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渡米まであと2日って時、本邸で荷物を詰め始めたらお袋がやってきた。
その手には俺の正装、五つ紋の紋付き袴と茶事用の真新しい着物を持って。


「パーティーはこれでいいわよね?デモンストレーションの時のお着物はこっち。置いておくわよ」
「あぁ、サンキュ。親父は?もう随分良さそうだけど」

「えぇ、まだ茶懐石までは無理だけどお茶会ぐらいならね。アメリカ行きがストレスだったから今はご機嫌も良いみたいよ?」
「はっ!暢気なこと言いやがって。態とギックリ腰になったとか言わねぇだろうな」

「まさか!そこまで器用な人じゃないわよ、あなたと一緒で」
「・・・・・・・・・(どういう意味だ?)」


そう言ってテーブルに畳紙を置き「他に要るものは?」・・・それを聞いて思いだした。
先日堤と話してたけど、牧野の様子がおかしかったから有耶無耶になってたヤツ。


「そのパーティーだけど俺が紋付きだろ?牧野、どうすりゃいい?」
「あら。出席させるの?」

「・・・あれ?秘書は出なかったっけ?」
「家元の時は堤さんだったけど、家元がそこまで英語を話せないから通訳で出席してたわ。でも総二郎さんは英語ペラペラじゃない。1人でも大丈夫じゃないの?」

「・・・・・・・・・確かに。いや、でも東川の壮一郎は絶対にあの女を同伴するだろうし、俺が1人ってのは・・・」


その東川って名前にピクッとしたお袋。
実はお袋は俺以上に東川を嫌ってて、絶対に同じ席には顔を出さないって決めてるぐらいだった。昔、祥一郎が医学に走った時に散々嫌味を言われたからだ。

『ご長男なのに余程家業がお嫌いなのねぇ』・・・とあるパーティーで壮一郎のお袋さんにそんな風に言われて、噂じゃ帰る時に東川流が生けた花入れを蹴飛ばしたとかどうとか・・・。
恐ろしくて本当の事は聞けてねぇけど、親父が言うんだから本当だろう。


「・・・・・・東川はあの放蕩息子が行くの?」
「あぁ。(いや、あんたの息子もかなりだけど?俺といい孝三郎といい・・・)この前偶然風呂敷屋で出くわしたんだ」

「・・・・・・何ですって?」
「そもそもいつもの風呂敷が頼めなかったのもあいつのせいだ。それで牧野があんな斬新なアイディアを・・・」

「その馬鹿息子が女性を同伴するの?」
「あぁ。(余所の息子に馬鹿って言うのか?孝三郎はもっと馬鹿だぞ?)見た目は結構いい女だったけど」

なんだ、どうした?
なんでそんなに俺を睨む?!


「こうしちゃいられないわ!牧野さんには極上の大振袖を準備します!」
「えっ?!」


そう言って俺の部屋を飛び出したお袋が衣装部屋から引っ張り出したのは、人間国宝の染めによる京友禅。
深紅の特選紋綸子地は極上のゴールドシルクで、咲き誇る四季の花を描いたもの。柄行を縁取る繊細な金彩に金箔まで使った拘りの一品。
一瞬で見る者の心を奪うとはこのことと言わんばかりの「一期一会の大振袖」で、お袋が嫁入りの時に着てたものだとか。


「おい、そこまで気張らなくてもいいだろ?」
「何言ってるの!これに勝てる振袖はまだ出会ったことはないわ・・・いいから持って行きなさい!負けないでよ、総二郎さんっ!」

「いや、メインは俺だが?」
「殿方はいいのよ、見た目だけなら総二郎さんが勝つって判ってるから。それなら連れて歩く女性にも気合い入れなきゃ!」

「・・・・・・(見た目だけなら?)」


帯は西陣織の極上品。
牧野の知らない間に小物から総て揃えて荷物の中に入れられた。




*********************




あっという間の10日間・・・巾着袋は2日前には全部仕上がって、スーツケースに詰められ準備完了。
手伝ってくれたみんなと抱き合って喜び、共に頑張ったミシンは衣装係さんの手元に帰り、巾着袋制作室は閉鎖・・・綺麗に片付けられた部屋を見て淋しくなった。

でも仲良くなった使用人さん達と「楽しかったねぇ~」と言いながら、大袈裟に解散の茶話会までして良い思い出になった。余った端布で全員の巾着袋も作って「友情の印」になったし、「お世話になりました」って言いながら泣いちゃう人もいて、アメリカから帰ってきたらご飯を食べにいく約束までした。


ここで働き始めてやっと出来たお友達・・・それは凄く嬉しかった。



そしてとうとうアメリカに行く当日・・・何故かそれもアパートの部屋からじゃなくて西門の母屋から。
スーツケースも持って無かったから志乃さんに借りて、5日分の荷物を前の日の夜に詰め込んだ。

早朝、家元と家元夫人に見送られて本邸を出発・・・なんだか凄く変な気分だ。


「それじゃあ頼んだぞ、総二郎。しっかりな」
「俺はいつも通りやるから心配ねぇよ。お袋、俺の代行も忘れず頼んだぞ」

「大丈夫よ、任せてちょうだい。牧野さんも総二郎さんを宜しくね」
「は?は、はいっ!頑張ります!」

「牧野さんは笑顔と元気だけが取り柄なんだからしっかりね!」

「・・・・・・はい!」

微妙な褒め言葉だ・・・。



私は西門さんが乗る車に一緒に乗り込み、付き添いのお弟子さん、井上さんと上田さんは別の車に荷物を積んで後を付いてくることになった。

その車の中で西門さんがボソッとひと言。


「・・・お前、なんか痩せたんじゃね?」

「そうですかねぇ?なんかご飯が喉を通らなくて・・・」
「昨日も晩飯ムスビ1個だっただろ?何かあったのか?」

「何もないんですけどねぇ・・・寝不足もあるのかも?」


そう言われて鏡を見たら、私は確かに顔色が悪くてクマがある・・・しかもこの数日間で老けた?眉間にこんな皺があったっけ?って思うほどだった。
しかも羽田を出発するのが10時40分で、本邸を出るのが早かったからお化粧も殆どしてない。実に残念な24歳の姿だった。


「寝不足ってどうした?気になることでもあるのか?」
「気になること・・・・・・」


気になるのは「あの事」だけ。あの日から私はずっとこんな感じなんだもん。
寝ようとしたら「相手」を想像するし、昨日なんて夢にまで出てきたし、ご飯食べようとしたら思い出して吐きそうになるし・・・。
「はぁ・・・」って溜め息付いたら、西門さんが思いっきり目の前で不思議そうな顔して覗き込んでた。


「うわぁぁっ!ななななな、なんですかっ!」
「・・・いや、今まで何があっても飯だけは食ってたから、何がそんなにお前を悩ませんのかなって思ってさ」

「悩んでないですよ!別に西門さんの事でなんて!」
「は?誰もそんな事言ってねぇじゃん。まさか俺の事なのか?」

「馬鹿言わないで下さい!西門さんが何しようが、何処に行こうが、何食べようが気になりませんよ!自意識過剰なんじゃないですか?もう放っておいて!」

「は?なんでそこまで怒るんだ?」
「五月蠅いっ!!」


・・・不味い。西門さんの目がテン。
そりゃそうだわ、私1人がテンパってるんだもん!

でも、どうしても頭から離れない『総二郎さんのお祝い膳』。


チラッと隣を見たら、私に呆れたのか窓に頭をくっつけて目を閉じてる彼の横顔・・・この寝顔を毎日真横で見る人がやがて現れるのかと思ったら、なんだかすごく胸が痛い。

それが雪乃さんでも真凜さんでも嫌だけど、本当はどんな人なのかしら。この人は勿論知ってるのよね?その人の事をなんて呼んでるんだろ・・・。


・・・でも、私が西門に来てから1度もデートしてないよね?
もしかしたら深夜デート・・・?深夜って事は何処で目覚めてるの?


『・・・おはよ、○○○・・・もう朝だぜ?』
『ん・・・あ、総二郎様、おはようございます・・・寝坊しちゃった?』

『いや、俺が昨日無茶したからだろ?ごめんな・・・』
『そんなこと・・・○○○、すごく幸せ・・・』

『五月蠅い秘書が居るからもう帰るわ・・・また今晩来るから待ってな』
『はい・・・総二郎様・・・』

『可愛いな・・・○○○・・・』



・・・・・・・・・・・・。



「いやああぁーーーっ!止めて、想像しちゃうっ!!」

「はっ!なっ、何だっ?!」




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2019/10/29 (Tue) 14:19 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

この家元夫人・・・穏やかに見えますけど、実はくせ者なんですよ(笑)

そうですねぇ~、日本に帰って来ますかね?(笑)
ほんと、意外と鋭いんだから♡(何気に失礼な言い方)

もしかしたら、つくしちゃんが気になってるのは「お祝い膳」の献立かもしれませんよ?
自分も食べたかったりして!


このアメリカ旅行・・・じゃなかった、出張が・・・・・・ね。

うん!良いことあるかも(笑)
(めっちゃ遠回しな言い方!)

2019/10/29 (Tue) 20:28 | EDIT | REPLY |   

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