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plumeria

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有栖川の屋敷に来てから数週間後、私は庭に出て散歩が出来るほど回復した。
もう何処にも包帯はなく、あれだけまだらだった皮膚の色も元に戻った。擦り傷や切り傷の痕も気にならない・・・酷かった頭痛の回数も随分減った。


もう風が冷たい・・・山の木の葉の色も紅葉と言うよりは褪せて見える感じ。

庭の隅で揺れているコスモスは鈴音と見ていたものだろうか・・・昔は沢山咲いていたけど、今はほんの少ししかその色を見ることは出来なかった。

私がここに居た時と違うのはそのぐらい?
元々大自然の中で不似合いに建っていたお屋敷だもの・・・小さな子供ならすぐに隠れられそうな植木や草むらが広がっていたのを思い出した。


でも昔は居なかった門番みたいな人が居る。ここからこっそり抜け出せそうにはなかった。
お屋敷の後ろ側も昔と変わらない森のままで、私は事故した時の恐怖からあの薄暗い森の中に入る気にはなれない・・・。


「何処かになかったっけ・・・抜け道のような・・・・・・はっ!」

カサ・・・と草を踏む音が聞こえるとビクッとする。


「・・・散歩してるの?足は痛まない?」

こんな時必ず姿を現す柊祐・・・いつも薄い笑みを浮かべて私に近づいてくる。


見た目だけは類に似ている柊祐・・・茶色く光る髪が風に靡くと彼を思い出して辛かった。その瞳の色も同じ・・・でも、その奥に光る鋭い光りは類にはないものだった。
だから間違えたりはしない。よく似ててもこの人と類は雰囲気が全然違う。


「そんなに睨まなくてもよくない?つくしちゃん」
「気易く呼ばないで下さい。私には類が居ますから」

でも、この人の声はいつも穏やかで心地良い。
それなのに1番初めに「花沢家への復讐」と言われていたから、柊祐が傍に来たら私は全身が恐ろしいほどに強張った。



「柊祐って仕事してないの?いつもお屋敷に居るみたいだけど」

これは意識が回復して暫くしてから疑問に思ったことだった。
彼が1度もここから外出していない・・・そう思ったから。

鈴音のお兄さんならもう30歳近いはず、それなのに遊んで暮らしてるとは思えない。


「仕事はしてるよ。この前も話したけど成瀬コーポレーション・・・そこの特別職みたいなものかな。この屋敷の一室にあるパソコンの中だけで仕事してる」
「会社に行かないの?」

「殆ど行かない。画面の中だけで総て処理が出来るからね」
「・・・特別職ってなに?」

「簡単に言えば顧問みたいなものだよ。所謂相談役・・・日本では知識や経験が豊富な会社の元管理職や元役員がそのポジションに就くことが多いけど、経営上の高度なアドバイスを受けたい時は外部の専門家と契約を結ぶこともあるんだよ」

「外部?成瀬コーポレーションの社員じゃないの?」

「義父が社長なんだけど、もうずっとこのポジションだよ。でも俺もこの方が性に合ってるから気にしてないけど?使用者でも労働者でもない立場って楽だからね。
会社法には存在しない立場だから就業形態や報酬の規定もない・・・だから1ヶ月に何処ぐらい業務をするのかは会社からの相談内容による・・・ってところかな?」


そんなところも類とは違う。
彼は私と結婚するためには自分が認められないといけないからと必死に働いてくれた・・・類のそんな部分を見て、お義父様達も私達のことを許してくれた。
楽だなんて言葉を使った事なんてない・・・やっぱり違う。


「・・・私のピアス、知らないかしら。アクアマリンのピアスがないの」
「あぁ、あれは事故の直後、治療に邪魔だから外させてもらってその後は知らない。もう何処かに捨てられたんじゃないの?」

「・・・邪魔・・・・・・そう」


類はきっと怒らない。
私が無事であることの方を喜んでくれるはず・・・だから悲しかったけど、プレゼントされたという思い出だけ胸に仕舞う事にした。


クルリと向きを変え、私が柊祐から離れて行こうとすると・・・


・・・・・・チリン・・・・・・チリン・・・チリン・・・・
     ・・・チリン・・チリン・・・



鈴の音・・・そうしたら不思議と私の足は止まった。


「もう中にお入り。風が冷たくなったから」
「・・・私に指図しないで」

「指図なんてしないよ?心配してるんだよ、つくしちゃん」
「だから気易く呼ばないで。あなたの過去は気の毒だとは思うけど、類には関係ないし私は復讐の手助けなんて絶対にしない!」

「・・・判った。その話はまたゆっくりしよう。おいで・・・つくしちゃん」

「やめて!私の名前を呼ばないで!」


この人が名前を呼ぶと身体から力が抜けて行くみたいだった。
不安でいっぱいなのに、早くここから出たいのに、類のところに帰りたいのに私の足は向きを変える・・・そして優しく微笑む柊祐の方に向かう・・・それが判って居るのに動いてしまう自分が居る。

でも伸ばされた手なんて取らない。
それを撥ね除けて1人で部屋に戻った。


・・・・・・チリン・・・・・・チリン・・・チリン・・・・・・


頭がクラクラする。

意識が遠くなる・・・この音は私から「私」を奪う気がする・・・。




**********************




~side柊祐~

「目を開けて・・・夕日が綺麗だよ、鈴花」
「・・・・・・うん?」

「ほら、見て?窓から差す光・・・綺麗なオレンジでしょ?」
「・・・あぁ、本当ね・・・柊祐、私・・・また寝てたの?」

「ん、まだ本調子じゃないからだろ。気にしなくていいよ」
「ごめんね、ダメな奥さんだよね」

「そんな事ないよ。君が居てくれて嬉しいよ・・・鈴花」


つくしの催眠暗示の訓練は順調だった。
初めのうちは1日に数分、怪我が治ってからは数時間。歩けるようになってからはさらに伸ばして催眠状態を維持出来るようになった。
それには傍に居て俺の声を聞かせ、自分が鈴花であることを意識させなきゃいけなかったけど、それでも思ったより従順に俺の術に掛かってくれた。


そして少しずつ花沢に対し、憎しみの感情を抱くように誘導することも始めた。

初めは俺が花沢に苦しめられたと言う話・・・次には花沢を潰したいという少し攻撃的な話。
それを繰り返していくうちに今度はどうすれば花沢を潰せるかと言う言葉を出して、自分も花沢に攻撃するのだという感情を持たせるように教え込んだ。


「・・・いやね、その人達。成瀬に対抗しようとしてるのね」
「どうかな。歳が近いからライバル心かな・・・」

「ライバル・・・馬鹿な人ね。柊祐には敵わないのに」
「花沢類・・・そいつが相手だよ」

「・・・・・・・・・花沢類・・・?」


初めのうちこそ「花沢類」と聞いて催眠状態が揺らいだけど、その時には早くに覚醒させる。そしてこれも回数を重ねていくと名前を聞いても表情は変わらなくなった。
順調に・・・順調に・・・鈴花は花沢類に対する憎しみを持つようになった。

催眠状態の人間は与えられた情報の中で動くから、それを変化させる事はない。
つくしは「鈴花」の状態になった時には花沢類に恋心は抱かない。


くすっ・・・彼が成瀬鈴花に会った時の反応が楽しみだ。


「鈴花、君が1番好きなのは誰?」
「え?どうしてそんな判りきった事を聞くの?」

「聞きたいから・・・ね、そいつの名前を言って?」
「ふふっ、柊祐だよ?私の旦那様に決まってるじゃない」

「ありがとう・・・鈴花。じゃあ少し目を瞑って?」
「・・・ん?こう?」


今日の訓練はおしまい・・・花沢つくしに戻ってもいいよ。少し名残惜しいけどね・・・。


「じゃあ鈴花、よく聞いてね・・・元の世界に戻るよ?」
「・・・・・・・・・」


今日も「あの音」を鳴らす。
次に目を覚ましたら、きっと花沢つくしが俺を睨むだろう。


事故からもう2ヶ月・・・あいつもそろそろ動き出す頃だ。会いに行かなきゃね・・・。




<第一章・鈴の音・終>




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