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「お義兄さん、あっ、花沢さん・・・」
「くす、兄さんでいいよ。やめてよ、花沢さんなんて」


人通りの多いビジネス街の昼休み。
つくしの弟、進と久しぶりに連絡を取り合い、会うことにした。


進は高校を卒業してからある会社に勤めていたけど、俺のお節介で花沢系列の「徳永商事」の営業として転職させていた。
まだまだ力不足だけど、人当たりが良くて人気者・・・そう言うところはつくしに似ているのか、社内では可愛がられているようだった。

独りっ子だった俺に初めて出来た義弟。
ちょっとボサボサの髪を掻きながら俺の前にやってきて、着ているスーツに完全に負けてる。

このスーツも男同士で買い物に出掛けた時の転職祝いだ。
つくしに話したら「そんなのはダメ!」って怒られるから黙って出掛けたんだっけ・・・進を見てもそんな事を思い出す俺を、義弟は少し淋しげに見上げていた。


「お義兄さん、痩せましたね・・・」
「ははっ、進まで言うなよ。大丈夫、倒れたりしないから。すぐそこの店に入ろうか。予約してるんだ」

「えっ!あんな高級な店にですか?」
「普通に食っていい店だよ。気にするな」


連れて行ったのは進の会社に近い場所にあるイタリアンで、そこで久しぶりにコースメニューを頼んだ。
出てきたものを見て困ったような顔をしていたけど「普通に食えって」と言えば、照れ笑いしながらフォークを動かし始めた。

でもただ飯を食うだけのために呼び出した訳じゃない。
暫くお互いの近況報告なんてした後で本題に入った。


「・・・姉ちゃん、見付からないですか?」
「・・・・・・いや、その事だけど」

「見付かったんですか?!何処で!」


それまで動かしていた手を止めて、進の目が大きくなった。ガタン!と音を立てて椅子から立ち上がり、他の客が一斉に俺達を見たのに気が付いて慌てて座り直した。
そのぐらい進も心配しているんだ。残された、たった1人の家族・・・つくしも弟の事をそう言っていたから。


気を静めようとひと口水を飲み、少し震える手が口元を拭った。
それを見て進に上司の電話番号を聞き、花沢の名前を使って彼の午後の時間を少しだけもらった。これもつくしに怒られそうだと思いながら・・・。


「・・・実はつくしだと思う女性に会ったんだ」
「え?と思うって?」

「本人が花沢つくしじゃないって言うんだけど、俺にはつくしだって言う確信がある。それで進に聞きたいんだ」
「つくしじゃないって・・・姉ちゃんが?」


その反応は当然で、俺は先日のパーティーの話を聞かせた。
進はそれを黙って聞いていたけど、俺が話す成瀬鈴花の容貌がつくしのそれとは掛け離れているからピンと来ないようだった。


「姉ちゃんはそんな格好しないでしょ。それにどうしてはな・・・お義兄さんに嘘つくんですか?それ、人違いですよ」
「人違いじゃないんだ。多分進も会えば感じると思う。確かにつくしの好みのドレスでもメイクでもアクセサリーでもない・・・でもあの目はつくしだし、少しだけ触れた手もつくしだった。あの髪もそう・・・自信あるんだ」

「お義兄さんがそう言うならそうかもしれないけど、じゃあどうしてほかの男と?そっちが有り得ないと思うんだけど」
「それは俺にも理由が判らない。でも逆に言えば指紋を消す理由はつくしと特定させないため・・・そうだろ?」

「で、でもっ!」
「うん、判るよ・・・実際にほかの男の腕をとって歩くつくしを見た俺は、その光景が信じられなかったから。
だから早く取り返したい・・・それで進に聞きたいのは君達の幼い頃の事なんだ。辛い事だとは思うけど、覚えていることを教えて欲しい」


今度はその話か・・・と進は顔を顰めた。
確かに彼にしたらつくしが行方不明であることと自分達の過去が何の関係があるんだと思うだろう。
でも、そこに「新潟」という共通ワードがあると言えば少し考え込んでいた。

この姉弟が別れたのはつくしが6歳、進が4歳だと聞いた。だから当然記憶は曖昧で、会話や名前、地名などは全然覚えていなかった。
覚えているのは目で見た光景しかないと悲しそうに語った。


「俺は本当に小さかったから何が起きたのかも判らなかったんです。ある日突然両親が居なくなって姉ちゃんだけになって、おじさんちに引き取られたけどそこがまた怖くて・・・。
でも姉ちゃんがずっと一緒にいて守ってくれてた、それだけは覚えています」

「両親が居なくなった理由は?倒産したって聞いてるんだけど、進が大人になってからも原因なんて聞いてない?」

「そんな事は全然聞いてないです。俺もおじさんの所が嫌で働き始めてからは1人暮らしだし、それまでも殆どおじさんちの家族の中には入れなくて。従姉妹が女だったから余計に・・・」

「そうか。進も大変だったんだ・・・」


その後は両親の目撃情報があったからって何処かに連れて行かれた時の事を話してくれた。
でもやはり場所までは判らないらしい。何処か遠くの土地の海が見える崖の上、そこで警察に説明を受けている叔父をつくしと眺めていたらしい。
その後、何故かもう1度行くって言われた時には、近くまで行ったら花束を買い、それを海に投げたと・・・それが「弔いの花」だったと思ったのは随分後になってからだったようだ。


つくしはそんな事はあまり話そうとしなかったし、聞いちゃいいけないんだろうと思った俺は問い質さなかった。
うちの両親にもそこまで詳しい説明はしなかったけど、それでも折れてくれたのは俺が必死だったから・・・。


「・・・・・・・・・あの」
「ん?どうした?」

「これ・・・姉ちゃんに絶対に誰にも言うなって言われてたんだけど」
「つくしに?何を?」

「・・・いや、関係ないのかもしれない。忘れて下さい」
「もう聞いたから忘れない。なに?どんな事でもいい、手掛かりになるかもしれない」


進がモジモジしながら口籠もるのを、少し焦れったく思いながら続きを待っていた。

絶対に誰にも言うな・・・一体どんな内容なんだろう。
進の様子だと、言うなと言われても実はそこまで詳しくない、そんな感じに見えた。

それなら少し休憩でも・・・と珈琲のお代わりを頼み、進もそれを口にする頃には話す決心をしてくれたようだ。今度は俺の目を真っ直ぐに見て1度大きく深呼吸した。


「実はその花を投げた時が俺と姉ちゃんの別れだったんです」

「え?そんな時に?」

「はい。多分姉ちゃんは新潟の親戚の家に引き取られたって話してると思うんですが、そうじゃないんです。名前は判らないんですが、知らないお爺ちゃんが急に現れて、姉ちゃんを連れて行ったんです」

「知らないお爺さん?」

「はい。俺もよくは覚えてないんだけど、おじさん達が『1人でも減ってくれた方が助かる』って言ったのだけ覚えてて・・・急に姉ちゃんはそのお爺ちゃんの車に乗るし、俺はおばさんに引っ張られておじさんの車に乗って東京に帰るしで、それから年に1度だけ姉ちゃんが東京まで会いに来てくれて・・・そんな感じだったんです」

「親戚じゃなかったって?それ、誰?」

「・・・それがよく判らないんです。ただそれからおじさん達の俺に対する態度が変わったし、急に大学までの学費は出来たから気にするなとか言って暮らしやすくはなったんです。別に俺に何か買ってくれるとかじゃなかったけど、それでも鬼みたいだったおばさんが優しくなって・・・」

「金か・・・」

「・・・多分そうです。でも聞いたら怒るし、姉ちゃんは『進は知らなくていい』って言うしで、ずっと忘れてました。姉ちゃんが東京に戻ってからは楽しかったし・・・」


つくしの叔父に金を渡してまで引き取るって・・・それが親戚でもなんでもない老人って・・・?

進はもう社に戻りたいと言ったから話を聞くのはここまでにして、今は付き合いのない叔父夫婦にもう1度その時の事を聞くと言ってくれた。


「何か判ったら連絡します。お義兄さん、ご馳走様でした!」
「ん、頼むね。つくしを早く取り戻したいから・・・あぁ、あの彼女とはどう?上手くいってる?」

「あっ、え・・・えぇ、今・・・一緒に住んでて・・・」
「くすっ、そうなんだ?大事にしろよ。何か困ったらいつでも頼ってよ」

「はい!ありがとうございます。お義兄さんもちゃんと食べて体力付けて下さいね。姉ちゃん、どっかで心配してると思うから」

「あぁ・・・そうだね」



『今、一緒に住んでて』・・・か。
元気よく走っていく進の後ろ姿を、羨ましく思いながら見ていた。





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