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plumeria

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あきらが言っていたパーティーの話が俺のところに来たのはその2日後だった。
今は日本本社を取り纏めている母さんに呼び出され、その招待状を見せられた。

「実はもう2ヶ月前に届いていたの。あなたはまだ完治してなかったし、お父様も向こうが忙しいから戻って来られないって言うし、私か他の幹部で調整していたんだけど」

「それがどうして俺?悪いけど・・・」

「えぇ、あなたにそこまでの気力がまだ無いのは判ってるわ。ただこの日、急に新プラントの建築現場に都庁の検査が入ることになって私は社に残らないといけないし、常務はその立ち会いなの。パーティーが夕方から始まるものだと言っても支度が間に合わないわ。それに副社長も伸び伸びになってたアメリカでのシェールガス 開発プロジェクトに参加しなきゃいけなくてね。ここは役員じゃないけど類に後継者として行ってもらいたいの」

「・・・・・・でも」

「パートナー同伴なんて日本じゃ気にしないから大丈夫よ。あなたの事を知ってる人は逆に何も言わないと思うわ。それに・・・こう言ってはなんだけど、そろそろ気持ちも切り替えないとね。
諦めろって言う訳じゃ無いけど、だからって総てを無気力に過ごすのも良くないと・・・そう思うのよ、類」

「・・・この件は判った。でも気持ちの切り替えなんて出来ない・・・まだ2ヶ月しか経ってないんだから」


俺の為を思って言ってるんだろうけど、気持ちを切り替えろって事はつくしの生存を諦めろって事だ。
そして早く忘れろ・・・両親はそう思ってる。今すぐにじゃなくてもいいから、今度こそ花沢の為に結婚相手を探せと言われているような気がしてならなかった。

そんな事、考えられる訳がない。


俺の妻は生涯つくしだけ・・・あの日、神に誓ったんだから。


「でも、この企業ってうちと大きな取引なんてないよね?よく招待状出したな・・・」

「そうね・・・私も少しは考えたわ。企業規模ではそこまで差が無いけど、向こうはアメリカ中心、こっちは日本とヨーロッパ中心でしょ?でもヨーロッパでも多少は事業をしてるのに、何故か日系企業の花沢を態と避けてるのかと思うぐらいだったもの。1度だって共同事業の話を持ちかけられたこともないわ。それなのに急にアピールしてきたから不思議ではあるんだけど」

「・・・まぁ、いいよ。花沢が顔を出したって事が判ればいいんだろ?」
「それでいいわ。少しずつ勘を取り戻しましょう」


真っ白い封筒に薔薇の花のエンボス加工がしてある上品な招待状・・・それを片手に持って社長室を出た。


マンションに戻ってからあきらにそれを伝えると「2人で飲もうぜ」ぐらいの軽い返事。
俺としても1人でいるよりその方がいい・・・「当日会場で」と、同じように軽く返して電話を切った。




**




夢の中を彷徨うような気分で一日を過ごし、もう明日がそのパーティーの日だと思い出したのは業務終了後だった。
ただマンションのクローゼットにタキシードはあるのは知ってるけど、それ以外のものが何処にあるのかさっぱり・・・タイやカフスが何処に仕舞ってあるのかなんて全然判らず、そして探す気にもなれない。

だから仕方なくその日は自宅に戻った。


「お帰りなさいませ、類様。お身体は大丈夫ですか?」
「・・・ただいま、加代。心配掛けたね」

「とんでもない、苦しまれたのは類様です。加代は全然・・・」

俺がここに戻るのはつくしを連れてフランスに旅立って以来だ・・・だから加代は堪えきれずに玄関で泣き出した。
その後ろに居る田村も辛そうに俯いて、使用人達も一様に同じ顔・・・まるでつくしの存在がないことを口に出してはいけないと、態度で伝えてるかのようだった。


それも俺には辛い・・・だからここには帰りたくなかったんだけど。


「加代、伝えてたとおりパーティーの支度を頼む。マンションだと全然判らなくて・・・」
「畏まりました。でも随分お痩せになって・・・今からですと補正も出来ませんけど」

「いいよ、そんなの。顔出すだけであきら以外の誰とも話す気なんてないから」
「・・・すぐに揃えますわ。それと、お部屋の方にフランスのお土産を置いてあります。期限のあったものは申し訳ありませんが処分しましたわ」

「そう・・・ありがとう」


懐かしい自分の部屋に入る・・・もう2ヶ月以上足を入れてない部屋。
でも俺が戻るって言ったから加代が空気の入れ換えでもしたんだろう、籠もったような匂いも空気が澱んだ感じもなかった。本当に昨日までここで生活してたって思えるほど・・・でも、それをすぐに打ち砕くものがテーブルに置いてあった。


それはさっき加代が言ったフランス土産・・・つくしが空港で楽しそうに選んだものだ。

数が随分少ないのは押し潰されたか破損して持ち帰られなかったのか。
俺が飛行機から持って出た荷物の3分の1くらいだ。


手に取るとつくしが『これは進でこれは優紀で・・・』、そう言ってた顔が浮かんだ。


あれだけ喜んでたマロンクリームはひとつも無い。ボンヌママンのフィナンシェの袋もない。
パッケージが可愛いって言ってたクスミティーは、そのパッケージを汚された状態でここにある。
つくしがおにぎり用だって買ったゲランドの塩は無傷・・・『絶対美味しいから類も食べてよ』 っていつも言われてたのに食べなかったよね・・・。


食べれば良かった。
あんたが勧めたんだから、嫌がらずに食べれば良かった。
友達にって買ってたエレシバターはない。パリの雑貨はバラバラと沢山あって、無事なものと傷ついたものが両方纏めて置いてあった。


『ほら、お土産って絶対買い忘れる人が出てくるのよ。だから沢山買っとくの!』


「・・・つくし、あんたの友達が待ってるよ。お土産持って現れるの、今でも待ってるよ?だから・・・」


そう言っても誰も返事なんかしない。
恐ろしいほど寒くて静かな部屋に、俺はたった1人で佇んでいた。



**



翌日、揃えてもらった服を着て階下に行くと、田村と加代が心配そうに並んで待っていた。

「お戻りはこちらで?それとも・・・」
「ごめん。マンションに戻るよ」

「さようでございますか。何か足りない物があれば仰って下さいね」
「・・・ん、でもキッチンは使わないから」

「・・・なんでも良いのです。ここにも類様を心配している人間が居ると覚えていて下さいませ」
「ありがとう。判ってるよ、加代。じゃ、行ってくる」

「いってらっしゃいませ」


頭を下げて顔は見えないけど、エプロンを握り締める加代が泣いてることは想像出来た。
俺が少しでも笑えばいいんだろうけど、今の俺は笑い方を忘れてる。だから無表情のまま、吉岡の代わりに入ったという男が開けてくれたドアから車内に入った。


「先月から運転手としてお屋敷にお世話になっている飯田と申します。安全運転で参りますのでご安心下さい」

「・・・・・・頼む」
「それでは参ります」



ホテルに着くまで目を閉じる・・・次に目を開けたらつくしに会えたらいいのに・・・。
車に乗る度に俺の心はあの日に戻る、そんな感じだった。






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