って軽くてあっさりしてますでしょ?オフィスでも気軽に付けられそうですもの」
「美作のイメージが固定されてるからいいチャンスかも!どうしてこう言うのに気が付かなかったのかしらね」


・・・なんなの?抹茶のお代わりが始まったんだけど!
ちょうどいいから持ってきた西門流のパンフレットも渡して、余分に持って来た羊羹も抹茶も綺麗になくなった。


「心配しなくても間違って手配した物の料金なんて何にも言わないと思うから。俺から助かったって事務長に電話入れればつくしちゃんが責められることはないと思うよ」

「・・・はい。無駄にならなくて良かったです」

「だからそんなに落ち込まないで。ね?」


ヤバい・・・・・・泣きそうなのにキュンキュンしてる!こんな時、こんなに優しくされたら勘違いしそうなんだけど・・・。


「どうしたの?目が赤いけど・・・」
「何でもないです。本当にありがとうございました、美作専務」

「くすっ、あきらって呼んでいいよ。専務とか堅苦しいでしょ?」
「・・・・・・は?」


西門さんでさえ「総二郎」とか呼ばないのに?




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Comments 6

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2019/10/21 (Mon) 14:39 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

ふふふ、あきら君が暴走するかもしれませんよ?(笑)
落ち込んだ乙女にはこう言う優しさがズキュン!と来るんですよ❤

総ちゃん、早く戻らないとあきら君に持って行かれるぞ~(笑)って感じですね!

これも倒れた家元次第・・・西門家、どうなってるんでしょうか💦

2019/10/21 (Mon) 17:13 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/21 (Mon) 23:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

うふふ、あきら君、ホントに良い人(笑)
こういう時には大活躍してくれます❤

なんやかんや言ってこの人のお話を書けないけど、本当にあきら君は大好きです❤
今年はクリスマスストーリーを書こうかなぁ~って思ったり。
(いや、2人の話だけでも追い付かないのに💦)

うんうん、つくしちゃんも反省ですね。
悔しいって思えることは良い傾向かな?

総ちゃんの補佐が出来るようになるのはまだ先みたいですが、確かに1歩踏み出したかも?

ふふふ、応援してやって下さいね!

2019/10/22 (Tue) 00:07 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/22 (Tue) 10:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様 こんばんは。

コメントありがとうございます。

あきら(笑)いやいや、許したってください💦
色々辛い事が多い人なので、たまには面白くしたいんですよ(笑)

養父にされたりオカメと同じにされたり(笑)

あきら=地下・・・なのね?(笑)
明るい所でさせてあげて💦

結構類君が変態って言われるみたいだけど、私の場合あきらくんが変態なんだけどな~。
(え?関係ない?どっちも変態?)

司君=力技・総ちゃん=テクニック・類君・甘系・あきら君・変態・・・あれ?なんの話だ(笑)

2019/10/22 (Tue) 17:52 | EDIT | REPLY |   

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