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plumeria

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「えぇ、私は成瀬鈴花です。この方は・・・存じ上げませんわ」

つくしが嫌いだった真っ赤な唇が告げた言葉。
でもそれはまるで抑揚のない、学芸会の子供の台詞みたいに聞こえた。


「つくし、何言ってるの?」

「・・・私は成瀬鈴花です」
「いいから帰るよ。さぁ、おいで」

「花沢さん、本人も違うと言ってるでしょう?」

ソファーに座ったまま俺を知らないと言った”つくし”に手を伸ばそうとしたら、それを阻止しようと柊祐が俺達の間に入ってきた。そして彼女を隠すように目の前に来るとガードに目配せして、あの男が再び俺の腕を軽く押さえた。

それを見て口角を上げる柊祐・・・その余裕の表情の後ろにある冷めた”つくし”の目。

「離せ!」と振り払ったら今度は少し力を入れて俺を引き戻そうする、その行為に苛ついて斜め後ろにいる男を睨みつけた!
何が起きてるのかさっぱり判らない・・・!その行き場のない感情をそのまま男にぶつけようと拳をあげたが骨折した箇所に痛みが走り、逆に呻き声を上げて身を屈めてしまった。
それでも表情1つ変えずに黙って見ている”つくし”・・・柊祐に脅されて演技しているのかと思いもしたが、そういう訳でも無さそうだ。


それなら記憶をなくしたのか。
無くした記憶に柊祐が別の記憶を植え込んだのか?

いや、この短期間でそんな事が可能なのか・・・そうだとしてもつくしが躊躇いなく受け入れるなんて思えない・・・!


「あんた、彼女に何をした?」
「・・・これはまた失礼な。何もしませんよ?大事な妻ですから」

「そんなはずはない!彼女は花沢つくしだ、俺が間違えるはずは無い!事故の後にあんたが意識操作したのか!」
「どうやら花沢さんの方が事故でおかしくなられたようだ。ここで訳の判らない事を喚いてないで、入院中の奥様のお気遣いでもされたらどうですか?
どうやら鈴花に似ているようですが、こうやって元気な姿に懐かしさと憧れでも抱きましたか?」

「・・・・・・なんだと?」

「いくら似ていても彼女は私の妻、鈴花です。お間違えのないように。今日ここであなたが口に出したことは内密にしておきますよ、花沢類さん。それではまた・・・」


柊祐は”つくし”の傍に行きそっと手を差し出した。
”つくし”はここで初めてニコッと笑い、その手に自分の手を重ねて、漆黒のドレスの裾を持って立ち上がった。そして俺には目も向けずに真横を通り過ぎ、この部屋を出ようとした。

でも彼女が通り過ぎた直後、ドレスの裾を持っていた左手をグイッと引き寄せ、その薬指を・・・・・・

「何をするの?!」
「失礼!でも、ここに・・・」


そこには俺との結婚指輪じゃなく、全然知らない指輪があった。
耳に目をやると、事故した時に付けていたはずのアクアマリンのピアスが・・・それもなかった。

俺に左腕を持たれたままの彼女は不愉快な表情をして、バッ!と手を振り解くとそのまま柊祐の陰に隠れるように逃げた。そして彼の片腕を持ったまま、ほんの少し顔を出して俺を睨む・・・その目は柊祐のそれによく似ていた。


憎悪と恨みに満ちた目・・・どうして”つくし”が俺にそんな目を向けるんだ?


「つくし、これ、覚えてない?君の誕生石のタンザナイト・・・飛行機でお互いの誕生石のピアスを交換したんだ」
「知りません。私はあなたの事なんて何も知らないわ」

「よく見るんだ、つくし!君だって今は違うものを付けているけど持ってるはずだ!」

「・・・柊祐、怖い。早くお部屋に帰りたい・・・」
「大丈夫だよ、鈴花。俺がいるから」


今度は俺を無視して柊祐に縋り着き、強請るように甘えた声を出した。
そんな声、俺以外の男にも聞かせるなんて・・・・・・そう思うと、何処にもぶつけられない怒りが込み上げる。さっきまで凜とした表情でそこに居たのに、今はまるで子供のように幼い”つくし”。


でも俺がつくしの手を・・・指を忘れる訳がない。
やっぱりさっき触れた手はつくしだった。


「・・・あなたがお気の毒な状況にあることは承知しています。でもこれ以上鈴花を怯えさせるのなら許しませんよ?あなたが奥様を愛されているように私も妻を愛しているんです。逆の立場ならあなたは許せますか?」

「・・・・・・その人は俺の妻だ。間違えてはいない!」

「やれやれ・・・困った人だ。行こう、鈴花」
「はい・・・」


撓垂れ掛かるように柊祐に身を任せ、彼も”つくし”の肩を抱いて、まるで俺に見せるかのように部屋を出ていった。
そして残された俺はただ1人・・・ここにある彼女の残り香の中で呆然と立っていた。



**



「類!何処に行ってたんだ!探したぞ!」

どうやって会場まで戻ったのか覚えてないほどのショック・・・気が付いたら会場入り口まで降りてきていたけど、騒々しい会場内には入る気さえしなかった。
それよりもここに居ればまたつくしに会える・・・ここから会場に入るはずだから、と考えたのは事実だ。

そんな俺を見付けて近寄って来たのはあきらで、すごく心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「ごめん・・・つくしに呼ばれたから上の部屋に行ってた」
「えっ?牧野、認めたのか?」

「・・・いや、自分は成瀬鈴花だって・・・つくしの声だったのにそう言われた」
「話したのか?」

「あの男も居たけどね。人違いだって言われて、つくしをまた何処かへ連れて行ったんだ」
「無理矢理奪えなかったのか?!」

「奪いたかったけど・・・つくしが俺を拒んだ。自分は鈴花だって言って柊祐に縋り付き、俺の事を怖いって言ったんだ・・・」

「お前が・・・怖い?」


怖いなんて言われたのは初めてだ。
感情が少なくて判りにくいとは何度も言われたけど、怖いなんて・・・それで他の男に助けを求めるなんて思いもしなかった。あきらもそれには驚いていた。


俺達の気分とは裏腹に流れるクラシックの曲・・・その華やかな音楽が耳障りで、俺とあきらは会場を出て少し離れたところにあるラウンジに向かった。
頭の中ではあの後の2人がどうしてるのかと思うと腸が煮えくりかえってギリっと奥歯を噛む・・・そして固く結んだ両手の拳を合わせ、そこに額を置いた・・・。


やっと会えたのに・・・!
毎日気が狂いそうなほど探したのに・・・!


会えた時には他の男の腕を取ってるなんて誰が想像するだろう。
誰がそれを信じられるって言うんだ!

悔しくて歯痒くて、自分が奪い取れなかった事が情けなくて・・・今も同じ場所に居るかと思うと、一刻も早くあいつの腕から奪って抱き締めたい・・・!


「・・・・・・くそっ!」
「類、何があったんだ?牧野、どうしてそんな嘘をついてるんだ?」

「・・・判らない。判らないけど、多分・・・演技じゃない。つくし、本当に自分が鈴花だと思ってるんだ」
「思い込んでる?それって・・・」

「演技できるような人間じゃない。演技だったら俺にあんな目を向けるなんて出来ない。つくしはそんなに器用じゃない・・・隠し事も下手で、嘘をつくのが嫌いで・・・」
「あぁ、判ってる。あいつはそんな女だ」


まさか柊祐とキスなんて・・・いや、それよりも身体を重ねたりしたんだろうか。
どんな理由があってあいつのパートナーになってるのか知らないけど、夫婦だと言うのなら同居?それならベッドを・・・

それをつくしは受け入れてるの?
俺の腕の中で聞かせてくれた声をあいつにも?


「・・・・・・・・・・・・やっぱり我慢出来ない!」
「類?!」

「さっき少しだけ触れたけど、あれはつくしの手だった!だから・・・取り返してくる!」
「待て、俺も行くから!」


ラウンジのソファーから立ち上がって、成瀬柊祐の部屋を探しに行こうとしたら・・・



「こんな所に居たんですね。花沢類さん」


逆に目の前に来たのは成瀬柊祐・・・そいつだった。





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