いろはにほへと恋せよ乙女・66
結局夕食は1人で簡単に済ませ、部屋に戻って明日の準備の続きをしていた。
1度だけ井上さんが顔を出してくれて「具合はどう?」って・・・それに「大丈夫です!」と元気よく答えて、明日の時間を確認。早めに寝るように言われてドアは閉めた。
「ふぅ・・・」と息を吐き後ろ手で閉めたドアに凭れ掛かって自分の部屋を見る・・・可愛く出来上がった巾着袋の山を見て、これを作り始めた日のことを思い出した。
志乃さんやほかの使用人さん・・・ワイワイ集まって楽しかったな。
「総二郎さんのお祝い膳」には驚いたけど、みんなが作ってくれたんだから、これを渡してお客さんに喜んでもらわなきゃ・・・。
「よし、残り30個!それが終わったら早く寝よ!」
お昼の素敵な彼の事を思い出しながら最後の詰め作業を始めた。
そして終わったらシャワーを浴びて、さっさとベッドに潜り込んだ。シーツが綺麗になってるから昨日の匂いなんてしない・・・ここで西門さんが寝たなんて思えないほど・・・
「・・・・・・・・・・・・」
ヤバい、彼のバスローブ姿思い出した。
マズい・・・寝られない。
**
次の日の朝はスマホのアラームに起こされた。
時間は午前6時・・・早めに食事をして西門さんに着物を着せてもらうためだ。
怠い身体を起こして顔を洗い、洋服に着替えて簡単にお化粧まで済んだところでドアをノックされた。
「はーい!」なんてアパートの部屋みたいに返事してドアを開けたら上田さんで、「みんなで朝食食べに行くからおいで」って言われた。
チラッと見たら少し離れた壁には無愛想な西門さんが居る・・・でも、ここで断わる訳にはいかないからすぐに支度をして出ていったら、彼も横目で私を見たけどすぐに顔を逸らせた。
そして西門さんを先頭に井上さんと上田さん・・・私はその5メートルぐらい後ろをついて行った。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「き、今日はいいお天気ですね~。沢山お客さんが来そうですね~」
「そうですねっ!はは・・・珈琲が美味いなぁ」
「・・・・・・・・・曇ってねぇか?」
「・・・・・・・・・私、ジュースなんで」
「・・・午後から雨だそうで」
「パンは焼きたてかな・・・」
私と西門さんが向かい合わせで黙ってるから井上さんと上田さんがオロオロしてる。それは判ったけど、顔をあげて彼の顔を見ることは出来なかった。
西門さんも仏頂面のまま珈琲片手にスマホで何かを見てる。結局この時間に私達が会話をする事はなかった。
でも今からは着付け・・・・・・井上さん達がやってくれないだろうかと、レストランを出た廊下でボソッと聞いてみた。
「あの・・・着物、着せてもらえます?」
「え?牧野さんの?」
「はい。私、まだ帯結べなくて・・・」
「いや、俺は女性の帯なんて無理だけど?上田、出来る?」
「あぁ、簡単なヤツなら出来るけど?後で着物持って来る?」
「ほんとですか?行きます~!!」
「お前の着物は何処にあるんだ?」
「・・・はっ!」
上田さんが出来ると聞いて喜んだのも束の間、真後ろから聞こえて来た西門さんの声は凄く怖かった!
私の着物は西門さんの部屋にある・・・それをすっかり忘れていた。
上田さんはそれを聞いたら「じゃあ若宗匠にお願いしたら?俺より格段着付けは上手だし」って、まるで逃げるように井上さんの後ろに逃げたし、私が西門さんを見たら「この後すぐに来い!」って機嫌悪そうに言われた。
そんな私を横目で睨んで通り過ぎ、さっさと1人でエレベーターに乗って最上階に行っちゃった・・・。
「・・・・・・・・・」
「もう~!牧野さん、何かあったの?若宗匠、昨日から怖いんだけど!」
「夕飯だって初めて一緒に食ったけど、ひと言も喋らないから俺達殆ど食えなかったし!」
「え?あはは・・・何もないんですけどね~、初日の事で気不味いって言うか・・・」
「あんなの気にしてないと思うよ?だって夕飯までは『牧野、何かあったのか?』って逆に聞いてたし」
「そうそう!俺なんか『牧野!』って言われたから返事しなかったら殴られたんだから!上田だって言うのに、自分で言い間違えたことを認めないし」
「・・・そうなんですか?申し訳ありませんでした」
「よく判んないけど仲直りしてよ。帰国まで今日入れてあと3日あるだろ?この状態だと俺、胃に穴が開きそうだからさ」
仲直りねぇ・・・そもそも喧嘩してないし。
仕方なく1度部屋に戻って気持ちを入れ直し、勇気を振り絞って最上階に向かった。
***********************
すげぇイライラする。
何が?って言われると判らねぇし、なんで?って言われると・・・・・・でも、そいつを易々と口に出来るか!と頭に浮かんだ言葉を呑み込んだ。
牧野はほかの女みたいにややこしくなくて「自分」を持ってるヤツだと思ったのに、なんで昨日からコロコロ気分が変わるんだ?
あの夜の事は酒のせいだとしても、次の日にはキリッと仕事をしたかと思えば昼は俺達から逃げるし、その後ヤケに楽しそうに鼻歌歌ってたはずなのに夕飯は食わねぇし。
で、今日は朝っぱらからどんよりしてやがる・・・こんなので仕事が出来るのかよ!
そりゃあいつは茶も点てないし、そこで愛想よくしてるだけでいいけど・・・なんて色々考えていたら部屋をノックされた。
ドキッとする俺の心臓・・・今までムカついていたのに、今度はザワザワし始めた。
無言でドアを開けたら立っていたのは真っ赤な顔した牧野。
なんだ、その顔って驚いたけど、平静を装って「入れ」とひと言・・・こいつに背中を向けた途端、緩む口元を必死で元に戻した。
「あ、あの・・・宜しくお願いします」
「この奥の部屋に着物を用意してる。そこで羽織るまでやっとけ。帯までなら出来るだろ」
「はい。失礼します・・・」
「・・・おぉ」
なんでそんなにオドオドしてんだ?
牧野が部屋に入ったらそのドアをガン見・・・あんな顔されてたら着物着せられるかどうかなんて自信ねぇけど?
暫くしたらそのドアが開いて、着物を羽織った牧野が顔を半分出して小さな声で「お願いします」・・・俺は眺めていた雑誌をテーブルに戻して部屋に向かった。
正式な茶会で半東や水屋担当が着る着物は小紋か色無地で派手ではないもの。
だが今回はデモンストレーションの、所謂受付的な場所に立つからお袋が用意したのは淡いピンクの京友禅小紋。御所解模様の古典柄で、帯も少しだけ華やかに銀糸を入れ込んだもの。
そいつを着て俺に背中を向けて立っている牧野は・・・すげぇ色っぽかった。
完全に着てないって言うのもある。このまま帯結ばずに腰紐解きそうな・・・・・・いや、そうじゃないって。
「こっち向け。形を見るから」
「は、はい!」
「・・・やっぱ少しズレてんじゃねぇか!ちゃんと和装用補正ブラしてんのか?」
「してますよっ!パッド2枚重ねでしょ?」
「くくっ、そうそう。じゃあ少しだけ手直しするからお前は踏ん張って立っとけ」
「はい、お願いします」
さっきまでムカついていたのも忘れてこいつに着物を着せてやり、帯も結んでやった。
その時に目の前に来る項に目が行って、少し甘い香りにむず痒さを感じながら・・・何とか理性を保って仕上げた。
「よし、着物が上等だからいい女に見えるじゃん」
「はっ?失礼な言い方ですね~、どうせ中身は10人並ですよーだ!」
「磨けば光るんならいいんじゃね?この1つ下の階にメイクの担当者がいるから化粧直しと髪を結ってもらえ。早くしねぇとそんな奴等ばっかりだから混んでくるぞ」
「ひゃあっ!はーい、行ってきます!」
「その格好で走るなよ?着崩れるから」
「・・・っと、はい、そうでした」
着物姿で飛び出そうとしたのをグッと止め、牧野がクルッと振り向いて言った。
「若宗匠、どうもありがとうございました。では後ほど迎えに参りますね」
・・・若宗匠?
なんで今更「若宗匠」なんだ?

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「ふぅ・・・」と息を吐き後ろ手で閉めたドアに凭れ掛かって自分の部屋を見る・・・可愛く出来上がった巾着袋の山を見て、これを作り始めた日のことを思い出した。
志乃さんやほかの使用人さん・・・ワイワイ集まって楽しかったな。
「総二郎さんのお祝い膳」には驚いたけど、みんなが作ってくれたんだから、これを渡してお客さんに喜んでもらわなきゃ・・・。
「よし、残り30個!それが終わったら早く寝よ!」
お昼の素敵な彼の事を思い出しながら最後の詰め作業を始めた。
そして終わったらシャワーを浴びて、さっさとベッドに潜り込んだ。シーツが綺麗になってるから昨日の匂いなんてしない・・・ここで西門さんが寝たなんて思えないほど・・・
「・・・・・・・・・・・・」
ヤバい、彼のバスローブ姿思い出した。
マズい・・・寝られない。
**
次の日の朝はスマホのアラームに起こされた。
時間は午前6時・・・早めに食事をして西門さんに着物を着せてもらうためだ。
怠い身体を起こして顔を洗い、洋服に着替えて簡単にお化粧まで済んだところでドアをノックされた。
「はーい!」なんてアパートの部屋みたいに返事してドアを開けたら上田さんで、「みんなで朝食食べに行くからおいで」って言われた。
チラッと見たら少し離れた壁には無愛想な西門さんが居る・・・でも、ここで断わる訳にはいかないからすぐに支度をして出ていったら、彼も横目で私を見たけどすぐに顔を逸らせた。
そして西門さんを先頭に井上さんと上田さん・・・私はその5メートルぐらい後ろをついて行った。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「き、今日はいいお天気ですね~。沢山お客さんが来そうですね~」
「そうですねっ!はは・・・珈琲が美味いなぁ」
「・・・・・・・・・曇ってねぇか?」
「・・・・・・・・・私、ジュースなんで」
「・・・午後から雨だそうで」
「パンは焼きたてかな・・・」
私と西門さんが向かい合わせで黙ってるから井上さんと上田さんがオロオロしてる。それは判ったけど、顔をあげて彼の顔を見ることは出来なかった。
西門さんも仏頂面のまま珈琲片手にスマホで何かを見てる。結局この時間に私達が会話をする事はなかった。
でも今からは着付け・・・・・・井上さん達がやってくれないだろうかと、レストランを出た廊下でボソッと聞いてみた。
「あの・・・着物、着せてもらえます?」
「え?牧野さんの?」
「はい。私、まだ帯結べなくて・・・」
「いや、俺は女性の帯なんて無理だけど?上田、出来る?」
「あぁ、簡単なヤツなら出来るけど?後で着物持って来る?」
「ほんとですか?行きます~!!」
「お前の着物は何処にあるんだ?」
「・・・はっ!」
上田さんが出来ると聞いて喜んだのも束の間、真後ろから聞こえて来た西門さんの声は凄く怖かった!
私の着物は西門さんの部屋にある・・・それをすっかり忘れていた。
上田さんはそれを聞いたら「じゃあ若宗匠にお願いしたら?俺より格段着付けは上手だし」って、まるで逃げるように井上さんの後ろに逃げたし、私が西門さんを見たら「この後すぐに来い!」って機嫌悪そうに言われた。
そんな私を横目で睨んで通り過ぎ、さっさと1人でエレベーターに乗って最上階に行っちゃった・・・。
「・・・・・・・・・」
「もう~!牧野さん、何かあったの?若宗匠、昨日から怖いんだけど!」
「夕飯だって初めて一緒に食ったけど、ひと言も喋らないから俺達殆ど食えなかったし!」
「え?あはは・・・何もないんですけどね~、初日の事で気不味いって言うか・・・」
「あんなの気にしてないと思うよ?だって夕飯までは『牧野、何かあったのか?』って逆に聞いてたし」
「そうそう!俺なんか『牧野!』って言われたから返事しなかったら殴られたんだから!上田だって言うのに、自分で言い間違えたことを認めないし」
「・・・そうなんですか?申し訳ありませんでした」
「よく判んないけど仲直りしてよ。帰国まで今日入れてあと3日あるだろ?この状態だと俺、胃に穴が開きそうだからさ」
仲直りねぇ・・・そもそも喧嘩してないし。
仕方なく1度部屋に戻って気持ちを入れ直し、勇気を振り絞って最上階に向かった。
***********************
すげぇイライラする。
何が?って言われると判らねぇし、なんで?って言われると・・・・・・でも、そいつを易々と口に出来るか!と頭に浮かんだ言葉を呑み込んだ。
牧野はほかの女みたいにややこしくなくて「自分」を持ってるヤツだと思ったのに、なんで昨日からコロコロ気分が変わるんだ?
あの夜の事は酒のせいだとしても、次の日にはキリッと仕事をしたかと思えば昼は俺達から逃げるし、その後ヤケに楽しそうに鼻歌歌ってたはずなのに夕飯は食わねぇし。
で、今日は朝っぱらからどんよりしてやがる・・・こんなので仕事が出来るのかよ!
そりゃあいつは茶も点てないし、そこで愛想よくしてるだけでいいけど・・・なんて色々考えていたら部屋をノックされた。
ドキッとする俺の心臓・・・今までムカついていたのに、今度はザワザワし始めた。
無言でドアを開けたら立っていたのは真っ赤な顔した牧野。
なんだ、その顔って驚いたけど、平静を装って「入れ」とひと言・・・こいつに背中を向けた途端、緩む口元を必死で元に戻した。
「あ、あの・・・宜しくお願いします」
「この奥の部屋に着物を用意してる。そこで羽織るまでやっとけ。帯までなら出来るだろ」
「はい。失礼します・・・」
「・・・おぉ」
なんでそんなにオドオドしてんだ?
牧野が部屋に入ったらそのドアをガン見・・・あんな顔されてたら着物着せられるかどうかなんて自信ねぇけど?
暫くしたらそのドアが開いて、着物を羽織った牧野が顔を半分出して小さな声で「お願いします」・・・俺は眺めていた雑誌をテーブルに戻して部屋に向かった。
正式な茶会で半東や水屋担当が着る着物は小紋か色無地で派手ではないもの。
だが今回はデモンストレーションの、所謂受付的な場所に立つからお袋が用意したのは淡いピンクの京友禅小紋。御所解模様の古典柄で、帯も少しだけ華やかに銀糸を入れ込んだもの。
そいつを着て俺に背中を向けて立っている牧野は・・・すげぇ色っぽかった。
完全に着てないって言うのもある。このまま帯結ばずに腰紐解きそうな・・・・・・いや、そうじゃないって。
「こっち向け。形を見るから」
「は、はい!」
「・・・やっぱ少しズレてんじゃねぇか!ちゃんと和装用補正ブラしてんのか?」
「してますよっ!パッド2枚重ねでしょ?」
「くくっ、そうそう。じゃあ少しだけ手直しするからお前は踏ん張って立っとけ」
「はい、お願いします」
さっきまでムカついていたのも忘れてこいつに着物を着せてやり、帯も結んでやった。
その時に目の前に来る項に目が行って、少し甘い香りにむず痒さを感じながら・・・何とか理性を保って仕上げた。
「よし、着物が上等だからいい女に見えるじゃん」
「はっ?失礼な言い方ですね~、どうせ中身は10人並ですよーだ!」
「磨けば光るんならいいんじゃね?この1つ下の階にメイクの担当者がいるから化粧直しと髪を結ってもらえ。早くしねぇとそんな奴等ばっかりだから混んでくるぞ」
「ひゃあっ!はーい、行ってきます!」
「その格好で走るなよ?着崩れるから」
「・・・っと、はい、そうでした」
着物姿で飛び出そうとしたのをグッと止め、牧野がクルッと振り向いて言った。
「若宗匠、どうもありがとうございました。では後ほど迎えに参りますね」
・・・若宗匠?
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