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plumeria

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骨折が無かったとは言え全身打撲と心労から、私はこの後数日間熱が上がったり下がったりを繰り返して起き上がることも出来なかった。
後から出てきた痛みも強く、手足に力が入らない・・・相変わらず頭痛も酷くて歩いて行けるのはトイレぐらいだった。


それも暫くしたら落ち着いて、捻挫の腫れも引いて普通に歩けるようになった。
痣はまだ痛々しかったけど擦り傷は大きなもの以外は気にならなくなった。だから包帯も随分減った・・・それはここに来て時間が経っている事を感じさせて苦しかった。


類は必死になって私の事を捜しているに違いない・・・それなのに知らせることも出来ない。


類だけじゃなくて進や優紀、桜子達が心配している顔を思い浮かべるとまた涙が溢れる。もう目の周りがヒリヒリする程泣いたのに、まだこんなに溢れるなんて・・・涙で身体が枯れるんじゃないかと思うほど辛かった。


そんな自分よりも気になるのは類の怪我だ・・・今、どんな状態で過ごしているんだろう。
彼は私の事を気遣って変な体勢のまま衝突したような気がする。
私は「伏せろ」と言われて自分の身体を丸めたから衝突の瞬間は見ていないけど、覚えている限り彼は前の座席から後ろを覗き込む体勢だった。

柊祐はちゃんと手当を受けてるって言ったけど、その経過は教えてくれない。
と、言うよりもそんな情報は調べる気も無さそうだった。


やっぱりどうにかして抜け出さなきゃ・・・窓辺に立って外を眺め、助けを求められる場所を思い出していた。


ふと自分の姿を窓ガラスで見てしまった。
そういえばずっとネグリジェのまま・・・ここに荷物が無いのだから当たり前だけど、着替える服すらない。

「まさかね・・・」

そのまま部屋の奥にあるクローゼットに向かい、そこを開けてみた。
そうしたらそこには女性ものの服がズラリ・・・しかもサイズは私にピッタリで季節は今のもの。全部が新品でワンピースやらスカート、トップス、コートまで揃えてある。
勿論私がここにいた時の物じゃない・・・それ相応の歳に合わせた服だ。


その時にカチャ、と音がして入ってきたのは車椅子のお爺様と柊祐だった。


「あぁ、そんなところに居たんだね。そこの服、君のものだから着ていいよ。もうそんな格好も飽きただろ?化粧品はここの引き出し、必要なものがあれば言ってくれ。揃えるから」

「・・・ここで揃えてもらわなくても結構です。早く東京に戻して!」

「まだそんな事言ってるの?あれだけ説明したのに?」

「私は花沢に復讐なんてするつもりはないわ。あなた達の計画なんて知らない・・・関係ないから!」

「でも聞いてしまったんだからもう元には戻れないよ。君は何かある度に花沢が両親にした事を思い出す・・・そしてあいつとの関係は少しずつ壊れていって最後には崩れ落ちる」
「そんな事ない!!」


私と柊祐の会話をお爺様は黙って聞いていた。

こんなにも年老いて弱々しくなったのに、本当にお爺様はまだ復讐なんて考えてるんだろうか・・・それも信じられない。
私が中学3年生の時、ここを出ていくのが復讐計画の一部だったなんて思いたくない。英徳合格を一緒にお祝いしてくれたのは、私の将来の為じゃなかったなんて・・・。


「お爺様・・・本当の事を教えてください。お爺様が有栖川の名前を絶対出さないようにって言ったのは、昔派手な仕事をしていたお爺様のお父さんがトラブルが多かったからって仰ったわ。有栖川なんて珍しいから英徳の生徒の親が知っていたらマズいって・・・それは本当なの?」

「・・・それは作り話じゃよ。有栖川という名前を花沢に知られては計画が狂うかもしれんと思うたから・・・それだけだ。
儂の父親がこの辺の大地主だと言う事と、東京で起業していたのは本当だが、トラブルなど起こさずにさっさと会社をたたんで田舎に引っ越しただけじゃ。この屋敷の維持費はその時に手放した不動産の売却益・・・それも事実だがな」

「あの類の写真は何処から持って来たんですか?」


その質問にはお爺様は眉を顰め、顔を逸らせた。
だからなのか柊祐がそれに答えてくれた。


「あの花沢類の子供の時の写真は母さんが持っていたものだよ」

「柊祐のお母さんが?」

「何故持ち続けていたかは知らないけどね。不正事件が起きる少し前、社内で『花沢本社の天使』の写真が手に入ったって騒いでいた女子社員がいたんだって。
花沢類は有名だったそうだよ。この世にこんな可愛い子供がいるのかって、子会社でも噂になるぐらい。それで母さんも気に入って譲ってもらったんだって。でも皮肉だよね・・・その写真に写ってる子が憎しみの対象になるなんて」


・・・子供が居ない私が思うのはおかしいかもしれないけど、子供を持っている人が小さな子供をそんな対象にするだろうか。


毎日積み重なっていく謎だらけの説明とこれまでにつかれた嘘の数。
本当に信じられるものは何かを考える気力さえ無くなりそうな自分が・・・凄く怖かった。




********************




数日後、この事故の調査の為に警察が保管していた俺のスマホが戻って来た。
そしてその中にあるつくしとの通話履歴やメッセージのやり取り、それに画像なんかを久しぶり見て、無邪気な彼女の笑顔に胸が押し潰されそうだった。

「それで花沢さん、大変心苦しいのですが・・・」

そう言って警察の幹部が口にしたのはつくしの捜索活動の規模縮小だった。
今後も捜索は続けるがその規模は格段に小さなものとなり、現地での活動ではなく情報収集が中心となるらしい。それによって花沢独自の捜索活動に切り替わった。
事故現場を中心に四方に広がる一軒一軒を訪ねて情報を集め、空き家という空き家を調査し、廃墟や洞窟まで調べた。

それでも何の手掛かりもないまま、それからまた3週間が過ぎた。


その頃は肋骨骨折の痛みも軽くなり、左腕の骨折ももう1ヶ月したら普通に生活出来るほどに回復するとの診断を受けた。外傷性頸部症候群、所謂ムチウチの症状はその日によって様々で、多少の頭痛を伴うぐらい。
あれだけの事故だったのに脊椎系にも異常はなく、歩行も問題なし。もう1度精密検査をした結果、主治医から退院の許可が出た。

そしてその数日後・・・自宅に戻れという母さんの言葉を無視して、俺はつくしと暮らす予定だったマンションに戻った。




そこはまるで販売前の部屋のように冷たかった。
シーンとして物音も温かみもなく、閉めきられていたから澱んだ空気のように感じた。

リビングに入れば2人で寛ぐはずだったソファーが真ん中に居座っていて、その向こうには大型ハイビジョン・・・つくしが世話をすると言っていた観葉植物の葉は枯れて床に落ちていた。
1人でいるには広すぎる空間・・・そのままキッチンに向かえば、そこにはつくしの希望で揃えた調理器具が使ってくれる人を待っているかのようだった。

テーブルの上には何もない。
勿論冷蔵庫の中にも何もない・・・つくしはフランスに出掛ける前、『帰ったらすぐにお買い物だよ!』って嬉しそうに笑っていたんだから。


『この冷蔵庫いっぱいになるほど買い物したら2人じゃ食べきれないよ?もっと小さな冷蔵庫で良かったのに』
『じゃあすぐに家族を増やしたらいいんじゃない?』

『・・・えっ!』
『あっ、やっぱりダメ。少しの間は2人がいいかも・・・じゃないと、俺、ヤキモチ焼くから』

『ば、馬鹿じゃないの?そうなってから考えなよ!』



空っぽの冷蔵庫を見ながらそんな会話をした事を思い出した。
食器棚にはペアの物が沢山・・・つくしが選んだ可愛らしい物が並んでいる。ここもゾクッとするほど寒かった。


つくしのドレッサー、それにアクセサリーケース。
クローゼットには色んな色の服が掛かっている。これを選んだのは俺だったっけ・・・つくしは何もいらないと言ったから。


『だってそんなに私が出席するパーティーなんてないでしょう?だから要らないって!だんだん歳とってくるんだから似合わなくなるよ?』
『パーティーだけじゃなくてデートしようよ。たまにはホテルでディナーとか・・・うん、やっぱり買おう!』

『ねぇねぇ、こんなコート着ないよ?私にはこっちでいいって!』
『大丈夫だよ、毛皮って言っても襟元だけでしょ?つくしが風邪引いたらどうすんの?』

『もうっ!こんなの人間より服が勝っちゃうよ?』
『そんな訳ないじゃん。あんたに勝てるものなんて何1つ無いよ』



このコート・・・もうすぐ着る季節だよ?
早く戻って来ないと本当に出番がなくなるよ?それ・・・勿体ないって言うんでしょ?

人を温かくするはずのコートも俺を温めてはくれない。そのコートを抱き締めてみたけど、悔しさが込み上げるだけだった。


唯一つくしが嬉しそうにコーディネートしたゲストルーム。
ここにいつか結婚した進が泊まりに来ればいいなって言いながら一生懸命ベッドを選んでいた。カーペットもカーテンも、テーブルも可愛らしいものにして。


『ゲストルームに夢中にならないで自分達のものを買おうよ・・・』
『待って待って!こっちの方がいいかなぁ・・・進、グリーン系好きなのよ』

『他の奴等が泊まるかもしれないのに色なんて関係ないでしょ』
『あっ!そうか・・・道明寺達も泊まるかも?』

『・・・いや、やっぱり進だけにしよう。彼奴らはどれだけ酔ってても追い返す!』
『え?どうしてぇ?』



どうしてって・・・そんなこと決まってるじゃん。
俺が安心できないし、つくしの可愛い声を聞かせたくないからだよって言うと真っ赤になってた・・・その時の照れた顔はすごく可愛かった。


そして俺達の寝室・・・ドアを開けるとそこにはキングサイズのベッドがあって、真っ白なシーツが掛けられていた。
その上に並べられた2つの枕に色違いのガウン・・・。


『うわっ!こんなに大きなベッドなの?』
『そう、このぐらいないとね』

『あはは!喧嘩した時に離れて寝られないから?』
『えっ?!』




「・・・あんたが居なかったら喧嘩も出来ないよ・・・つくし・・・」

この部屋はつくしが戻るまで使えない。
こんな悲しい場所で1人で寝るなんて御免だ・・・!

寝室には足も踏み入れずドアを閉め、自分が寝るのはリビングのソファーになった。




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