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plumeria

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また少し寝てしまったみたい。目が覚めたらもう点滴は外されていた。
そしてゆっくり横を向くと、そこには懐かしい有栖川のお爺様が車椅子に座って私を見ていた。その後ろには柊祐・・・彼は目を覚ました私に微笑みかけ、お爺様と私の間にやってきた。


「気分はどう?少し熱があるみたいだから寝たままでね・・・心配するほど高くはないから安心して?」

柊祐はそんな事を言ってたけど私はお爺様の顔を睨んでいた。
確かに随分と年老いた顔になった。英徳に入学してからは帰って来るなとまで言われ、ずっとここには来なかったからこの変貌には驚いた。


こんなに浅黒くて小さな人だったかしら・・・それが久しぶりに見たお爺様の印象だった。


でも今は見た目の変化に驚いている場合じゃない。
昨日聞かされた話をこの人にも確かめなくては・・・ガンガンする頭を横に向けて、お爺様と目を合わせた。


「・・・お爺様、柊祐から話は聞きました。この人、本当に鈴音のお兄さんなの?」

「・・・・・・あぁ、そうじゃよ。鈴音の兄の柊祐だ」

「私がここに来た時、お爺様は孫が1人って仰ったわ。あれは嘘だったの?この人も本当にこのお屋敷に居たの?」

「柊祐の希望で自分の存在を教えるな、と言われておってな・・・。儂も歳の近い男の子がいれば気になるだろうと思ったからそれに賛成したのだよ。この子はつくしの部屋とは遠く離れた部屋でひっそり暮らしておったから見た事はなかろう・・・」

「でも教えてくれたら進だって一緒に暮らせたんじゃないの?」

「・・・確かにそうかも知れないが弟君は儂の計画に入ってなかったんだよ」


本当にお爺様の口から「計画」という言葉が出た時、ショックと言うより虚しさを感じた。
この人はこんなに年老いても、人を陥れる計画を心に持ち続けたのかと思うと哀れにすら思えた。



「・・・・・・鈴音が亡くなったって言うのは本当?」

「あぁ、あの子はつくしが東京に行った後すぐにな・・・。でも、それが元々あの子の寿命と言われておったから覚悟はしていたのだよ」


お爺様は淡々と私の質問に嗄れた声で返事して、その目は私を見ているのか私の向こう側を見ているのか判らない感じだった。柊祐はこの会話の最中に私の寝ているベッドの端に座って足を組み、何故か不敵な笑みを浮かべている。

何がそんなに可笑しいの・・・?
この人の意味不明な行動には昨日から腹がたってばかりだった。


「お爺様・・・彼から聞きました。私の両親の会社は花沢物産とその子会社に潰されたんだって・・・そしてお爺様はその子会社で処分されたご自分の娘さんの復讐のために私達親子を引き離したって言ったわ。それは・・・それは本当なんですか?」

「・・・・・・・・・」

「私の両親はお爺様が連れ出したって本当なの?お父さん達が花沢への復讐に消極的だったから、次に私を利用したって言うのは?私をわざわざ英徳に入れたのは類と引き合わせるため?私に何をさせようとしたの?」

「・・・・・・・・・」

「お爺様!黙ってるなんて卑怯だわ・・・何か言って下さい!」


立て続けに質問する私にお爺様は少しずつ眉を寄せ始めた。
でも何も話そうとはせず・・・と、言うより喋りにくそうだった。柊祐はそれを横目で見ながら何も言わない。

暫く誰も言葉を出さず張り詰めた空気が流れ、そしてお爺様は漸く言葉を出した。


「柊祐が言ったことは本当だ。1人娘の祐子が何もしておらんのに罪を着せられ、それが世間に公表されず内々の処分だったとしても総てを失った。それを調べもせずに有耶無耶に済ませ、花沢は切り捨てた人間の事など考えもしなかった。
潰されたお前の両親の会社だってそうだろう。まだ幼かったから知らないだけで、従業員は職を失い路頭に迷った者も居るかもしれんのだ。
儂はそれが許せなかった・・・だから生きておるうちに復讐しようと思ってつくしの両親をここに呼んだのだよ」

「・・・でも、不正を行った人が悪いんであって、経営者だからって花沢家を恨むのは筋違いじゃないんですか?お義父様も類も何もしてないわ」

「そう、何もしておらん・・・何もしておらんから許せんのだよ」

「何もしてないから許せない?意味が判りません!不正をした人は誰なのか判ってないの?」


お爺様はその後黙ったまま俯いて難しい顔をしていた。
今度説明を始めたのは柊祐で、あの日の事故の事だった。


「見ての通りここにはテレビなんてないから君が情報を得ることは出来ないよね。だからこれまでの事を教えてあげる」

「これまでの事?」

「そう。君は花沢類の事で頭が一杯だろうけど、そもそもどうして事故が起きたのか判ってないよね?」

「・・・・・・・・・気が付いたら山の中だったわ。運転手さんの様子がおかしくて・・・それで類が必死になって問い詰めたけど無反応で、それで・・・」


色々な事が交錯してパニックだったけど、そう言えば何故運転手さんがお屋敷に向かわなかったのか・・・事故の原因の1番初めを聞かされていなかった。
類の事ばかりが気になって、両親の事まで知らされたから・・・・・・まさか、この事故も?

ハッとして柊祐を見たら、彼は薄笑いを浮かべたまま私を見下ろしていた。


「判った?この事故を起こした運転手、吉岡慎二を仲間に引き込んであの山に誘導したんだ。そしてあの倒木を道に放置したのも俺・・・極秘に人を雇ってあそこに木を持ち込んだのさ」

「・・・運転手さんも仲間?」

「吉岡の様子がおかしかったのはサジェスチョン・・・つまり暗示によるものだ」

「暗示・・・なにそれ・・・操ったってこと?」

「そう・・・少し前から彼に目を付けて勤務時間外に接触してたんだよ。あの男は困ってもないクセに金が好きみたいだからね」


冷たい目・・・柊祐の瞳の色が変わったような気がした。


「その時に『空港に行けばその後、山に行きたくなる』・・・これを催眠暗示してたってわけ。何処の道を通って山に向かうのか・・・そこまでを数回にわたって意識下に刷り込ませた。特に事故の前3日間の彼の休暇は全部その作業に使わせてもらった。だから彼は空港に行った途端、無批判に受入れてしまったんだ。
君達が車に乗った途端に眠くなったのは彼が後部座席の空調に微量の催眠剤を置いていたため。それも催眠暗示で仕掛けておいた。『山に行く時にはそれを後部座席に仕込む』・・・実に暗示に掛かりやすい男だったね」

「・・・そんな恐ろしい事を態とさせたの?でも運転手が寝たら・・・」

「比重の重い催眠ガスをほんの微量だよ。それでも疲れている君達にはすぐに効いたって訳。そして比重が重いから沈んだら運転席には影響なかったと思うよ」

「そんなの判らないじゃない!」

「事実ちゃんと車を運転して目的地に行ってる。そして俺の計算だと車の前面が大破するだろうけど乗ってる人間は助かるはず・・・その通りだっただろ?速度も指示してあったからね。多分吉岡はぶつかる直前にブレーキを思いっきり踏んでるはずだ」

「じゃああなたはあの時・・・」

「君達より先にあの山に向かって予定時間になったら倒木を置き、その向こうのカーブで待機していたんだよ。だから事故した直後、すぐに君を助け出したって訳。
その時に花沢類と吉岡の生存も確認して、金で雇った人間に第一発見者を装って警察に連絡させたのは俺だよ」


柊祐の言葉に何の罪悪感もないことが恐ろしかった。

いくら計算で命を落とさないと言っても、本当にそうだとは言い切れないじゃない!
もしかしたら吉岡さんは命を落としたかもしれないのに、平然と微笑む彼を心底憎らしいと思った。


「人の命を何だと思ってるの?そんな事して助からなかったら、吉岡さんのご家族はあなたと同じ思いをするのよ?!命は助かっても後遺障害が残ったらどうするの?!その人の人生滅茶苦茶じゃないの!」

「その吉岡が不正事件の首謀者だからね。もしもの時も仕方ないって思った訳さ」

「・・・・・・え?」


「あいつは母さんの上司だったんだよ。つまり、母さんに罪を着せた張本人ってこと」


吉岡さんの前職は花沢の子会社の営業部長だったらしい。
一連の内部調査の後で柊祐のお母さんが辞職に追い込まれ、その上司であった吉岡さんが責任を取ると言う形で依願退職した。
でも、それはバレないうちに自分が起こした不正事件から逃げるためでもあった・・・そして既に多額の裏金を持っていたために齷齪働かなくてもいいって事で、子会社の幹部の口利きで花沢家の運転手になった。

それは柊祐のお母さんが亡くなるまで「本当の犯人はあの人だ」と言い続けたことから、有栖川のお爺様が調べて判った事らしい。
その時にはもう事件は社内において総て解決されていて、表向きには何事もなかったかのように平和だった。


世間に公開できるような確たる証拠品はない。
合法的な裏付けがなかったために騒いでも潰されるだけ・・・だから吉岡さんもこの復讐劇のターゲットになった・・・その話を聞きながら背中がゾクッとした。


「・・・あ、暗示なんて簡単にかけられるの?そんなの・・・信じられないけど」

「そうだよね。それなりに訓練した者じゃないと上手く出来ないかもしれないね。でも俺には生まれつきそう言う特殊能力があるみたいなんだよね。超能力とまではいかないけど、相手を自由に動かすことが出来るんだ」

「・・・信じられない」

「暗示って普通は言葉でやる事の方が多いんだよ。でも中には視覚や嗅覚、聴覚で起こすこともある。植物アレルギーの人がその写真を見ただけで喘息を起こしたって事もそのひとつ。
たとえば映像の中に傍目には認識されない瞬間的な模様を組み込むことで、見ている人にある影響を及ぼすこともある。どうしてかは判らないけど、俺は子供の時からその誘導が出来るんだよね・・・」

「だから信じないってば!!」

「くすっ・・・でも、つくしちゃんはもう刷り込まれてるんだよ。あの音を聞くと俺の言う事を聞くようになる。それ以外の事を忘れて、花沢つくしなんて忘れて別の人格を持つようになるんだ」


チリン・・・・・・チリン・・・
     チリン・・・チリン・・・


「この音・・・あの鈴の音?」
「懐かしいだろ?いつから聞いてたっけ・・・小学生から・・・かな?」


チリン・・・チリン・・・
     チリン・・・・・・チリン・・・


「・・・・・・やめて・・・聞きたくない!」
「くすっ・・・この音はね、君が変化する音だよ。俺はずっと待ってたんだ。花沢に復讐するのに1番効果的な時期をね・・・」


チリン・・・チリン・・・
    

頭が・・・頭が痛い!!

助けて、類・・・・・・私が・・・私じゃなくなる・・・!!




チリン・・・チリン・・・
     チリン・・・・・・チリン・・・


「・・・やめて!!」
「目が覚めたら君は花沢つくしじゃない。俺の妻、成瀬鈴花・・・・・・鈴花だよ」




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