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~side柊祐~

その日は朝から「鈴花」を目覚めさせて、金で話を付けたお爺様の掛り付け医につくしの検診を依頼した。
勿論極秘・・・この子も俺と同様、自分の居場所というものを持たないのは哀れだとは思ったけど・・・。

結果は簡易検査同様、妊娠・・・しかも11週めと推測され、もうすぐ4ヶ月に入ると言われた。
確かに花沢の結婚式から考えたら不思議じゃない。

むしろあの事故でも、その後の精神的ストレスにも耐えている生命力に驚きだった。


「本当に赤ちゃんがいるの?ほんと?」
「うん・・・嬉しい?鈴花」

「勿論だわ!いつ頃生まれるのかしら・・・風邪引かないようにしなくちゃ!うふふ、お母さんかぁ~」
「・・・ん、そうだね。温かくして身体を大事にしてね」

「えぇ、柊祐も嬉しい?」
「勿論だよ。きっと可愛い子供が産まれると思うよ。俺と鈴花の子供だからね」

「柊祐に似たらいいなぁ~!柊祐に似た女の子、うん・・・女の子が欲しいなぁ~」

「・・・俺はどっちでもいいよ。さぁ、帰ろう」


つくしが妊娠しているようだと知ってからの訓練は「子供」を匂わせるようなワードを増やしていた。
実際には俺達の間に身体の関係はない。それなのに妊娠を疑わないようにするためには少しばかりの小細工は必要・・・と言うか、こればかりは男の俺には判らない部分だった。

催眠暗示は術者の与える暗示に極端に注意が集中する特殊な意識状態だ。意識が狭まった状態で、術者によって与えられた命令や暗示だけに従う。
だけど顕在意識(元々の意識的に使っている判断能力)が全く活動していない訳じゃない。俺の催眠暗示を邪魔する可能性はゼロじゃない。

それが妊娠という特殊な状態で現れそうな気がした。
今まで実験台のようにして来た人間の中に妊婦なんていない・・・俺の中にデータがない。


だから態とベッドで抱き合ったまま暗示を掛けたり、鈴花になっている時に如何にも甘い夜を過ごしたかのような話を繰り返したり。
花沢類が見たら殺されそうだけど、暗示に掛かっているつくしに語りかけて服を脱がせ、自分も同じようにする・・・その時、本気で身体を求めそうになる自分を抑えるのには苦労した。

つくしの白い肌はそれほど美しかった。


ただ万が一腹の子供に何かがあったら覚醒したつくしがどんな行動に出るか判らない。
だから無茶は出来なかった。

ある意味厄介な妊娠・・・これが俺の計画を少しだけ狂わせた。




******************




進から連絡があったのは2日後だった。
聞けば今日は彼女との記念日・・・2年前の今日が出会った日だから2人で食事をすると言うのを「迷惑じゃなければ」と言ってレストランに誘った。

勿論結婚式に来た真由美と一緒に。
ほかのヤツだったらそうやって並ばれるのには抵抗があったが義理とは言え弟は別・・・素直に祝ってやろうと思った。


呼び出したのはドレスコードのないレストランだったけど、俺もつくしを誘って何度か訪れた店だ。
オーナーに言えばその店の特別シートを予約してくれて、そこから夜景を見ながらのディナーになった。


「「・・・・・・・・・」」
「どうした?フレンチは嫌だった?」

「そんなことないです!大好きっ・・・って言うほど食べないけど」
「やっぱり2人が良かった?それなら俺は先に帰るから後で2人になれるよ?」

「そうじゃなくて・・・こんな店に入らないから緊張って言うか・・・」
「あ、あたし・・・ナイフなんて上手に使えないかも・・・」

「くすっ、気にしないでいいよ。このテーブルには誰も近づかないし誰からも見えないから。ちゃんと食べやすいようにしてもらうから心配しないで」


そう言って料理長にはそれを伝え、ひと口で食べられるような調理方法を頼んだ。
それはここに初めてつくしを連れてきた時と同じだった。彼女も今ではマナーを覚え、上手にカトラリーを使うことが出来るけど、初めのうちは「食べた気がしない」とむくれていた。

それを思い出して一瞬笑ったけど・・・目の前の女性はつくしじゃない。
隣の進の困ったような顔を見たら現実に引き戻された。



「ごめんな、進。楽しみたい日なのにこんな話で」

「いえ、姉ちゃんのことだし、真由美も判ってくれてるから」
「私も気になってるんです。ごめんなさい、進君から聞いちゃって・・・」

「いや、誰にも言わないでおいてもらえたらいいよ。君もフランスまで来てくれた人だし」

2人で居る時でもつくしの話題になるから・・・と、進は出された食前酒を飲みながら辛そうに言葉を出した。


3人で囲むテーブルにある1つの空席。
『遅くなってごめんねぇ~』と、つくしが現れそうな気がして3人同時にそれを見つめた。
持って来られたオードブルの色鮮やかな盛り付けの料理も、1番に喜ぶ彼女の顔がないから何処か物足りなかった。



「それで何か判った?」

「・・・それが、久しぶりに叔父さんに電話したんですけど・・・」
「教えてくれなかった?」

「・・・そんな昔の事は覚えてないって言うんです。そんな事ないと思うんだけどその話になったら急に機嫌が悪くなって、もう今更聞かなくてもいいだろうって。
でも、俺が結婚したい人の家に行って自分の事を紹介するのに知りたいって言ったら、わざわざみっともない過去を話さなくてもいだろうって全然聞いてくれなかったんです。姉ちゃんが花沢さんと結婚したことは知ってるから、あの事故の事を聞くのかと思ったらそれもなかったし・・・ごめんなさい、お義兄さん」

「そうか・・・悪かったね、嫌な思いさせて」
「いえ、ただあれから一生懸命考えて1つだけ思い出したことがあるんです。
俺が高校ぐらいの時に叔父さんと叔母さんが真夜中に話してたのを聞いたんですよね。姉ちゃんが引き取られた家の・・・名前なんだったかなぁ、あ・・・あ・・・あがわじゃなくて・・・」


「・・・有栖川、じゃない?」


急にそう言ったのは真由美だった。
でも「有栖川」と言った瞬間に自分でハッとして口を隠し、まるで言ってはいけない言葉を出したかのような仕草を見せた。

つくしとは弟の彼女ってだけでそんなに会ってないはずだったのに、彼女からその名前が出たのには2人で驚いた。
でも進も「あっ、そんな名前だ!」って唖然。
口に運ぼうとした料理を皿に戻し、慌てて口元をナフキンで拭いていた。


「うそ!なんで真由美がそんなの知ってるの?」
「有栖川?それが誰だって?進、何を聞いたの?」

「叔父さん達が話してたのは多分その人です。姉ちゃんが引き取られた家からもらった俺の為の金、もう全部使い切ったのかって・・・どうやら従姉妹の入学金に使おうとしてたみたいです。すみません、肝心な名前を思い出せなくて」

「いや、いい。で、真由美ちゃんはどうして知ってるの?」


今度は真由美が困ったような顔して俯いた。
小さな声で「お姉さんが誰にも言わないでねって言ったのに・・・」なんて言うのを「非常事態だから全部話して?」って進がそっと声をかけ、何度か考え込んだけど漸く教えてくれた。


「随分前、進君のお誕生日プレゼントを買いに行く為にお姉さんと広尾駅で待ち合わせた事があるんです。その時に有栖川記念公園で休憩しませんか?って言ったら、少し悲しそうな顔になったんです。それで聞いたら・・・」


『この名前、好きじゃ無いのよね。小さな頃の嫌な気持ちが戻って来そうで』

『嫌な思い出?お姉さん、この辺に住んでましたっけ?』

『ううん・・・新潟でね、この名前の家に可哀想な女の子と住んで・・・あっ!ごめん、忘れて?進にも絶対に言わないで!お願い、真由美ちゃん、絶対に言わないでね』



見た事もない真剣なつくしの表情に驚いて、真由美も今までその約束を守っていたと申し訳なさそうに進に謝っていた。


新潟の有栖川・・・可哀想な女の子と住んでいた?
初めて聞く新しい情報に胸がザワついた。





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