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plumeria

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カタカタとキーボードを叩く片岡の後ろで椅子に座り、気が付いたら自分の耳朶を触っていた。
俺の耳にあるのはタンザナイト・・・つくしといつも一緒にいるって意味で買った彼女の誕生石だ。

つくしはそれを見ても何も思い出さないのだろうか・・・それとももう俺のアクアマリンは無くしてしまったのか、そんな事を考えていた。


その時に片岡の指が止まり、その目が画面を見つめた。
そして振り向いて「これかもしれません」と・・・それを聞いて急いでモニターを覗き込んだ。
片岡も俺に見易いようにと自分の椅子をずらし、モニターの中央を指さした。

そこにあったのは「有栖川開発」・・・不動産関係の会社のようだ。


「もう随分前のデータですね・・・自主倒産していまして、それが35年も前の事です」
「自主倒産・・・会社を自主的に閉鎖したってこと?」

「そうですね。トラブルがあったり不正などの事件があった場合はこの欄に記載がありますが何もありません。かなり古いデータなので不確かではありますが経営状態は良かったのではないでしょうか?
この状況で自ら閉めたとなると、経営者側の個人的問題かもしれませんね」

「・・・この時代にしてはかなりの経常利益だね。場所は?」
「東京ですが都心からは離れていますね。社長は有栖川達彦となっています」

「役員全員の名前は判るの?」
「残念ながらその記載はありませんが・・・・・・この有栖川達彦も新潟県村上市の出身となっていますから」

「・・・確定だね」
「この名字ですからおそらく」

「色々ありがとう。また何か頼むかもしれない。その時は宜しく」
「はい、畏まりました」


片岡から有栖川の住所をプリントアウトしたものを受け取り、美作邸を後にした。



社に顔を出したのはもう昼過ぎだった。
1件だけ会議のオブザーバーとして参加した後は特に差し迫った業務なんて無く、今は俺が目を通す書類も無い。意見を求められた提案書にコメントをしたぐらいで、それをメールしたら手元には何も無くなった。
だから新潟に行くためのルートを調べようとネットを開いたところで受付から内線が入った。


今の俺に受付から・・・?

今日はアポなんてなく、自分が担当している事案も無いのに・・・と、少し戸惑ったけどそれを取ると思いがけない言葉が告げられた。


『成瀬コーポレーションの成瀬様というお客様がお会いしたいとの事ですが、如何しましょうか?』
「成瀬・・・女性?!」

『いえ、男性と女性ですけど』
「判った、すぐに通して!」


まさか花沢に乗り込んできた?柊祐と・・・・・・つくしが?!



**



受付が案内したのは役員室フロアの1つ下の階にある応接室・・・そこにつくしが居る。
でも、あの時と同じだったら自分が何処まで冷静で居られるだろうかと不安だった。

付き合うようになってからあの事故の日までずっと隣だったのに、それが違う男と並んで俺の向かい側に座るなんて・・・それをまたこの目で見るのかと思うと、ドアを開ける勇気が出ない。
暫くそのドアを睨むようにして立っていたけど、覚悟を決めてドアノブに手を掛けた。


どういう手を使ってつくしを「鈴花」にしているのか判らないが、今日こそ取り戻してやる・・・!ドアを開けた瞬間にその言葉を自分に向かって呟き、中の2人に視線を向けた。


でも、今日の”つくし”は笑っていた。
たった今まで緊張していたのに、その穏やかな表情で一気に気持ちが緩んだ。


「・・・・・・お待たせしました」

「申し訳ありません、類君。実はこの近くまで来たので少しお顔を見ていこうかと思いまして。忙しかったですか?」
「こんにちは、花沢さん」

「・・・いえ、大丈夫です」


今日は”つくし”から声を掛けられた。
でも名前じゃなくて、これまでに呼ばれた事もない『花沢さん』・・・それに背中がゾクッとした。

笑って名前を言われたのに、逆に凄く遠い存在のような・・・「他人」を感じさせる呼び方。咄嗟にどう返していいのかも判らず、ひと言呟いただけで向かいの椅子に座った。
秘書課の女性がお茶を持って来るとそれにもにこやかに頭を下げて礼を言い、何がそんなに嬉しいのかニコニコしてる。


今日は外が凄く寒いのだろうか・・・この季節にしては厚着のように見える。


「・・・成瀬さん、彼女を私の元に帰す気になりました?」
「え?あっはは!まだそんな事を?」

「この辺りに用とはそれじゃ無くて?現在うちと何の取引も無い会社の方が、仕事で私に会いに来るとは思えませんけど。ましてや女性連れで」
「あぁ、この近くに来たのは妻の病院探しです。やっぱり初めてなので安心できる所を、と思ってね」


柊祐がそう言ったら恥ずかしそうに頬を染めてこいつの顔を見上げる”つくし”。

またそんな顔をこいつに見せて・・・!
膝の上に置いている手が拳を作り、奥歯に力が入る・・・そんな”つくし”を見たくなくて顔を逸らせた。


でも・・・病院?今、「妻の病院」って言った?

”つくし”の行動に焦ってそれを聞くことが後回しになったけど、すぐに視線を戻して「何処が悪くて・・・」と言いかけたら柊祐がそれを遮った。


「産婦人科で何処が1番良いんだろうって・・・ね、鈴花」
「うふふ・・・そんなに心配しなくても大丈夫なのに柊祐ったら」


「・・・・・・・・・え?」


産・・・婦人科・・・?

”つくし”が妊娠してる・・・ってこと?


柊祐の言葉に言葉を失った。
”つくし”が妊娠って・・・誰の?それが本当なら俺の・・・だろ?

言葉を出したくてもショックのあまり唇が震えて声が出ない。
つくしを見ると幸せそうに真横の柊祐を見つめ、片手が彼の膝の上に置かれてる。それを覆うように重ねる柊祐が許せなくて、ゴクリと唾を飲み込んだ後で妊娠について聞こうとした。
なのに、また俺の動きを態と遮るかのように話し始める柊祐・・・まるで俺の動揺を楽しんでいるようだった。


「あの・・・!」

「妻は今妊娠3ヶ月に入った所なんです。まだ安定期じゃ無いから心配でね。このとおり風邪を引かないように厚着までさせて・・・男ってこういう時には何も出来ないから、せめてこのぐらいの気遣いはしないとね」
「こんな上着、まだ早いのに・・・」

「いいからちゃんと着ておきなさい。もしもの事があったらどうするの?鈴花1人の身体じゃ無いんだから」
「はい、柊祐。ありがと・・・」


妊娠3ヶ月に入ったばかり・・・って事は、あの事故の後?


それなら”つくし”はこの男と・・・・・・?




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