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plumeria

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パーティー会場であるホテルに着いたら、運転手には迎えの時間を伝えて1人でそこに向かった。
回りには夫人を同伴したと思われる出席者もいて少しだけ胸が痛む。出来るだけ他の人間と顔を合わせないように、歩を早めて中に入った。

こんな華やかな場所では俺の表情は逆に目立つのかもしれない。
嫌でも自分に向けられる視線を感じずにはいられなかった。

「おぉ、花沢の・・・」
「あら、もう回復なさったのね」
「やはりお1人か」・・・・・・そんな言葉が耳に入るけど、反応せずにその横を通り過ぎた。


そして会場入り口の壁に凭れ掛かってる幼馴染みの顔を見ると少しだけ口元が緩んだ。
いつもならそんな所に1人で立ってるようなヤツじゃないのに・・・なんて、あきらの世話好きが少し嬉しかった。
きっと俺が来た時にこうなるだろうと思っての事だろう。近づいて行った俺に気が付いたら、戯けたように片手をあげて笑い、縋っていた壁から背中を離した。


「よっ!よく来たじゃん。もしかしたら逃げるのかと思った」
「・・・逃げていいならそうしたいけどね」

「まぁ、そう言うな。お前のそういう顔、あいつが一番嫌がるぞ?笑えなんて言わないけど下ばかり見るなよ」
「ん・・・判ってるつもり。心と体が言う事聞かないだけ」

「・・・そうか」

こんな言い方したらあきらが何も言えないなんて判ってるけど、今はそんな返事しか出来なかった。
あきらにパートナーの存在を確認したら「今日はお前だ」って・・・流石にその時だけ少し笑えた。「じゃあ、それに甘えるか」、なんて呟いてあきらと並んで会場に入った。




久しぶりのパーティー会場は目に眩しかった。
こんなにクラクラするっけ・・・って思いながらシャンパングラスを片手にあきらの隣に立ち、たまに話し掛ける連中に感情の籠もってない言葉を返す。
これで花沢物産を代表して来てるなんて役目が果たせるのかと言われれば疑問・・・それでも、この会場の中に留まるだけで精一杯だった。


背格好がつくしに似た女性がいるとハッとして目を向ける。
その人が振り向いた瞬間にその期待は打ち砕かれて「無」に戻る・・・。

あきらはそんな俺を見ながら何も言わなかった。
会場の空気に酔いそうだったから窓際に行き、そこで気配を消すようにカーテンに埋もれて目の前をウロウロする連中を眺めてる・・・俺は兎も角、あきらにまで誰も近寄れなくて、こっちをチラチラ見る連中が多いことが気になったけど。


「それにしても思ったより豪華な顔ぶれだね・・・成瀬って最近はそんなに伸びてるの?」
「あぁ、そうだな。何故か日本人経営者なのに日本ではそこまで活動してないけど、海外じゃ急成長だろうな。あの道明寺でさえ最近カナダでガス油田開発事業を奪われてたし」

「あぁ、なんかそんな記事見たかも・・・」
「・・・お前達が事故に遭ってた時期だ。詳しく知らなくても無理はないさ」


記事は読むけど頭にあまり残らない。こんな不抜けた企業家はこの会場でも自分だけだろう。
少し前なら敏感になっていた事も、家庭を持つのだから頑張らないとって思っていた事も、つくしが居ないだけで何の意味も持たなくなった。

自分の弱さに驚くことさえなかった。

無感情・・・幼い頃の自分よりも、今の方がそうだと思う。



その時、辺りがザワザワと騒がしくなり中央入口付近で拍手が起こった。

どうやら成瀬コーポレーションの社長が入って来たようだ。俺とあきらも他の連中が視線を向けた方向に目をやり、人混みの中でチラッと見えた白髪交じりの男性を見た。
あれが社長か・・・そう思った時に、その後ろにもう1人の男がいるのを確認、その隣に小柄な女性がチラッと見えた。


トクン・・・!!


心臓が大きく跳ねた・・・そして身体が固まった。
その女性の顔は見えなかったのに、歩き方が・・・・・・すごく似てる・・・。

あきらも小さな声で「あれ?」・・・そう声を漏らした。


3人は中央入口から入って会場の奥に行き、そこの一段高いステージに上がった。
そして招待客の方に揃って顔を向けた時、その女性を見て驚いた・・・!


「・・・・・・類、あれって・・・」
「・・・・・・・・どう・・・して?」


若い男の横でにっこり笑ってる黒髪の女性は・・・・・・・・・つくし?


女性は艶やかな黒髪をサラリと流し、サイドアップして真っ赤な薔薇の髪飾りを付けていた。そしてシックな黒のドレスにゴージャスなアクセサリーを身に付け美しかった。
会場のあちこちからも溜め息が漏れるほど・・・招待客の視線の殆どは女性とその横に居る男に向かっていた。

男の方は茶色の髪に少し欧米人寄りの目鼻立ちで、全体的な線が細い・・・まるで女性のような体つきだった。でも歳は俺よりも上に感じられた。
表情は落ち着いていて、隣に立ってる女性と目を合わせて微笑んでいた。


「どういう事だ?あれは・・・そうだよな?!」
「・・・・・・判らない・・・判らないけどつくし・・・だと思う。どうして・・・どうしてここに来てるんだ?どうしてあそこに・・・!!」

「類・・・声を落とせ!」
「・・・・・・!!」


俺とあきらの声で回りにいる招待客が不思議そうな顔で振り向いた。
すぐにでもステージに上がって行き彼女がつくしだと確かめたかったけど、ここで騒ぎを起こしても不味い・・・そう判断して口を噤んだが、俺とあきらはその女性から目が離せなかった。


心臓がこれまでに無く逸り額に汗が滲む。
微かに唇が震え、俺の背中に触れたあきらの手にビクッとする・・・目を見開いたままあきらを見ると「後で話に行こう」と小さな声で言われた。


「・・・本日はお忙しい中、我が成瀬コーポレーションの新社屋完成披露パーティーにお越しいただきましてありがとうございます。私が社長の成瀬真一、隣が息子の成瀬柊祐と妻、鈴花でございます」



成瀬・・・りんか?



いや、違う・・・あれはつくしだ!俺の・・・俺が探してるつくしだ!

社長の言葉を訂正したくて足が一歩出るとそれをあきらが制した!
そして「少し待て!」と、もう1度止められたけどあきらの顔すら見ることが出来ない。真っ直ぐ前を向いたままそれを振り切ってつくしの所に行こうとしたら流石に客達が騒ぎ出した。
あきらは俺の腕を掴んで窓横の壁に押し当て「失礼」と周囲に小声で謝り、俺には「今はダメだ!」としか言わない。

このざわめきにステージ上の社長と男も俺達の方に視線を向けたが、女性は目を向けなかった。極上の笑みのまま正面の客達を見ている・・・ただ、感情を感じない笑顔だ。


そう言う部分はつくしに似ていない。
つくしは嘘がつけないし、意外と恥ずかしがり屋だ。

だからこんな会場だと照れ笑いになる。あんなに余裕のある微笑みはしない・・・でも、あれはつくしだ。
俺が見間違うはずがない・・・!


社長の挨拶は淡々と進み、招待客の祝辞も続いている。
でも俺の目はステージ上の女性だけを見て、耳には誰の声も入ってこなかった。


似ているだけ?・・・いや、間違いなくつくしだ。
触れれば判る?声を聞けば判る?・・・でもおかしいと思うのはその服装だった。

つくしはあんな背中が開いた大胆なドレスは好きじゃない。
アクセサリーもどれだけ俺が似合うと勧めても小さめの可愛らしい、控えめなものがいいと言って着けなかった。髪にあんな真っ赤な薔薇をつけるなんて・・・それに派手なメイクは嫌いだったんだ。
ルージュだっていつも淡いピンクで、結婚式の時だけ華やかな色をつけたぐらい・・・あんな深紅の口紅なんて好まなかった。

今日の装いはつくしの趣味の真反対だ。
それはあきらも判っていた。


「あのドレス、彼女が選んだのかな・・・」
「・・・判らない」

「あの男、お前に似てないか?」
「似てるかもしれないけど関係ない。そんな事はどうでもいい・・・」

「・・・牧野、だよな?」
「・・・・・・・・・・・・」



「・・・それでは皆様、どうぞごゆっくりご歓談下さいませ」、司会者がそう言ったと同時に主催者挨拶は終わり、会場には再び招待客の声がざわめき始めた。
カラフルなドレスとタキシードが動き始めると、それまで俺の目が捉えていた「赤い薔薇」が見えなくなった。

ここで見失う訳にはいかない・・・!すぐにでも確かめたくてステージに足を向けると、つくしの横に居る男が人混みの中を進む俺に射貫くような視線を向けた。


それは一瞬だったが憎悪に満ちたもの・・・そう感じた。





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