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plumeria

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点前畳に座ったら頭が真っ白になった。

真剣だったかどうかは置いといて15年間やってきたはずなのに、まず何からすればいいのか・・・そう思った時に父様から「これを使え」と言われて手渡された帛紗。

あぁ!帛紗捌きだったって思い出したけど、まさか自分がお茶を点てると思って無かったから持って無かったんだ。
そんな事もド忘れするほど緊張していた。

それを受け取る時も父様の視線を感じて手が震える・・・何度か小さな溜め息を漏らしたのを気が付かれなかったかしら。


「何を考えている。俺の話を聞かなかったのか?」
「はっ、はい!」

「茶室に入ったら邪念を捨てろ。何度も言ったはずだ・・・一期一会の意味を思い出せ」
「・・・はい。申し訳ありませんでした」


一期一会・・・この日、この時間の出会いは一度だけ。
だから大切にしなさい・・・そう言えば、子供の頃にあきらパパ達とお茶会をした時にも言われたっけ。私はお茶菓子持って逃げたけど・・・と、それを思い出したら気持ちが落ち着いた。

西門の作法に従い・・・父様に教えてもらった通りに帛紗捌きをして茶器、茶杓を拭き清め茶筅とうじをする。そして茶碗を温めて拭き清める。
その後で一杓半のお茶をはき(すくって入れること)、茶を点てる・・・その時に私の頭の中には幼い時の父様のお小言がずっと流れていた。


『花音、まずは1分でいいから正座してみろ。これは慣れだからやらなきゃ出来ないぞ?・・・あっ!花音、逃げるな!!』

『そろそろ10歳なんだから茶会に出てみるか?桜の茶会なら桜餅が出るぞ?上手く出来たら終わった後でいくらでも食べていいから』

『少しぐらい着物で稽古しようって気にならないのか?着付けは出来るようになったのか?まだならお婆様に教えてもらえ!もう中学生だろう?父様はそのぐらいの時には・・・なんだ、その顔はっ!』

『お前なぁ、高校生ならもう少しマシな茶は点てられないのか?全然ダメだ!茶筅の使い方が悪すぎるだろう!もう1回やってみなさい』

『誰か花音を見なかったか?稽古の時間だってのに来てないんだが・・・あっ、花音!何処に行くんだ!』



くすっ・・・私は父様の弟子の中ではきっと最下位だ。
これほど言う事聞かずに手が掛かった弟子なんて居なかっただろうな・・・。


・・・・・・よし、出来た。


私が点てたお茶を父様の前に差し出すと、流石・・・父様は凄く綺麗な所作でその茶碗を取り、それを飲んでくれた。
その細かい仕草は本当に綺麗・・・娘の私もこの時の父様にはいつも見惚れる。暫くホケ~っとした顔で、父様がお茶を飲む姿を見ていたら、静かに茶碗を元の位置に戻した。

そしてひと言・・・


「・・・やっぱりダメだな、お前の茶は」
「・・・はっ?」

「雑念だらけだから美味くはないし、子供の時から少しも上達してない。とても客に茶を出せる腕じゃねぇな」
「そんなっ・・・!私の師匠は父様です。弟子の出来が悪いなら師匠の教え方が悪いんだわ」

「お前以外の弟子は上達してるんだ、俺のせいじゃない。お前の心がまるで茶道に向かないからこんなに不味いんだろう」
「そこまで言わなくてもいいでしょう?いきなり呼び出して茶を点てろって言うんだもの、無茶だわ!」

「どんな場合でも茶室に入れば一碗に集中しろと教えたはずだ。師匠の言う事をまるで理解しようとしないんだな。じゃあ仕方ない・・・花音は破門だな」

「は・・・破門?!」
「そうだ、お前はもう俺の弟子でも何でもない。西門流から破門する・・・二度とこの茶室に来なくていい」


「・・・父様?」


破門・・・二度とこの茶室にこなくていい?
それは、もしかして・・・?


「最後に師匠の茶を飲んでいくのを許してやる。席を替われ」
「・・・はい」


この後、父様が私にお茶を点ててくれた。
もう何度も見た父様のお点前・・・それを今日、これまでで1番集中して見ていた気がする。
美しい帛紗捌き、流れるような手つき、張り詰めた空気なのに温かくて・・・何故かその光景が歪み始めた。

鼻を啜るとバレてしまう。
目を擦るともっとバレちゃう・・・気が付いたらその両方をしてて、でも父様は何1つ変わることなく点前を進めていた。


暫くしたら差し出されたお茶碗・・・それをさっきの父様を見習って手に取った。
そして口に含んだ。


父様のお茶・・・これが最後になるんだろうか、そう思ったら飲みながら涙が溢れた。


「・・・大変・・・美味しゅう・・・ございました」
「当たり前だ」

「くすっ、そんな亭主の言葉は聞いた事がありません」
「・・・そうか」

「父様、ありがとう・・・ございました」

「・・・・・・・・・もういい、行きなさい」


「父様・・・」

「自分の歩いて来た道を人に話せる人間になれ。そしてこの先を歩いて行く道を間違えるな・・・・・・それだけだ」




この日は私のお別れ会だと言って大広間でお弟子さんや事務長、志乃さん、それに美作のお爺ちゃまとお婆ちゃま、仁美ママも招待しての食事会だった。
でも父様だけが来なかった。

母様に聞くと・・・

「バイクで出て行っちゃったの。きっと今日は帰って来ないと思うわ」、ってあっさり言われた。


「母様、心配じゃないの?」

「ん?心配しないわけじゃないけど、父様がそうしたい気持ちも判るの・・・だから私が出来るのは父様が帰ってきた時に、いつもと同じように笑うこと、それだけなのよ」


この時の母様は凄く綺麗だと思った。
父様が、類お兄様が誰よりも大事にする母様・・・初めてそれが判った気がした。

敵わないなぁ・・・って、それも凄く悔しかった・・・。


「母様・・・」
「なぁに?」

「私、父様と母様の子供で良かった・・・・・・母様、大好き!」


「馬鹿ねぇ、花音・・・それは私と父様の言葉よ。あなたが居てくれて楽しかった・・・そしてこれからもあなたは私達の娘であることに変わりはないし、会えなくなる訳じゃないもの。
紫音も花音も、絢音も颯音も私達の夢であり希望なの。だからその笑顔を忘れないで頑張ってね」






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短くてすみません!
次回「花音の恋」、最終話です。
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Comments 4

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2019/11/09 (Sat) 13:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

このシーンを書きたくて始めたのですが、書こうと思う事の半分ぐらいしか書けませんでした。
自分で言うのも変ですがちょっと辛いなぁ、と思いまして。

全然内容が違うんですが、娘が家を出た時、そのアパートから自宅に戻る時にすごく泣いたのを思い出しました。
人が見てるのに涙が止まらなくて(笑)

えぇ、今では「帰って来なくていいよ~」ってなってますからね。
きっと総ちゃんも慣れてくるんだと思います。


はぁ、やっと終われる(笑)

長かったぁ~~~~~!!

2019/11/09 (Sat) 22:45 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/10 (Sun) 00:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、おはようございます!

コメントありがとうございます。

手の掛かる子ほど・・・うふふ、そうなんだと思います。
無鉄砲で危なっかしくて、ずっと目が離せなかったんでしょうね(笑)

そう言うところは紫音と正反対だからね~💦

でも可愛くて可愛くて堪らんかったんですよ。
それなのに類君が中途半端な愛情で掻っ攫って行くという(笑)


そしてお約束のように今度は親父が逃亡(笑)
困った父ちゃんや!!

って事で、最終話ですが、何やら本編より疲れました・・・・・。

2019/11/11 (Mon) 07:50 | EDIT | REPLY |   

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